ボケのほうが歌詞をじっくり聴く
──ジュニアさんは、T字路sのニューアルバムをお聴きになって、どんな印象を持ちましたか?
千原 やっぱりT字路sの音楽って、どの曲も自分のどこかに当てはまる感じがあって。例えば今回のアルバムに収録されている「はじまりの物語」なんて、僕が14歳のときの気持ちと重なる部分がすごくありますし。
──「ここから 時計が回りはじめる / ここから 世界が動きはじめる / クソみたいな日々を 抜け出して / もう一度 生まれて 歩きはじめる」という歌詞が胸に突き刺さる曲ですね。
千原 僕が14歳の頃っていうのは、それこそ「あしたのジョー」を部屋にこもって読み漁ってた時期で。学校も行けなくて、どうしようどうしようって、1人で悩んでた。そのときの自分と、勝手に重なってしまって。もう、「そんときの曲やん!」みたいなね。そういう感じで、聴く人みんな、それぞれに当てはまる曲があるんじゃないかと思うんです。
伊東 なるほど。ジュニアさんがウチらの音楽を聴いてくれてるって聴いて、私は勝手に、お笑いと音楽の共通性を想像したんです。芸人さんって、笑いを提供しながら心の中で泣いている部分があるんじゃないかなと。そういう部分で、ウチらの音楽にハマってくれたのかなと思ったんです。ある意味強がってるけど、それでもやっぱり胸張って出ていかなきゃならない。そういう部分で響いてくださったのかなと私は勝手に想像しております。
──芸人さんが、自分の苦労やコンプレックスを笑いに変えていくように、困難や苦しさをポジティブなものに変えていくパワーって、T字路sの音楽の根底にある、日常に根ざしたブルース観と共通する感じもありますね。
伊東 そうそう、それが言いたかったの!
千原 うん。共通する部分は絶対あると思いますね。
伊東 音楽もお笑いも、究極のところ生きていくには必要ないっていうか。本当に食うものに困るとか、そういうものじゃないんだけど、だけど、なきゃないで心が死んでいってしまう。あと、ジュニアさんがT字路sの歌詞をしっかり聴いてくださってるのがとてもうれしいです。私の中では、やっぱり歌詞ってすごく大事で、時間をかけて作っているので。その詞が心に響いてくれてるのかなと。
千原 芸人ってボケとツッコミがいるけど、ツッコミはリズムを重視するから、歌詞をまったく聴かないんですって。
伊東・篠田 へえー!
千原 で、ボケのほうは歌詞をじっくり聴く。僕なんかも、ひどいときはCD買っても歌詞カードしか読まないようなときがあったぐらいで。だから、やっぱり歌詞なんですよね。T字路sは、あのメロディにこの歌詞が乗っかるっていうところが、強みなんじゃないですかね。
──妙子さんがチョイスする言葉そのものの強さもあるでしょうし、それと同時に1曲の中に物語を描いていく描写力にも長けているんですよね。
千原 そうだと思います。
──例えばコントのネタ作りも短い時間の中で、いかに世界観を描いていくかがとても重要であって。
伊東 そういうところでも、共通する感覚があるのかもしれないですね。
突然のサプライズにジュニアは……
千原 そういえば、僕、KEE(俳優 / モデルの渋川清彦)と昔から友だちで。
伊東 そうそう! 私たちもKEEくんは昔から仲よくしていて。
──渋川さんはもともとDtkinzというサイコビリーバンドでドラムを叩いていて、ジュニアさんが主演を務められた映画「ポルノスター」で俳優デビューしているんですよね。
伊東 KEEくんには、私たちの「少年」という曲のミュージックビデオに出演してもらったり、彼が主演した映画「下衆の愛」の主題歌として「はきだめの愛」という曲を書き下ろしたり。「あの野郎」という曲では、KEEくんにドラムを叩いてもらったこともあるんです。
千原 だから、お二人とはいろいろつながりがあったんですよね。実は僕、T字路sの1stアルバムをアナログレコードでも買っていて……。
篠田 マジですか。
千原 レコードって針を落としてそのまま通して聴くわけですけど、T字路sの曲には統一した世界観があるからA面で1曲みたいな感じがあって。T字路sは今や数少ない、レコードから流れてくるのが一番しっくりくる音楽というか。
篠田 僕らとしても、レコードになったときに一番よくなるように考えて作ってるところはあるんです。
伊東 それを想定しながらレコーディングもしてるし、ジャケットも作ってるので。だから、そういう感想をもらえるのは本当にうれしいですね。
篠田 ちなみにジュニアさんは、若かりし頃はどんな音楽を聴いてたんですか?
千原 BLANKEY JET CITYはよく聴いてましたね。僕が20歳ぐらいやったと思うんですけど、番組にゲストで来てくれて。まだ大阪に住んでた頃なんですけど、ブランキーが大阪にライブしに来たら、公演後に一緒に飲みに行ったりして。
伊東 私もブランキーは好きで、よくライブを観に行ってました。
千原 特に中村達也さんとは、いつも遊んでもらってましたね。
篠田 その頃の達也さんとジュニアさん、街で絶対会いたくない二人ですよねえ(笑)。
千原 ははは。達也さんとは今も付き合いがあって、去年千原兄弟でコントライブをやったときも、音楽を達也さんが作ってくれて。僕が落語やるときの出囃子も達也さんのドラムなんです。
伊東 あはは! すごーい!
千原 さっき話した「チハラトーク」も、オープニングが達也さんの音楽で、エンディングが「泪橋」なんです。
伊東 ワーオ! 達也さんとの並びだったとは……おそれ多いです。
千原 僕はまだ、T字路sのライブを観たことがないんですよ。それこそ、T字路sを教えてくれたナオヤが、いついつにライブがあるぞってメールで教えてくれてたりするんですけど、毎回タイミングが合わなくて。だから、いつか生で観させてもらいたいです。
篠田 ぜひぜひ! 生の妙ちゃんの歌声は、本当にすごいですから。
伊東 あの……もしよろしければ、今日ギターを持ってきてるので、最後にジュニアさんのために1曲歌わせてもらってもいいですか?
千原 えっ、マジっすか!? すごい!
伊東 では……「泪橋」を歌わせてもらいます!
(伊東がアコースティックギターをかき鳴らしながら、千原の目の前で「泪橋」をフルコーラスで熱唱する)
千原 (拍手しながら)すごい!! うわー、うれしい!
伊東 1人のために歌を歌うときって、意外と相手の顔を見られないものなんですね(笑)。
──初めて聴いた妙子さんの生歌はいかがでしたか?
千原 いやあ、すごいっすね。やっぱりいいねえ、音楽家って。こうやって、すぐそこでできるからね。実は先日、「サワコの朝」というトーク番組に出演させてもらって(2月9日に放送済み)。毎回ゲストが好きな曲を1曲かけるんですけど、そこでも「泪橋」を紹介させてもらったんです。オンエアでは途中でトークがかぶさるけど、スタジオでは1曲フルで聴いていて。司会の阿川佐和子さんもめちゃくちゃカッコいいっておっしゃってましたよ。
伊東 本当ですか!
篠田 あんな早朝に俺らの音楽が流れていいのかって気もするけど(笑)。
伊東 今度はぜひ、ワンマンライブに遊びにいらしてください!
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T字路s「PIT VIPER BLUES」ライナーノーツ
2019年2月22日更新