ナタリー PowerPush - 土岐麻子
「あなたって不思議だわ」CM&カバーで綴った“声”のアルバム
資生堂「エリクシール シュペリエル」CMソングとして発表された新曲「Gift ~あなたはマドンナ~」が話題の土岐麻子が、この新曲を含むCMソングとカバー楽曲をまとめたアルバム「TOKI ASAKO "LIGHT!" ~CM & COVER SONGS~」をリリースする。
ナタリーではアルバム発売前の彼女のもとを訪ね、CMソングやカバー曲に対する思い、そしてこれからの活動について話を訊いた。
取材・文/臼杵成晃
土岐麻子×EPO
──昨年5月のアルバム「乱反射ガール」は、1980年代のCMソングなどに代表されるキラキラしたポップスの進化型と呼べるような、土岐さんがこの数年で模索してきたサウンドの集大成として高い評価を集めました。その次に来る作品が、1980年代に大ヒットCMソングを手がけたEPOさんとのコラボ曲「Gift ~あなたはマドンナ~」という。
もう本当に“Gift”ですよね、これこそ。びっくりしました。
──EPOさんと言えば、「乱反射ガール」のひとつの指標でもあった「オレたちひょうきん族」のエンディングテーマも歌われていましたし、まさにあの時代を象徴する女性アーティストですもんね。
思い描いていたあの時代のイメージの中には、もちろんEPOさんがいました。私、小学生のときにEPOさんにサインもらってるんですよ(笑)。
──このコラボはどのようなきっかけで?
今までにもいくつかCMの歌の仕事を受けてきましたけど、これもいつもと同じ流れで「資生堂さんのCMソングの話が来た」と最初に音資料だけもらったんですよ。そのときにEPOさん作曲という情報を知り「あれ?」と思って。資生堂の方とお話をしたときに「実は今回の私のアルバム(『乱反射ガール』)のコンセプトは当時のCMの世界観で……」という話をしたら、その方も同じことを考えていたらしく。「EPO×資生堂、黄金の80年代のタッグをもう一度」という思いでEPOさんに曲をお願いしたそうです。
──まさに2010~11年版「う、ふ、ふ、ふ、」(資生堂 1983年春のキャンペーンソング)ってことですよね。
実際にEPOさんは「う、ふ、ふ、ふ、」を意識してこの「Gift ~あなたはマドンナ~」を作られたみたいで。この曲ではEPOさんは、今のご自身のスタイルではなく、あえて当時の雰囲気を出してくださってるんですよ。
──フルサイズで聴いても洗練された楽曲ですけど、CMの短い尺に凝縮されたポップスとしての完成度がまたすごくて。
ホントそうですね。振りむいちゃいますもんね、EPOさんの曲って。
女性としての実感が込められた歌詞
──憧れていた“EPOのCMソング”を、自分が歌うというのはどういう気分?
いやもう、とてもうれしいですね。「乱反射ガール」では「資生堂のCMソング的なイメージで」と公言していたので(笑)、妄想がホントに形になっちゃったという。だから、あのアルバムを作ったことに対する神様からのプレゼントだと思っています。今回は歌詞も私ではなく、EPOさんと資生堂のCM制作の方との共作なんですけど、自分では絶対に書けないような世界なんですよね。シンプルな言葉選びなんですけど、きっとEPOさんが今まで過ごしてきた女性としての実感が込められた歌詞なんだろうなと。人生経験の積み重ねで生まれてきた思いがキャッチーに伝わってくる……私にはまだまだ書けないですね。
──「乱反射ガール」のインタビューで「今のJ-POPシーンにおける土岐麻子のポジションは?」というお話をお訊きしましたけど、今回のCMを観たときにすごく腑に落ちたような感じがあったんですよ。「資生堂のCMソングを歌う」というのは、ソロアーティスト土岐麻子として目指す姿の理想形と言えるもの?
そうですねー。前回「自分が座る椅子がない」という話をしましたよね。自分がどういう立場なのか、どういう役割なのかをずっと考えてたんですけど、結局深く考えるのをやめたんですよ。いろんなマーケティングの結果を見ながら「次はこの層にどんなテーマで投げかけるべきか」という話をスタッフと延々したんですけど、よくわからなくなっちゃって。結局「『こういうのやりたい!』と強く思うものを出すしかない」って、自分が本質的に好きなものだけを詰め込んだのが「乱反射ガール」で、その結果「Gift ~あなたはマドンナ~」に出会えたのなら、きっとこのままでいいんだろうなって。
カバー=この曲の世界に入りたい
──「Gift ~あなたはマドンナ~」の発表にあわせ、これまでのCMソングやカバー曲をコンパイルしたアルバム「TOKI ASAKO "LIGHT!" ~CM & COVER SONGS~」がリリースされます。土岐さんはこれまで多くのカバーに挑戦しているし、アーティスト土岐麻子を形成する重要な要素のひとつだと思うのですが、カバーに対する思い入れは?
