困難を乗り越えたTHE YELLOW MONKEY、“アルバムアーティスト”の神髄に迫る過去作+最新作徹底レビュー (2/2)

ニューアルバム「Sparkle X」

「Sparkle X」初回生産限定盤

「Sparkle X」初回生産限定盤

THE YELLOW MONKEYの5年ぶり、通算10作目のニューアルバム「Sparkle X」を聴いた。5月10日に都内某所で開催された、メンバー参加の合同記者会見を伴う映画館での試聴会で爆音で聴いた。これまでの9作を確実に上回る、楽器とボーカルの解像度の高さと臨場感のすごさ、ある意味原点回帰のロックンロールに特化した突進力にひたすら圧倒された。ご存知の通り、この数年間にバンドは大きな危機に直面していたが、その困難さえもエネルギーに転換して前進する、生命力のほとばしりに感動した。2024年、THE YELLOW MONKEYは生きている。我々も生きねばと思う。

5月10日に行われた「Sparkle X」試聴会&合同会見の様子。(撮影:横山マサト)

5月10日に行われた「Sparkle X」試聴会&合同会見の様子。(撮影:横山マサト)

アルバムの冒頭を飾る「SHINE ON」は、絶妙にタイミングをずらしたツインリードギターのイントロがいきなりカッコいい。The Rolling Stonesを彷彿とさせる、独特の揺れを持つこうしたダンサブルなサウンドは、ダンス志向のロックバンドの定型だが、THE YELLOW MONKEYもその手法を完全に身に付けている。肌はイエロー、志はブラック。バンドのアイデンティティを今一度確かめるような、吉井和哉の歌詞もばっちりハマっている。

ダンサブルなグルーヴをキープしたまま、さらにアクセルを踏み込んで速度を上げるのが「罠」だ。トリッキーな仕掛けを加えずとも、ジャーン!とコードを弾くだけでサマになる菊地英昭のギター。ご機嫌に弾きまくるオルガン。ぐんぐん上がるエンジンの回転を正確無比に車輪へと伝え、疾走するリズム隊。記者会見で吉井が語ったところによると、「HEESEY(廣瀬洋一)がソロでやったら作りそうな曲」をイメージしたらしい。再集結後は新しいTHE YELLOW MONKEYの音を作ろうとしてきたが、「今はメンバーが好みそうなものを自由にやってもらうのが楽しい」と吉井。「Sparkle X」から感じられる原点回帰感は、そのあたりにもヒントがあるのだろう。

3曲目に登場するのは「ホテルニュートリノ」。THE YELLOW MONKEYとしては珍しい、軽快なスカのリズムを取り入れたことについて、記者会見で吉井は「そういえばやっていなかったシリーズ」と言っていた。The Specials、Madnessなど1970年代後半のツートーンムーブメントへのオマージュを感じる、古いけれど新しいサウンドが新鮮だ。そしてこの曲の歌詞にはすごいパンチラインがある。「人生の7割は予告編で、残りの命数えた時に本編が始まる」──この曲について吉井は、自らの闘病と、最晩年のデヴィッド・ボウイの生き様を引き合いに出しながら、「自分の命を見つめたときにクリエイティブになれる」と力強く語ってくれた。聴き心地は軽快なのにずしりと重い、「ホテルニュートリノ」はアルバムの核心をなす曲の1つだ。

「透明Passenger」もダンス志向のロックバンドが好むサウンドで、リズム隊は最初はクールでストイック。だんだん手数を増やして温度を上げ、最後はとびきりホットでにぎやかに終わる。饒舌なギターとピアノが楽し気に寄り添う、あっけらかんとした明るさが楽しい曲。続く「Exhaust」は菊地英昭の作曲で、ダンサブルでありながらややダークな色合いを帯び、ベースとドラムの表情もかなりストイック。あえて言うなら歌とメロディよりも演奏を聴くタイプの曲で、ボーカルの隣で歌い続けるように弾きまくる菊地英昭のギター、背後でしっかり存在感を発揮するオルガンなど、細かい聴きどころは多い。ちなみにこのアルバムでキーボードを弾く三国義貴は、90年代の活動時に欠かせないサポートメンバーだったが、再集結後の作品に参加するのは初となる。吉井曰く「人間的に安心感があり、サウンドの隙間を埋めてくれる不思議な粘着力」を持つプレイヤーで、彼の存在がこの「Sparkle X」にもたらしたものは小さくない。ぜひ何度も聴いて確かめてほしい。

アルバムは中盤へと進む。ロカビリー風のシャッフルビートと乾いたサウンドを持つ「ドライフルーツ」も魅力的な演奏で、特に間奏のギターソロは「このアルバムで一番好き」だと菊地英昭も自信満々で言っている。珍しくアームを使ってみたとのことで、ギタリストは必聴のテイクだ。続く「Beaver」はかわいらしい童謡めいたメロディのポップチューンで、演奏は驚くほどにシンプル。ロックとは呼べないほどにかわいらしい曲だが、こういう曲をさらりとやってのけるのがTHE YELLOW MONKEYのロックだ。「子供の心で」という歌詞のフレーズが印象的な、楽しくてちょっぴり寂しい、大人向けの童話ソングと言っていい。

「ソナタの暗闇」は、ソリッドでストイックなTHE YELLOW MONKEYサウンドの“粋”と言える曲で、スネアの頭打ちがリードするアップテンポの曲調をキープしながら、細かい音の出し入れ、演奏とボーカルとの駆け引きなど、大胆にして繊細なアンサンブルの妙が楽しめる。往年のグラムロックの香りもする、色気たっぷりの演奏だ。そして「ラプソディ」は吉井らしさ丸出しの、明快でキャッチーな歌謡ロックの世界。理屈抜きで楽しい曲をさらに楽しくするのは、童謡「クラリネットをこわしちゃった」をヒントにしたという歌詞で、言葉遊びの中にメッセージを込めたユーモラスな世界観は吉井ならでは。「Beaver」「ラプソディ」の2曲はある意味古くて新しい、童心を大人の感性でくるみ込んだ共通項がある。

