YMOの大衆性に感じるシンパシー
──本作において日本的情緒を特に象徴している曲はどれでしょう。
西川 「Futurez」や「SODA」がそうですね。
石橋 「Open World」でも、サビでカノン進行と呼ばれるポップスの黄金律、「いとしのエリー」などにも使われているコード進行を用いているのですが、「普段なら避けるところをあえて開けっぴろげに使ってみたらどんな曲になるだろう?」と思って作ったところがあります。
──個人的に、以前からtoconomaの音楽にはYMOからの影響を感じていたのですが、その点についてはいかがですか?
石橋 YMOの影響は間違いなく大きいですね。巨匠なので比べるのもおこがましいのですが、彼らがやっていたことには共感する部分が多い。例えば、難解なジャズフュージョンには行かず、ポップネスや大衆性を意識しているところもそう。今回のアルバムでも、そういったアプローチを意識していました。
──冒頭で石橋さんが「toconomaはクラブミュージックを人力でやる」とおっしゃっていましたが、そういう意味で今回特にこだわった点はどのあたりでしょうか。
清水 今回はドラムテックの方も色々提案してくださって相談しながら様々な音色を試すことができました。
西川 その分、ミックスの仕方もかなり変わりました。数年前は「とにかくキックを太くすればいい」という風潮もあったけど、僕らも40歳を超えたし、少し抑えていこうかと(笑)。
──以前はプレイリストで並んだときに、ほかの曲と比べて聴き劣りがしないよう音圧を上げる風潮が音楽シーンにありましたが、そのトレンドも少し落ち着いてきた感はありますよね。
石橋 そこは本当にありがたいですね(笑)。僕らのような生バンドだと、重低音を出すのには限界があったので、今のようにそれぞれのやり方で美しい音を出せる時代になってよかった。
速い曲はやれるうちに
──サウンド面でインスパイアされたり、リファレンスにしている洋楽アーティストというと?
矢向 少し前だとFKJとか、ああいう耳心地のいいサウンドは意識していましたね。
石橋 有機的な感じだと、オスカー・ジェロームのギターアプローチや音色は参考にしています。もちろん、ルイス・コールやVulfpeck、ジェイコブ・コリアー周辺のサウンドも無視できない。そこに共感しつつ、どう違うアプローチをするかはかなり考えましたね。
──アルバムのオープニングナンバー「SignaL」は、「日本的な情緒とダンスビートの融合」という今作のテーマを象徴する曲だと思いました。
石橋 最初は、「僕らも年齢を重ねて、速い曲をやるのがしんどくなってきたね」なんて話をしていたんですよ(笑)。バンドあるあるで、歳を取ると演奏が遅くなる現象を実感し始めてきたのもあり、「やれるうちに速い曲をやっておこう」と。そうしたら西川が「フューチャーファンクっぽいスタイルでやってみたらどうだろう?」とデモを作ってきてくれたので、そこからみんなでアイデアをどんどん詰め込んでいき、結果的に自分たちの首を絞めるような、めちゃくちゃ情報量の多い楽曲に仕上がりました(笑)。2年間も手を加え続けてかなりカロリーの高い曲になったので、ライブに来てくれる皆さんには、僕らがどうカロリーを燃やしているかを見届けてもらいたいですね。
──(笑)。「Syncer」も疾走感あふれるスリリングなジャズファンクチューンですね。
石橋 これも速いビートで「やれるうちにやっておこう」シリーズの1曲です(笑)。僕らは邦楽的な歌心とテクノミュージックを人力で掛け合わせるのがすごく好きで、これまでも「underwarp」や「DeLorean」でその路線を踏襲してきました。「Syncer」はその進化系で、非常にパンチのある曲に仕上がったと思います。パーカッションで参加してもらった松井泉さんからいろんなアイデアをいただいたおかげで、ものすごくいいバイブスで楽しくレコーディングできました。この曲は構成も凝っていて、初めてベースソロからサビにつながる展開を導入したのでライブで盛り上がってもらえるとうれしいです。
ピアノっていい楽器だな
──ほかに思い入れのある曲は?
