THE YELLOW MONKEYの10作目となるオリジナルアルバム「Sparkle X」が5月29日にリリースされる。
THE YELLOW MONKEYのアルバムリリースは2019年4月、再集結後初のアルバムとして発表された「9999」以来5年ぶり。前作リリース後のTHE YELLOW MONKEYの活動にはコロナ禍が大きな影をもたらしたのはもちろん、吉井和哉(Vo, G)の喉の病気によりバンドの存続自体も危ぶまれる事態となった。そうした困難を乗り越えて完成したアルバム「Sparkle X」には、メンバー4人の強い意志と音楽に対する熱い愛情が込められた全11曲を収録。タイトル通り、輝かしく進んでいこうとする生命力に満ちあふれた作品となった。
今回の特集では最新作「Sparkle X」、そしてデビュー当時より各時代ごとにバンドのスタンスや音楽性を反映してきた過去のアルバム9作品のレビューを掲載。アルバムアーティストとして1つひとつの作品に高い芸術性を発揮してきたTHE YELLOW MONKEYの神髄を改めて感じ取ってほしい。
文 / 宮本英夫
「THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE(夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)」
「止める人もなくイエローモンキー業界入り」。音楽雑誌に載ったキャッチコピーを懐かしく思い出すが、裏を返せば「止められても仕方ない」バンドだったとも言えるわけで。マーケティング戦略とセールス至上主義のCDバブル時代が始まりつつあった1992年に、デヴィッド・ボウイ直系のグラムロックを掲げて世に出たTHE YELLOW MONKEYは明らかに異質だった。メタルにもビートロックにもV系にも区分けしづらい個性に業界が戸惑ったか、当時はチャートの順位も評価も高くなかったが、HM/HR出身メンバーの確かな演奏力、線の細い中性的な声質が魅力的な若き吉井和哉の演劇的歌唱、そしてアルバム全体を貫く洋楽ロック+歌謡曲の美学は今こそ新鮮。デビューシングル「Romantist Taste」も収録されている。
「EXPERIENCE MOVIE(未公開のエクスペリエンス・ムービー)」
ニューウェイブ期のボウイを彷彿させるクールでハードな「MORALITY SLAVE」から、吉井の渾身の熱唱が聴けるソウルバラード「シルクスカーフに帽子のマダム」まで、65分にわたって繰り広げられる背徳と懺悔のロックショー。演奏も歌も前作よりパワーアップし、「審美眼ブギ」のホーンセクション、「4000粒の恋の唄」のアコーディオンなどアレンジもグレードアップ。先日の東京ドーム公演で吉井が「260万枚を売り上げる予定だった」と自虐的に紹介したポップなシングル曲「アバンギャルドで行こうよ」も、現在もライブ終盤の定番曲として君臨する「SUCK OF LIFE」も収録されている。ヒットを欲しつつも時代におもねることなく、アートとしてのロック美学を追求する姿勢は次作まで続く。
「jaguar hard pain」
このアルバムのツアーを中野サンプラザで観たが、観客は盛り上がるというよりも食い入るように舞台を見つめていたように記憶する。本作は「1944年に戦死したジャガーが、50年後にタイムスリップして恋人マリーを探す」というコンセプトのアルバムで、ボウイの「ジギー・スターダスト」に影響された者として、吉井は一度はこうした作品を作らずにはいられなかったのだろう。壮大なバラードで始まりバラードで終わる重厚な聴き応えだが、「A HENな飴玉」「ROCK STAR」などライブでノれる曲もある。注目は「悲しきASIAN BOY」。歌謡曲的なサビのメロディでアジアのロックバンドとしてのプライドを掲げた、昔も今も絶対の代表曲。ここまで3作でバンドの「初期」は終わる。
「smile」
ここからの3作は、アーティスティックな初期衝動の時期を脱し、ヒットチャート上位を狙うポピュラーなバンドへの転身を図った彼らの挑戦と成功の軌跡だ。中ヒットを記録した「熱帯夜」「Love Communication」「嘆くなり我が夜のFantasy」を筆頭に、より単純化され強力化したリフ、メジャーコードのキャッチーなサビ、カラオケ向きの歌いやすいメロディがぐっと増えた。オリコンチャートでも過去最高の4位を獲得。ボウイの「レッツ・ダンス」と比較できそうな出世作だが、冒頭の意味深なナレーション、前作の残り香のような「争いの街」、あまりに悲しいバラード「Hard Rain」など、軽く聴き流すことを許してはくれない。あくまでアルバムアーティストでありたいという意識を強く感じる。
