tofubeatsはなぜAIボーカルでEPを作ったのか?誰でもない声に込めた思い明かす (3/3)

DJは自分が何を考えてるかをマジで考えなきゃいけない

──「I CAN FEEL IT」でハウスとなると、どうしてもMr.Fingersのハウスクラシック「CAN YOU FEEL IT」を思い出します。

普通そうっすよね。でも実はタイトルは最後に付けたんです。というか、このタイトルはサビの言葉なんですが、ここにずっといい言葉がハマらないから寝かせていたんですよ。それこそ「CAN YOU FEEL IT」だった時期もあった(笑)。確か最初は「LEAVE」とかだったんですよ。出られない、とか離れられないみたいなニュアンスじゃないですか。でもなんかしっくりこなくて。

──僕が思わずフィールしてしまった「EVERYONE CAN BE A DJ」のリリックについてはどのように書かれたんですか?

これは普通にドラムマシーンを鳴らしてたら思いつきました。ドラムマシーンも簡単なんで。

──昔は誰でもDJになれなかったので、僕はこのリリックがすごく面白かったです。アナログだとシンプルにBPM合わせが難しすぎて。

今ならボタン1つでできちゃいますよ(笑)。あとこの「誰でもDJになれる」っていうのは最近すごく思ってることで。これは作曲にも言えることなんですけど。とはいえ、誰もが作曲をしちゃったら、さっきの話じゃないけど、プロとしては僕自身にとって都合が悪いことなんですよ。

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──競争相手が増えますからね。

いいDJの話にもつながるんですけど、そんな誰でも作曲できて、誰でもDJできる中で、なんで自分は評価されているのか、秀でているとされているのかが不思議なんです。そこを逆説的に曲にしました。

──オカモトレイジ(OKAMOTO'S)さんもよく「みんなDJやったほうがいい」と言ってるんですよね。

うん。絶対やったほうがいい。DJは面白いですよ。自分が何を考えてるかをマジで考えなきゃいけないから。

──どういうことでしょうか?

普通に音楽を聴くときは、あんま聴きたくないと思ってる曲でも、適当に流れてくる分には別にそこまで気にしないじゃないですか。でもDJは選曲って流れの中で最適のルートを選ぶ行為なので、「これが好き」「これは嫌い」が明らかになっちゃうんです。無意識のうちに。自分でも「あ、俺はこういうのが好きなんや」って気付くことがある。

──こじつけですけど「Why Don't You Come With Me?」にもつながりますね。

これはクラブっぽいクリシェですよね。

──そうなると、「NOBODY」は「何かしよう」「動き出そう」と訴えかける作品でもあるのかも。

てか、クラブってそういうもんじゃないですか。これもよく言うんですけど、ライブハウスは「観に行く」って言葉を使うけど、クラブは「遊びに行く」とか「踊りに行く」って言う。クラブミュージックは能動性のためにあるものだし、基本的にそういうメッセージの音楽だと思うんです。だから自分が今作で訴えかけてるというより、ただマナーに則っただけ。前提条件みたいな。

──クラブ遊びは1人遊びの延長線上にありますもんね。

もちろんほかにもいろんな要素がありますけど。「REFLECTION」のインタビューのときに同じことを話したら大層驚かれたので、もしかしたらこの前提は僕らだけの認識なのかも(笑)。ただ僕は、踊るのは自分で、誰かに踊らせてもらいに行ってるわけではないと常に思っていますね。

──「難聴日記」に「ヘヴィメタルは通ってないけど、ハードコアやノイズにはなぜかフィールする」って書かれてた理由がわかった気がします。

同じですよね。Do It Yourselfの精神。自分で選ぶのが好きなんです。誰かに選ばれるのではなく。DJは「選ぶこと」にフォーカスした行為なんです。だからその人の個性がむっちゃわかりやすく出て面白いし、魅力あるカルチャーになってるんじゃないかなと思うんすよね。そもそも音楽って全部そう。ギターを弾くことも、コードや音を選んでるし。

──もう今回の原稿料で絶対にDJコントローラー買います。

買ってください(笑)。僕は音楽を人生に絡めるみたいなことはあんま言いたくないんですけど、結局メタファーなわけじゃないですか。選ぶことが生きてることだとすれば、DJは人生を戯画化していると想像できるし、DJを聴きながら人生にも違った道があったんじゃないかって想像力が働いたりもする。音楽を通じて「あの分かれ道をこっちに行ってたら?」って疑似体験できる。これはすべての娯楽に通じてるとは思うんですけど、最近身内の間ではDJに関してそんなふうに話してますね。

テクノロジーとアナログのコントラスト

──「NOBODY」というタイトルはいつ決まったんですか?

