メンバーお気に入りの曲は
──「銀河」から「世界の終わりと夜明け前」「東京」へと続くエンディングは、しーなさんが言った“おもちゃ箱をひっくり返したようなアルバム”をきれいに締めくくる流れになっています。では、それぞれ特に思い入れの強い曲や好きな曲も教えて下さい。
なお ジャンルごとに好きな曲があるんですけど、バラードが好きなんで「東京」が好きです。聴いてると泣きそうになっちゃうんですけど。いつもバックにオーケストラがいてくれたらいいなと思って聴いてるので、オーケストラと一緒に演るのを夢にしたいです。
希 私は「マァルイツキ」かな。この曲ができる前に「世界の終わりと夜明け前」と「うんこぶりぶり左衛門」みたいな曲があって(笑)。その2曲の印象でアルバム全体が渋い雰囲気になってたんですけど。「うんこ~」が消えて「マァルイツキ」が入ったことで、アルバムの雰囲気がめっちゃ明るくなってすごくよかったし、歌詞がめっちゃ好きなんです。
あさか 私は「不純喫茶にてまた会いましょう」が好きです。最初「『ベイビー・ドント・クライ』みたいな曲にしたい」と言ってたんですけど、個人的には違うと思ったんです。「これはどうですかね?」と出したアイデアをみんなが「いいですね」と言ってくれて。Bメロでリズムを刻んでたり、サビもあえて勢いだけでいく感じにはしなかったりして、バンドの新しい扉を開けてくれた感があるし、自分のやりたいことができたと思って満足してます。
しーな 私は「パンチザウルス」ですね。この曲をどうしよう?と思ったとき、頭の中にオザケン(小沢健二)が浮かんで。「トランペットとか入れたら、いい曲になるだろうな」と思って、トランペットのイントロをなおちゃんに入れてもらったんです。街の騒音が入っていたり、「ラジオから流れてる曲」という設定で作ったから、最後はラジオで終わるという流れがすごくいい。物語性もあるしメロディもいいし、すごく好きな曲になりました。
無敵だと思ってたあの頃を経て
──ではバンドについても話を聞きます。結成が18年4月で、今年の4月で結成4周年。コロナ禍というハンデがなかったらもっと活動できたし、前に進めていたと思いますが、コロナ禍の中でもできることをやって、精力的に活動してましたよね?
しーな してましたね。コロナ禍の規制のある中でもツアーをやったりしてきましたけど、自分たちの思うところまで全然到達できてないというのが本音です。ライブの勢いやぐちゃぐちゃ感が自分たちのいいところだと思うんですけど、それができなくなっちゃったのは大打撃でした。ワクチンを2回接種した人のみを対象にしたクリスマスライブ(昨年12月に東京・CHELSEA HOTELで行った「東京初期衝動と性なるクリ X X ス」)のときは少し世の中的な状況もよくなってたんで、ひさびさにステージで味わう感覚に「これだよ、求めてたのは!」と思って泣きました。
──さらにさかのぼりますが、2020年11月にはあさかさんが加入しました。加入後のバンドの変化はいかがでした?
しーな めちゃくちゃいいです! 若いしね?
あさか あはは。一応、私が最年少です。
なお あさかちゃんが入って、スタジオや普段の雰囲気もめっちゃ明るくなったんです。
しーな あさかが入って、バンドの民度が下がったんです(笑)。民度を下げるのってけっこう大変で、誰か1人でもまともな子がいるとブレーキが効いちゃうんですけど、誰も止めないからブレーキが効かなくなって、すごい雰囲気がよくなった(笑)。
──では1stを作った頃と比べたとき、バンドで変わったこと、変わらないことはなんですか?
しーな 変わったことは世の中の状況とか、ライブの状況くらいで。基本、ウチらの関係も変わってないし、曲の作り方も変わってないし。音楽的な面では変わってないのかな?と思います。ちょっと聴く音楽が変わったかな?くらいで、前は青春パンクみたいなのが好きだったんですけど、最近は小沢健二が染みるようになってきて。銀杏BOYZ、JUDY AND MARY、松任谷由実とか好きな音楽は変わらないけど、そこに加えていろんな音楽を聴くようになって、取り入れていけるようになったんです。
──バンドをやって曲を作るようになって、音楽の聴き方も変わってきたでしょう?
