音楽ナタリー Power Push - TOKYO HEALTH CLUB
真面目に“フェイク”を追求するヒップホップクルー
メンバー全員が多摩美術大学出身の1DJ+3MCのヒップホップクルー、TOKYO HEALTH CLUB(以下THC)がManhattan Recordsに移籍し、ニューアルバム「VIBRATION」をリリースする。ヒップホップというジャンル自体をオマージュするような手つきで、1990年代から2000年代初頭の日本語ラップやドメスティックなR&Bのムードを現代的にアップデートする彼らの音楽性は、あまりに軽やかなポップネスをたたえている。これまで彼らはDJのTSUBAMEが主宰するネットレーベル、OMAKE CLUBから作品をリリースしていたが、このタイミングでヒップホップ / R&Bの専門レーベルであるManhattan Recordsと契約したことも興味深い。メンバー全員インタビューでTHCの実像を解き明かす。
取材・文 / 三宅正一 撮影 / 相澤心也
取材協力 / 東京健康ランド まねきの湯(東京都江戸川区船堀1-2-1)
ヒップホップじゃなくて、ラップがしたかった
──めちゃくちゃ軽やかにヒップホップを体現していて、こういうクルーがManhattan Recordsからリリースすることがまずウケるなっていう(笑)。
TSUBAME(DJ) 僕らもウケるなと思ってます。「え、Manhattan!?」みたいな感じですよね(笑)。
──でも、この軽やかさこそが今の時代の気分を表しているとも思うんですよね。ゴリゴリのヒップホップじゃなくてもManhattanからリリースできる時代なんだっていう。
TSUBAME ニトロ(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)、SALUくん、AKLOさんときて……俺ら!?みたいな(笑)。この流れは逆に面白いなと思ってます。
──皆さん多摩美術大学出身なんですよね?
JYAJIE(MC) はい、同じ学科の同級生ですね。
DULLBOY(MC) グラフィックデザインを勉強してました。
──どういう流れでこのクルーは結成されたんですか?
TSUBAME 僕はもともと大学時代からビートを作っていたんですけど、あるときSIKK-Oがラップに興味を持ち始めて。
SIKK-O(MC) 今のフリースタイルブームほどではないですけど、大学2、3年の頃にYouTubeにいろんなラッパーのフリースタイル動画が上がってたんです。それを観て、もともとヒップホップは聴いたことなかったんですけど、面白そうだなと思ったんですよね。
──どういうポイントに引っかかったんですか?
SIKK-O ゲームのような感覚で文学的な言葉遊びをやってるなと思って。でも、最初はヒップホップの文化自体には興味はなかったというか。
TSUBAME ヒップホップじゃなくて、ラップがしたかったんでしょ?
SIKK-O そう、ラップがしたかった。俺もやってみたい、くらいの感じで。で、当時TSUBAMEはエレクトロのトラックを作っていたから「ビート作ってよ」って頼んだんです。
──あ、じゃあTSUBAMEさんもヒップホップは門外漢だったんだ。
TSUBAME そうなんですよ。もともとMYSSというユニットで、DEXPISTOLSの主宰レーベル・ROC TRAXに所属していて。テクノのパーティにばっかり出ていて、完全に“四つ打ち畑”の人間だったんです。だからSIKK-Oに「ラップのビート作ってよ!」って言われても、「は……?」って感じで。それくらいちゃんとMYSSの活動をやっていたのもあったし。「なんで、遊びでビート作らなきゃいけねえんだよ、こっちはトラックメーカーとしてちゃんと仕事してんだよ!」っていうプライドもあったんですよね。若かったですし。それで何度か断り続けてたんですけど、たまたま友達の家で飲んでるときにGarageBandで適当にビートを刻んでみんなでワイワイやったことがあったんです。
SIKK-O そのビートに乗っかって即興でラップを付けたんですよ。そしたら「意外といけたね」ってなって(笑)。
TSUBAME こいつはコソコソ練習してたらしいんですよね。ビートなしで。
SIKK-O その頃はもう大学も卒業していて。ひさしぶりに友達と集まったときにそういうラップ遊びをみんなでして。意外とうまくいったので、もっとやってみようよってなったんです。
とりあえずフィーチャリングっていうのをやってみたかった
──TSUBAMEさんはそこからヒップホップのビートを作る楽しさを少しずつ覚えていったんですか?
