音楽ナタリー Power Push - 特撮
結成15周年記念作「ウインカー」が示すバンドの行き先
特撮がバンド結成15周年を記念したアルバム「ウインカー」をリリースした。このアルバムはペーパードライバーだった大槻ケンヂ(Vo)が自動車の運転を再開したことから着想を得て、“車”をテーマに制作された作品。シングルとしてリリースされた「シネマタイズ(映画化)」、アニメ「監獄学園」のオープニングテーマとして提供した「愛のプリズン」のセルフカバー、声優・高野麻里佳(イヤホンズ)が参加した「音の中へ」、同じく声優・後藤沙緒里が参加した「富津へ」などが収録されている。メンバー同士のセッションから生まれた楽曲も多く含まれ、ロックバンドとしての衝動がリアルに体感できる作品に仕上がった。
今回音楽ナタリーでは、メンバー全員にインタビューを実施。「ウインカー」の制作プロセスから、活動15年目を迎えたバンドに対する思いなどを自由に語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 塚原孝顕
セッションで作り上げた新作
──ニューアルバム「ウインカー」、本当に素晴らしいロックアルバムだと思います。
大槻ケンヂ(Vo) お! ありがとうございます。
──今回もメンバーの皆さんのスケジュールを合わせながらの制作だったと思うのですが、レコーディングはいつ頃スタートしたんですか?
NARASAKI(G) レコーディングは2015年9月からですけど、その前に6月くらいからプリプロを何回かやったんですよ。
ARIMATSU(Dr) メンバーが集まれるタイミングをすり合わせながら、時間を見つけてスタジオに入って。セッション的に曲作りをやってたんですよね。何もない、まっさらな状態から音をバン!と出して、そこからいろいろと練っていくっていう。
NARASAKI それは自分がメンバーにお願いしたんです。ロックの衝動みたいなところから曲を作らせてほしいっていうオーダーをして。
──セッションから曲を作るという方法を選んだのは、どうしてですか?
NARASAKI 家でデモを作ることに疑問があったというか、自分で満足できるものができなかったので。あとはセッション自体が楽しいからですね。自分が気持ちいいギターの音を出して、みんなで合わせることを重要視したいというか。
──ミュージシャンとしての原点回帰という意味合いもありそうですね。
ARIMATSU 原点回帰というか、基本ですよね。(NARASAKIから)その話を聞いたときも「いいね。賛成」って感じだったし、こっちとしても楽しみだったので。今のご時世、音源をデータでやりとりする時代だけど、メンバーもそれぞれキャリアがあるし、みんなで集まって一緒に音を出すというところに戻るのは面白かったですね。
NARASAKI 制作のスピードはすごくゆっくりだったんですけど、“合わせる楽しさ”を踏まえることが重要かなと。4人しかいないロックバンドなので、実際に合わせてみないとピンと来ないというか。
三柴理(Piano, Key) うん、そうだね。
──その熱量はアルバムの楽曲にも確実に反映されていると思います。セッションには大槻さんも参加していたんですよね?
大槻 何回か行きましたよ(笑)。ブルースとかだったらその場で合わせられるけど、特撮の場合はメロディも作曲者が考えることが多いので、スタジオにいても歌うに歌えないんですよ。そうなるとセッションを傍観しているか、ロビーにいるか、行かないか……ですよね。
三柴 そうだよね(笑)。
大槻 でもそれでいいんですよ、特撮の中の僕は映画で言えば役者だから。シナリオとキャスティングがあって、最後に出てきてオイシイところをさらっていく役ですからね。(セッション中は)シナリオの準備稿の段階だから、「まだ出番じゃないな」っていう気持ちでいました。でも、何回かスタジオに行ったとき……最初のほうに手がけていた曲はどれだっけ?
NARASAKI 最初のセッションでできたのは「音の中へ」とか「人間蒸発」かな。
大槻 あ、そうそう。スタジオで曲の断片、モチーフ、プロトタイプを聴いて、それがすごく印象に残ってたんですよね。「音の中へ」もすぐにテーマが浮かんできたし。
──曲が生まれる現場に立ち会うことで、歌詞のインスピレーションも得られたと。アルバムのタイトルは「ウインカー」ですが、全体を通して“車”がテーマになってますね。
大槻 そうですね。最近、10年ぶりくらいに車に乗るようになったので。セッションで作った曲以外にもデモが何曲かあったんですけど、歌詞や仮歌がない状態の「荒井田メルの上昇」「富津へ」「ハザード」あたりを聴いてたら「FMで流れている音楽みたいだな」って思ったし。
──10年ぶりだったら、車の中で音楽を聴くのも新鮮でしょうね。
大槻 そうですね。僕はカーラジオ派なので運転中、ずっとラジオを聴いてるんです。おかげで最新の音楽情報を知るようになりましたよ。
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- ニューアルバム「ウインカー」/ 2016年2月3日発売 / EVIL LINE RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / KICS-93352
- 通常盤 [CD] / 3000円 / KICS-3352
CD収録曲
- 荒井田メルの上昇
- 音の中へ
- 愛のプリズン(特撮ver.)
- アリス
- シネマタイズ(映画化)
- 富津へ
- 中古車ディーラー
- ハンマーはトントン
- 人間蒸発
- 7人の妖
- 旅の理由
- ハザード
初回限定盤DVD収録内容
2015年特撮LIVEダイジェストドキュメント映像
- 2015/3/21 @新宿ReNY
- 2015/3/25 @umeda AKASO
- 2015/8/1 @SHIBUYA CLUB QUATTRO
- 大槻ケンヂ 50th生誕祭!特撮
- 2016年2月7日(日)東京都 赤坂BLITZ
<出演者>
特撮 / 筋肉少女帯(ゲスト)
- 特撮「ウインカー」発売記念ツアー
- 2016年2月20日(土)東京都 WWW
- 2016年2月27日(土)大阪府 umeda AKASO
- 2016年2月28日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 特撮「ウインカーツアー 対バン編!」
- 2016年3月11日(金)東京都 LIQUIDROOM
<出演者>
特撮 / NoGoD / 打首獄門同好会
特撮(トクサツ)
2000年に結成されたロックバンド。大槻ケンヂ(Vo / 筋肉少女帯)、NARASAKI(G / COALTAR OF THE DEEPERS)、三柴理(Piano, Key)、ARIMATSU(Dr)の4人で活動している。2000年2月にリリースした1stアルバム「爆誕」のレコ発ツアー終了後、初期メンバーの内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)が脱退。2006年には大槻の筋肉少女帯への再加入を機に活動を休止する。その後2011年4月にライブツアー開催を突然発表し、同年6月にはアルバム「5年後の世界」を、2012年12月に7年ぶりのフルアルバム「パナギアの恩恵」をリリースした。2014年1月に大槻の小説「縫製人間ヌイグルマー」を原作とした映画「ヌイグルマーZ」が公開され、同作のオープニングテーマ、エンディングテーマ、劇中歌を担当。2016年2月にバンド結成15周年を記念したアルバム「ウインカー」をリリースした。2月7日には東京・赤坂BLITZで大槻の生誕50周年を祝した筋肉少女帯とのツーマンライブ「大槻ケンヂ 50th生誕祭!特撮」を実施。その後「ウインカー」を携えた東名阪ツアーや対バンライブの開催を控えている。