特撮が前作「ウインカー」(2016年2月)以来、約5年3カ月ぶりとなるニューアルバム「エレクトリック ジェリーフィッシュ」をリリースした。新作には70年代サイケロック直系の「電気くらげ」、大槻ケンヂ(Vo)とNARASAKI(G)のデュエットによるポップチューン「ヘイ!バディー」、ロックオペラ調の「歌劇『空飛ぶゾルバ』より『夢』」などバラエティに富んだ楽曲が収録されている。
音楽ナタリーでは、大槻、NARASAKI、三柴理(Key)、ARIMATSU(Dr)にインタビュー。アルバム制作時のエピソードや、結成20周年を迎えた心境などについて聞いた。
取材・文 / 森朋之
特撮で試みたい世界観があった
──5年3カ月ぶりのアルバム「エレクトリック ジェリーフィッシュ」がリリースされました。配信シングル「オーバー・ザ・レインボー〜僕らは日常を取り戻す」「I wanna be your Muse」をはじめ、バラエティに富んだ楽曲が収められていますね。
大槻ケンヂ(Vo) そうですね。アルバムのプリプロが始まったのが2月23日だったんですけど、制作もすごくスムーズでした。とにかくナッキー(NARASAKI)の曲がよかったんだよね。
NARASAKI(G) 自分的にも筆が乗っていたし、迷いなく作った感じがありますね。
──曲作りの段階では、どんなアルバムにしようと?
NARASAKI 意識していたのは、特撮の3rdアルバム「Agitator」(2001年)ですね。いろいろとバリエーションに富んだアルバムで、実験的なこともやっていて。そのテイストを含みつつ、いろんなジャンルに手を出していけたらなと。
大槻 去年のZoomミーティングのときは、「今回はソフトな方向で」なんてことを言ってたんですよ、僕は。アルバムでいうと、「喫茶店トーク」みたいな曲がいいんじゃないかなと。でも、ナッキーが送ってくれたデモはハードなものもあったし、クラシカルな曲からレゲエまであって。聴いてるうちに「こういうのもいいな」と思って、僕もノッてきたんですよね。プリプロが始まって1カ月も経たず、3月14日までに歌詞も全部書いてしまったんですよ。アルバムの制作がひさしぶりだったこともあるし、特撮で試みたい世界観があったんでしょう。
──三柴さん、ARIMATSUさんは、今回の制作を振り返ってみてどうでした?
三柴理(Key) このメンバーが集まると、特撮の音ができあがると思うんですよ。それは5年経っても同じですね。
ARIMATSU(Dr) 「今回はここが違った」ということは特になくて。もともと特撮は突拍子もないことをやってきたし、そこは慣れっこというか、今回も迷いなく挑戦できましたね。
大人の特撮、静かに燃え上がる炎
──収録曲について聞かせてください。まず1曲目は「電気くらげ」。70年代のサイケデリックロックを想起させるナンバーですね。
大槻 以前の特撮は、かっ飛ばして始まることが多かったんですよね。「アベルカイン」(2000年発表のアルバム「爆誕」収録曲)、「オム・ライズ」(2003年発表のアルバム「オムライザー」収録曲)とか。「電気くらげ」はそうじゃないから、ちょっと落ち着いた印象を醸し出せるのかなと。大人の特撮といいますか……いや、もちろん、みんないい大人なんですけど(笑)。静かに燃え上がる炎みたいな感じですね。
──「電気くらげ」という曲名は、アルバムタイトル「エレクトリック ジェリーフィッシュ」に直結してますね。
大槻 確かね、デモの段階では「電気くらげ」というフレーズはなかったんですよ。レコーディング時に即興的に入れたんだけど、それがアルバムのタイトルにまでなったという。まあ、インスピレーションなんですけどね。
──歌詞は寺山修司がモチーフで、「書を捨てよ街へ出よう」という。
大槻 そうですね。あと、(カート・)ヴォネガットも出てくるでしょう? ちょうどヴォネガットを読んでたんですよ、その頃。
──なるほど。三柴さんが奏でるオルガンも渋いですね。
三柴 VOXオルガンですね。以前、ENDS(遠藤遼一によるソロプロジェクト)というバンドでオルガンを嫌というほど弾かされたんですけど、今回もそういう感じです。
大槻 ピアノはそんなに弾いてないよね、今回。
三柴 俺はいつでもピアノを弾きたいんだけど、NARASAKIが「いらない」って言うから。
NARASAKI いらないっていうか(笑)、今回はオルガンが合う曲が多かったんだよね。アルバム全体もそうなんだけど、「電気くらげ」でもサイケなところが欲しくて。
三柴 初期のPink FloydとかThe Doorsとかね。「電気くらげ」のオルガンは、特撮らしさを考えて、かなり歪んだ音になってます。
NARASAKI ギターソロも気に入ってますね。ビリビリしてて、フワフワしてて、「ホントに電気クラゲみたいな感じだ、すごい」と自分で思いました(笑)。
──サイケデリックな音楽は、メンバーの皆さんのルーツでもあるんですか?
