明るすぎず暗すぎないアレンジ
──「オセロ」の編曲は3月にリリースされた「酔ひもせす」と同じmabanuaさんだと伺いました。ライブで披露される頃からアレンジに関してはイメージがまとまっていたんですか?
2月にライブで初披露したときにはまだアレンジの方向性が固まってなかったんですよね。とりあえず「オセロ」をどうしても披露したかったから、バンドメンバーの皆さんに無理を言って、スタジオで合わせたくらいで。音源化に当たってはまた1から作り直す必要がありました。「酔ひもせす」と違って「オセロ」はどういう雰囲気にしたいかのイメージがなかなか決まらなくて、mabanuaさんには「どうするのが正解なのかわからないんです」って、正直に打ち明けるところから打ち合わせをスタートさせて。「オセロ」という曲はAメロとBメロとサビでけっこうテイストの違うメロディを組み合わせているんですよね。それぞれ由来が違うし、そもそも世界線が違うメロディというか。だからどこに落とし込むのかが本当に難しくて。昔のドラマで流れていたようなJ-POPっぽい要素を強くすべきなのか、1970年代から80年代のブラックミュージックっぽいのにするか、もっとスリーピースのバンドのような無骨な感じなのか……。どれにしていいかわかりません!って相談しました。
──結果としてはホーンのサウンドが入った豪華な形に仕上がりました。
音数が多いから豪華と捉えることもできますが、明るすぎるサウンドにはしないようにしてもらったんです。最初に入れてもらったホーンはもうちょっと華やかな感じだったんですが、ちょっと暗めの音に変えてもらって。ホーンのサウンドって普通に入れると突き抜けるような音色になると思いますが、今回入れてもらったホーンはボディに響くサウンドのイメージというか。私のボーカルと一緒に横並びで聞こえるようなイメージで入れてもらいました。
──明るすぎず暗すぎないサウンドって、けっこう難しいオーダーですよね。
おっしゃっていただいた「明るすぎず暗すぎない」という表現が、けっこう自分にとって大事なものであることだなと感じていて。今回の編曲で自分で「つくづく自分は明るいものと暗いものを共存させたいんだな」というのを思い知りました。
──その思いは「オセロ」という曲で表現したいことに通じるものがあると思います。
矛盾をはらんでいたり、何か物事には裏があったり、そういうことも含めて私の思う世界の事実がそういう二面性を持っているからだと思います。どっちかだけでは成り立っていないということが真実だと思っているからなのかな。「オセロ」と言うと「白か黒かどっちか」みたいに捉えられがちなんですが、例えば私がこの曲のBメロに感じる色はグレーだったりするし。
──前回のインタビューではライブでの表現を色で例えていましたよね。けっこうなんでも色で例えるタイプなんですか?
自分の中では全部色分けされているタイプですね。例えばコードは色か人間の表情で捉えているんですよ。コードネームを知らないときからコード弾きはしていたんですが、ここを押さえると薄黄緑色っぽいとか、白っぽいとか。表情で言うと「この音はくしゃっとした笑顔」とか。
──そういう色の感覚って、今でも生きていますか? 例えばバンドメンバーと音を合わせるときに表現したり。
20歳くらいのときは色でしか伝えられなかったので、けっこう渋い顔をされた経験があったんですが、最近はもっと具体的に言えるようになったので、外ではあまり色で何か説明することはなくなりましたね。ただ昔から姉弟には伝わっていたので、身内で使うことはあるかもしれませんが。
──音や文字を色で捉える“共感覚”というものがあって、TOMOOさんはそういった感覚の持ち主かもしれないですね。もしかしたら姉弟の方以外にも色で通じ合える人がいるかもしれません。
初めて聞きました。育ってきた環境が同じだから通じているだけだと思っていましたが、私たち以外にもそういう感覚の人が世の中にいるかもしれないんですね。あまり試したりはできなそうですが、いつかこういう話で通じ合えたら面白いですね。
“音楽の交差点”としてのポップスを作りたい
──8月7日のワンマンライブのタイトルが「Estuary」に決まりました。河口を意味する言葉をライブのタイトルに付けた理由は?
