特撮|5年ぶりニューアルバム「エレクトリック ジェリーフィッシュ」完成 「この4人が集まれば、特撮の音はできあがる」

4人で歌う“特撮なりのミュージカル”

──そして「歌劇『空飛ぶゾルバ』より『夢』」も、アルバムの大きな聴きどころだと思います。ロックオペラ調の壮大な曲ですね。

ARIMATSU(Dr)

ARIMATSU 特撮なりのミュージカルというか。メンバー全員がリードで歌ってるのも新しいですよね。

大槻 そうだね。この曲もナッキーが作ってくれたんだけど、デモテープの段階では、シンプルなパンクロックだったんです。最初は「こういうふうにパッと始まってパッと終わる曲もいいな」と思ってたんだけど、ナッキーが「いや、この曲はプログレなんですよ」と。できあがってみたら、何度も展開を繰り返す壮大な曲になってたんですけど、僕はギョッとしましたね。

NARASAKI いや、違うんじゃないですか? 大槻さんが「時系列に沿って歌詞を書きたい」と言ったから、展開を作ったので。

大槻 あ、そうだった?(笑) 

NARASAKI 作り始めたら、長くなっちゃったんですけどね。ちなみに僕はこの曲でARIMATSUが「お疲れ! 受け取ったよ」と歌うところがアルバムのピークだと思ってるんですよ。

ARIMATSU はははは(笑)。

──全員の声の個性も生かされてますよね。4人で歌うというアイデアはどこから出てきたんですか?

大槻 The Bandの「ザ・ウェイト」という名曲があって。メンバー全員で歌い回すんだけど、「こういう曲、1回やってみたいな」と思ってたんですよね。

NARASAKI へえ。

大槻 まさかこういうミュージカルみたいな曲で実現するとは思わなかったですけどね。「ザ・ウェイト」というより、The Whoの「トミー!」みたいなイメージなのかな。

──アルバムの最後に収録されている「ネタバレの世界で生きてくための方法」は、ARIMATSUさんの作曲です。いろんな音楽の要素が混ざっている曲ですね。

ARIMATSU NARASAKIから「曲、書きなよ」という話があって、レゲエ、サイケというキーワードがあったんですよ。

大槻 歌詞的にもアルバムのまとめみたいになってますね。最終的に消えていなくなるネタバレの世界なのに、終わりなき戦いを続けるのはなぜか?っていう。この曲の中で一応、「こうすればいいんじゃないか」という答えを提示しているんですよね。

──「ひがな一日を それだけを見ようぜ」という。この境地に至ったのは、いつ頃ですか?

大槻ケンヂ(Vo)

大槻 いや、まだそこまで至ってないですね。ただね、コロナ禍になって、いろいろ思うところもあって。この1年の状況も、歌詞にも出てると思いますね。細かいことですけど、例えば「人混みに紛れて」みたいな歌詞は書けないじゃないですか。「人混み、ダメじゃん」「そんな状況、もうないでしょ」って。歌詞を書く人としては難しいところもあったけど、うまいことすり抜けて、「今だけを見ることの大切さ」というところに落とし込めたかなと。

──やはりコロナの影響はあるんですね。

大槻 作詞する人はそうでしょうね。僕に限らず。

NARASAKI 作曲者は関係ありません!

大槻 そうか(笑)。無意味な歌詞もあるんですけどね。例えば「ウクライナー」の歌詞なんて、不条理というか全然意味がないので。アルバムにそういう曲が入ってると、「深いことを考えてるな」って思われるんですよ。これも作詞のテクニックですね。