TSUBAME その2010年くらいはPSGとかが注目され始めたタイミングで、5lackさんが「Myspace」っていうアルバムをリリースしたりして。「なんだこの音楽は!?」って思ったんです。ヒップホップなのにユルくて、しかもスマート、みたいな。それと同時にエレクトロも下火になってきてたし、大学卒業後に就職したので、趣味で音楽をやりたいと思っていたから、MYSSの相方に「お休みしたい」って言って。それから月イチで友達とワイワイするような感じで活動できるクルーを作って、遊びながらヒップホップのビートを勉強しようかなと思ったんです。でも、ヒップホップを全然知らない者同士が組んでも楽しくないだろうなと思って。JYAJIEはもともと大学時代からバンドをやっていて、ヒップホップ文脈もしっかり理解していて。かつ唯一の東京出身者なんですよ。それでJYAJIEを入れたらヒップホップ的にちゃんとするかなと思って。大学を出たら一緒に何かやろうと話していたのもあったし。そもそも僕がDJを教えてもらったのもJYAJIEで。
──JYAJIEさんが組んでいたのはどういうバンドだったんですか?
JYAJIE メロコアバンドですね。
TSUBAME 快速東京と僕らは同じ大学で、JYAJIEは同級生だった快速のギターの一ノ瀬(雄太)とバンドを組んでたんですよ。
──へえ、そうなんだ!
SIKK-O JYAJIEはヒップホップもパンクもそうだし、音楽について知識が広くて。
JYAJIE THCは最初は3人でやってたんですよ。で、僕はベースを生で弾いてたんです。
SIKK-O 1MC+1DJ+1ベースっていう(笑)。
JYAJIE 謎の編成で(笑)。
──海外のインディーシーンとかにはいそうな編成ですけどね(笑)。
SIKK-O 新しさを求めたら全然お客さんに受け入れられなくて(笑)。
JYAJIE 結局「わざわざベースを生で弾く必要なくね?」ってなって(笑)。
TSUBAME で、DULLBOYが加入することになったんです。こいつは大学時代からずっと引きこもっていて。その反動なのか、今ではメンバーの中で一番クラブ遊びしてるんですけど(笑)。
DULLBOY 今は大学時代と真逆ですね。ライブハウスでロックバンドのライブを観るのも刺激になるし。大学はなんとか卒業したんですけど、半分くらいは学校に行ってなかったですね。
SIKK-O DULLBOYを誘う前に「とりあえずフィーチャリングっていうのをやってみたいね」って話になったんですよ。
──軽いなあ(笑)。曲名に「feat.」を付けたい、みたいな?
SIKK-O そう、それをやってみたいと思って(笑)。それで、友達をリストアップしてたら「そういえばあいつ何してんだろ?」って感じで、大学を卒業したあと音信不通だったDULLBOYのことを思い出したので、連絡してみたんです。
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- ニューアルバム「VIBRATION」/ 2016年6月8日発売 / 2700円 / LEXCD-16009 / Lexington Co., Ltd / Manhattan Recordings
- 「VIBRATION」
収録曲
- ON -飛んでくLOVE-
- Vibration 弱
- ASA
- 天竺
- オシャレ ft. MCpero
- 悪魔
- 休日はHoliday
- MAD-ONNA ft. ZOMBIE-CHANG
- Last Summer
- ミューージック
- OFF -名盤ができた-
- ズラカル ft. MACKA-CHIN(YONIGE ver.)
TOKYO HEALTH CLUB(トーキョーヘルスクラブ)
2010年に結成された、多摩美術大学の同級生であるTSUBAME(DJ)、SIKK-O(MC)、JYAJIE(MC)、DULLBOY(MC)からなるヒップホップグループ。TSUBAMEが主宰する著作権フリーのインターネットレーベル・OMAKE CLUBから2013年5月に1stアルバム「プレイ」を発表し、限定500枚を3カ月で完売させた。2014年には2ndアルバム「HEALTHY」のリード曲「CITYGIRL」が話題に。翌2015年には楽曲「ASA」がJ-WAVEスプリングキャンペーンのラジオCMジングルとして使用された。2016年にヒップホップ / R&Bの専門レーベルであるManhattan Recordsと契約し、6月にニューアルバム「VIBRATION」をリリースした。