東京初期衝動は2018年4月に結成されたガールズバンド。アーティスト写真はプリクラ、オフィシャルサイトのプロフィールページは「前略プロフィール」風、2019年4月に発表したシングル「ヴァージン・スーサイズ」は1st EPならぬ1st “ED”と表記するなど、インターネットで彼女たちを調べるとひと癖あるバンドであることが伺える。過去にはしーな(Vo, G)がSNSで炎上したり、Twitterアカウントが凍結されたりと、何かとバンド活動以外の側面で話題になることも多かった。イロモノ扱いされることも少なくない彼女たちだが、ツアー開催や音楽フェス出演などを重ね、着実にバンドとしての進化を遂げている。そんな東京初期衝動の新たな可能性を示す作品が、2月2日に自主レーベルのチェリーヴァージン・レコードからリリースされた2ndアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」だ。
音楽ナタリーでは、東京初期衝動のメンバー4人にインタビュー。最新アルバムの話題を中心にしつつ、結成当初からの変化などについて話を聞いた。炎上気質のあるしーなを筆頭に、メンバーそれぞれがまっすぐに音楽に向き合っている姿勢は、作品のみならず、奔放な発言の中からも感じ取れるはずだ。
取材・文 / フジジュン撮影 / 後藤倫人
夏は海や山に行きたくなって制作進まず
──まずは2ndアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」が完成しての感想はいかがでしょうか?
しーな(Vo, G) すっごいお気に入りで何回も聴いてます! 長かったレコーディングがやっと終わってくれたって感じです。
──アルバム制作はどれくらいの期間やっていたんですか?
あさか(B) 8月くらいから曲作りを始めて、「1回、形にしよう」と9月くらいに録り始めたんですが、その頃はけっこうグダグダで(笑)。結局、作っては録ってを繰り返して、12月くらいまで苦労しながら録り続けてました。
しーな 私はみんながつらそうにしてると、どんどん楽しくなってきちゃって(笑)。人がつらい思いをしてるのっていいじゃないですか? だからすごくいい気分だったんです。
──嫌な性格ですね(笑)。
しーな 希(まれ)ちゃんなんか蕁麻疹とか出てたけど、「ここまでつらい思いしてたら、いいアルバムになるだろうな、ふふっ」と思ってました。
希(G) ヒドい(笑)。作ってるときは本当に大変でした。すごく遠回りして全然前に進んでいない感じがしていたし、寝不足で体調も悪くなるし、追い込まれてました。前作(2019年発表の「SWEET 17 MONSTERS」)はとにかくワーッ!って勢いで作っていたんですけど、今回は構成を考えて作ることができたので、ちゃんと音楽っぽいアルバムになったと思います(笑)。
なお(Dr) 去年の夏くらいは余裕ぶっこいてたけど、途中から流れるように一気にできていったから、私はあっという間に感じました。
しーな 夏は海や山に遊びに行きたくなっちゃうから仕方ない。やっと寒い冬になったから部屋の中で曲作りをしてたら、ぼんぼん曲が出てきて。実質、11月くらいから1カ月で作ったような感じだったよね(笑)。
──できあがったアルバムを聴き返して、作品としてはどんな感想を持ちましたか?
しーな 作る前は1stアルバム「SWEET 17 MONSTERS」よりいい作品はできないと思ってたんです。そしたら、自分の中で新しい曲がどんどん出てきたし、「これができたら3rdアルバムもできるんじゃないか?」という自信にもつながる作品になりました。今だったら絶対に「高円寺ブス集合」とか「兆楽」とか、1stアルバム以前のああいうパンキッシュな曲って作れないから。1stは1stで、あの頃に作っておいてよかったなと思いますしね。
──今作にも「下北沢性獣襲来」みたいな過激な曲はあるじゃないですか?
しーな いや、私に言わせれば甘いですよ! あの頃みたいな曲を作ろうと思って作ると、ダサくなっちゃうから。やっぱりあの1stアルバムはあのときしか作れなかったです。
──バンドを結成した頃のような初期衝動があふれてる感じは、今のバンドにはない?
しーな ああ、どうなんだろう? ノリと勢いは変わらないし、「ここにCメロぶっこめ!」みたいな曲の作り方も変わらないですけどね。もし冷静なメンバーがいたら「ちょっとそこは考えようか?」と止めるのかも知れないですけど、それもないですし(笑)。
──なるほど。今作の制作に本当の初期衝動を持って挑めたのは、2020年11月に加入して1年目で初めてのアルバム制作に挑んだあさかさんかも知れないですね。
あさか 私は人生で初めてのアルバム作りだったので、めっちゃ大変でした。みんなが作った前作を越えなきゃいけないって気持ちもあるし、ベースを弾くってだけでもプレッシャーがあって。夏頃は「私できない!」と思ったことさえあったし、実際にベースのレコーディングだけで1日潰しちゃったこともあったんですが。制作スケジュールの後半は「これはきっと気持ちの問題だから。気持ちを切り替えて楽しくやろう!」と思ったら、スッスッとできるようになって。レコーディングを通して、少したくましくなったと思います。
──あさかさんが加入したことでの変化もあると思うんですが、僕は今作を聴かせてもらって、この2年弱で1stアルバムとは違うバンドだというくらい進化したなと思っています。いろんなことに挑戦できているし、ここからの可能性も秘めていて。ロックバンドの作る2ndアルバムらしい2ndアルバムだなと思ったし、いい意味でガチャガチャした1枚になっていると思います。
しーな いい意味でね(笑)。「おもちゃ箱をひっくり返したようなアルバム」を目指していたので、そんな感じに聞こえたのなら、すごくうれしいです。でも最初は超パンクなアルバムにしようと思っていて、それができなくてここに来てしまった感じもあって。パンクって一番難しくて、勢いとノリがすごく重要だから。パンクは作ろう!と思ってできるもんじゃないので、今のポップなロック路線になったんです。1曲目の「腐革命前夜」が11月にできたことで、自分の中でパンクの曲を作ることをあきらめることができて。「もういいや、自分の好きなポップな曲を作ろう」と吹っ切れたんです。
──楽器隊の皆さんは最初に「超パンクをやりたい」と言っていたアルバムのジャンルがどんどん広がっていくのをどう感じていましたか?
