トゲナシトゲアリ 2ndアルバム「棘ナシ」リリース記念特集|理名&夕莉インタビュー+全曲レビュー (3/3)

トゲナシトゲアリ「棘ナシ」全曲レビュー

01. 雑踏、僕らの街 / トゲナシトゲアリ

テレビアニメ「ガールズバンドクライ」のオープニング主題歌。焦燥感あふれるピアノのトリルと切羽詰まったムードのボーカルで始まるイントロによって、リスナーは一気にトゲナシトゲアリ特有のシリアスな世界観に引きずり込まれる。4分の4拍子と8分の6拍子が入り混じる(その結果として瞬間的に事実上の7拍子になる箇所もある)変拍子や、それに付随するテクニカルでトリッキーなアレンジが耳を引くが、伝統的なJ-POPの作法に則ったキャッチーかつ開放的なサビメロが鎮座することによってポップソングとしての普遍性と親しみやすさをも兼ね備えた、隙のない1曲である。

02. 誰にもなれない私だから / トゲナシトゲアリ

テレビアニメ「ガールズバンドクライ」のエンディング主題歌。穏やかなピアノと3連リズムの歌メロによってバラード曲のように始まったかと思いきや、次第に激しい16ビートのアグレッシブなサビへと展開していく。そのダイナミズムこそが本楽曲の最大の特徴であり、彼女たちの幅広い表現力をこの1曲だけで存分に味わい尽くすことができる。イントロやアウトロなどでは、深めにコーラスのかかったギターの冷たいストロークや、寂しげに中空を漂うようなモノフォニックシンセのリードが独特のメランコリックな空間を形成。いかにもアニメのエンディングらしい、深い余韻を演出することに成功している。

03. 空の箱(井芹仁菜、河原木桃香) / トゲナシトゲアリ

アニメ内における設定としては“桃香がかつて在籍していたバンド・ダイヤモンドダストの曲”という立ち位置で、物語のキーとなる楽曲。それゆえに劇中では第1話からたびたび登場するが、本トラックはそれを仁菜のボーカルおよび桃香のギターでカバー(ある意味セルフカバー)したものとなっている。楽曲そのものはフォーキーなメロディラインとハーモニー構造を有しており、“いかにもギターで作りました感”を強調したような作り。ただしアレンジ的にはまったくフォーク的ではなく、ディスコビートを思わせるオクターブベースやニューウェイブ色の強いギターカッティングなどが楽しめるオルタナティブな装いとなっている。

04. 声なき魚(新川崎(仮)) / トゲナシトゲアリ

アニメ第3話の挿入歌で、仁菜、桃香、すばるの3人で仮結成したバンド・新川崎(仮)の初ライブにて披露された楽曲。このバンドがのちに智とルパを加えた5人編成のトゲナシトゲアリになるわけだが、この時点ではベーシストとキーボーディストが不在であるため、劇中では同期トラックを使って演奏された。さらに桃香がルーパー(短いフレーズを瞬間的に録音してループさせるマシン。一般的には1人多重演奏によく用いられる)の使用をほのめかす準備シーンも描かれている。楽曲的には歪んだギターストロークと歌で始まるパンキッシュなナンバーとなっており、至るところに挟まれるメカニカルなギターフレーズが聴きどころだ。

05. 視界の隅 朽ちる音(新川崎(仮)) / トゲナシトゲアリ

アニメ第5話の挿入歌。前述の新川崎(仮)がライブハウスにて行った対バンライブのシーンで演奏されたもので、第6話での智とルパを加えた初の音合わせシーンなどにも使用されている。テクニカルなパワーポップといった様相のいかにもトゲトゲらしい1曲だが、特筆すべきはピアノなどのキーボードパートが一切含まれないアレンジだ。「声なき魚」と同様にボーカル、ギター、ドラム以外は同期トラックを使わざるを得ないという劇中の事情によるものだが、それでもベースパートにはスラップを駆使するなど凝ったアレンジがなされているあたりに彼女たちの美学を感じ取ることができる。

06. 心象的フラクタル(beni-shouga) / トゲナシトゲアリ

アニメ第6話の挿入歌。“智とルパのユニット・beni-shougaが仁菜たちと出会う前に2人で作っていた楽曲”という設定の1曲で、それゆえに打ち込みトラックやボーカロイドといった電子音が多用されるなど本アルバムにおいてはひときわ異彩を放つサウンドとなっている(もちろん仁菜=理名は歌っていない)。流麗なピアノリフときらびやかなシンセリード、そしてテクニカルなスラップベースのコンビネーションが織りなす軽快なディスコビートは、純粋なトゲトゲ楽曲とは明確に一線を画すサウンドデザイン。「いかにもキーボーディストとベーシストで作った曲って感じですね」と自然に思わせるリアリティが最大の聴きどころだ。

07. 空白とカタルシス / トゲナシトゲアリ

アニメ第11話の挿入歌で、劇中のトゲトゲが夏フェス出演に際して新曲として披露したもの。その前段として、仁菜が父親との確執を乗り越えて初めての作詞を完遂するまでの顛末も描かれた。楽曲的には非常にトゲトゲらしいシリアスでアグレッシブなマイナーチューンとなっており、あくまでポップソングであることを徹底した親しみやすい歌メロと、これでもかとばかりに攻めたアレンジが共存する。ラウドロックばりに歪んだベースと歌で始まるイントロ、ハードロック調のブリッジパート、ジミ・ヘンドリックスやマイケル・シェンカーを彷彿とさせるようなワウギターソロ、イングヴェイ・マルムスティーンかと言いたくなるような耽美的な速弾きパートなど、とにかく聴きどころ満載だ。

