東京女子流インタビュー|結成12年でたどり着いた等身大でフレッシュな充実作「ノクターナル」はどのように生まれたのか (2/3)

「TIF」でのパフォーマンスで「手応えあり!」

──大人の女性がナチュラルに表現できるようになった一方で、「TIF」のような場所では「おんなじキモチ」や「頑張って いつだって 信じてる」といったいかにもアイドル然とした初期楽曲も、出し惜しみなく“切り札”としてパフォーマンスしていますよね。

山邊 「おんなじキモチ」とかを歌うと、なんというか、フレッシュスイッチ!みたいな(笑)、いつでもあの頃の気持ちになれるんですよ。

中江 曲が全然色褪せないのがすごいと思うんですよね。自分たちの曲だけど、色褪せないままでいてくれるのがすごくうれしい。

中江友梨

中江友梨

──東京女子流の楽曲は耐年数が高いですよね。かわいらしい曲はアイドルシーンのアンセムとして生き続けているし、「Limited addiction」などのクールな曲も長年ライブのレパートリーとして歌われ続けていて。

中江 「Limited addiction」なんかは今の年齢になっても葛藤しますよ。もうちょっと上なんじゃないかって(笑)。今の年齢になって感じる解釈もありますし、30歳になっても40歳になっても、女子流の曲についてずっと考えていると思います。ずっと考えてるってことは、ずっと歌いたいんだろうなって。曲にすごく感謝してます。

──「ノクターナル」には新しく生まれ変わった女子流を強烈に感じる一方で、デビューした頃から変わらない地続きなものを感じます。全編通して聴きどころが多く、女子流の最高傑作なんじゃないかと僕個人は思いましたが、皆さんにもよい作品ができたという思いはありますか?

山邊 今年の「TIF」で初めて女子流を観てくれた人が、そのあとアルバムを探して「めっちゃいい!!」と言ってくれてたりして。SNSを見ているとそういう書き込みがいっぱいあって……この何年かでシングルを出したときとは明らかに反応が違うので「手応えあり!」と思っています(笑)。曲を褒めてもらうのは本当にうれしいので、電車の中でニヤニヤしながら検索してました(笑)。

山邊未夢

山邊未夢

──東京女子流の歴史を知っているからこそグッとくる部分もあるんですけど、作品単体としてシンプルに「ポップで聴きやすいアルバム」でもあると思うんですよね。

後藤 音楽マニアなマネージャーとも「本当にカッコいい“J-POP”を作ろう」と話して作っていました。なので、このアルバムは「J-POPはこうであってほしい」という私たちの理想が盛り込まれているものでもあります。それは単に過去のJ-POPを繰り返しただけではない、今の時代性も組み込んだJ-POPで、「ノクターナル」ではそれができたのかなと思っています。

新世代で作り上げた「Viva La 恋心」と「コーナーカット・メモリーズ」

──特に手応えを感じている曲は?

山邊 私は「コーナーカット・メモリーズ」ですね。この曲は「TIF」の初日(参照:3年ぶりの夏開催「TIF」が開幕!初日メインステージのトリを務めたのは初出演Juice=Juice)で初披露したんですけど、思っていた以上にお客さんの反応がよくて。私の予想では、少し体を揺らしながら聴いてもらうくらいの感じになるのかなと思ってたんですけど、いざパフォーマンスしてみたらすごい盛り上がりだったんです。「この曲、こんなにパワーがあるんだ!」と思いましたし、アルバムを聴いてくれた人の反応を見ても「コーナーカット・メモリーズ」がいいと言ってくださっている人が多くて。今の東京女子流を代表する曲になるかもしれないなと感じました。

──東京女子流の音楽と言えば、松井寛さんをはじめとするベテラン作家さんによるソウルやファンク、フュージョンなどを土台にしたファンキーでグルーヴィな音楽、というイメージがやはり強くて。「コーナーカット・メモリーズ」はその発展系と言えるサウンドですが、作者のきなみうみさんは1999年生まれなんですよね。

山邊 ひとみと同学年なんですよ。

──かつてのディスコ / クラブ文化を通っていない若い作家の作編曲だというのはちょっと意外でした。

新井 びっくりしました。レコーディングに来てくださったんですけど、「え……同い年?」と思うくらい大人っぽいし、音楽の知識も豊富で。きなみさんが書いてくださった「Viva La 恋心」や「コーナーカット・メモリーズ」は、歌唱面でもダンスの面でも成長できた部分がたくさんあって、ファンの皆さんにも「女子流、来てるぞ!」と感じてもらえる新しさがあるんじゃないかなと思います。

