ナタリー PowerPush - 特撮
「ヌイグルマーZ」原作者が主演女優と歌う異色映画音楽の作り方
大林宣彦&久石譲にインスパイア
──結果「今回」「オレだけは違う」「何か」って見つかりました?
大槻 大林宣彦監督の「ふたり」っていう映画があるんですけど、そのエンディングテーマって大林監督とサントラを手がけた久石譲さんが歌ってるんですよ。それが映画の中で流れてくると、ものすごく不思議な感じがして。だからあれをやろう、と。映画の音楽として奇妙な位置にあるもの、その解釈ならオレは歌ってやらんでもない(笑)っていうモチベだったので、今回、ボーカリスト大槻ケンヂは大林宣彦と久石譲の心境だったんです。
──映画監督と普段は歌わないコンポーザーになりきって映画のエンディング曲「シネマタイズ(映画化)」を歌ってみた、と(笑)。
大槻 まあそれは冗談として、僕、インディーズ映画も含めると、自分の小説が4回くらい映画になったことがあって。そのたびに思うことなんだけど、原作者にとっては映画化って、その映画化されていく工程自体がすごく興味深いものなんです。だから今回「シネマタイズ」では映画化されること自体を俯瞰してみて、その自分の物語が映画化される原作者のなんとも言えない複雑な心境を詞にしてみた感じかなあ。
──だから映画「ヌイグルマーZ」ってエンディングすら面白いんですよ。映画をバックに、その映画化された事実について原作者自らが歌うメタっぽい構造になっていて。確かにバーブラ・ストライサンドとは違う、アーティストと映画の新しい関わり方を提案できている気がします。
大槻 うん。こんなことをやった原作者は世界で初だと思うんですよ。あとPOLYSICSのハヤシくんも言ってくれたことなんだけど「No More 映画泥棒」っていうフレーズを歌詞に登場させたのも今回のオレが初めてだと思うんだよな(笑)。
ロッカーとしての意地やカッコつけのないバンド
──楽器隊の皆さんにとって、ボーカリストの書いた物語の曲を作ることってどういう気持ちのするものなんでしょう?
NARASAKI バンドメンバーの書いた小説の映画版だからということよりも、「特撮というバンドの曲で映画を演出する」ということについて考えましたね。劇伴の仕事とかもよくやっているだけに「曲の役割が映画で求められているものと違うものにはならないように」「でも特撮という名義で出しておかしくならないように」っていうことは心がけていて。
三柴 へえ。僕はなんにもなかったです! 悩みもなんにもなかった!
──あはははは(笑)。
三柴 「ハンマーはトントン」っていう曲は僕が書いたんですけど、最初にナッキーと「じゃあ映画で使う曲の作曲を割り振ろうか」って話になって。ナッキーから「どんな曲が得意なんだ?」って聞かれたから「悪いヤツのテーマ」って答えたら、猫ひろしさんがやってた悪役のテーマを割り振られたんです。で、猫さんの役を調べてみたら「そりゃ、こんな境遇に育ったら悪いヤツにもなるわ」って感じだったので、そのまんま悪そうな曲を作っただけ。ホントになんにも悩んでない!
──ARIMATSUさんは?
ARIMATSU 厳密には特撮名義じゃないけどこれまでにもアニメのオープニングもやってるでしょ。
三柴 (大槻ケンヂと絶望少女たち名義でリリースした)「人として軸がぶれている」とか。
ARIMATSU うん。で、そういう曲であっても特撮ってなんかハマっちゃうんですよ。何をやってもちゃんと特撮色になっちゃうというか。だからあまり難しくは考えてないかなあ。
──皆さんのそのたたずまいも面白いですよね。三柴さんは「悩みはない!」、ARIMATSUさんは「難しくは考えてない」と言い、NARASAKIさんもバンドと映画の距離感に注意は払ったとはいえ、それが苦痛だったようには見えない。
NARASAKI そうですね。
──ロックバンド的な自意識と、劇伴作家という職人的意識がケンカしてない感じがするんです。
ARIMATSU なんか楽しめるんですよ。例えば今回「一点もの」なんかにしても生ドラムじゃなくて、ローランドのV-Drums(電子ドラム)を使ってるんですけど、特撮ならそういう実験もできちゃう。フォーマットや決まりごとみたいなものはないというか。
三柴 全員、ロッカーとしてどうのこうのっていう意地やカッコつけみたいなものがないメンバーなので。普通のロッカーとはちょっと違う気がしますね、特撮は。集まったときから「こういうロックバンドにしようぜ」みたいな話し合いや打ち合わせもなかったし。「Devoみたいにみんなで同じ服着ようぜ」とか、そういう決まりはねえもん(笑)。
大槻 なかったねえ。今度着てみようか、同じ服。
NARASAKI POLYSICSに借りればいいんじゃない?
三柴 あの服、たぶんオレ入んない(笑)。
- 特撮 ニューシングル「シネマタイズ(映画化)」/ 2014年1月22日 / キングレコード / KICM-1488
- 1200円 / KICM-1488
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収録曲
- シネマタイズ(映画化)
[作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:特撮] - 世界中のロックバンドが今夜も…
[作詞:大槻ケンヂ・メーテル / 作曲:NARASAKI / 編曲:特撮] - 一点もの
[作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:特撮] - ハンマーはトントン
[作詞:大槻ケンヂ / 作曲:三柴理 / 編曲:特撮] - シネマタイズ(映画化)(off vocal ver.)
- 世界中のロックバンドが今夜も…(off vocal ver.)
- 一点もの(off vocal ver.)
- ハンマーはトントン(off vocal ver.)
- シネマタイズ(映画化)
- 中川翔子×特撮 ニューシングル「ヌイグルマーZ」/ 2014年1月22日発売 / キングレコード / KICM-1487
- 1200円 / KICM-1487
-
収録曲
- ヌイグルマーZ
[作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:特撮] - 遊星歯車機構
[作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:高橋竜] - 「マリリン・マラソン」
[作詞:大槻ケンヂ 作曲:NARASAK / 編曲:特撮] - ヌイグルマーZ(off vocal ver.)
- 遊星歯車機構(off vocal ver.)
- 「マリリン・マラソン」(off vocal ver.)
- ヌイグルマーZ
特撮(とくさつ)
2000年、筋肉少女帯を脱退した大槻ケンヂ(Vo)がNARASAKI(G / COALTAR OF THE DEEPERS)、三柴理(Piano, Key)、ARIMATSU(Dr)、内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)とともに結成したロックバンド。同年2月に1stアルバム「爆誕」をリリースしツアーを行うが、ツアー終了後に内田が脱退。以後はサポートベーシストを迎えて活動を継続する。2006年に大槻の筋肉少女帯再加入を機に活動を休止。2011年4月にライブツアー開催を突然発表し、同年6月にはアルバム「5年後の世界」を、2012年12月に7年ぶりのオリジナルフルアルバム「パナギアの恩恵」を発表した。した2014年1月には大槻の小説「縫製人間ヌイグルマー」を原作とした映画「ヌイグルマーZ」が公開され、そのオープニングテーマ、エンディングテーマ、劇中歌を担当。映画の主演女優・中川翔子とともに制作したオープニング曲と劇中歌が収録された、中川翔子×特撮名義のシングル「ヌイグルマーZ」と、エンディングテーマと劇中歌が収められた特撮名義のシングル「シネマタイズ(映画化)」をリリースした。