TOMOOの新曲「エンドレス」が10月にリリースされた。
「エンドレス」は藤原竜也主演のドラマ「全領域異常解決室」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲。ピアノ弾き語りを中心としたシンプルなアレンジながら壮大さも感じさせる、TOMOOの真骨頂とも言えるバラードソングだ。この曲のリリースを受けて、音楽ナタリーはTOMOOにインタビュー。昨年9月のアルバム「TWO MOON」リリースからの1年を振り返ってもらいつつ、“長らく自分の中にあった問い”と向き合って制作したという「エンドレス」に込めた思いを語ってもらった。
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取材・文 / 蜂須賀ちなみ
うれしい気持ちと不安な気持ちが混ざった1年
──TOMOOさんは、昨年9月に初のフルアルバム「TWO MOON」をリリースされました。同作の楽曲がテレビ朝日系の音楽番組「EIGHT-JAM」で取り上げられるなど高い評価を得ましたが、作品が広がっていく過程でどんなことを感じていましたか?
コンセプトを設けて短いスパンで作ったアルバムではなく、今まで溜まっていた曲をまとめて作ったベストアルバムのような作品だったので、「アルバムを出した」という自覚がどこか薄かったんです。だけど実際にリリースしたら、皆さんが1つの作品として受け取ってくださって、「1stアルバムにして名盤だね」といった声をいただく機会もあったので、すごくうれしかったですね。“そのときの自分に出せる最大限”みたいな曲を1個1個積み重ねて、長いスパンをかけて作った作品を受け止めてもらえたことで、自分自身の道のりごと受け止めてもらえた感覚があったというか。なので、アルバムを出してから、心を開くことに前よりも恐れがなくなりました。曲だけじゃなくてライブ中に発する言葉も含めて、「受け取ってもらえる気がする」という安心感が増えた気がします。
──ツアー「TWO MOON」の追加公演でも、「10年くらい活動してきて、今が一番、私が届けたかったことを受け取ってもらえている実感がある」「その実感が日々増している」とおっしゃっていましたね。
自分が伝えたいことを人に向かって発するとき、「伝わらないんじゃないか」と思いながら発するのと「受け取ってもらえる気がする」と思いながら発するのでは心持ちが全然違うじゃないですか。アルバムリリース後、安心感が増えたのは自分にとって大きな変化だったと思います。そんな喜びもありつつ、「次はどんなアルバムが来るのかな?」と注目してもらえているんじゃないかと思うと、今はキリキリするというか。
──プレッシャーを感じているということですか?
そんな感じです。「次はどんな作品を作っていこう?」「作っていけるかな?」みたいな。皆さんに受け取ってもらえている作品は、自分からすると“ちょっと過去の私”なんですよ。星の光を人間の目が受け取るのに何年もかかるのと同じように、私の作った曲が皆さんに届くまでにはちょっと時間がかかるので。そう考えると、今評価してもらえているのは過去の自分であって、これから私が作るものは「TWO MOON」を超えていけるのか、あるいは比較しようもないほど納得のいく作品になるのか、やってみないとわからないから不安だなと。まあ、そのとき自分が感じたことが曲になって出てくるだけなので、コントロールできるものでもないんですけど。もともと手放しで「やったー!」と喜べない性格なので、うれしい気持ちと不安な気持ち、いろいろ入り混じった感情でこの1年間は過ごしていました。
2つの大きなターニングポイント
──ご自身も感じているように、TOMOOさんの楽曲に注目している人の数は以前よりも増えていますし、次世代のJ-POPを担うアーティストとして多くの人から期待されている現状があると思います。そもそもTOMOOさんには「多くの人に音楽を届けたい」という意識や、「オーバーグラウンドでしっかりやっていくんだ」と覚悟を決めた瞬間があったのでしょうか?
「歌いたいな」と初めて思った子供の頃までさかのぼると、「ミュージックステーション」などのテレビ番組をよく観ていたことがそもそものきっかけだったんですよ。だから私の音楽の土台にあるのはJ-POP、それとディズニー音楽やジブリ音楽で。どれも大衆的な音楽だから、ニッチな方向に振り切ることはできないだろうと思っています。何を聴いて育ってきたかって、やっぱり大きいと思うので。ただ、100人が聴いて100人が「ポップだね」と言うような声の持ち主ではないし、自分の音楽的な趣味を踏まえると、ポップに振り切ることもできないんだろうなと。曲を作っているときも、きれいに収まりすぎないように引っかかりを作ったりしていますし。どちらにも振り切ることはできない性質で、ずっとグラグラしている。すべては「もっと多くの人に届けたい」と思うきっかけがあるかどうか、「ここまで行きたい」という気持ちが自分の中で強まるかどうか次第だと思うんですよね。
──はい。
その上で「オーバーグラウンドでやっていくんだ」と覚悟した瞬間、大きなターニングポイントは2つありました。1つ目は、2019年後半から2020年頃。「自分ダメかも」という気持ちがちょっと強くなっていた時期に、「いや、あなたはもっと世界中に音楽を届けるべきだよ」と本気で言ってくれる人がいたんです。そのときは「ははは、世界中に?」と笑いながら聞いていました。だけど「聴いてくれる人がどこにいても、私の声が届くような状況を作りたい」という思いはもっと前から漠然と持っていたから、人にそう言われたことで意識が顕在化して。メジャーデビューよりも前の出来事なので、けっこう前の話ですね。
──もう1つは?