しーな 完全に変わりました。たまに曲を聴くのが嫌になります。「ここをこうしたほうがいいんだ」と思ったり、「この人、天才だわ!」と思って、自分のできなさが嫌になったり。単に人の曲を聴くと、自分の小ささがわかって怖くなっちゃうんで。特にレコーディング中はあまりほかの音楽を聴きたくないです。ライブとかも行けなくなってきて、「このライブ盛り上がってるな」と思うのがすごいキツいから、人のライブとか気軽に行けなくなりました。「ヴァージン・スーサイズ」(2019年4月発表)を出した頃は、「私、無敵だし!」って気持ちだったんですけど……。
希 そうだね、普段からそんな感じが出てたもんね(笑)。
しーな あはは。でもここにきて、「まだまだだな、自分! 全然お話にならないな」と思うようになって。フィジカルやメンタルを強くしようと思って、筋トレを始めたり、パワースポットを回ったり。いろんなことして鍛えてます。
──「私、無敵だし!」と思ってたという話と、1stの頃のような曲が作れなくなったという話はイコールなんですか?
しーな 潜在的な部分でつながってると思います。あの頃の曲は自分を無敵だと思ってたからできた曲だったと思うし、今できる曲はあの頃と比べて、ちょっと暗いと思います。無敵だと思ってたけど、いろんなものを見て自信を失って、いい曲ができるとまた自信を取り戻してっていうのを繰り返してる。つまり自分を作っては壊してを繰り返してる気がします。
──歌詞はどうですか? 「高円寺ブス集合」とか「兆楽」みたいな歌詞は書けない?
しーな 下品な曲はやろうと思えばできるけど、やりたいと思わなくなった。いざやってみるとやっぱり面白くて、超バカウケでゲラゲラ笑ってるんだけど、やるまでが大変です。
──でも今回も「ウチのカレピに手を出すな」のタイトルを、わざわざ「BAKAちんぽ」に変えて再録しています。
しーな そうそう(笑)。「下北沢性獣襲来」もそうなんですけど、もうね、音がカッコよければ、歌詞がなんであろうと下品に聞こえないだろうなって。「高円寺ブス集合」を作って何年か経って思ったんです。「高円寺ブス集合」は最初、作ったけどそんなに好きじゃなかったんですよ。お客さんが「この曲いいね」と言ってくれて、初めて曲が1つの作品になる気がして、すごく大好きになったし。2ndアルバムの曲もお客さんが「いいね」とか「助けられた」と言ってくれることで、どんどん好きになっていくんだろうなと思ってるんです。これまでも「再生ボタン」で好きになってくれた人とか、「ベイビー・ドント・クライ」みたいなポップな曲で好きになってくれた人とかいろんな人がいてくれて、私たちももっと好きになったし、その曲が作品として完成したと思うし。だからこそ、今回はいろんな曲を入れたかったというのもあるんです。
──うん、だからエッジィで過激でパンキッシュな曲をやってるイメージだった東京初期衝動のさらなる多面的な魅力というか、バンドの全体像がようやく見えてきたのが今作で。東京初期衝動をより好きになったんですが、よりわからなくなりました。
しーな よりわからなくなりました?
──そう。改めて思ったけど、女の子の気持ちや本性はわからない!(笑) 長年振り回されてきた女の子のいろんな表情や魅力が1枚に詰め込まれてて、本性がまったく見えてこない。
しーな わー、超うれしいです(笑)。
──曲調や歌詞の書き方も違えば、歌声や表現方法も曲によって全然違って。嘘はないんだろうけど、女の子は役者だなと思ったし、やっぱり女の子には敵わないと思いました。
しーな まあ、“女子はミステリアス”ということで(笑)。でも、「マァルイツキ」の最後の歌詞、「ぁあー!前髪も直さなくちゃ…」とか、男は絶対わからない感覚だと思います。
──「トラブルメイカーガール」の「産みたいくらいに愛してる!」とか。
しーな そうです! だから「腐革命前夜」とか「世界の終わりと夜明け前」みたいな曲を入れてるんです。そうしないと男は絶対わかんないから。
──そこも嫌なんです。「男は絶対わからないだろうから」って先読みしていたり、「こう言ったら喜ぶでしょ?」ってわかってやってるところがいやらしい(笑)。
しーな あはは。私、いやらしい女なんです(笑)。
あさか いやらしいですよ、しーなちゃんは。いろいろわかってやってます(笑)。
アンチは最近減った
──僕はそんなところも含めて、すごく面白いバンドだなと思うんですけど、東京初期衝動は勘違いされることも多いと思うんです。しーなさんがわりと物事を直接的に言う方だから、アンチも多かったんじゃないですか?