「FOUR SEASONS」
1995年4月に初の武道館公演を経て、2大ヒット曲「追憶のマーメイド」「太陽が燃えている」を収録し、当時のヒットの指標だったオリコンチャートで念願の1位を獲得した作品。“まず僕は壊す”と、破壊と創造を賛美するアンセム「Four Seasons」で始まる11曲は、ひと言で言えば自信満々。初の海外・ロンドン録音作で、楽器やボーカルの整理されたクリアさは素晴らしいが、アレンジやサウンドが極端に変化したようには感じられない。日本人に向けた日本のロックバンドであるという自覚のなせるわざだろう。吉井が私的な感情をさらけ出す「Father」、菊地英昭が初めて単独で作曲を手がけた「空の青と本当の気持ち」と、ラスト2曲のエモーションの高まりは何度聴いても格別。
「SICKS」
TRIADからファンハウスへ移籍した本作もチャート1位、過去最高のセールスを記録し、吉井も「最高傑作」と自負する1作。シングルは「楽園」のみで、Led Zeppelinばりのリフがカッコいい「TVのシンガー」、ブルージーな「紫の空」などダークで攻撃性の高いサウンドがずらり。廣瀬洋一が作曲に関わった「HOTEL宇宙船」も、明るめの曲調のわりにポップというよりはヘヴィ。洋楽ロックの質感と邦ロックや歌謡曲を折衷する美学は、ここに1つの完成形を見たと言っていい。が、先日の東京ドームでも重要な位置で歌われた「人生の終わり(FOR GRANDMOTHER)」、そして「天国旅行」の鬼気迫る吉井の歌には成功者の余裕の欠片もない。バンドの新たなる破壊と衝動をすでに暗示しているようだ。
「PUNCH DRUNKARD」
3作連続でロンドン録音、チャート1位も3作目。ダーティなガレージロック「PUNCH DRUNKARD」で幕を開ける本作は、前々作の勢いと前作のすごみを踏まえ、トップバンドの自信みなぎるパフォーマンスがしっかりとパッケージされている。オリコンチャート1位を獲得したロックバラードの金字塔「球根」をはじめ、「LOVE LOVE SHOW」「BURN」「離れるな」と、ヒット曲も満載だ。が、一方ではエロティックな妄想まみれの「見して見して」、シュールな表現が飛び交う「クズ社会の赤いバラ」「セックスレスデス」など、歌詞のぶっ飛び具合が一気にエスカレート。吉井のポエトリーを波音とピアノに乗せた「SEA」も、美しい幻想というよりは不穏な感覚が先に立つ。ぎりぎりの危ういバランスが本作の魅力だ。
「8」
エイトではなくハチ。113本に及ぶ前作のリリースツアーと長めの休養を経て、約半数の曲で外部プロデューサーを起用して新たな音作りにトライしたアルバムだ。当時は賛否両論あったらしいが、グルーヴィなオルガンが映える「バラ色の日々」、メランコリックなピアノと歌が絡み合う「聖なる海とサンシャイン」、アダルトなラテン風味の「SHOCK HEARTS」など、楽曲としての魅力を引き出すいいアレンジだと思う。この時期の彼ららしいダーティな攻撃性を持つ「サイキックNo.9」や、メランコリーと疾走感がしっかりと絡み合う「パール」など、忘れがたい佳曲も多い。結果的にバンドはこのあと解散を決めるが、ある意味未完成に終わったからこそ、このアルバムの4人の挑戦は今も新鮮に聴こえる。
「9999」
前作から19年ぶりにリリースされた9作目。再集結初期に作られた「砂の塔」や「ALRIGHT」、菊地英昭が初めて単独で作詞作曲を手がけた「Horizon」など7曲は日本での録音で、「I don't know」など6曲はLA録音。前者は過去のTHE YELLOW MONKEYやソロ活動の延長線上にある曲調、後者は2010年代アメリカンロックに接近したガレージ感があるざらついた音作りで、アルバム全体が再集結の過程をたどるドキュメンタリーのような作品に仕上がった。復活作として文句なしの傑作だが、注目は歌詞の変化で、「50代の人間が歌うロックンロールとは?」と考えた結果、「“愛”が多いアルバムになった」と吉井は語る。19年前の葛藤はもうない。4人がのびのびロックしているのが何よりうれしい。
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ニューアルバム「Sparkle X」レビュー