それこそ山根さんのジャケが来てからじゃないかな。違うタイトルにするか「NOBODY」でいくか悩んでた頃にジャケが届いて。

──なぜ悩んでたんですか?

あまりにも直球すぎるかなと思って。あとtofubeatsルールで1stアルバム以外はタイトル曲を入れることにめっちゃこだわってて。「そうなると『NOBODY』しかないよなあ、でもなあ」と悩んでるときにジャケットを見て決心しました。

──今作はかなり実験的な作品だと思います。

後輩に送ったら「狂ってますね」って返信が来ましたから(笑)。でも僕は幸運なことにこういうことをやらせてもらえてる。納品してワーナーの方に「こんなの出せません」と言われたらそれまでなので。僕はこういう作品をワーナーのインプリントで出すことに意味があると思っています。メジャーから出すということは10年、20年と残っていくということで、そこにはものすごく意識的ですね。結局こういうものが、かつての自分のような人間に届くと思うんですよ。誰もがいきなりMr.Fingersを聴き出すわけじゃないから。

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──実際、さらっと聴き流せる作品でもありますもんね。

うん。そこはものすごく意識しました。

──でも僕は今作を通して聴いて残った印象はエモーションなんです。

そのエモーションの行き場がない。「NOBODY(誰でもない)」なんです。歌詞で「君のことをずっと待ってたよ」とか言ってるのに。虚無が広がっていくという。作りながら自分で「これはヤバいなあ」って思ってました(笑)。

──さっき言ってた「時代の感覚をメモしておく」とはそういうことなんですね。

そうですね。自分でも完璧には言語化できないムード。と同時にピュアな遊び心で作ってる作品でもあるっていう。制作してるときは楽しさしかなかったです。作っていくうちに徐々にコンセプトが浮かび上がってきた感じ。あと大事な点があって、「NOBODY」は生ストリングスを初めて入れてるんです。さらに8曲目の「NOBODY (Slow Mix) 」は7曲目をオープンリールのテープにわざわざ落としてスクリューしてるだけ。なんかぴょんぴょん鳴ってるのは、僕がテープ触ってる音なんです(笑)。テクノロジーを使いつつ、どアナログな作業でコントラストを付けたっていう。

──完璧な作品ですね……。

短い作品だからこそきれいにアーチを描けたと思います。あ、あとJ-CLUBの話に戻っちゃうんですけど、当初は7曲目で終わる予定だったんですね。でも「NOBODY」をスクリューで聴いたらめっちゃよかったのでSlow Mixを作ることにしました。そうなると、さっきのテクノロジーとアナログの話の説得力が落ちるじゃないですか。僕は過去作でもSlow Mixを作ってるんですけど、「FANTASY CLUB」のときはカセットテープのデッキをいっぱい買って全部にダビングして一番音がいいやつを採用してるし、「RUN」のときはわざわざダブプレートを切ってリサンプリングしてるんです。じゃあ今回はやったことないオープンリールでやってみようと思って、埼玉のハードオフまで買いに行ったんですね。そしたらそこでCDのレンタルをやってて。

──今時!

でしょ? 最初幻を見てるのかと思いました(笑)。もっとヤバいのはなんとJ-CLUBの棚があったこと。

──J-CLUB最後の残党がそこにたどり着いた奇跡……。

そうなんです。近所のサイボクって牧場に寄って、いっぱいソーセージを買って、オープンリールのデッキとJ-CLUBの気持ちを胸に帰ってきて、ようやくこのEPができあがりました。……いろいろ話しましたけど、自分としてはけっこうわかりやすい作品だと思ってるんで、皆さんなんとなく適当に流して聴いてくだされば。おしゃれなBGMとしてもギリギリ使えるぐらいで留めてるはずなんで(笑)。

プロフィール

tofubeats(トーフビーツ)

1990年生まれ、神戸在住のトラックメイカー / DJ。学生時代からさまざまなアーティストのプロデュースや楽曲提供、楽曲のリミックスを行う。2013年4月に「水星 feat. オノマトペ大臣」を収録した自主制作アルバム「lost decade」を発売。同年11月には森高千里らをゲストボーカルに迎えたミニアルバム「Don't Stop The Music」でワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルunBORDEからメジャーデビュー。2014年10月にメジャー1stアルバム「First Album」をリリースし、以降もコンスタントに作品を発表している。2022年5月には約4年ぶりとなるニューアルバム「REFLECTION」と、初の書籍「トーフビーツの難聴日記」を同時に発表。2024年4月にEP「NOBODY」をリリースした。