東京事変|2020年、職人集団の最新型

猫は信仰

──4曲目は刄田さん作曲の「猫の手は借りて」です。オルタナティブなギターロックであり、デヴィッド・ボウイやQueenを想起させるスペースオペラっぽさもある曲調は、刄田さん曲としてはちょっと意外でした。

尺や構成についてはみんなで手を加えましたが、デモの段階からきちんとアンサンブルができた状態でした。コードワークも弦楽器をたしなんでいる人の手癖のような響きで。もともとの彼の素養からして当然なんですけど、アカデミックな側面を彼は隠したがるし。こうして改めて作品として残せて幸せです。刄田は、事変を象徴する存在だと思います。

──椎名さんの中では、刄田さんがミスター東京事変という認識ですか?

現場ではみんなそう思っているはずです。入ったばっかりの新しいスタッフもすぐそれに気付きますよ。「ああ、刄田さんが象徴なんですね」って。そこも昔から変わらないですね。どこか支配的で神話的というか、ある種の祀られた何かというか。ここ数日のような寒波が来ると「刄田が今何かに怒っているのだな」と感じます。

──“猫”は椎名さん、刄田さんにとって両者の共通項というか、互いに猫好きで……。

猫は信仰です。

──名言(笑)。「猫は干支や星座に居ない…重大な役を全うしての免除」というフレーズはその信仰心の賜物というわけですか。

ありがとうございます。自分ではそこまでパンチラインだと思っていませんでしたが。

──いや、なかなか書けないフレーズだと思いますけどね。この歌詞では、猫を舞台装置にしながら、一方では俯瞰で見た世界の様子が歌われています。

ほかの4曲では必ず「人生」という語句を用いています。この曲ではあえてそれを避け、即物的な行為をより無自覚で無造作なまま描こうとしました。

──作詞についてはキャリアを重ねるごとに椎名さん自身の中でハードルを上げておられる印象があります。

単に昔から苦手ですね。よりよいものをお届けしたいと考えるのは当然ですから、やはりルールは増えていくものですよね。子供の頃の作品はやっぱりお恥ずかしいです。

──それ、都度おっしゃっていますね。

イントネーションがひっくり返っているのとか、今だったら気になって吐き気がします。ポップスとして駄作だと思う。時々、誰かが「まあ、所詮歌詞は歌詞」と免罪符を掲げますが、言葉にならない感情を形にしたのが曲なのですから。より的確であるべきですよね。

ニュースの本質とは

──最後の5曲目は椎名さん作曲の「永遠の不在証明」です。劇場版「名探偵コナン 緋色の弾丸」の主題歌で、タイアップの発表時には「暗躍モノこそ、我々東京事変の十八番です」というコメントを寄せていましたが。

だって、頼まれてもいないのに、20年以上ずっと、しつこく裏社会を描いてきたんですよ。こうして、晴れてしかるべき場へ書かせていただけて本当に光栄です。

──最後の「元々の本当の僕はどこへ」というフレーズは、「コナン」の根幹とも言える設定のファクターとリンクしていますね。

ええ。そして「私は誰?」など、「ニュース」の全曲通じてフォーカスしている部分です。我々が報道番組において知ろうとする核の情報だからです。

──Wi-Fiと電波と端末、情報や共犯関係と相棒、社会と宇宙、生命と平和、群衆と人類と、全曲の作詞において、椎名さんは5曲それぞれに、自覚的に同じ言葉や類語を散りばめていますね。

ニュースというチャンネルの中でも、1つのニュース番組の中でも、さまざまな切り口が用意されます。つまり、一見、関連がなさそうなそれぞれのトピックが、実は関わり合っている。各々が主体的かつ総合的にトピックをピックアップしていかなければ、自分の人生に関わる情報にはなり得ない。それがニュースの本質だと私は思っていて。

──そうした意識は、ある意味、「三毒史」にも通底していたというか……。

というか、「三毒史」で書いたこと自体はそんなに今昔変わっていない、人間の業ですものね。

──普遍であり不変ですね。

ええ。そこは常に“織り込み済み”と申しましょうか。たとえば「TOKYO」で描こうとしていた2019年の気分とは、おそらく100年前にも感じられたし100年後にも感じられるものだと思っています。今回の事変では、「三毒史」の中に生きているような当たり前の出来事をより客観的に、俯瞰で見た端的な情報として残したかった。つまり、「三毒史」は「ニュース」を出すために、前提として発表しておかなければならなかったのです。

──かつて椎名さんは事変の結成から解散までの機能性を、教育(学習)機関~職業訓練校~研究室・実験室~生産工場と形容してきました。最後に、今回、再生を果たした事変の現在をどう捉えていますか?

それはもう職人集団、プロ集団です。1つの完成形を迎えたのではないでしょうか。