楽しいほうへ、勝算のあるほうへ

──この「ゆらめき☆ロマンティック」というミニアルバムは、言わば“せんせい推し”というコンセプトですが、これまでの活動では、主にいちろーさんがボーカル担当でしたよね？

いちろー　そうですね。僕が割とメインで歌ってきて、みんながコーラスを付けるという曲が多かった。僕、THE BEATLES好きが高じて音楽を始めたようなものだったので、以前から“全員が歌えるバンド”をやってみたかったんです。それに元々せんせいは別名義でソロ活動もしていた人だったので、端で歌っていたところを「あ、ちょっとセンターに寄ってみて」「あともうちょっとだけ寄ってみようか？」と徐々に誘い出して（笑）。

せんせい　気が付いたら真ん中で歌っていたという感じです（笑）。

いちろー　そもそも僕自身、バンドの中で自分がメインじゃなきゃイヤだという意識も全くなかったので。ともかく勝算や面白さを感じるほうへと自然に流れていくんです。

高橋　男の子のバンドマンでは珍しいと思うな。あといちろーさんは、既にプロデューサーとしての視点をしっかりとお持ちなんですね。

いちろー　ありがとうございます。CDをインディーズで4枚出してきて、自分としても歌詞は結構書いたという気持ちもあったし、今の僕らはメンバー間で音楽観のようなものをきっちり共有できているつもりだったので、どんな外的要素や新しいアイデアを取り込んでも、東京カランコロンというバンドの軸は絶対に崩れないという自負は強いんです。だから今回の「ゆらめき☆ロマンティック」も、歌詞やアレンジが曲ごとにバラバラなのはむしろ狙った部分もあるし、「絶対うまくいく」という確信も僕の中ではかなり強くありました。

せんせい　その分、レーベルの皆さんはすごく面倒だと思いますよ。些細なことでも確認を取ってくれないと「どうして訊いてくれなかったんですか!?」ってワーッと怒るから（笑）。

高橋　すごく頼もしい。結局インディーズでは何年活動してたんでしたっけ？

いちろー　だいたい2年ですね。

高橋　2年でそんなに賢くなるの？ なんという急成長!!（笑）

いちろー　多分流通についてのひととおりを経験できたことも大きかったんだと思います。完全自主制作だったので、CDのプレス工場への発注からタワーレコードへの営業までなんでもやったので。メジャーデビューにあたっては出版権の会議まで自分で出ましたから（笑）。

高橋　出版権の会議？ もはや私がさっぱりわからない領域の経験まで（笑）。

いちろー　なんでも自分で把握していないと落ち着かない性分なだけなんです。これはこれで自分でも面倒くさい性格だと思うんですけどね（笑）。

メジャーデビュー盤にして異色のバラエティ感

──今回のミニアルバムではせんせいはボーカルのみならず、歌詞も初めて書き下ろしています。いちろーさんは、せんせいの描く歌詞の世界観やポップセンスをどう解釈していますか？

いちろー　例えば今回だと「夏 part1」という曲の、目で見た景色から言葉が生まれてくるような歌詞は、僕には絶対書けないものだと思う。僕はちょっと理屈っぽいんで（笑）。せんせいの個性がしっかりと表れていると思いますね。

高橋　うん。私も言葉の選び方や、語呂の面白さにせんせい“らしさ”が表れていると思う。

せんせい　やった、ありがとうございます！（笑）

──「ちびまる子ちゃん」のテーマだった「うれしい予感」をカバーした理由は？

せんせい　なんだか話していて「カバーも1曲入れたいね」という話で盛り上がったんですが、私、音楽ってジャンルも全くよく知らなくて。普段から音楽もあまり聴かない人なんですけど、子供の頃に観ていたアニメのテーマソングはすごく覚えていて（笑）。その記憶の中から“いい曲”を手がかりに手繰っていったら、この曲にたどりついたんです。で、改めてクレジットを見たら、作詞はさくら（ももこ）先生で、作曲が大滝（詠一）さんで、歌っていたのが渡辺満里奈さんだったので、なんだかカバーしてみたら楽しそうだなあと思って（笑）。

高橋　この曲、私もテレビで聴いて覚えてた。すごくいい曲だよねえ。

せんせい　うれしい！ めっちゃいい曲ですよね!? 歌詞も、いつも私がお客さんに対して思ってるようなことと同じやなって、すごく共感できる内容なんです。

──高橋久美子、いちろー、せんせい、さくらももこ……4人の作家の歌詞がまとめて聴けるという、デビューからなかなかシュールなクレジットを持ったミニアルバムになりましたね。

いちろー　今回はいろんな意味で“やり切った感”があります（笑）。アルバムにせよミニアルバムにせよ、同じような曲が続くバンドもいるじゃないですか。それはそれでひとつのスタイルだと思うけど、僕らはやっぱりTHE BEATLESで言えば「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」みたいに、いろんな曲が入っていて、でも通して聴くとちゃんとひとつのアルバム、みたいなスタイルでありたいんですよ。