10曲目には、菊地英昭が単独で作詞作曲を手がけた「Make Over」が入った。記者会見での質問には、災害や戦争が絶えない現代について思うことを「Pura Vida」(スペイン語で「元気?」「いいね!」「純粋な生活」などの意)という言葉を軸に組み立てていった歌詞だと答えている。歌う吉井も「EMMA(菊地英昭)にしか出せない男っぽさ、説得力がある」と絶対の信頼を置く、詞・曲ともに明快でパワフルな、ポジティブメッセージあふれる曲だ。

5月10日に行われた「Sparkle X」試聴会&合同会見の様子。(撮影:横山マサト)

5月10日に行われた「Sparkle X」試聴会&合同会見の様子。(撮影:横山マサト)

アルバムのラストを飾る「復活の日」は、東京ドーム公演のアンコールで初めて観たミュージックビデオのシーンを鮮やかに思い出す。もともとアルバムの1曲目にするつもりだったという、まさにバンドの復活を力強く印象付ける曲で、雄々しいコーラス、広い音像、過去のロック名曲へのオマージュをちりばめたアレンジ、そして驚くほどにストレートでてらいのない吉井の歌詞。「負けるわけにはいかない、勝利を掴め」「悲しかった時間は無駄ではないよ」「一緒ならなんだって乗り越えられる」──すべてを肯定する包容力に満ちた、これがTHE YELLOW MONKEYの新たなアンセムだ。

過去2年にわたる吉井の喉の病気が、歌詞の世界観に大きな影響を与えたこと、体調的に今できるロックを自然に追求した(せざるを得なかった)こと、それをメンバーにカラフルに彩ってもらったことなど、「Sparkle X」の内幕について先日の会見で吉井は語ったが、それについてはほかの記事やレポートに任せて、ここでは多くは触れないでおこう。言葉にせずとも、このアルバムは吉井が、THE YELLOW MONKEYが命を削るようにして全力で生み出した作品であることは、音を聴けばわかる。そしてそれはとてもシリアスなものだが、同時に明るく豊かでポジティブなものであることもわかる。「Sparkle X」=輝く10枚目、もしくは、輝く未知なるもの。前向きなタイトルにふさわしい、輝かしいロックンロールアルバムだ。

ライブ情報

THE YELLOW MONKEY TOUR 2024/25 ~Sparkleの惑星X~

  • 2024年10月15日(火)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2024年10月20日(日)愛媛県 愛媛県県民文化会館 メインホール
  • 2024年11月1日(金)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2024年11月7日(木)広島県 広島文化学園HBGホール メインホール
  • 2024年11月10日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年11月15日(金)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
  • 2024年11月21日(木)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年11月26日(火)栃木県 宇都宮市文化会館 大ホール
  • 2024年12月1日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2024年12月7日(土)福井県 フェニックス・プラザ エルピス大ホール
  • 2024年12月9日(月)大阪府 フェスティバルホール
  • 2024年12月13日(金)鹿児島県 川商ホール(鹿児島市民文化ホール)第1ホール
  • 2024年12月28日(土)東京都 日本武道館
  • 2025年1月8日(水)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2025年1月15日(水)大阪府 大阪城ホール
  • 2025年1月19日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2025年1月24日(金)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2025年2月7日(金)東京都 東京ガーデンシアター
  • 2025年2月11日(火・祝)福島県 けんしん郡山文化センター 大ホール
  • 2025年2月14日(金)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
  • 2025年2月23日(日)岡山県 倉敷市民会館
  • 2025年3月7日(金)熊本県 熊本城ホール メインホール
  • 2025年3月14日(金)富山県 オーバード・ホール 大ホール
  • 2025年3月17日(月)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年3月20日(木・祝)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2025年3月27日(木)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
  • 2025年4月4日(金)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
  • 2025年4月13日(日)山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)大ホール
  • 2025年4月22日(火)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2025年4月30日(水)東京都 NHKホール

プロフィール

THE YELLOW MONKEY(イエローモンキー)

1989年に吉井和哉(Vo)、菊地英昭(G)、廣瀬洋一(B)、菊地英二(Dr)の現メンバーで活動開始。ハードロックとグラムロック、歌謡曲を融合させた独自の音楽性で人気を集める。1995年1月にリリースされたシングル「Love Communication」がスマッシュヒットを記録し、その名を一気に広めた。「JAM」「楽園」「LOVE LOVE SHOW」「BURN」といったヒットソングを次々と送り出すも、2001年1月の東京ドーム公演「メカラ ウロコ・8」を最後に活動休止状態に。そして2004年7月に解散を発表した。解散後はメンバーそれぞれソロで活躍していたが、2016年1月に再集結を発表。2019年4月に19年ぶりのアルバム「9999」を発表した。2019年末にスタートした結成30周年記念の東名阪ドームツアーは新型コロナウイルス感染拡大の影響により途中で中止を余儀なくされたものの、2020年11月に東京・東京ドーム公演のリベンジ開催を果たす。2023年10月には吉井が約2年にわたる喉の病気の治療を経て療養していたことを発表。2024年4月に約3年半ぶりの有観客ライブを東京ドームで開催した。同年5月に5年ぶりのニューアルバム「Sparkle X」をリリースする。

※記事初出時、一部楽曲タイトルに誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

2024年5月24日更新