──アルバムを象徴するリード曲の2つが、後藤さんと同じくメンバーと同世代の手によるものだというのは、なんだかすごくいいですね。

後藤 実は「Viva La 恋心」はもともとめちゃくちゃファンクだったんですよ。曲を作るときは、私がデモを集めて上司の前で試聴会をするんですが、最初のバージョンは上司にはあまり刺さらなかったみたいで。でも私は「Viva La 恋心」のサビのメロディにすごく手応えを感じていたので、きなみさんと一緒に「サビはこのメロのままで、全体にもうちょっとAORっぽい要素を入れてみよう」と話して内緒で作り続けていたんです。そしたら上司は「なにこれ、めっちゃいい曲じゃん!」って初めて聴いたような好反応で(笑)。それでリード曲に決定したものの、最初のファンクっぽいデモもすごく気に入っていたので、その雰囲気を別の曲に持っていこうと思って。それが「コーナーカット・メモリーズ」なんですよ。

──へえ! そうだったんですね。

後藤 もともとの「コーナーカット・メモリーズ」はもっと湘南サウンドというか、シティポップ的なさわやかさがあったんですけど、ファンクに寄せて、同じ展開でループしていた構成も少し複雑にして面白くしようと。この2曲は印象がちょうど入れ替わった形ですけど、結果的にどちらも正解だったなと思います。

“楽曲派”評価を抜け出すためには

新井 大人になった私たちが表現できたという手応えで言うと、「僕は嘘つき」も大きいですね。この曲もファンの皆さんの反響が大きくて。というのも、「僕は嘘つき」は去年の8月にシングルで発表した「ストロベリーフロート」(参照:東京女子流、8月ニューシングルは“わたしたちのヒミツ”がテーマ)のアンサーソングになっているんです。歌詞は男性目線になっていて、そういう楽曲を私たちが歌うのも初めての試みに近くて。アルバムのコンセプトの「夜行性」というイメージもリンクして、アルバム全体の「大人になった東京女子流」という印象を「僕は嘘つき」がさらに引き上げていると思います。

新井ひとみ

新井ひとみ

──「僕は嘘つき」は紙資料には「山邊未夢激推し曲」とあります。

山邊 めっちゃ大好き(笑)。昔からミディアムやバラードが好きなので、最初に聴いたときから「来た来た!」と思ってました。心臓をキュッと締め付けられるような歌詞の切なさもすごくよくて……実は明日初披露するんですけど、ライブが楽しみでしょうがない。切ない表情で歌いますけど、気持ちはウキウキしていると思います(笑)。

庄司 「僕は嘘つき」は自分の歌として一番自然に歌えたような気がします。スタッフさんにもファンの方にも「歌い方が新鮮だった」「こんな歌い方もできるんだ」と言われるんですけど、自分たちでは具体的に何がどう変わったのかはわからなくて。

後藤 「僕は嘘つき」は、「Hello, Goodbye」で私がボーカルディレクションを始めてからの1つの到達地点かなと思っています。それはウィスパーとの使い分けや、しゃくりを入れる頻度などがメンバーが自分たちで把握できるようになったことが大きくて。「ノクターナル」とそれ以前でどこが違うかと言ったら、まさにそこなんですよ。

庄司 アルバム全体を通して……これまでは「アレンジがいいね」とか「曲調がいいね」とか、曲自体を評価していただく声が多かったのに対して、今回のアルバムはメンバーの歌声や歌い方に対する感想をたくさんいただくんですよ。それが私はすごくうれしくて。これまでは「女子流は曲がいいとは言われるけど、じゃあそれを表現している私たちのよさって何……?」というところに頭を抱えていたので……。

庄司芽生

庄司芽生

──いわゆる“楽曲派”のジレンマですよね。

庄司 「そこを抜け出すにはどうしたらいいんだろう」とモヤモヤしていたところを、このアルバムではちょっと抜け出せたんじゃないかなって。女子流はずっとユニゾンの曲が多かったんですけど、ここ数年、特に後藤さんが担当してくれるようになってからは、ソロでつなぐ曲が増えているんです。それは私たち4人が、曲に対してリアリティを持って、4人それぞれの色に染めながら表現できるようになったからこそ変えられた部分だと思う。その変化が、アルバムを通して聴いたときにより鮮明に、明確に伝わったんじゃないかなって。レコーディングも今まで以上に楽しく臨めました。1曲1曲に対しての理解も深まって、自然とあふれ出てくるものをみんなから感じるというか。自分で「お! いい歌が録れたかも」と思って、全員の歌を聴くと「みんなめっちゃいいやん!」「こんなニュアンスの付け方してくるの? なんか悔しい!」みたいな(笑)。「じゃあ次の曲を録るときにはこうやってみよう」という試行錯誤を繰り返してアップデートしていく感じがアルバム制作期間はずっと続いて、すごく充実していました。