希 最初は私も1stよりヤバい音で、ヤバい曲だらけのアルバムがいいなと思ってました。いろんな曲が増えていくことで、このほうが聴く人も楽しいし、どれか1曲好きな曲があるだろうと思って。今はこういうアルバムが作れてよかったと思います。
なお 私はいい曲を作ってくれたメンバーに感謝です。
しーな そんなこと思ってたんだ!? なおちゃんってポーカーフェイスで、「この曲どう思う?」って聞かないとわからないのに。ちゃんといいと思ってくれてたんだね、うれしい! なおちゃんは今回、私の作った曲をDTMで形にしてくれて、各メンバーがすぐ練習に取りかかれるようにデモを送ってくれたり、すごく頼もしかったんです。
なお はい。どんとこいです(笑)。
しーな あはは。そのおかげもあって、後半はすごく進みがよくて。「マァルイツキ」はレコーディング最終日の2日前にできた曲だったんですけど、2週間前からサビを歌いながら、「これをどうしても曲にしたいんだよね」って提案したら、みんなは曲が増えるのが嫌だったみたいでフル無視されてて(笑)。それでもアルバムって一生残るものだから、絶対に後悔したくないと思って、夜中にみんなをスタジオに呼び出してコードを付けて、その日の夜に歌詞と構成を送って。それをなおちゃんがDTMでまとめて送って、速攻でレコーディングしたんです。行き当たりばったりでやるのはよくないんだけど、そのスピード感もあって、疾走感のあるポップな曲になったから作ってよかったなとすごく思いました。
──最後まであきらめず曲を作ったことで、アルバムの重要なピースを埋めることができたと。
あさか 実は今回、私が作った曲もあるんです。
──え、そうなんですか!? どの曲ですか?
あさか 「山田!恐ろしい男」は私が作曲して、しーなちゃんに作詞してもらいました。自分のやってることが正しいか、最初はわからないんですよね。それを「よかった」「弾いてて楽しい」とみんなが言ってくれたから、出してよかったなと。あと、今作にはまれちゃんの曲もあって。
希 「ボーイズデイドリーム」は私が作曲しました。
──お風呂の中で歌ってる曲ですね、チャポンって音まで聴こえる(笑)。
希 そう(笑)。あれはしーなちゃんに本当にお風呂で録ってきてもらって、そのまま入れたんです。
曽我部恵一さんが包み込んでくれた
──しーなさん以外のメンバーが作った曲も今作をよりカラフルなものにしてくれていますが、「銀河 with 曽我部恵一」は今作のカギになっていて。曽我部恵一さんとしーなさんの歌声の相性もすごくよいし、曽我部さんにバンドの新しい魅力を引き出してもらった感があります。
しーな 私が突っ走ってるところを、曽我部さんが包み込んでくれてるような感じがあって、聴いてて心地よい曲になりました。あと曽我部さんの私服が原色で、けっこう若いなと思ったり(笑)。曽我部さんって、こっちが勝手に幻想を抱いていてもがっかりさせないんですよ! “曽我部恵一を超える曽我部恵一”で、「ホレてまう!」みたいな感じでした。曲は「AメロBメロを交代で作っていこう」という進め方だったんですけど、私たちがBメロを作ってる間に曽我部さんは2曲くらい作ってて、出る幕がなかったので作詞を担当しました。曽我部さんは私の書いた歌詞を否定することが全然なくて、「うん、いい歌詞だね。また(作詞の)旅に行ってらっしゃい」と言いながら優しく進めてくれて。結果、すごくきれいでいい曲になりました。映画にぴったりだと思うので、なんとかして映画に使ってほしいです(笑)。
希 私は曽我部さんのアコギを弾かせてもらって、ギターをいっぱい教えてもらいました。高校生の頃からサニーデイ・サービスが好きだったので、曽我部さんと共演して、まさかご本人からギターを貸してもらえるなんて夢みたいでした。「銀河」は私がギターを入れたんですけど、これを録ったのが去年の6月だったので、曽我部さんから学んだことをそのあとに始まるアルバム制作に生かせたんです。
しーな 東京初期衝動が外部のミュージシャンと関わるのは初めてなんです。「外部の人とやると、こんなに変わるんだ」と思ったし、初めての経験が曽我部さんだったからこそ、ほかの人ともやってみたいなという気持ちになりましたね。
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