しーな 最近減ったんじゃないですかね? 1st出したくらいの頃はアンチが多くて、なおちゃんも怒って一緒に戦ってくれてたくらいでしたけど(笑)。今は慣れたというか、なんか言われても何も思わなくなってて。絡まれても「こいつヤベえな! でもネタになるからいいか」みたいに思えるようになって、まったく気にならなくなった。そこはいっぱい音楽を作っている自信とか、筋トレしてフィジカル面が強くなったところがあるかも知れないけど、何も感じなくなりましたね。あと、ほかのメンバーが何か言われることはなくて、基本私なんで。1回くらい私以外のメンバーもいじめてあげてほしいと思ってるんです。
──あーひどい! なんてこと言うんですか(笑)。
あさか 私たちはすごいかわいがってもらってますからね、ファンの人たちに(笑)。
しーな そう! あさかなんて、甘やかされすぎなんですよ。「あさかさん、大丈夫ですか? しーなちゃんからイジメられてませんか?」とか心配されて(笑)。なおちゃんとか、まれちゃんもかわいがられていて、すごくうらやましい。裏では一緒に悪いこと言ってるのに!(笑) 私がいじめられてるのを見て、「それでいいの? 丸くなったね」とか煽ってくるんですよ。
──あはは。でも今回はアンチにも文句を言わせない自信作ができましたからね。アンチや東京初期衝動を知った気になってる人こそ、聴いてほしいとも言える1枚になったんじゃないでしょうか。
しーな そうですね。これでも文句言うやつは絶対、許さないです!(笑)
──そして、2ndアルバムを掲げての全国ツアーも春にスタートします。
しーな はい。「これは何県なんだろう?」みたいな、聞いたこともない土地もあるけど……。
あさか そんなことない、全部わかります(笑)。
しーな そうだね、それは私の知識不足なんだけど(笑)。まずはその土地のおいしいものを食べるぞ!ってところで、そこを好きになるところから始めて。全部が全部、違うライブになると思うので、「この場所で観られてよかった!」と思わせるようなライブを全国でやっていきたいと思います。絶対に損はさせません!
ライブ情報
「えんど・おぶ・ざ・わーるど」レコ発 東京初期衝動と大気汚染ツアー
- 2022年4月23日(土)北海道 SPiCE
- 2022年5月3日(火・祝)千葉県 千葉LOOK
- 2022年5月6日(金)石川県 金沢GOLD CREEK
- 2022年5月7日(土)香川県 高松TOONICE
- 2022年5月14日(土)広島県 HIROSHIMA 4.14
- 2022年5月15日(日)福岡県 INSA
- 2022年5月28日(土)宮城県 FLYING SON
- 2022年5月29日(日)茨城県 club SONIC mito
- 2022年6月11日(土)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
- 2022年6月12日(日)愛知県 HUCK FINN
- 2022年6月17日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2022年7月3日(日)沖縄県 output
プロフィール
東京初期衝動(トウキョウショキショウドウ)
2018年4月にしーな(Vo, G)を中心に結成されたガールズバンド。しーな、希(まれ / G, Cho)、あさか(B, Cho)、なお(Dr, Cho)の体制で活動している。2019年4月に自主レーベルのチェリーヴァージン・レコードを立ち上げ、3曲入り音源「ヴァージン・スーサイズ」でCDデビュー。SNSでの過激な発信内容や熱いライブパフォーマンスが話題になり、同月の東京・下北沢SHELTERでのレコ発ライブをチケット完売で迎えた。11月に1stアルバム「SWEET 17 MONSTERS」をリリースし、発売から4カ月後で初回限定盤2000枚を完売させた。2020年夏の全国ツアー「東京初期衝動の全国逆ナンツアー」では、東京公演のチケット購入者を対象に新型コロナウイルス抗体検査を無料で実施した。このツアーをもって前任ベーシスト・かほが脱退。新メンバーを一般公募し、11月の「BAYCAMP 2020」より新メンバー・あさかが加入した。2021年1月に日本テレビ系「バズリズム02」の「これがバズるぞランキング2021」にてランキング10位に選出された。同月よりあさかのお披露目ツアーとして「東京初期衝動の新春・東名阪あさか修行ツアー」を開催。5月に現体制での初音源「Second Kill Virgin」を発表し、2度目の全国ツアー「サマーツアー2021」を行った。テレビや音楽フェス出演を重ねつつ、12月に東京・CHELSEA HOTELで新型コロナウイルスのワクチン2回接種者を対象としたクリスマスライブ「東京初期衝動と性なるクリ X X ス」を実施。2022年2月に2ndアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」を発表し、レコ発ライブで東名阪のライブハウスを回った。4月には全国ツアーの開催を控えている。
東京初期衝動 (@tk_syoki_syodo) | Twitter