西川 僕は「Back to the Futurez」というピアノソロ曲ですね。石橋が「『Futurez』の前にインタールード的なピアノソロを入れたらどうか?」とアイデアを出してくれて。「Futurez」のモチーフをピアノソロで弾いて、そのままつながる流れを作りました。
石橋 僕も「Back to the Futurez」はめちゃくちゃ印象に残ってる。最初はサクッと録って、「これでいいんじゃない?」くらいで終わる感じだったんだけどね。
西川 そうそう。2テイクくらいで「おつかれさま!」となるかと思いきや、「もう少しこうしてみたら?」「ああしてみたら?」と話がどんどん盛り上がってきて。気付いたらみんな通常のレコーディング以上に熱が入ってました(笑)。
石橋 ちょっと切ないメロディなんですけど、「その演奏だと未来への逡巡がもう少し欲しい」なんて高尚なリクエストが飛び出してきたりして(笑)。
清水 エンジニアさんもそういうのをうまく引き出してくれたんですよね。
西川 結局、気付いたら10数テイクは録ってましたから。
矢向 あのピアノはポニーキャニオンのスタジオにある、もともとは久石譲さんが所有していたものなんですよ。西川が弾いている姿を観て、改めて「ピアノっていい楽器だな」と思いました。
清水 本当にそう。「ピアノ弾けるっていいな」と改めて感じたし、あれはいい空間だった。
西川 初めて「ああ、これが本当のレコーディングなんだな」と思いました(笑)。すごく貴重な体験でしたね。
この先の夢は?
──結成15周年のアニバーサリーイヤーを無事に終え、toconomaの活動はこれから20周年、25周年と続いていきますが、現時点での抱負を最後に聞かせてもらえますか?
石橋 これまでずっと野音が僕らの夢だったので、それを叶えて今後どう進んでいくかをバンド内でいろいろと話し合ったんですよ。その結果、「次はコーチェラ(『Coachella Valley Music and Arts Festival』)に出よう!」ということになりました。
──おお、いいですね!
石橋 言うのはタダですから(笑)。コーチェラに出て、僕らの音楽をより多くの人たちに届けられたらいいですよね。
西川 アジアの中でもまだ行っていない国はたくさんありますし、日本国内でもまだ行っていない場所はあります。国内フェスでももっと大きなステージに立ちたいし、海外フェスにもこれからどんどん出演したい。そうした活動の延長線上にコーチェラがあるのかなと思っています。「ISLAND」というタイトルにも込めたように、もっと外に出て1人でも多くの人に僕らの音楽を聴いてもらいたい。基本的なスタンスは変わらず、仕事をしながら土日でできることをやっていきたいです。
清水 もしコーチェラが実現したら、恐ろしいほどの弾丸ツアーになるだろうね(笑)。
石橋 いやホントに社会人をしながらコーチェラに出るなんてめちゃくちゃすごいことだと思うよ。
矢向 それこそいろんな人に夢を与えられると思うので、この夢はぜひとも叶えたいです。
公演情報
toconoma 5th ALBUM「ISLAND」RELEASE PARTY
- 2024年11月17日(日)東京都 WWW X
toconoma 5th ALBUM "ISLAND" RELEASE TOUR
- 2025年2月1日(土)愛知県 伏見JAMMIN'
- 2025年2月15日(土)大阪府 BIGCAT
- 2025年3月8日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2025年3月29日(土)宮城県 仙台MACANA
- 2025年4月26日(土)北海道 SPiCE
プロフィール
toconoma(トコノマ)
2008年に結成された4人組インストゥルメンタルバンド。2013年8月に1stアルバム「POOL」をリリースし、2014年10月に2ndアルバム「TENT」、2017年6月に3rdアルバム「NEWTOWN」、2020年7月に4thアルバム「VISTA」をリリース。また2015年3月リリースのディズニーコンピレーションアルバム「PIANO MAN PLAYS DISNEY」に参加し、「美女と野獣」のカバーソングを演奏している。都内を中心としたライブ活動のほか、毎年夏には新島のビーチで野外パーティ「トコナッツ」を開催。ノンストップで複数のバンドが入れ替わりにパフォーマンスを行うライブイベント「BIG JOINT」も企画するなど、幅広いフォーマットでライブを繰り広げている。バンド結成15周年を迎えた2023年8月には、長年の夢だった初の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)ワンマン「YAON-NOMA」を開催した。2024年11月には約4年ぶりとなるオリジナルアルバム「ISLAND」をリリース。同月に東京・WWW Xでアルバムのリリースパーティを行い、2025年2月からは全国5カ所を回るツアーを開催する。
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