「Ginger」で話題の新星・TOMOO、春に踏み出す大きな一歩

シンガーソングライターのTOMOOがニューデジタルシングル「酔ひもせす / グッドラック」をリリースした。

2021年8月にリリースした配信シングル「Ginger」が多くのアーティストの間で話題となる中、今年夏にポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャーリリースすることが決定しているTOMOO。多くのファンや著名人から支持を集める彼女はいかにしてその才能を開花させたのか? 本インタビューでは彼女の音楽的なルーツや代表曲「Ginger」の制作秘話、春の季節にピッタリの新曲「酔ひもせす」「グッドラック」に込められた思いを聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / フジイセイヤ (W)

手紙の返事の代わりに曲を書いた中学時代

──音楽ナタリー初登場ということで、TOMOOさんのルーツに当たるところからいろいろ伺えればと思います。幼少期にTOMOOさんが初めて触れた音楽はなんですか?

たぶん2歳とか3歳くらいに、ディズニーの映画「ライオンキング」を何度も観てたんですよ。英語版と日本語版をどっちも観ていたんですが、英語の歌を真似して1日中歌っていたらしくて。それとジブリ作品もよく観ていたので、その音楽も聴いていたと思います。あと覚えているのは、絵本に付録で付いてるような、ぺったんこのピアノのおもちゃ。それがすっごい好きで、ボロボロになるまで遊ぶ私を見て、親が「この子、もしかしてピアノが好きなんじゃないか」と思って電子ピアノを買ってくれたんです。それからはディズニー音楽やジブリ音楽を自分で弾いてみたくて、耳コピをし始めました。

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──小学校に上がる前から耳コピをしていたんですね。

はい。「千と千尋の神隠し」の主題歌「いつも何度でも」が幼稚園で当時人気で、ちょっと弾いてみようと挑戦したらいつのまにか弾けるようになっちゃって。

──ピアノ教室のようなものには通っていたんですか?

ちゃんとした教室に通うようになったのは小学校に入ってからでした。たまたま当時マンションの真下の部屋に住んでいる方がピアノの先生だったので、そこに通い始めて。すでに耳コピとかはできたんですが、楽譜を読むのがすごく苦手で、教室に通うのは少し憂鬱でした。「今日もうまく弾けないだろうなあ」って思いながら教室に通ってたんです。譜読みの練習が嫌だった反動でコード弾きの遊びがもっとしたくなって、好きな曲を耳コピしながらコード弾きするのにのめり込んで。音楽に対する親しみと苦手意識がどっちも両立している不思議な時期でした。

──小さい頃からずっと親しんできたピアノや音楽に本気になった瞬間はいつですか?

音楽が私にとって重要なものになったのは中学2年生のとき。それまで社交的な性格ではなかったのもあって特に誰かと遊ぶようなこともなく、学校が終わったら家でずっとピアノを弾くような日々が続いて。中2になって初めて心の中のことまでちょっと踏み込んで話せるような特別な友達ができるんです。ある日その子が小さな手紙を私に書いてくれて、その手紙にすごく感動することが書いてあったから私も返事を書こうと思ったけどうまく書けなくて、どうしようか悩んでいたら手紙よりも先に曲ができちゃって。それで誰もいない音楽室にその友達を呼び出して、手紙の返事の代わりに曲を聴かせたら「音楽で何か目指したほうがいいと思うよ」と言ってくれて。それまでは曲が書けることを珍しいと思ってなかったし、自分で作った曲を誰かにしっかり聴いてもらったこともなかったんです。自分が作った曲で人が感動してくれる経験があって、自分の中での音楽の比重がさらに大きくなった気がしました。

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コンテストで味わった挫折

──TOMOOさんの経歴をさかのぼると、高校2年生のときにYAMAHA主催の「The 6th Music Revolution」のジャパンファイナルに進出したとありますが、どういう経緯でコンテストに参加したんですか?

私が中高生の頃はバンドのコンテストがけっこう流行っていて、漠然と「テレビに出るようなアーティストになるにはコンテストで認められなきゃいけないんだ」と思ってたんです。でも私はそこまで行動力のあるタイプじゃないから、「このコンテストはバンド向けだから私向きじゃない」とか「もっといい曲ができたら応募しよう」とか、そういう言い訳を並べてなかなか動き出せなかった。そうこうしてるうちに時間だけが過ぎていって、そろそろ大学受験も始まるからちゃんとコンテストを受けなきゃ、と思って受けたのが「ミューレボ」でした。ファイナリストに選んでいただいたのは光栄なことなんですが、正直に言うと、そのコンテストでめちゃくちゃ打ちのめされたというか、挫折を味わって。

──それはなぜですか?

全然うまく歌えなかったんですよね。そもそもコンテストのライブ審査に進むまで、人前でマイクを通して歌ったこともなかったし、自分の演奏を誰かと比較されるような経験もまったくなくて。緊張していて本番のことは何も覚えていないし、応援してくれた人たちの期待に応えられなくて、がっかりさせちゃっただろうなとか、そういうことばかり考えちゃって。

──大きな挫折を感じながらも、TOMOOさんは音楽を続けるわけですよね。どうやって立ち直ったんですか?

自分では思い出したくないくらいの歌だったけど、たまたま会場で私の歌を聴いた人が「とても心に残る演奏だった。感動した」ということを伝えてくれて。このときに限らず、気持ちが折れそうになるタイミングで、めちゃくちゃ熱い思いを伝えてくれる人が現れるんですよ。それは身近な人の場合もあれば、それまで出会ったことがない人のこともあって。本当に周りに恵まれて音楽を続けてこれたと思っています。

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根っこにあり続ける久石譲の音楽

──学生時代から現在まで、TOMOOさんが愛聴してきたアーティストはどんな方ですか?

ものすごくいっぱいいるので、こういうときにどなたを挙げていいかものすごく難しいんですが、ここ数年の自分にとってちょっと特殊なあこがれの存在としては、岡村靖幸さんとか、小沢健二さんとか、プリンスとか……。あと最近自覚したのはLittle Paradeの太志(ex. Aqua Timez)さんの影響。10年活動していると原点回帰的な心が現れてきて、昔歌っていたことと向き合う機会があるんですが、物事の考え方にすごく影響を受けていたことに最近気付きました。それと、ずっと久石譲さんの音楽からは影響を受けていると思います。

──幼少期の頃からジブリ作品には触れていたわけですもんね。

久石譲さんの音楽は自分の根っこにあり続けています。その影響が表に出る時期と出ない時期があるけど、久石譲さんの音楽が私の中にあることは永遠に変わらないですね。