川と海の境目のような意味合いを持たせたかったんです。今の自分の状態が川から海へ出ていくような感じだというのと、淡水域と海域が混じる汽水域には豊かな生態系があるという話を聞いて。私の音楽は何か1つのジャンルとかに絞れない傾向にあると感じていて、だったら例えば山の豊かさも海の豊かさも感じられるような、そんな1日にしたいなと考えて「Estuary」というタイトルに決めました。
──具体的にはどういうライブになりそうですか?
これまで通りの弾き語りやバンドスタイルはもちろんありつつ、ここ数年ではやっていなかった編成だったり、新しいチャレンジだったり。ずっとライブを観てきてくれた人からしたら懐かしさも新しさも感じるような1日になると思います。
──2月のライブではハンドマイクでピアノを弾かずに歌うひと幕もありました。TOMOOさん自身はライブにおいて自分の曲をどう表現するのがベストだと感じているんでしょうか?
すごく難しい質問ですね(笑)。基本的には弾き語りで表現してきたんですが、去年の夏に初めてハンドマイクで歌ってみて、それがけっこう手応えがあったんです。というのも、歌を始めるよりも前に、中学1年生のときから演劇をやっていたので、体を使って何か表現する楽しさというのもすごくわかるんです。とは言っても、ピアノの弾き語りが自分の核にあるのは変わらないから、今の体感では6対4ですね。弾き語りをしたい欲求が6で、ハンドマイクで歌に専念したい気持ちが4。でも弾き語りをしたい欲求が5以下になることはないかなあ。たぶんピアノを弾きながら歌うことが私の本質だと思いますから。ちょうど今日、取材に向かう途中でそんなことを考えていたんですよ。欲を言えば毎回リリースのたびにピアノの弾き語りの音源を付けたいな、とか(笑)。
──作曲する際もピアノは欠かせない存在なんですよね?
はい。鼻歌が浮かんでそこから曲を作ることもありますし、やろうと思えばピアノなしでも作れるかもしれないんですが、そうするにはかなり我慢しないとできない気がします(笑)。気が付けばピアノに向かって曲のことを考えていますから。
──最後に、メジャー進出するに当たってTOMOOさんが成し遂げたいことを教えてください。
目標とかを言うのがすごく苦手で、今日もこういう質問が来たらなんて言おうかずっと悩んでいたんですけど……ちょっと漠然とした表現になってしまいますが、ポップスであるために角を削るような音楽は作りたくないなと考えていて。私が思うポップスの“丸さ”って、角を取った丸さじゃなくて、角が多いがゆえの丸さだと思っているんです。丸いものをよく見たら、めっちゃ何十角形のものだった、みたいな。私の理想としては“音楽の交差点”としてのポップスを作りたいんです。それは複雑なものを作りたいとかそういうことじゃなくて、いろんなものを取り込んである意味カオスのようになったものを、区画整理するんじゃなくて角があるまま届ける。それがポップスとして鳴り響いたらいいなって。人それぞれポップスの定義は違うかもしれませんが、私が過去に触れてきたポップスは角があって、そこに惹かれたこともあるから。自分もそういう音楽を奏で続けられたらいいな、と思っています。
ライブ情報
TOMOO one-man live "Estuary" at LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
2022年8月7日(日)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
プロフィール
TOMOO(トモオ)
1995年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。6歳からピアノを弾き始め、高校時代にYAMAHA主催のコンテスト「The 6th Music Revolution」ジャパンファイナルに進出した。大学進学後に本格的に音楽活動をスタートさせ、2016年8月に1stミニアルバム「Wanna V」を発表。2021年8月に発表したシングル「Ginger」がさまざまなアーティストから注目され、ミュージックビデオは170万回以上再生されている。2022年3月に配信シングル「酔ひもせす / グッドラック」をリリース。8月にはポニーキャニオン内のIRORI Recordsより「オセロ」を配信リリースしてメジャーデビューを果たす。同月にキャリア史上最大規模の会場である東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にてワンマンライブ「TOMOO one-man live "Estuary" at LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)」を開催する。