“やれやれ枠”の若手アーティストが大先輩KERAに人生相談「今、すごい“苦”です」|「Tiki-Taka Jamboree! 2022」開催記念特集 (2/4)

売れようと思って売れた人はナゴムには誰もいない

とつか 去年、Tiki-Taka Technicsの結成3周年イベントをやったんですけど、そのときのライブが思ったよりも反応がよかったんです。それをきっかけに勢いに乗れたらよかったんですけど、ちょうどその頃からボーカルが体調を崩し始めて、意思疎通があまりできなくなっちゃって。「これはちょっと、2人でやっていたら絶対に売れないな」という感じになってきたので、「とりあえず俺1人でがんばるわ。あんたはやれるときだけやったほうが、たぶんユニットとしていい状態で進める」ということでやっている感じなんです。まったくケンカとか、ギスギスした関係ということではないんですけど。

KERA うーん……1人でやるのは、つらいの? 楽しいの?

とつか えーと……最初は本当に嫌だったんですけど、やってみたら今のところはわりと楽しくなってきたなっていう。ボーカルがトチったりするのは自分では責任を負えないし反省もできない部分ですけど、1人でやる分には全責任を自分で負えるので。もちろん痛い思いをするのも自分だけど、すべて自分で引き受けられるメリットも最近は感じ始めていますね。

とつかうまれ(Tiki-Taka Technics)

とつかうまれ(Tiki-Taka Technics)

KERA 楽しければどうにでもなる気がするんですよ。間違ってるかもしれないけど、自分がそうだったから。そういう意味では、ナゴムは非常に運に恵まれてたんだよね。たまたまインディーズブームやらバンドブームやらが来たりさ(笑)。売れようと思って、あるいは僕が売ろうという野心をもって売れた人は誰もいなくて……まあ厳密にはいたのかもしれないけど、金儲けのための戦略によって売れた人はいないんだよ。楽しくやっているうちに周りが勝手に騒ぎ始めてくれたようなことだったから。

とつか 僕、本当はこんなことやりたくないんですよ。フェスとか、イベントの主催みたいなことは。

KERA (笑)。

とつか 本当はアルバムだけ作って評価されたいんです。かつての自分が電気グルーヴを聴いて「すごい!」と感じて、音楽からその人の価値観だったり人間性、生きるスタンスだったりに惚れ込んだみたいに、自分も誰かにそれをもたらす側になりたいというか。と言っても「すごいと思われたい」みたいな顕示欲とは違うし、「誰かのために」みたいな使命感でもないんですけど、それをやらないと追いつけないじゃないですか。だから本当は作品で納得していきたいんです。なんでフェスとかやってるんですかね……。

KERA そこに費やす労力ってすごいからさ、それをもう少しメンバー集めとかの方向に向けたら、もっと協力してくれる人も集まるんじゃない? 少なくとも、君にはマネージャーが必要だと思うよ。

とつか そうなんです! すごくそうなんですよ。ライブを主催して、演者としてステージに立ちつつ、裏では出演してくれるアーティストのマネージャーさんにペコペコする、みたいなのがめちゃめちゃすり減るんです。構図として、ちょっとよくわからないじゃないですか。心がおかしくなっちゃう。一度、マネジメント業務のための偽名を作ろうかなと考えたこともあるくらいで。メールでやりとりするときだけその名前を使うみたいな。

KERA 必要だよ。マネージャー。とりあえずは偽名の君でも。君じゃないほうがいいとは思うけどね。

とつか もともとは「僕が音楽関係のことをやるからボーカルがそっちをやってくれる」という話だったのに、結局できないから僕が全部やるようになって。ただまあ、結局自分で全部やらないと納得できないっていうのもすごくあるんですけどね。

KERA ああ、その気持ちはわかる。僕も有頂天でメジャーに行ったときはそれで具合が悪くなったもん。小さいところで一緒にやっていく分には「この人とうまくやれるか」だけが問題になるけど、メジャーに行った途端に何十人、何百人という人が関わるじゃない。その人たち全員とやりとりなんてできないから、それが不安で不安でしょうがないんだよね。「制作のときはこの人が担当だけど、宣伝になるとこっちの人が担当になります。その人には助手がいるので現場には助手が付きます」みたいなさ、「これ、全部を把握しないと自分のやりたいようにできないんだ?」と思って。もうレコードが出る3カ月前くらいには「メジャーなんかでやるのは嫌だ」という思いがあった(笑)。不安神経症っていう病気にもなっちゃったし。

KERA

KERA

とつか ああー。

KERA 信用できると思っていたディレクターがさ、次の瞬間いきなり会社員でしかなくなったりするから。「え、こないだあんなふうに話してたじゃん」と言っても「わかってよ、俺には会社での立場ってものがあるんだよ」みたいな。だから、何も考えずに、なぁんにも気にせずにやれる才能が欲しいなと思ったよ。「どうにかなるさ」と思えないもんかなって。

とつか わかります。僕はさっき「作品だけ作って評価されたい」と言いましたけど、実際にその立場になれたとしても、結局周辺のいろんなことが気になっちゃうんだろうなあと思いました。

今、すごい苦です

KERA 自分のやりたいことと受け手の存在って、どんなふうにバランス取ってるの? 「喜んでもらおう」みたいなことは考える?

