THE YELLOW MONKEY新作「Sparkle X」に秘めた遊び心と真摯な思い、音楽系動画クリエイターみのが解き明かす

THE YELLOW MONKEYが2019年発表の「9999」以来、5年ぶり、10枚目となるオリジナルアルバム「Sparkle X」を5月にリリースした。

「Sparkle X」には前作以降に発表された「SHINE ON」「ホテルニュートリノ」「ソナタの暗闇」を含む全11曲を収録。コロナ禍や吉井和哉(Vo, G)の喉の病気といった困難を乗り越え、力強く歩んできたバンドのスタンスを提示する作品となった。約3年半ぶりの有観客ライブとして4月27日に行われた東京ドームでの単独公演では上記の3曲も演奏したほか、アルバムの最後を飾る新曲「復活の日」のミュージックビデオも初公開。THE YELLOW MONKEYの“復活”を5万人のオーディエンスにしっかりと印象付けた。

このアルバムの世界に迫るべく、人気音楽系動画クリエイター・みの(みのミュージック)がTHE YELLOW MONKEYのメンバーにインタビューを行った(※ギターの菊地英昭は体調不良のため欠席)。メンバーは全員「みのミュージック」のファンで、日頃から動画を視聴しているという。インタビューではアルバムの各曲に隠されたそれぞれの遊び心、復活を遂げた現在の思いに、みのならではのマニアックな視点から迫っている。

なお「みのミュージック」では吉井和哉(Vo)、廣瀬洋一(B)、菊地英二(Dr)がみのの自宅に“襲来”し、フリーダムなトークを繰り広げる動画を公開中。こちらも合わせて楽しんでほしい。

取材 / みの文 / 音楽ナタリー編集部撮影 / 須田卓馬

あえて親切なアプローチで提示したTHE YELLOW MONKEY

──「Sparkle X」は10作目のアルバムですね。もうすぐ発売ということで(※取材は5月中旬に実施)、おめでとうございます。

一同 ありがとうございます。

──2019年発売の「9999」から5年ぶりの新作ですが、タイトルの「Sparkle X」に込められた意味はどういうものなんでしょうか?

吉井和哉(Vo, G) 今回はアルバムに至るまでいろいろとストーリーがあって……2020年のコロナ禍で今まで味わったことのない時代が始まって、我々の結成30周年の締めくくりになるはずだった東京ドームの2DAYSライブも中止になってしまった。いわゆるエンタテインメントの場が失われて、その状況が終わりつつある中で今度は僕が喉の病気になって。そんな中、「もう1回輝きたいよね」というシンプルな気持ちから「SHINE ON」という曲が生まれました。先日の東京ドームのライブのタイトルにも「SHINE ON」を使わせてもらって。だから“輝く”つながりで、アルバムのタイトルもキラキラしたワードにしようと。自称グラムロックバンドでもあるしね。

廣瀬洋一(B / 以下、ヒーセ) ミラーボールとかのイメージね。ギラギラした感じ。

吉井 そうそう。今回は歌詞の内容もそうですけど、あえて親切なアプローチでTHE YELLOW MONKEYを提示してみようっていう考えはあったんだと思います。そこで“Sparkle”というワードと10枚目の“X”で「Sparkle X」としました。

──ローマ数字の“10”ですね。

吉井 そうです。あとは“未知数”。

菊地英二(Dr / 以下、アニー) “未知なもの”っていうね。

──いろいろな思いが込められているタイトルですね。あと僕、ジャケットデザインも大好きなんですよ。めちゃくちゃカッコいい。

THE YELLOW MONKEY「Sparkle X」通常盤ジャケット

THE YELLOW MONKEY「Sparkle X」通常盤ジャケット

吉井 これはCGで仕上げていったそうで。

ヒーセ 未来なのか過去なのかわからない(笑)。

吉井 デザイナーさんがおっしゃっていたのが、「インディ・ジョーンズ」みたいな、ああいう得体の知れない宝探し感を出したいって。アー写もABBAっぽいし(笑)。

ヒーセ The Doorsとか(笑)。ちょっと探検隊っぽいニュアンスでね。

物理的にクリックに合わせるのが正解ではない

──タイトルにジャケット写真と、アルバムの外側の話を先にお伺いしましたけど、収録曲についても聞かせてください。まずは先ほどのお話にも出てきた1曲目の「SHINE ON」。軽快にスタートする感じで「アルバムを通して『これ!これ!』というロックが聴けるんだろうな」と期待に胸をワクワクさせてしまう内容でした。いきなりマニアックな切り口なのかもしれませんけど、これってクリックは使ってるんですか?

