“猫の曲”だけではない「Ginger」
──TOMOOさんの名前を広く世の中に知らしめた「Ginger」という楽曲についても聞かせてください。この曲はどのような経緯で作られた曲なんですか?
よくこれは「猫の曲」って言われるんですが、実際には“猫みたいな君”に向けてのラブソングなんです。モチーフとして自分が拾ってきた猫が存在していて、特に懐くわけでもなく、しっちゃかめっちゃかに暴れるこの子のことを書きたいな、と思って。いざ曲に落とし込むときは、自分と自分の周りの人たちのことも考えていて、私の周りにいる自由奔放というか、人とうまくやれないというか……悪気がないのに周りに迷惑をかけている、みたいな人をイメージしています。感情の起伏が激しかったり、周りを振り回しちゃったりする人が私の周りにいて、私はそれを否定するでもなく、それをちょっとうらやましいなとも思っていたんです。でもその子はあるタイミングを境に、そういう自分を封印するようになったんですよね。私は「あの子、どうしちゃったんだろう。元気ないな」と心配になって。物事を円滑に進めるためにある程度自分を抑えたほうがいいというのもわかるんですが、私はその奔放なところを魅力的だと思っていたから。
──「やばんなままでいてよ」という歌詞は猫に向けて書かれたものでもありつつ、その人へのメッセージでもあったわけですね。
「Good」か「Bad」で物事を捉えるんじゃなくて、面白いとか、かわいいとか、そういう視点で他人のことを受け止められたら幸せだよなというのが「Ginger」で表現したかったこと。ほかの誰かにとっては私自身が迷惑をかけちゃう存在かもしれないから、そういうときは笑って許してほしいし(笑)。「うまく生きれないな」と思っている人に対して「そういうところも好きだよ」と言いたい曲。だから一応、ラブソングなんですよね。
──「Ginger」はOfficial髭男dismの藤原聡さんやVaundyさん、マカロニえんぴつのはっとりさんなど、数々のアーティストに注目される1曲となりました。制作中から手応えは感じていましたか?
全然感じていませんでした(笑)。作っているときはこんなに評価されるとは思ってなくて。この曲、初披露がライブだったのでまずはバンドメンバーにデモを送ることになるわけですが、それが恥ずかしかったくらいでした。ただ温かみがあって洋楽っぽくて、チャキチャキした曲を作りたいという思いは以前からあったので「そういう曲が書けたかな」という気持ちはありました。
──TOMOOさんはこれまでずっとピアノ1本で音楽に打ち込んできたんですよね? 「Ginger」のようなバンドアレンジはどのように?
私の場合、モーツァルトのように頭の中で完成形で鳴っている音を具現化していく、みたいな感じでは全然なくて、まず頭の中にあるぼんやりしたイメージを超抽象的な言葉で説明していくので、アレンジを手伝ってくれる方やプレイヤーの方々にいつも助けられてます。特に「Ginger」はレコーディングよりも先にバンド編成のライブで披露していたので、ドラム、ベース、ギターの細かいフレーズはそれぞれ皆さんに考えてもらったり、実際スタジオに集まってすり合わせたり、セッションみたいなノリを大事にしつつ作りました。
春に届けたい2曲
──そして3月には「酔ひもせす」「グッドラック」の2曲が同時リリースされました。メジャーリリースを目前に控えた状態でこの2曲を選んだ理由は?
特にメジャーリリースがあるからという意識はなくて、単純に「春だからリリースしよう」と思って出したのが「酔ひもせす」と「グッドラック」なんです。いや、「グッドラック」のほうはこのタイミングをちょっと意識していたかも。「グッドラック」は4年くらい前からライブのアンコールで歌うことが多い曲で、「これから先も自分が音楽の道を歩んでいく」ということを表現しているので、リリースするなら今かなという思いはありました。
──最近のTOMOOさんの曲はバンドアレンジのものが多いですが、「グッドラック」はピアノの弾き語りです。これはなぜですか?
ずっと弾き語りで歌ってきた曲だから原点に戻るような気持ちがあって。それとピアノ以外の音がまったく浮かばなかったのも大きいですね。いろいろ付けたいけどイメージが浮かばないとかではなく、ピアノ以外に足すものがないんですよね。
──もう1曲の「酔ひもせす」はどのような経緯で作った曲ですか?
