三森すずこには和メロを歌わせたい
──8曲目の「『Coreopsis』feat. やなぎなぎ」は、やなぎさんに対して真っ向勝負を挑んでいるような。こういうエレクトロニカは、やなぎさんも得意とするところだと思うので。
なので「こういうの好きでしょ?」と言ってデモを渡しました(笑)。デモは3曲あって、3曲ともエレクトロニカテイストの楽曲だったんですけど「僕は『Coreopsis』が一番やなぎさんに合うと思うけど、一応3曲送るので選んでください」みたいなプレゼンの仕方をして。
──誘導したんですね(笑)。
その思惑通りこの曲に決まってから「デモからあまり音をいじらないので、音を重ねる場合はコーラスで重ねることになると思います」とお伝えしたら、仮歌にコーラスもふんだんに入れてくださって。その仮歌の時点で「これ、本チャンのレコーディング必要ですか?」ってくらいのクオリティだったんですけど、そこからコーラスの取捨選択をしたりしてブラッシュアップしました。この曲もコードが1つしかなくて、その中でどうやりくりするかをやなぎさんも面白がってくれたので、実現できてよかったです。
──Coreopsis(コレオプシス)は、日本名はハルシャギクというんですね。これは作詞をしたやなぎさんの発案で?
実は、「Coreopsis」は僕が付けた仮タイトルだったんですよ。皆さんにお送りしたデモというか候補曲にはすべて僕が仮タイトルを付けていたんですけど、全部で15、16曲あったのでネタが尽きまして。最後のほうは花図鑑を見ながら「これは難しい名前だな」とか「英語名だと読めないだろう」みたいな基準で、ぶっちゃけ適当に仮タイトルを付けていて、その中の1つが「Coreopsis」なんです。もちろん仮なので変えてもらってよかったんですけど、やなぎさんは「『Coreopsis』で作詞する」とおっしゃって。そのときは「どうしよう……」と思ったんですが、こんなに素敵な歌詞を書いてくださったので結果オーライです。
──続く「『君影草』feat. 三森すずこ」は和テイストのミディアムバラードですが、これは意外でした。
三森さんには絶対に和メロを歌ってもらいたかったんですよ。歌詞も和のテイストに合うようなテーマをLINDENさんと相談したところ「すずらんなんてどう? 三森さんは“すずこ”だし」という話になり、すずらんの別名である君影草をタイトルにして(笑)。
──「石原さんは夏生まれだからヒマワリ」と通じるものがありますね(笑)。
三森さんは昔、MARiAと一緒にワークショップに出たことがあって、そこで2人が仲よくなって、その後ちゃっかり僕も三森さんのライブに呼んでいただいたりしたんですよ。だから彼女の歌はよく知っているし、そこにはまっすぐな、女性らしい歌詞がハマると思っていたので、それと和メロの融合を目指しました。
──和メロはものすごくハマっていると思います。三森さんはアッパーでダンサブルな曲をよく歌われているイメージがあったので、余計に新鮮で。
レコーディングで三森さんご本人からも彼女のマネージャーさんからも「新鮮です」と言ってもらえました。三森さんに限らずですけど、このアルバムに参加してくださった皆さんはアーティストとしてどこに行ってもご自身のカラーをバシッと打ち出せる方々なんですよ。そんな皆さんに、例えば普段あまりやらないことをしたりして楽しんでもらうための楽曲作りというのは、けっこう意識していたなと。同時にビビってもいたんですけどね。僕のデモに対して「こんなの歌いません」と言われたらどうしようって(笑)。
この曲を歌えるのは一青窈しかいない
──そして最後の曲「萌芽『feat. 一青窈』」は、作詞がスガシカオさんなんですね。
この「萌芽」は例外的に、特定のボーカリストに対して「こんな曲を歌ってもらいたい」ではなく、先に曲ができてから「これはぜひ一青窈さんに歌ってもらいたい」という流れでした。もともと僕はスガシカオさんと交流があって、プライベートで一緒にごはんを食べていたときに「ソロアルバムを作るので歌詞を提供してもらえないですか?」とお願いしまして。スガさんは今まで曲先でしか歌詞を書いたことがないそうなんですけど、スケジュール的に僕が作曲する時間が取れなくて「そこをなんとか!」と駄々をこねた結果、承諾していただきました。
