友成空|王道を突き進む若きシンガーソングライターのデビュー作

元Shiggy Jr.原田茂幸と作り上げたアレンジ

──「18」ではアレンジを元Shiggy Jr.、現Weekend Brothersの原田茂幸さんが担当されています。「5号線」と「看板」のアレンジは原田さんと友成さんの共作なんですね。

そうなんです。「看板」は個人的に一番思い入れが強い曲で、なるべくピアノとボーカル以外は入れたくなかったんですけど、最初に原田さんが送ってくださった音源がバンドサウンドだったんですよ。それはそれでもちろんよかったんですけど、自分としてはもっとシンプルにしたくて。最終的にストリングスとドラムも入れたんですけど、なるべくそぎ落として、自分の持つ理想と原田さんが提示してくださったアレンジの中間点を探りながら完成させました。電車や駅が舞台の曲なので、電車が走るときの「ガタンゴトン」という音をドラムでイメージしていたり、自分のこだわりが詰まった曲になってると思います。

──「5号線」はイントロのコーラスの重ね方やシンセの入り方など、いわゆるシティポップっぽさ、AORっぽさが強いですね。

この曲はもともとストックとして持っていた曲なんですけど、コーラスはまさに山下達郎さんのようなAOR感をイメージしています。レコーディング期間中に急に僕が「コーラスを入れたい」と思い立って、駆け込みで入れてもらいました(笑)。

──ほかの3曲のアレンジは原田さんが単独で担当されたとのことですが、自分の曲をほかの方にアレンジしてもらうのはどうでしたか?

「ユニフォーム」のデモ版が来たときはびっくりしました(笑)。「あのシンプルなデモがこんなふうに生まれ変わるんだ……!」と。原田さんに「僕の個性はなんだと思いますか?」と聞いたことがあったんですけど、「コード感が鍵盤ならではで特徴的だから、アレンジでは絶対にそれを生かしたい」と言ってくださって。それが自分らしさなんだなというのは自信にもつながりました。

──わりと王道な歌モノもあれば、ファンクナンバーやAOR風な作品、ラップを取り入れた曲などもあってバラエティ豊かですよね。

楽曲の幅の広さみたいなものはかなり意識しましたね。アルバムトータルでシティポップ一直線とかバラード一直線ではなくて、5曲ともまったく違う世界を見せたいという思いがあって。曲によって、歌詞を聴かせたいものもあれば、サウンドを聴かせたいものもある。さっき二番煎じになりたくないと言いましたけど、やっぱりVaundyさんみたいな、いろいろな世界観の曲が入ったアルバムが大好きで。曲ごとに別の部屋に入っていくみたいな、まったく違う感情を掻き立てられるような、そんな作品を作りたいんです。

歌詞のテーマは“友”と“空”

──歌詞に関しては、身近な風景から着想を得て作ることが多いですか?

日常の風景や、身近な人との人間関係をもとに作ることが多いです。アーティスト名に“友”と“空”という字が入っているんですけど、この2つが歌詞のテーマにもなっていて。“友”というのはそのまま友達との人間関係で、“空”というのは時間帯を表す1つの象徴。今回発表した5曲も、「この曲は朝の曲」というようなイメージが自分の中ではあって。みんなが一度は経験しているような友達との時間みたいなものを歌詞に落とし込みたいと思っています。

──「看板」は情景描写がとても具体的ですけど、これは実体験から作られたもの?

そうです。思い出深い場所を通ったりすると、昔仲のよかった友達を思い出してセンチメンタルな気分になることがあるじゃないですか。そういうときの気持ちを歌詞にしたいなと思って。学校の行き帰りの電車内で歌詞を考えていたので、そのとき見えていた景色がそのまま歌詞になっている部分もありますね。

──友達とのリアルな人間関係を歌詞にしようと思ったのはどのようなきっかけがあったのでしょうか。

「18」ジャケット

もともと自分が歌ありの曲を作り始めたのも、友達と旅行に行ったことがきっかけなんです。みんなでおしゃべりをしながら海越しに朝日を見ていて、すごく楽しかったんですけど、同時に「こんなに仲よくしてても卒業したら散り散りになっちゃうんだよなあ」というネガティブな感情が湧き出てきて。すごく複雑な気持ちになったんです。その感情を音楽にしたいと思ったときに、「サウンドだけじゃ表現できないな」と思って。それから歌ありの曲を作り出したんで、そのときから友達との人間関係というのは自分にとってのテーマになっています。ちなみに「18」のジャケットには自分が描いたイラストが使われているんですけど、このイラストはその日見た景色がモチーフになっています。

──なるほど。全体的に歌詞は等身大ですけど、その歌詞とシティポップ的なアレンジのバランスが面白いですよね。「5号線」なんかは、あの洗練されたサウンドで出てくる地名が高田馬場という。

そうなんですよ(笑)。そういうアンバランスさとか、さっき言ったカオスさみたいなものが好きなんだと思います。カッコいいだけだとあまり印象に残らない。カッコいいものと、かわいいものやダサいものの間みたいな、そういう“中間点”が好きなんです。「5号線」は高速道路ではなく、その高架下を自転車で2人で走ってるという曲なんですけど、インターチェンジが1つのモチーフになっていて。高速道路は大人しか通れない道で、一般道は子供でも通れる道。その2つをつなぐインターチェンジを、大人と子供の中間という今の自分に置き換えて歌っているんです。高田馬場という場所も、池袋と新宿という都会と都会の狭間みたいなイメージですね。

曲作りの原動力

──最後に、今後の目標や目指しているものについて聞かせてください。

やっぱりライブがしたいです。できれば今回レコーディングに参加してくださった方々と一緒にライブができたらと思っていて、それが今の目標ですね。あとは、最終的には中国や台湾、韓国などで僕の曲を聴いていただければ、もともとの目標でもあった日本とほかのアジアの国との架け橋的な存在になれるのかなと。それは本当に理想というか、最終目標ですけど。

──ちなみに今まで観たライブで印象に残っているものは?

小学生の頃に幕張でサカナクションのライブを父と2人で観に行ったことがあって。それが今でも印象に残ってます。サラウンドや映像など、そこでしかできない体験みたいなものがあって、本当にすごいなって。自分にそれが合っているかはまだわからないですけど、欲を言えばああいう大きい会場で、演出も作り込んでライブができたらいいなと思います。

──ライブもできるなら大きいところでやりたいし、楽曲もいろんな人に聴いてほしいし、いわゆる王道を目指しているというか、基本的にはポピュラリティを獲得したいという思いが強いんですね。

ここまできたら、そうなれたらうれしいです。やっぱり曲を作っていて一番楽しいのは、自分でいいアイデアが思い付いたときや曲が完成したときではなくて、聴いてくれた人から感想をもらったときなので。たくさんの人に聴いてもらえれば聴いてもらえるほど、それが曲作りの原動力にもなるんです。