この曲は数年前に経験したことをもとに作ったものですね。冬から春に季節が変わるとき、気持ちを切り替えたくて1度だけジムに通ったことがあって。わりと家にいることが多いタイプだったから、汗の匂いと熱気にあふれているような空間にいくのが初めてで、すごく不思議な健やかさを全身に受けたんですよね。運動して汗かいて、外に出て「夜風が気持ちいい」と思うような経験をそのとき初めて味わうことができた。その心身がどちらも健康になるような高揚感、心拍数が上がる感じを曲にしたくて「酔ひもせす」という曲を書きました。
──「酔ひもせす」というタイトルにもあるように、曲中にはお酒の要素も入ってますよね。これはどこから?
ジムの雰囲気がなんだか学生時代のサークルっぽいノリだったことに由来しています。人付き合いが悪いとか、サークルに入っていないとか、酒に弱いとか、いろんな理由で私は学生時代から飲み会にはあまり行かないタイプの人間だったんですよね。だからずっと「お酒の場はよくわからん」と思っていて。ジムに通い始めて初めて、アーティストじゃない若い人たちがいっぱいいる健やかな場に直面して「大学のサークルで繰り広げられている青春というのは、こういうものなのかも」という発見がお酒として曲の中に込められています。簡単に言うと、チャラっとしたラブソングなんですが、昔から重い曲を書くことのほうが多かったから、明るくてエネルギッシュな曲を意識して作った1曲でもあります。そのエネルギッシュさというのが、この曲の中で一番表現したかった部分ですね。
──この曲のアレンジはmabanuaさんが手がけていると伺いました。
いつもアレンジのイメージがぼんやりしているから、編曲のときにけっこう苦労する傾向にあって。無理なお願いをしてしまったり、「やっぱりこうしたいです」みたいに紆余曲折してしまったりすることがこれまで多かったんですが、mabanuaさんは私の抽象的なイメージの断片を1発で具現化してくれて、しかも予想外で面白いアイデアも沢山盛り込んでくださいました。すごくおしゃれで大人なアプローチでありながらサビでは派手に聴かせる、みたいなイメージもバチッと形にしてくれて、本当に感謝しています。
よりフルカラーに近いワンマンに
──8月には東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でのワンマンライブが予定されています。TOMOOさんにとって過去最大規模の会場でのライブとなりますが、どのようなライブになりそうですか?
抽象的な表現になってしまうんですが、弾き語りのライブが鉛筆で描く絵だとしたら、バンド編成のライブは三色ボールペンで描くような形に近くて。今度のワンマンライブはそれが12色の絵の具になるような感じ。よりフルカラーに近い解像度で自分の描く歌を届けられると思っています。あと、ホールだとみんなの顔がよく見えるんだろうなあとか。ライブハウスとは違う景色を見るのが楽しみですね。
──夏にはメジャーリリースも決まっていますが、今どんな気持ちですか?
メジャーリリースを1つの目標としてはいたんですが、ずっと続いていく活動の1つの通過点みたいな感覚もあって。メジャーリリースがゼロからのスタートみたいな意識はなくて、あくまで今までの道のりの中で新しく力を貸してくださる方々が加わったようなイメージです。何よりレーベルの方々は私の音楽や考えをすごく尊重してくださるし、スタッフさんの笑顔がすごく印象に残っているんですよね。温かみがあるというか。そう感じながら、夏以降の活動をどう充実させるか、今一緒にいろいろ相談しているところです。
ライブ情報
TOMOO one-man live at LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
2022年8月7日(日)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
プロフィール
TOMOO(トモオ)
1995年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。6歳からピアノを弾き始め、高校時代にYAMAHA主催のコンテスト「The 6th Music Revolution」ジャパンファイナルに進出した。大学進学後に本格的に音楽活動をスタートさせ、2016年8月に1stミニアルバム「Wanna V」をリリース。2021年8月に発表したシングル「Ginger」がさまざまなアーティストから注目され、ミュージックビデオは150万回以上再生されている。2022年3月に配信シングル「酔ひもせす / グッドラック」をリリース。8月にはキャリア史上最大規模の会場である東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にてワンマンライブを開催する。また2022年夏にポニーキャニオン内のIRORI Recordsよりメジャーデビューをすることが決定している。