音楽ナタリー Power Push - 特撮
結成15周年記念作「ウインカー」が示すバンドの行き先
NARASAKIは立ったまま作曲する
──ちなみに「富津へ」の歌詞は、千葉県の富津にドライブしてるときに思い付いたんですか?
大槻 うん、まさに! 車を購入して、初めて遠くに行ったとき……と言っても、そんなに遠くないけど(笑)。その道中で思いつきましたね。大渋滞で大変だったんですよ、4時間くらいかかっちゃって。木更津のアウトレット渋滞だったみたいだけど。
NARASAKI そうなんだ(笑)。
大槻 その日はたまたまラジオでプログレばっかり流れてたんで、それをずっと聴いてた。
三柴 プログレ三昧(NHK-FM「今日は一日プログレ三昧」)だね。
──ドライブ中に歌詞が浮かぶなんて、なんだか素敵ですね。
大槻 ね。みんなもそうじゃない? ドライブしてたり、歩いてたりすると曲が生まれたりするんでしょ?
三柴 俺はダメなんだよ。よく「いきなり思いついて、レコーダーに吹き込んで」とか言う人がいるけど、俺はピアノを弾かないと曲ができないから。鼻歌から作ったこともないな。
NARASAKI 俺は曲がどうしてもできないときは、立ったまま作ってますね。
大槻 歩くんじゃなくて?
NARASAKI 歩くとテンポができちゃうからダメ。
大槻 なるほどね。ミュージシャンだなあ。
NARASAKI 立ってるとさ、もどかしくなるでしょ? そうすると曲ができやすいんだよね。それは20年前からずっとそう。
大槻 そうなんだ。アーリーは?
ARIMATSU シチュエーションというより、夜中かな。深夜1時、2時くらいが一番頭が冴えるというか、思い浮かぶことが多いから。
大槻 その時間はお肌のゴールデンタイムだね。
三柴 寝てなきゃダメじゃん(笑)。
大槻 そっか(笑)。僕はね、早朝に書いたりもするんですよ。起きるや否や、バッと書き始めるとけっこう書けるんだよね。
“荒井田メル”は狂言回し
──では話をアルバムに戻しまして。1曲目の「荒井田メルの上昇」はブラックミュージックのテイストが感じられるミディアムチューンです。このオープニングには意表を突かれました。
NARASAKI セッションではラウドな曲が多かったんですけど、これはラウドじゃないほうの曲ですね。大槻さんに声を張らずに歌ってもらいたいなっていうイメージで作ったんですよ。
──まさにドライブしているときにFMで流れてきそうな曲ですね。
大槻 そうですよね。僕も声を張らずに、穏やかに歌ってみたいなと思ってたので、「荒井田メルの上昇」や「富津へ」はうれしかったですね。「富津へ」は熱唱バラードのつもりだったんだけど、ナッキーのディレクションで「抑えた感じで歌ってください」って言われて。最初は「そうかな?」って思ったけど、そっちのほうがよかったです。
NARASAKI そのほうが憂いが出ると思ったので。
──「荒井田メル」という女の子は、「人間蒸発」にも出てきますね。
大槻 いわゆる狂言回しっていうことですね。バラエティに富んだ特撮のアルバムを彼女にガイドしてもらうというか。アルバムの中心人物だし、もし「ウインカー」というアルバムを映画化するときは、荒井田メルの不条理モノになると思います。監督はデヴィッド・リンチがいいと思ってるんですけどね(笑)。
──いきなり荒井田メルが交通事故に遭うシーンから始まるし、確かにデヴィッド・リンチっぽいかも。
大槻 そうなんです。デヴィッド・リンチの交通事故の映画(「マルホランド・ドライブ」)があるでしょ? いろんな人からその映画の噂はよく聞いていて。インスパイアされた作品って言っておきながら僕自身は観たことがないっていうね(笑)。
NARASAKI すごいな(笑)。
──「人間蒸発」にはルー・リードの名前も出てきますね。
大槻 ルー・リードも実はよく知らないんだけどね(笑)。ただ「ルー・リードみたいにウニュウニュ歌いたい」と思っていただけで。「人間蒸発」に「ルー・リードなんかにいかれちゃってさ」っていう歌詞があるでしょ? あれ、お気付きですか?
──え、何にですか?
大槻 ザ・ゴールデン・カップスのエディ藩さんが作曲した「横浜ホンキートンク・ブルース」という曲があって、「ヘミングウェイなんかにかぶれちゃってサ」「あんた知らないそんな女」っていう歌詞があるんですよ。
NARASAKI 知らないなあ……。
大槻 いやいや、大ヒット曲だよ! 松田優作や原田芳雄も歌ってたし。
三柴 松田優作の歌だと思ってた。
大槻 とにかく、そういう意外な引用が歌詞の中にもあるんですよね。
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- ニューアルバム「ウインカー」/ 2016年2月3日発売 / EVIL LINE RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / KICS-93352
- 通常盤 [CD] / 3000円 / KICS-3352
CD収録曲
- 荒井田メルの上昇
- 音の中へ
- 愛のプリズン(特撮ver.)
- アリス
- シネマタイズ(映画化)
- 富津へ
- 中古車ディーラー
- ハンマーはトントン
- 人間蒸発
- 7人の妖
- 旅の理由
- ハザード
初回限定盤DVD収録内容
2015年特撮LIVEダイジェストドキュメント映像
- 2015/3/21 @新宿ReNY
- 2015/3/25 @umeda AKASO
- 2015/8/1 @SHIBUYA CLUB QUATTRO
- 大槻ケンヂ 50th生誕祭!特撮
- 2016年2月7日(日)東京都 赤坂BLITZ
<出演者>
特撮 / 筋肉少女帯(ゲスト)
- 特撮「ウインカー」発売記念ツアー
- 2016年2月20日(土)東京都 WWW
- 2016年2月27日(土)大阪府 umeda AKASO
- 2016年2月28日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 特撮「ウインカーツアー 対バン編!」
- 2016年3月11日(金)東京都 LIQUIDROOM
<出演者>
特撮 / NoGoD / 打首獄門同好会
特撮(トクサツ)
2000年に結成されたロックバンド。大槻ケンヂ(Vo / 筋肉少女帯)、NARASAKI(G / COALTAR OF THE DEEPERS)、三柴理(Piano, Key)、ARIMATSU(Dr)の4人で活動している。2000年2月にリリースした1stアルバム「爆誕」のレコ発ツアー終了後、初期メンバーの内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)が脱退。2006年には大槻の筋肉少女帯への再加入を機に活動を休止する。その後2011年4月にライブツアー開催を突然発表し、同年6月にはアルバム「5年後の世界」を、2012年12月に7年ぶりのフルアルバム「パナギアの恩恵」をリリースした。2014年1月に大槻の小説「縫製人間ヌイグルマー」を原作とした映画「ヌイグルマーZ」が公開され、同作のオープニングテーマ、エンディングテーマ、劇中歌を担当。2016年2月にバンド結成15周年を記念したアルバム「ウインカー」をリリースした。2月7日には東京・赤坂BLITZで大槻の生誕50周年を祝した筋肉少女帯とのツーマンライブ「大槻ケンヂ 50th生誕祭!特撮」を実施。その後「ウインカー」を携えた東名阪ツアーや対バンライブの開催を控えている。