ナタリー PowerPush - ティーナ・カリーナ
1stフルアルバムで見せつけた“作家ティーナ”の真価と実力
「田中らボタモチ」はただのダジャレじゃない
──もうひとつ詞を読んでいて気になったのが、ティーナさんは基本的に態度が大人なんですよね。例えば「every」の「きれい事だけ 並べて生きていたいな」っていうフレーズは、一見キレイごとを並べ立てることを皮肉っているようなんだけど……。
それだけじゃないですね。みんながキレイごとだけを言って生きていけるならそれはそれですごい幸せじゃないですか。
──ええ。そのキレイごとというか、優しいウソみたいなものを許容する余裕を感じたし、「あかん」の中では「寝ても覚めても あんたの事 考えてる自分がきしょくわるい」とセルフツッコミを入れている(笑)。
それはもう関西人の気質なんだと思います(笑)。あと個人的なことを言うなら、確かにしんみりした曲が好きなんですけど、暗すぎる曲はそんなに聴かないんですよ。暗くてもどっか明るい気持ちになれたりとか、どっか希望があったりとか、そういう曲が好きで。だから自分の作る曲も知らず知らずのうちに暗すぎたり、重すぎたりはしないようにしているのかもしれませんね。「しもた」なんかにしても基本的には失恋の曲、悲しい曲ではあるんですけど、人を好きになることの大事さとか暖かさはどこかに盛り込みたかったですし。
──確かに「しもた」をはじめどの曲においてもティーナさん自身の書く曲は詞もメロディも真っ暗ではないですよね。特にメロディは絶対にドマイナーにはしない。失恋の歌ですらどこかポップに響かせてくれるから聴いていて重くなりすぎないし、「every」みたいな一連のシングルからはちょっと想像が付かないくらい明るい展開の曲もある。
実は「every」は昔からやっていた曲で。どっちかというともともとはこういう曲を歌ってたし、こっちはこっちでやっぱり私の好きな歌なので。アルバムの中に入れたら「関西弁の歌を歌う子でしょ」っていうふうに思ってる人たちに「あっ、こういうこともするの?」っていう発見をしてもらえるかなと思っていて。「田中らボタモチ」って名前の通り「ティーナ・カリーナってこういう感じの人なんだ」って“棚からボタモチ”的な発見をしてもらえるようなアルバムにしたかったんです。
──ナタリーは「アルバムタイトルってダジャレですよね」とか言ってるけど。
ただのダジャレじゃないぞ、っていう(笑)。
黒っぽい音、大好きです大好きです
──確かにこの言葉とメロディのバランスのよさも混乱したポイントというか、まさに“棚からボタモチ”的に驚いたポイントなんです。悲しい恋の歌も「every」のようなメッセージソングも大げさになりすぎない。どこか軽やかでスムーズに聴かせられるメロディメーカーなんだな、って。
ありがとうございます(笑)。ただ当たり前なんですけど、自分の力だけでできたアルバムだとも思ってなくて。ボーナストラックの英語曲はちょっと違いますけど、編曲については(ティーナの現在の音楽活動の拠点)仙台の制作チームのみんなでやってるんですよ。「この曲はどういうアレンジにしたら一番いい状態になるのか」っていうのを話し合いながら作っているので、“棚からボタモチ”的なアルバムになったのは、みんなの力のおかげなんです。詞や曲は私がそのとき感じたままに作ってるんですけど、編曲については戦略的にというか、考えて考えて緻密にやっているんです。
──実際どの曲もアレンジが面白いですよね。前半戦はパブリックイメージのティーナ・カリーナというか、フォーキーな曲が並ぶんだけど、4曲目の「フリージア」は8分の6拍子だし、続く5曲目の「Juliette」はサーフロックだし。
そういうの大好きなんです、私(笑)。ほっといたらシンコペーションしたくなっちゃう。
──あと裏拍に重心を置いた黒っぽい曲、お好きですよね。実はこれも混乱を招いた一因なんですけど(笑)。