アニー 基本、全部使ってはいますね。

──あ、使ってるんですね。

吉井 なんでですか? ヨレてる?(笑)

──そういう意味ではないんですけど(笑)、いい意味で有機的な部分を大事にした印象があって。演奏の細かいノリもそうだし、楽器のピッチも含めて今日のロックバンドにはあまりない……。

吉井 エマのチューニングも若干狂ってるしね。

──でも、昔はそういうものだったじゃないですか。

吉井 そう。ビンテージ楽器だからきれいにそろわないし。今回のアルバムインタビューでもよく言ってるんですけど、「アニーが“ゾーン”に入ったテイク」がいくつかあって、これもゾーンに入ってるんですよ。今時はあとで正確に直すのが正しいんでしょうけど、我々がそれをやってもしょうがないし。

左から菊地英二(Dr)、みの、吉井和哉(Vo)、廣瀬洋一(B)。

左から菊地英二(Dr)、みの、吉井和哉(Vo)、廣瀬洋一(B)。

アニー さっきおっしゃっていたけど、昔はそんなもんだったじゃないですか。僕らはそれをすごくいいものとして聴いていたから、物理的にクリックに合わせるのが正解かというと、僕らの中ではそうではない。僕らが影響を受けたミュージシャンたちが正解だし、そういう雰囲気、全体でグルーヴすることが大事なので。

──そういうオーセンティックな、ビンテージロックな感じが伝わってきますね。

吉井 そうですね。もうちょっと合わせることもできるだろうけど、これくらいの塩梅がいいかなって楽しんでいますね。

アニー 昔はドラムを録ってからベース、ギターと基本的な録り方をしていたんですけど、最近は全体で録ってOKテイクを出したりとか。昔はもっとクリックを意識していたけど、最近は一緒に演奏しているものの、グルーヴの優先順位が高くなって「クリックは勝手に鳴っているもの」という意識に変わりましたね。

吉井 今話していて気付いたんですが、THE YELLOW MONKEYのアベレージのテンポというのがあって、今回のアルバムはそれより2つか3つくらいテンポを上げて録ってるんですよね。例えば8ビートのこういう曲だったら普段はもうちょい遅いんですよ。

ヒーセ そうだね。

吉井 それは意図的にそうしていて、速すぎるギリギリでとどめて録ってる。

──それはどういう意図があったんですか?

吉井 聴きやすさも生まれると思うし、聴いている側はそこをあまり気にするわけじゃないだろうけど、「ダルいな」と思われたくないというか。

ヒーセ 今回は特にそういう曲が多かったですね。

「彼の中で渾身の歌詞なんだろう」と

──東京ドームでは「Sparkle X」に収録される新曲から「SHINE ON」「ホテルニュートリノ」「ソナタの暗闇」が披露されました。特に「ホテルニュートリノ」の「人生の7割は予告編で残りの命を数えたときに本編が始まる」という歌詞は実際にライブで聴くことでファンの皆さんも感じ入るものがあったと思いますが、ここのラインはどういう経緯で思い浮かびましたか?

吉井 この曲はWOWOWドラマ「東京貧困女子」の主題歌のお話をいただいて作ったんですが、ちょうどその時期に自分の喉の病気がわかって、さらにBiSHのラストシングル(2023年3月リリースの「Bye-Bye Show」)のオファーもいただいていて。すぐに治療を始めたんですけど、歌詞や曲も作らないといけない時期だったんです。それで“せっかく”と言ったら変ですけど、自分が今思っている不安や命のこと、これを言葉にしない手はないなと。ドラマの内容は「誰の明日にも貧困が待っているかもしれない」というものだけど、自分にとっての貧困は病気だったんですね。同時に自分が普段から興味のあった死生観に対する視界もクリアになって「死んだら人っていなくなるのかな? いなくならないんじゃないかな」とか考えましたし。そういうことも踏まえてこの「今までのことって、映画で言ったら予告編でしかないんだ」という内容の歌詞ができました。

──本編がついに始まった、みたいな。

吉井 もちろん若いときのほうが元気だし、いろいろなことに恵まれているはずなんだけど、本編は自分が老いぼれたときに始まるものなんだな、と。

アニー 忘れられないのが、最近はグループLINEで歌詞を送ってくれるんですけど、その中で「初めて今までぼんやり思っていたことを形にできた」と言っていて。

吉井 そんなこと言ってた?

アニー うん。「彼の中で渾身の歌詞なんだろう」と、そういう印象を受けました。

吉井 そんなことバラすなよ、恥ずかしい!(笑)

──(笑)。この曲もそうなんですけど、アルバム全体を通して私小説的に解釈できる歌詞が多い気もしまして。僕が勝手に感じただけかもしれないですが「今までのTHE YELLOW MONKEYってこんな感じだったっけ?」と思うところもあって。

吉井 ははは。

──それは作詞のアプローチに関してジョン派、ポール派みたいなものもあるなと思っていて……。

ヒーセ きたきたきた(笑)。

──すみません、オタクギアが上がっちゃって(笑)。

ヒーセ オタクギア3速(笑)。

──ポールは物語型というか、自分のことはそんなに書かない。ジョンは経験から来るストーリー、私小説を描くみたいな。今作を聴いているとやっぱりバンドについて、あるいは吉井さんについての内容がすごく多いのかなと。

吉井 ジョン派?

──ジョン派の瞬間が。それこそ「SHINE ON」だったら「切り刻まれても進むプラナリア」とか、“苦難にぶつかっても行くぞ”という決意表明が見えるところもあって。

吉井 今までもジョン派のつもりで、自分の身に起こっていたことを歌詞に書いていたつもりだけど、今回はリアリティがさらに出たかもね。

アニー もうちょっとオブラートに包んで歌っていたと思うんですよね。それが一人称を感じにくいという印象につながったかもしれない。

吉井 ちょっとスッピンっぽいのか。今まではお化粧していたかもね。

2024年6月7日更新