2022年のLINE CUBE SHIBUYAでのワンマン「Estuary」です。メジャーデビュー後初のワンマンということで、取り巻くスタッフやチームが変わり、激動ののちのワンマンライブだったんです。いろいろなことが固まる前の時期で心配事もあったんですけど、そんな中で私が体調を崩してしまって……。前日にみんなで私の歌を聴いて、それをもとにやるかやらないか判断するような、超絶瀬戸際の状況でした。結果的にライブはやることになって、当日のリハもけっこうヤバかったんですけど、本番が始まったら本当に楽しくて。自分の体調不良とか、今まであったいろいろなこと、全部に意味があったんだと思えるくらい楽しかった。そこから「何があってもステージに立つ」という強い気持ちが自分に宿りました。「ドラゴンボール」でサイヤ人が超サイヤ人になるとき、一旦ボロボロになるじゃないですか。危機感や強い感情が覚醒の条件なので。あのときの私もそんな感じだったのかなと(笑)。周りにいてくれる人の助けやお客さんの期待がエネルギーに変わる瞬間を、ライブを通じて知ることができた。そこから「きっとオーバーグラウンドでもやっていけるな」という感覚が強まりました。
──ちなみに「ここまで行きたい」という具体的な夢や目標は現時点でありますか?
日本武道館でライブをしたいです。この目標は、長らくお世話になっていて私の音楽活動の歩みも知ってくれていた方から「武道館でライブすることを目標にしてみては」と言ってもらったのがそもそものきっかけで。「これが夢です!」という感じではなく、もっと何気ない感じで「ライブしたいな」と静かに思っていたので、デビューした年に1回こっそり言っただけで、それ以降は口にしたことがなかったんです。でも今日までずっと頭の中のどこかしらで意識していて。デビューから2年経ちますけど、特に最近は曲を聴いてくださる方の数もどんどん増えてきているので、少しずつリアリティが高まってきたのかなと。
「螺旋のリボン」に託したイメージ
──ここからは新曲「エンドレス」について聞かせてください。「Present」「あわいに」に続く今年3作目の楽曲で、フジテレビ系ドラマ「全領域異常解決室」のエンディングテーマです。「たとえるなら 二つのリボン 結び合わせないままでもいい しわくちゃにもならずにただ それぞれ螺旋を描いて」という歌い出しが印象的でした。
人の時間の歩みに対して、直線ではなく螺旋のイメージを前から抱いていたんですよ。
──TOMOOさんがよく用いるモチーフの1つですよね。かつては「SPIRAL」というタイトルでツアーも回っていましたし。
はい。直線だとビターッとしていて変化がない感じがするけど、螺旋はどんどん上っていっているように見えるから、その流動的なイメージがいいなと。そのうえで人と人との関係性を表すには、「二つのリボン」という言葉がいいんじゃないかと思いました。距離が近付いたり遠ざかったりを繰り返しながら絶えず動いているような。リボンって、使う前はグルグルっとカールしているじゃないですか。手で伸ばしても螺旋の形がちょっと残っていたりして。そんな感じで私の中で「螺旋のリボン」というのは、「なんらかの意図や手が加えられていない、本来のままの形」という位置付けなんですよね。だから、2人がただそこに並んでいるようなイメージでこの部分は書いていて。
──自然なままでいいし、ずっとぴったり重なっていなくてもいいんじゃないかということですよね。
そうですね。高校の生物の授業でDNAの構造の話が出てきたときに、先生が「あの二重螺旋をリボン構造とも呼ぶ」と言っていて。それを聞いたときに、なんかグッとくるものがあったんですよね。なぜグッときたのかというのは、感覚的な話だから論理的に説明するのはちょっと難しい。だけどそのときにグッときたから「きっとこのイメージは大事なんだろうな」とずっと心に留めておいて、それを今改めて歌詞にしました。
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自分が考え続けていたことを歌ってもいいのかも