──逆にいうと、tokuさんは詞先で曲を書いた格好になると。
はい。スガさんは「七五調の文字並びにしておいたから、あとはよろしく」と歌詞を送ってくださって、その翌日にはデモができていたので、スガさんの歌詞がパワーをくれたんだと思います。できあがった曲は日本民謡に近いような節回しにしていたので、こういうメロディを歌い上げられる人は誰だろうと考えたとき「一青窈さんしかいない!」と。
──トラックはR&BとEDMのミクスチャーのようですが、おっしゃる通り一青さんのボーカルが乗ると民謡的なニュアンスが加わるストレンジな名曲ですね。
最初のリズムを極端に少なくして、メロディはずっと三連符なのに、それを不思議な感じに聴かせるというか。パッと聴きは気持ち悪いかもしれないけど、ふと「あれ? ひょっとして気持ちいい?」みたいに聴き心地がひっくり返るようなことを音楽的にやりたいと思って。とは言え「さすがにリズムが少なすぎて三連が取れないんじゃないか? ガイドを入れておこうか?」と心配した部分もあったんですけど、一青さんは難なく歌い切ってくださいました。フェイクにしても、一青さんから「入れましょうよ」と言ってくださったので「いいっすね! やりましょう!」みたいな。
──フェイクもばっちりハマっていましたね。
あと僕としては、シンプルであっという間に終わってしまうEDM感を目指したというか、そういう方向で完結できる歌モノを作ってみたかったところもあって、我ながらよくできたと思っております(笑)。
今はとにかく手を動かし続けたい
──GARNiDELiAの相棒であるMARiAさんのソロアルバム「うたものがたり」は「コンコース」という春の曲から始まり、「ハルガレ」というやはり春の、そして「また季節が 芽吹いてる」と歌う曲で終わっています。tokuさんの「bouquet」も「ずるいよ、桜」で始まり「萌芽」で終わるという。なんですかこのシンクロニシティは?
それは僕も思いました(笑)。僕もMARiAもお互いのソロアルバムの制作には立ち入らないようにしていたんですけどね。まあ、単純に作っていた時期が春だったからというのもあるんでしょうけど、結局、ソロ活動をスタートしたのは自分たちがまた伸びていくためでもあるみたいな目的意識は共有できているのかな。
──tokuさんとしては、ソロアルバムの制作を通して何か発見などはありましたか?
皆さん個性的なボーカリストなので、今まで僕が使ってきた機材一式をスタジオに持ち込むと共に、マイクも何本か用意したんですけど、そういうエンジニアリングの部分でもあれこれ試せたのは楽しかったですね。マイクであれば、例えばソニーのC-800Gを使うと高音がきれいに録れるんだけど、声優さんのアフレコでも使われているハチナナ(NEUMANN U87Ai)だと「よりランカのイメージに近付くんじゃないか」とか(笑)。自分のミュージシャンとしてのオタク性を再発見しつつ、それを生かす遊び場みたいな環境で作れたのはいい経験になったと思います。
──その経験は今後のガルニデの活動にも生きてくる?
でしょうね。この「bouquet」のリリース後はまたガルニデの制作に戻りますし。加えて、引き続き楽曲提供のオファーもいただいているので、そちらも全力で取り組みつつ、このコロナ禍をどう乗り切るか。
──やはり依然として……。
厳しいですよね。やっぱり音楽を大きい音で、たくさんの人と一緒に聴いて盛り上がりたい。それをみんなも待っているはずなので、いつ実現できるかわからないですけど、それまで死なないようにするための、いわば存在証明をするためのソロワークでもあると思っていて。当たり前なんですけど、作品を作り続けているからクリエイターたり得るわけで、それができなくなったら終わりじゃないですか。だから今後もガルニデの制作の合間にソロの活動ができたらうれしいし、とにかく手を動かし続けたい。今考えているのはそれだけですね。
※記事初出時、一部内容に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
2022年5月31日更新