大好きです大好きです(笑)。
──「真夜中の独り言」はループベースで制作されたトラックなのがわかるし、「every」はスウィングジャズっぽいし……。
「しもた」もリズムが跳ねてるみたいな(笑)。そういう部分って、個人的にFried Prideさんのことが大好きでずっとライブに行ったりとかしましたし、あと一時期ファンクバンドに所属してたことがあったのが要因なのかもしれません。そのバンドはボーカルスクールの先生たちとやってたバンドなんですけど、Incognitoみたいな1990年代のアシッドジャズっぽいのもやるし、アース(Earth, Wind & Fire)とかTower of Powerとかチャカ・カーンのカバーなんかもしていて。そんなに真っ黒なR&Bじゃないけど黒いって感じの曲は好きなんです。で、私がそういう曲が好きなことをちゃんと知ってくれているチームと制作できているから、5曲目以降はそういうノリになっているんでしょうね。
──仙台に拠点を移したのが2011年だから、制作チームとの付き合いはまだ2年そこそこですよね。どうやってその信頼関係を築いたんですか?
出会ってからは短いんですけど、その出会いからこれまでほとんどの時間を曲の制作にあてられているからだと思います。デビューが決まったあとも、半年くらい、とにかくいろんな曲を作って一緒にアレンジして、じっくりと曲を詰める期間を作ったりしましたし。少人数の事務所だから信頼関係を築きやすかったっていうのもあるのかもしれないんですけど、そういう時間を過ごせたから、お互いなんでも言い合える、すごく近い存在になれたんでしょうね。
──そのティーナさんのありようも痛快なんですよ。大阪で音楽活動を続けていて、いざデビューが決まったら、ビジネスやエンタテインメントの中心地である東京の頭をまたいで、言ってしまえば“地方”である仙台に拠点を移して。でも全国区で通用する音楽をやっている。
逆に都心からちょっと離れているぶん、じっくり作れるっていう部分はあるんだと思います。仙台は東京や大阪に比べると時間の流れがちょっとゆっくりしてるので。実はこのアルバムについても、デビューの前の段階からもう曲を作ってはいて。だからアルバムリリースの話が持ち上がったときには「で、アルバムにどれを入れる?」っていう段階というか、たいていの曲は「もうちょっとで完成」っていうところまでできてたんです。そういう時間の使い方ができるのも仙台にいるからなのかな、っていう気はしてます。
収録曲
- あんた
- 愛の声
- あかん
- フリージア
- Juliette
- いつかきっと
- 真夜中の独り言
- every
- しもた
- 流れる涙はそのままで
- How long
- Counting all the days
ティーナ・カリーナ
大阪府池田市出身の女性シンガーソングライター。大学時代より音楽活動を始め、卒業後は大阪市の阪急百貨店で販売員をしながら楽曲制作やライブ活動を行う。2011年春、プロデビューを目指して約50社にデモテープを送付。その中の1社、エドワード・エンターテインメントとの契約が決定し、活動拠点を同社の所在地である仙台に移す。2012年9月、ミニアルバム「ティーナ・カリーナ」でメジャーデビュー。この中の収録曲「あんた」は女性の気持ちを関西弁で歌ったラブソングとして大きな注目を集め、10月に急遽シングルカットされた。同年、「第54回 輝く!日本レコード大賞」で新人賞を受賞。2013年3月には「あんた」が読売テレビ開局55年記念ドラマ「泣いたらアカンで通天閣」の主題歌に起用され、主人公の同僚役でドラマ出演も果たす。同年5月に2ndシングル「あかん」を、11月には関西弁で歌うシングルとしては3作目となる「しもた」を発表。壇蜜を起用したプロモーションビデオで大きな話題を集め、同12月には1stフルアルバムとなる「田中らボタモチ」をリリースする。