2024年4月21日にデビュー40周年を迎えるTM NETWORKが、40周年プロジェクトの口火を切るアイテムとして11曲入りの新作「DEVOTION」を6月14日に古巣ソニーミュージックからリリースする。
そこで今回、音楽ナタリーでは「DEVOTION」の魅力を識者にわかりやすく解説してもらう特集を企画した。話を聞いたのはTM NETWORKのファン=FANKSであることを公言している音楽プロデューサーのShinnosuke(ex. SOUL'd OUT、buzz★Vibes)。インタビュアーはTM NETWORKのオフィシャルライターの1人としても知られる音楽コンシェルジュのふくりゅう氏が担当した。
TM NETWORKの魅力とはなんなのか?そして新作「DEVOTION」を楽しむポイントとは? 2人のFANKSが繰り広げた、ディープで熱いトークを楽しんでほしい。
取材・文 / ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)撮影 / 草場雄介
今振り返ると、社会現象だったと思います
── Shinnosukeさんが、TM NETWORKを好きになったきっかけは?
僕は1988年の「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の主題歌からなんですよ。その前から知ってはいたんだけど、主題歌の「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」を歌番組でパフォーマンスしているのを観て完全にハマって。僕はブラバンをやっていたので、三枝成彰さんの劇伴もすごく好きだったし。ガンダム好きの少年だったのもあって(笑)。
──僕らほぼ同い年ですもんね。あの時代、アニメ「シティーハンター」で「Get Wild」を聴いて、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」で「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」、映画「ぼくらの七日間戦争」で「SEVEN DAYS WAR」を聴いたら、小学生も中学生も高校生もみんなTM NETWORKにハマっちゃいますよね。ちなみに「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」のどんなところが好きなんですか?
みっこさん(小室みつ子)の歌詞も含めてとにかくすべてが映像的なんですよ! かつ、派手じゃないのにカッコイイところ。切なげなギターから入るのが曲への没入感を高めていて、細かく入ってくるシーケンスやストリングスなどにすごく宇宙を感じましたね。シンセベースもTMの特徴ですが、この曲のベースラインも神すぎます! 「Get Wild」とともに、ある種のアニソンエンディングテーマの雛形じゃないですか。
──当時からご自身でも音楽を作っていたんですか?
親父がグラフィックデザイナーなので、学生時代に僕は絵を描いていたんです。だから美大か芸大に行こうと思っていたんだけど、TM NETWORKがリニューアルしてTMNになった高校入学くらいの頃に、クリエイティブ心が芽生えて自分でも音楽をやってみたくなったんです。ピアノも習ったことがないのに、お年玉を貯めてEOS(シンセサイザー)を買って。それまではブラバンでトロンボーンを吹いていたんですけど。
──Shinnosukeさんが所属していたSOUL'd OUTも「ソニーミュージックからメジャーデビューした3人組」じゃないですか。SOUL'd OUT を結成するときに3人組というのも意識したんですか?
成り立ちはまったく関係ないんですけど、結果的にそうなりました(笑)。デビューのきっかけはソニーのオーディションだったんですけど、TM NETWORKもコンテスト出身じゃないですか。僕らは三多摩地区ではないんだけど、二子玉川でライブをよくやっていたんですよ。だから「若干は一緒かな」って無理やり勝手に思っていて(笑)。
──TMがすごいなと思ったのが、常に新規ファンを受け入れてくれる雰囲気があるところで。70~80年代は、一度固定ファンがついたら新参者が入りづらい雰囲気のアーティストも多かったと思うんです。だけどTM NETWORKの場合は、盛り上がり方がファン中心で、FANKSというファンネームまで当時から存在していて。音楽のみならずマーケティングやブランディングなど、いろんな新しいことをいち早くファンを巻き込みながらやっていたんです。そういうところに影響を受けましたね。TM NETWORKはファンを教育してくれたと思っています。
そうなんですよね。教科書というか。「このリニューアルってワード、なんだろう?」とかね。今となっては誰もが使う言葉ですけど、当時は画期的で。
──リニューアルって言葉もデカかったですよね。TM NETWORKからTMNへのリニューアル。まだ1990年なのに、ブランディングの変更をアーティストが意識的に取り入れたというすごさ。それに、原宿の竹下通りにTM NETWORKのショップまであったんですよね。すごい人気で。
行きましたよ(笑)。ビートたけしさんやとんねるずさんと並んで「CAROL」というショップがあって。京都嵐山にもありましたね。
──修学旅行生がこぞって寄るという(笑)。
僕、そこでドラムスティック買いましたもん(笑)。
──今振り返ると、すごいことですよね。社会現象だったと思います。当時はインターネットが存在しなかったので、音楽雑誌全盛時代で。ソニマガの「PATi・PATi」「GB」「WHAT's IN?」でTM情報を知るという。
全部買ってましたね。
──スタジオでの撮り下ろし写真で、ビジュアルをきっちり作って届けていて。みんな憧れ、真似をしたくなるという影響力が大きかったですよね。僕は、書き手では音楽ライターの藤井徹貫さん、佐伯明さんに影響を受けました。ちなみに「DEVOTION」には藤井徹貫さんによる小室さんへのインタビューも収録されるそうです。
そういえば「GB」だったかな。後ろのほうの投稿コーナーに小室さんのイラストを描いて送ったら採用されたんですよ。うれしかったな。
──じゃあ、バックナンバーを探せば載ってるかもしれない?