とつか 考えてます。

KERA 「自分がやりたいことをやったら、必然的にお客さんも喜んでくれるだろう」というふうには直結しない?

とつか しないですね。今のところ、まったくそのイメージはないです。

KERA そうなのかあ。俺はするんだよ。「喜んでもらえるものを一生懸命やる」は苦にならない?

とつか 今、すごい苦です。

KERA (笑)。

とつか KERAさんは「つらくても楽しいからやってこられた」とおっしゃいましたけど、僕は5年間活動してきて「楽しい」と思えた瞬間って、せいぜい1回くらいしかなくて。

KERA なるほど。でも、そういうタイプなのかね。苦しいことが、楽しくないことがどこかで歓びになっている、みたいな。M体質。

とつか ただ、失敗をたくさんして痛い目に遭ってきたおかげで「これじゃダメだ」と工夫を重ねてくることができたんだと思ってはいるんですよ。そうじゃなければWWW Xなんてハコでイベントをやろうなんて発想にはならなかったと思うんで。

KERA でも、楽しくはないんだ?

とつか 楽しくはないですね。

KERA うーん……それでどうしてやれるんだろう?

とつか わからないんですよ。本当にただ「布袋寅泰になりたい」「石野卓球になりたい」という思いだけで動いている感じなんです。子供が「仮面ライダーになりたい」って言ってるのとまったく同じレベルの話だと思うんですけど。僕はもともと中学生の頃から睡眠障害とかがあって、頭のおかしい子扱いをずっとされてきた人間で、社会に馴染む生き方をするという選択肢があまりなかったんです。高校も中退してるし、現場仕事で食っていくだけの体力も覚悟もない。そうなったときに、「どうせつらい思いをするんだったら、やりたいことに向けてつらい思いをするほうがいいじゃん」と思って。今は人生のロスタイムみたいな感覚なんですよね。

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

KERA そういうのって、お客さんにはさらけ出してるの?

とつか 出してないです。出してないというか、伝わってない。“やれやれ枠”として見られている中で、急にそんなことを言い出してもまったく刺さらないだろうし。

KERA なるほどね。客観的だね。さらけ出したらどう思われるかというのも分析できてるんだ。

とつか そうです。“やれやれ枠”として振る舞いつつも、実際の僕はマネージャーも付けずに全部自分で出演アーティストのマネジメントと連絡して交渉して、ってやってるわけですけど、それは表には見えていない部分なので。ステージ上でヘラヘラしている僕だけを見ている人に対していくら言ったところで、少なくとも自分がお客さんだったら刺さらないなと思って。

KERA でも、この会話は記事になっちゃうわけだし……。

とつか それは全然いいんです。聞かれたことに対してウソは言いたくないんで。

KERA だったら、もう全部をさらけ出しちゃったほうが共感を呼びそうな気もするけどなあ。「こう思われそうだからこれはやってこなかったんですけど、本当のところは」みたいなところまで含めてね。もちろん刺さらない人だっているだろうけど、少なくとも僕は話を聞いていてすごく面白いもん。

とつか え、ホントですか?

KERA こういう人が1人でやっている、という状況も含めて面白いから。その話を全部聞いてたらさ、なんなら失敗してるのも面白いし。「面白い」って言っちゃうと失礼だけど(笑)、それもひっくるめて楽しんでくれる人、応援したくなる人はいると思うなあ。少なくとも、中途半端に見え方を操作するより、ずっと共感されると思うよ。さらにそれが全部音楽に反映されてたらもっといいだろうし。「ああ、こういう人がこういう人生を歩んでいるから、こういう音楽なんだ」って。

とつか なるほど……。

KERA もちろん、僕の口からそんな迂闊に「なんとかなるよ」なんて言えないし、ここで何か結論が出るような話でもないんだけどね。ただ、今日こうやって話を聞いてきて、話す前よりも「ああ、なんか面白い人なんだな」と僕は思ったから。

とつか よかったです。嫌われたらどうしようと思ってたんで(笑)。

KERA その面白さはどんどん出していくべきじゃないかという気はするなあ。嫌う人も出てくるだろうけど、それよりも面白がってくれる人を逃さないようにしたらどうだろう。

とつか ありがとうございます。KERAさんに「面白い」と言っていただけたというのは、すごく自信になります!

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

プロフィール

KERA / ケラリーノ・サンドロヴィッチ(ケラ / ケラリーノ・サンドロヴィッチ)

1963年、東京都生まれ。劇作家・演出家・映画監督・音楽家。1982年にニューウェイブバンド・有頂天を結成し、1983年にインディーズレーベル・ナゴムレコードを設立。1985年に劇団健康を旗揚げし、1993年にはナイロン100℃を始動させる。1999年に「フローズン・ビーチ」で岸田國士戯曲賞を受賞。2018年秋に紫綬褒章を受章した。劇団公演のほかKERA・MAPなどのユニットを主宰するほか、緒川たまきとケムリ研究室を共同主宰。音楽面ではソロのほか、2014年に再結成した有頂天や、ケラ&シンセイザーズ、鈴木慶一とのユニットNo Lie-Sense、田渕ひさ子やかわいしのぶらと2022年に結成したKERA & Broken Flowersで精力的な活動を展開している。2023年3月25日に東京・恵比寿ザ・ガーデンホールにて「KERA還暦記念ライブ」を開催。

2022年12月28日更新