08. 運命の華 / トゲナシトゲアリ

アニメ第13話(最終話)挿入歌。事務所所属を果たした劇中のトゲトゲが最初のリリース曲として作り上げたもので、ライバルバンド・ダイヤモンドダストとの直接対決のライブシーンで演奏された。曲名通りにトゲトゲの“運命”を左右した1曲と言える。曲調的にはバンド初となる明確なメジャーキーのポップロックで、いわゆるカノン進行をベースにしたオーセンティックなハーモニー構造が、既存曲とはハッキリと趣の異なる味わいを生み出している。だが、そこにいつも通りかそれ以上に性急で切実な味わいのボーカルを乗せることによって、“ただの明るい曲”では終わらせていないあたりが実に彼女たちらしい。特にラストで聴ける破れかぶれなフェイクボーカルは一聴の価値ありだ。

09. Cycle Of Sorrow / ダイヤモンドダスト

アニメ第11話の挿入歌で、ライバルバンド・ダイヤモンドダストのオリジナル楽曲。つまりトゲトゲは関わっておらず、ボーカルはヒナ(CV:近藤玲奈)が務めている。劇中では、アイドルバンド扱いされていたダイダスがフェスでこの曲を披露することによって高い演奏力を見せつけ、ライブバンドとしての評価を一変させる様子が描かれた。楽曲としては90年代のビーイング勢を連想させるようなハードロック歌謡テイストとなっており、今にも相川七瀬あたりが歌い出しそうな朗々としたメロディラインとビビッドなギターサウンドが鮮烈な印象を与える。トゲナシトゲアリ名義のアルバムではあるが、本曲および次曲が収録されることによってアニメのサウンドトラックとしても楽しめる側面が付与された。

10. ETERNAL FLAME ~空の箱~ / ダイヤモンドダスト

「空の箱」のダイダスバージョンにしてアニメ第8話の挿入歌(第5話でもチラッと演奏されている)。劇中では“桃香が作った曲ながら彼女の脱退後もバンドの代表曲として歌い継がれている”という設定で、その事実が仁菜の心情を大いに揺るがせた。言うまでもないかもしれないが、これはやはり「空の箱」との聴き比べを楽しむべき1曲だろう。同じメロディ、同じ歌詞が、アレンジによってまったく味わいの違う楽曲に生まれ変わるという“編曲の妙”を存分に味わっていただきたい。音像のみならず、サビから入るトゲトゲ版とは異なりダイダス版はAメロから始まるなど、全体的な楽曲構成も変更されている。

11. 闇に溶けてく / トゲナシトゲアリ

「棘ナシ」のために書き下ろされた新曲。トゲトゲらしいピアノシーケンスをフィーチャーしたアップテンポなマイナーチューンで、平歌パートではささやくようなボーカルと抑えの効いたギターのアルペジオが繊細なピアノと絡み合い、穏やかながらもジリジリとした焦燥感をかき立てる。そして疾走感あふれるサビでは一気に感情を解き放つような8ビートが打ち鳴らされるが、ファルセットを交えて表現される歌も相まって、どこかアンニュイで退廃的なムードをたたえているのがユニークなポイントだ。夜明けが闇を駆逐していく瞬間の、諦念と解放感が入り混じったような形容しがたいフィーリングを瑞々しく描き出した1曲。

12. 蝶に結いた赤い糸 / トゲナシトゲアリ

「棘ナシ」のために書き下ろされたもう1つの新曲で、トゲトゲにとっては初挑戦となるミディアムバラード。アコースティックギターを多用したネオアコ、ギターポップに近いオーガニックでブリリアントな音像に加え、いつになくストレートなラブソングと言える歌詞の世界観も重なって、シンガーソングライターが穏やかに弾き語っているようなムードも感じさせる。これまで演奏難度の高いテクニカルなアレンジを弾きこなす演奏力こそを武器としてきた彼女たちが、その武器に頼らずとも“丸腰”で戦えるまでに成長したことを端的に示す、非常に画期的な1曲である。

トゲナシトゲアリ

トゲナシトゲアリ

ライブ情報

トゲナシトゲアリ 2nd ONE-MAN LIVE 凛音の理

2024年9月13日(金)神奈川県 CLUB CITTA'


トゲナシトゲアリ 3rd ONE-MAN LIVE 咆哮の奏

2024年11月2日(土)東京都 TOKYO DOME CITY HALL


トゲナシトゲアリ 4th ONE-MAN LIVE 協奏の響

2024年12月20日(金)東京都 豊洲PIT

プロフィール

トゲナシトゲアリ

理名(Vo)、夕莉(G)、美怜(Dr)、凪都(Key)、朱李(B)の“人見知り出身”5ピースによる、“既成概念ぶち壊し系エモり散らかし”ロックバンド。メンバーは2021年6月より主催・agehasprings、協力・ユニバーサルミュージック、東映アニメーションで開催されたオーディション「Girl's Rock Audition」にて選出され、テレビアニメ「ガールズバンドクライ」劇中バンドと連動しメイン声優を務めると同時に、リアルなバンド活動を展開している。楽曲はすべて玉井健二(agehasprings)がプロデュース。2023年7月に1stシングル「名もなき何もかも」をリリースし、2024年3月には神奈川・1000 CLUBで初ワンマンライブを開催した。同年4月に1stアルバム「棘アリ」、8月に2ndアルバム「棘ナシ」をリリース。9月に神奈川・CLUB CITTA'、11月に東京・TOKYO DOME CITY HALL、12月に東京・豊洲PITでワンマンライブを行う。