ARIMATSU 好きですね。今、話に出ていたPink FloydやThe Doorsもそうだし、あとはThe Velvet Undergroundとか。
大槻 僕もPink Floydの「神秘」は、よく聴いてましたね。「電気くらげ」はThe Doorsを連想したかな。
NARASAKI 「電気くらげ」のきっかけになった出来事があるんですよ。五線譜をコピーしてたら、プリントミスで線がウネウネしちゃって。それを見たときに、「この感じで曲を作ってみよう」と思ったんですよね。記号的というか模様的というか。
大槻 へえ、そうなんだ?
NARASAKI はい。ほかの曲にも影響がありますね。例えば「ウクライナー」は、アッチェレランド(「だんだんテンポが速くなって終わる」という意味の音楽用語)なんですけど、それもミスプリントの譜面がヒントになってるんですよ。ジョン・ケージとか、現代音楽みたいな発想もあるし、かなり自由に作れた感じはありますね。
車、小説、週刊ファイト……モチーフいろいろ
──「ミステリーナイト」も奇天烈な展開の曲ですね。
NARASAKI そうですね。80年代の産業ロックみたいな感じもあるし、ホラーメタル、ブラックメタルの要素もあって、なぜかメンバーにいないサックスがソロを取るっていう(笑)。それも自由に作ったというか、「先が読めない曲にしよう」という考えが先にあったわけではないんです。
──なるほど。リード曲の「ヘイ!バディー」は、アルバム随一のポップチューンです。
NARASAKI この曲もちょっとサイケなんですよね。今回のアルバムは「(大槻以外も)いろんな人が歌う曲があったらいいな」というテーマもあって。この曲は自分も歌ってるんですけど、まあ、かわいらしい曲になりましたね(笑)。
──「バディ」「相棒」を描いた歌詞も、“2人で歌うこと”から出てきたアイデアなんですか?
大槻 もともとはナッキーのアイデアですね。2人で歌うんだったら、バディムービーというか、相棒モノみたいな歌詞にしようと。あと、“Buddy”っていう名前の車があるんですよ。アメ車っぽい形の日本車なんですけど、それがカッコよくて。その車のイメージもありました。
──車がテーマだった前作「ウインカー」ともつながってますね。
大槻 あ、そうですね! ちなみに僕、ドラマの「相棒」はあまり見たことがないんですよ。六角精児さんと弾き語りしたときに、彼が出演している「相棒」を何本か観たんですけど、そんなにファンというわけではないので……。
NARASAKI そんな心配しなくても大丈夫だと思いますよ(笑)。
──続いて「果しなき流れの果へ」は三柴さんの作曲ですが、どんなテーマで制作された楽曲なんですか?
三柴 これはロックンロールですね!
大槻 (笑)。確かにこの曲の中間部はロックンロールだよね。
三柴 そうだね。いろんなタイプの曲がそろっていたので、シンプルなロックンロールがあってもいいんじゃないかなと。サポートベースのRIKIJIくんもシンプルなベースがうまいので、「ロックンロール、ヨロシク!」と。
ARIMATSU はははは!(笑)
大槻 楽曲自体がコンパクトだから、「歌詞をどうやってまとめよう」とだいぶ考えましたね。この頃は小松左京先生の「果しなき流れの果に」を読んでいたので、だいぶインスパイアされました。
──曲によっていろいろなモチーフが反映されているんですね。
大槻 そうですね。ちなみに「喫茶店トーク」の歌詞は、「週刊ファイト」の井上義啓編集長の「I編集長の喫茶店トーク」が由来なんですよ。平成のプロレスを昭和の目線で語れる非常に面白い方で、僕も大好きだったので。この曲は世界で唯一の「週刊ファイト」をテーマにした曲でしょうね。
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4人で歌う“特撮なりのミュージカル”
2021年5月19日更新