基本的には好きなほうですね。同じ曲でもこの人が歌ったらこうで、あの人が歌ったらこうなる、という聴き方がもともと好きなので。あと、私も誰かのカバーで昔の曲を知って、そこから遡ることができたという経験もたくさんあったし……例えば「うんと若い人に真心ブラザーズの曲を伝えたい!」とか、そういう気持ちもあります。自分でやるときは「この曲を私が歌ったら」というよりは「この曲の世界に入りたい」という考え方なんですよね。
──解釈によって「そのアーティストに、この音楽がどう聴こえているのか」が見えるのもカバーの醍醐味ですよね。土岐さんのカバーは、ソロデビュー初期のジャズアレンジから今作に収録されている新録の「い・け・な・いルージュマジック」まで、ジャンルもサウンドも解釈もさまざまですけど、どれもうまく"土岐色"に染めてるなという印象があります。「こういうアレンジで」というのは選曲の段階から結構具体的にイメージしているのかなと思ったんですけど。
はい。例えば「小麦色のマーメイド」は「松本隆さんの詞の世界に賛成!」っていう気持ちで(笑)。あの曲って「こんな女の子いないでしょ」っていうぐらいのファンタジックな世界ですよね。男の子がいて、女の子がプールサイドにいて、水のしぶきが顔にかかってちょっと怒るみたいな(笑)。「小指で投げキッス」とか、そんな人たちいるのかなっていう世界観が、1枚の絵のように思えるんですね。だから「この絵をみんなに届けたい」っていう気持ちでカバーしました。
──選曲は基本的に自分で?
そうですね。でも「小麦色~」は当時のマネージャーが小さい頃に好きだったらしく「これはどう?」って。他の方から勧めてもらうものもあるけど、最終的に自分が好きかどうか、さらにどう伝えたいかというイメージがすぐに沸いたものにしてます。
──今回、新録に「い・け・な・いルージュマジック」を選んだのは?
今回はCMソングとカバーだけを集めたアルバムを作るという話になったとき、新録を入れるならオリジナルかなと最初は思ったんですよ。でも「CM & COVER SONGS」なら、どこかで聴いたことがあるような、耳なじみのあるものがいいかなって。いろいろ悩んだんですけど、「Gift」が資生堂のCMソングなんだから、私が当時憧れていた資生堂CMでどうかなと。どうせだったら男の人が歌ってる曲のほうが、イメージがガラリと変わって面白いかなと思って探してるうちに見つけたのがこの曲です。あの頃は小学生だったから、化粧してるわ、男の人同士でキスはするわで、見てはいけないものを見てしまったみたいな気持ちでしたけど(笑)。でもどこか魅力的でしたね。
──アレンジはすんなり決まりましたか?
うーん、川口(大輔)くんは悩んだと思いますよ。ゆったりめなBPMでAORっぽい感じ、というのもひとつの案として私の頭の中にあったんですけど、この曲は明るくてちょっとアホっぽい(笑)、ふんわりしたアレンジのほうが結果的に面白かったですね。
CD収録曲
- Gift ~あなたはマドンナ~
- How Beautiful
- Waltz for Debby [BILL EVANS]
- ALL YOU NEED IS LOVE [THE BEATLES]
- い・け・な・いルージュマジック [忌野清志郎+坂本龍一]
- 小麦色のマーメイド [松田聖子]
- Reach Out, I'll Be There [THE FOUR TOPS]
- サマーヌード [真心ブラザーズ]
- HUMAN NATURE / sings with 和田 唱 from TRICERATOPS [MICHAEL JACKSON]
- Lucy In The Sky With Diamonds [THE BEATLES]
- 青空のかけら [斉藤由貴]
- COME ON A MY HOUSE [江利チエミ]
CD収録曲
- Gift ~あなたはマドンナ~
- Medley of CM & Original Songs 2008-2010
(ALL YOU NEED IS LOVE ~ Waltz for Debby ~ How Beautiful ~ 乱反射ガール) - Gift ~あなたはマドンナ~ (Instrumental)
スプリング 春 カム! 土岐麻子 LIVE LIGHT
-春の、大音楽会-
~声出していこう 胸張っていこう
オープンでブライトな 2011春の土岐麻子!
- 2011年3月9日(水)
大阪府 Billboard Live OSAKA
[1st] OPEN 17:30 / START 18:30
[2nd] OPEN 20:30 / START 21:30
サービスエリア 6500円
カジュアルエリア 5000円(1ドリンク付き) - 2011年3月11日(金)
東京都 Billboard Live TOKYO
[1st] OPEN 17:30 / START 19:00
[2nd] OPEN 20:45 / START 21:30
サービスエリア 6500円
カジュアルエリア 4500円(1ドリンク付き) - 2011年3月12日(土)
東京都 Billboard Live TOKYO
[1st] OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd] OPEN 20:00 / START 21:00
サービスエリア 6500円
カジュアルエリア 4500円(1ドリンク付き) - 2011年3月21日(月・祝)
愛知県 名古屋ブルーノート
[1st] OPEN 16:00 / START 17:00
[2nd] OPEN 19:00 / START 20:00
自由席 6500円
土岐麻子(ときあさこ)
1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」を発表する。透明感のあるボーカルには熱心なファンが多く、2010年5月には豪華アーティストを作家陣に迎えたオリジナルアルバム「乱反射ガール」をリリースしている。