あるんじゃないですかね(笑)。
──本といえば、TMのアルバムを小説化した木根さん執筆の「CAROL」や、TMの作詞家である小室みつ子さんがTM曲からインスパイアされて書いた短編集「ファイブ・ソングス」なんてものもありました。
徹貫さんによる書籍やツアーパンフも含めて、僕らFANKSにとってのバイブルですからね! あれ、今だとYOASOBIさんに通じますね。音楽世界をより立体化して楽しめるメディアミックス。まだインターネットがない時代だったからこその、妄想力を掻き立てる最強の沼アイテムでしたよね。
──ファミコンでゲームソフト「TM NETWORK LIVE IN POWER BOWL」まで出してましたもんね。しかも自社であるソニーから発売という。なので、TMは今の時代に通じるというか。音楽だけにとどまらない、IP活用、メディアミックスをいち早く80年代からやり続けてきた方々なんです。
TMとFANKSとの関係性、あるいは小室先生の人生を振り返っての言葉
──新作「DEVOTION」を聴いて、Shinnosukeさんはどう感じられましたか?
コロナ禍で行われた配信ライブ「How Do You Crash It?」や、昨年開催の全国ツアー「TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days”」とリンクする作品でしたね。あの一連のプロジェクトの総括という感じがしました。ここから始まる40周年へとつながっていくと思うと、期待感が高まります。
──「TM NETWORKの40周年は、どんな展開を迎えていくんだろう?」という疑問に対する、いわゆる道しるべになるようなアイテムですよね。1曲目は新作のタイトルと同じ「DEVOTION」という曲です。
「DEVOTION」って耳慣れない言葉なんだけど、TMで頻出する単語、例えばEMOTIONやREVOLUTIONなどと韻を踏めるんです。そしてその意味を考察してみんな泣くんですよね。この言葉には「献身」とか「信心」「帰依」という意味があるんですよ。あとは、「傾倒する」とか。もしかしたらTM NETWORKとFANKSとの関係性も表しているのかもしれないし、あるいは小室先生の人生を振り返っての言葉なのかもしれません。
──なるほど。TMからの視点もあれば、FANKS側からの視点もあるという。「DEVOTION」は疾走感あるナンバーなのですが、サウンド的には前回のツアーでも印象的だったパーカッシブな音の響きが健在で。四つ打ちという、TMらしいナンバーになったんじゃないかなと。
僕はサントラが好きなんですが、この曲からは映画音楽的な影響を感じました。例えば、前回のツアーで印象的だった「ダーンダーン」という力強いパーカッションは、まさしくハリウッド映画のトレイラーとかでよく使う、煽る感じがありますし。昨年のツアーがちょっとディストピア感強めな印象だったじゃないですか? その感じが「DEVOTION」だけではなく、同じようにパーカッションが使われている「KISS YOU」や「WE LOVE THE EARTH」にもあるんです。劇伴とダンスミュージックの融合を感じましたね。「TIME TO COUNT DOWN」のイントロのオーケストレーションとかもそうだし。
──映像が思い浮かぶようなサウンドって、TMの特徴ですよね。
コードの話をすると、「DEVOTION」はAメロ、Bメロ、サビと展開するのに、実はセクションごとのコード進行は全然変わってないんですよ。派生のコード進行のループなので基本同じで、上モノで展開を付けている。それがダンスミュージック感を出しているんです。EDMは僕も作るから研究しているんですけど、EDMってオケで踊らせる音楽だから、歌が少ないほうが作りやすいんです。でもTMって、もともとはロックやポップスじゃないですか。コード進行が変わるので、それをEDMアレンジにするのは難しいはずなんです。なので、音色を工夫したりイントロを長くすることで、無理矢理進行を変えずに、いかに洋楽センスを打ち出すかに取り組んでいて。小室先生は、そんな研究をずーっとされているんだと思います。プログレッシブハウスの難しい表現をしていて、それがカッコいいなって感じました。「TIME TO COUNT DOWN」も、打ち込みでやると、カッコいいEDMに変える持って行き方がなかなか難しい曲だと思うんですよ。コード感とかも。
次のページ »
当時のハウスではなく、今のハウスにアップデートされている