NARASAKI そういうこと言わないでもらえますか? カリスマ性がどんどん下がっていくんで(笑)。

特撮は自由度が高く、いつまでも楽しい

──初回限定盤のDISC 2「DEEP Tracks」は、アルバム未収録曲の音源集になっています。レア曲ばかりで、特撮のディープな魅力が詰まっていますね。

大槻 特撮でレコーディングしたんだけど、アルバムに入ってない曲がけっこうあって。それをまとめて出したいと思ってたんですよね。ホントにね、レアな曲ばっかりなんですよ。「パナギアの恩恵」はパチンコ(「パチンコ烈火の炎」)のために作った曲だし、「戦え!改造!!ん、違う?」は、アニメ「かってに改蔵」のコンセプトアルバム「スーパーDX超合金」にしか入ってなくて。あと「鬼墓村の手毬歌(Long Ver.)」はアルバムに入ってるけど、後半のラジオドラマの部分はカットされてたんですよ。「アングラピープル サマー ホリディ~2011版~」も、シングルのカップリングにしか入ってなかったし、特撮のファンでも「そこまでは手を出せない」という方もいらっしゃったと思うので、CDに収録できたのはとてもうれしいです。曲によっては、僕も「こんなのあった?」って思ったりしましたけど(笑)。

NARASAKI それ、曲を作ってる人に失礼でしょ?(笑)

ARIMATSU 「アルバムに入ってない」という意味ではレアですけど、「これが特撮のレア曲」と言われると、自分としてはピンとこないところがあるんですよね。特撮はもともとレア曲ばかりと言うか(笑)。マニアックなものをポップに昇華できるのが持ち味だと思ってるので。ほかのバンドがやるとアンダーグラウンドになる題材でも、特撮がやるとキャッチーになるというか。

大槻 なるほど、そうかもね。

──ジャンルを超えた音楽性、さまざまなカルチャーをモチーフにした歌詞を含め、特撮らしさが濃密に表現されたアルバムになりましたね。

大槻 そうですね。今回のアルバムを通して感じたのは、メンバーに対する絶大な信頼なんですよ。どんなタイプの曲でも面白く仕上げてくれるし、僕は歌詞を書いて歌うだけだなと。メンバーが奏でる楽器の音によって、自分の言葉も自ずと変わっていくしね。特撮だから描ける世界があるし、特に今回のアルバムでは、それを強く感じました。

三柴 このメンバーだからできることがあると思うんですよね、集まると楽しいし(笑)。一緒に演奏することで特撮になる。細かいところは変化していると思うけど、プレイする人は同じですからね。

ARIMATSU すごく自由度が高いんですよね、特撮は。絵に例えると、キャンバスからはみ出してもOKというか、それが普通に行われているバンドなので。僕もいろんなバンドをやってきましたけど、自然とジャンルが決まっていくことが多い中で、特撮はまったくそうならない。楽しい場所ですよね、やっぱり。

──20周年を迎えたこの先も、さらに発展しそうですね。

特撮

三柴 今の時点で「次はこうしたい」という予想はできないんですけど、シングルやアルバムの制作で集まったときに、何か思い付けばいいなと思いますね。

NARASAKI 今回のアルバムは、セルフカバーアルバムを含めると10作目なんですよ。作品をもっと並べた意思をどんどん増やしていけたらいいなと思いますね。音楽的には、いい意味で削ぎ落していくというか、バンドサウンドを洗練させていきたいです。次の作品は……全部ブギでもいいかな。「全部同じじゃん!」みたいな(笑)。

ARIMATSU ははは(笑)。今回のアルバムはけっこう歌ってるんですよ。「空飛ぶゾルバ」以外もプリプロで歌ってたり。以前はコーラスも億劫だったんですけど、ボーカルを取るのは新境地だし、これからもバンバン歌っていきたいなと。

大槻 いいと思います! 「ムー」(老舗オカルト雑誌)とのコラボレーションもあるし、この先も面白いことができたらいいですね。どんなジャンルの曲でもやれるバンドだし、どんな曲でも歌詞を書きますよ。全部ブギでも大丈夫です!

※記事初出時、一部楽曲表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

ライブ情報

特撮ライブ「エレクトリック ジェリーフィッシュ」
  • 2021年5月15日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2021年5月16日(日)東京都 新宿BLAZE
  • 2021年5月26日(水)東京都 LIQUIDROOM

2021年5月19日更新