音楽ナタリー PowerPush - The Verbs
レジェンドたちが奏でるこだわりの「Cover Story」
純粋に自分たちがやりたいことができる
──レコーディングに際して苦労やトラブルはありませんでしたか?
スティーヴ 僕たちは自分たちのレーベルからリリースできるから、レコード会社のスタッフからプレッシャーをかけられることもなくてね(笑)。「このアルバムはこの日までにリリースしないと」とか、「もう終わらせないと!」とか、「予算オーバーだよ」とか言われることがないんだ。ただただ常によりいいものを求めて努力をしたよ。自分たちが理想とするものに近付ける作業は大変だったけど。
──あくまでも、納得する音源ができたときがゴールだと。
スティーヴ その通り! 素晴らしい仲間に恵まれて僕たちはラッキーだよ。トロイ・ジェルマーノのGermano Studiosでミックスをしたり、STERLING SOUNDでグレッグ・カルビにマスタリングしてもらったり。BLACKBIRD STUDIOでウィリーのベースを録音させてもらったり。このアルバムは、才能あふれる人たちにいろいろと協力してもらって作り上げたんだ。
ミーガン 一流中の一流の人たちが手伝ってくれてできたアルバムなのよ。
──民生さんはレコーディング中に大変なことはありませんでしたか?
奥田 僕がアメリカに来るときは時差があるんで、基本眠くてですね。そこが大変でした(笑)。こっちでレコーディングするときは、みんな眠い状態の自分しか知らないと思います。日本でギターだけ録るときは基本的に任されているので、好きなように演奏させてもらった感じです。レコーディングも自宅のスタジオだし、気兼ねなくやれましたね。
──ちなみに民生さんはギタリストとしての自分のカラーは意識しましたか?
奥田 無理に自分のカラーを出そうという気持ちはなく。ただ臆せず、自然に出てきたフレーズを弾いた感じですね。スティーヴたちも僕にそこを求めていると思いましたし。
──ウィリーさんは大変だった点などありましたか?
ウィリー なかったかな……いや、1つだけあったな。スティーヴやミーガンと一緒にスタジオに入ることができなくて、スティーヴが1、2曲トラックを送ってくれたんだ。そのトラックに自分のベースを入れることになったんだけど、「ちゃんとできるかな、スティーヴは満足してくれるだろうか?」って心配になったね。結局何度かやり取りして、無事完成したんだけど。
スティーヴ ミーガンと僕にとって、ウィリーと民生という素晴らしいミュージシャン2人と演奏できるのは特権みたいなものなんだ。そんなに恵まれた環境は常日頃あるものではないからね、特にグループでは。バンドってある環境のもとから脱しようとして結成されたり、同じ出身地の者同士が結成して、時間が経つと巣立っていったり、そこから抜け出そうとしたりするケースが多いんだ。でも僕たちの場合は、もともとそれぞれで活動していたし、「音楽への愛」を通じて結成したからね。そしてお互いのことを純粋に愛し合っている。僕たちが唯一関心があるのはいい音楽を作りたいということだけなんだ。だから対立することもないし。ただ1回だけ、僕はウィリーの音に注文をつけたよ。なぜかというとあまりにもウィリーが保守的に演奏していたからなんだ。「もっとクレイジーでいいのに!」ってリクエストしたら、すぐに理解してもらえて素晴らしいテイクが戻ってきたよ。僕たちは彼のクレイジーな部分を開拓したかったんだよ。ウィリーの新しい一面もアルバムでは感じられると思うよ。
──ちなみに皆さんはThe Verbs以外にもいろんな形で音楽活動を行っていますよね。すみ分けなどはあるんでしょうか。
スティーヴ あるね。僕の場合だけど、サポートとして誰かのために演奏するときは、そのアーティストのことを満足させたいと思ってるし、アーティストの感覚を尊重するから“自分の音楽”ではないと思ってる。でもThe Verbsは、自分で本当にやりたいことを実現させることができる場所なんだ。純粋に自分たちがやりたい音楽を演奏することができる。そういうバンドなんだよ。
奥田 僕もありますね。特に意識して変えるわけじゃないですけど、その相手と一緒にプレイすることで出てくる音は変わりますね。The Verbsはシンプルなロックが多いから、それにあわせたギターになります。あとみんなすごいキャリアの持ち主だし、一緒にやってて勉強になることが多いです。
──今回はカバーアルバムですが、次回作がオリジナルだった場合、民生さんのアイデアが反映される可能性はありますか?
奥田 僕がやる気になって、自分からプレゼンすればって感じですね(笑)。ただ今は「Cover Story」ができたばかりだし、全然イメージできないです。
「日本でお待ちしてます」
──民生さんにお聞きしたいんですが、初のアメリカライブはいかがでしたか?
奥田 ステージに立っている感じは日本と変わらないっちゃ変わらなかったかな。時間が経つにつれてリラックスできたし。
──これまでのキャリアの中で、海外でライブをする自分を想像したことはありますか?
奥田 あんまり想像してなかったですね。もともと特に目標も掲げず、行き当たりばったりで来たんで(笑)。今回もスティーヴがいろいろやってくれて、楽器もギター1本持ってきただけであとは借り物だし。彼が気を利かせてギブソンのギターばっかりを用意してくれたんで楽でした。もうちょっとアメリカでやるってことを大変だと思わなくちゃいけなかったのかな(笑)。
──今後ライブをしてみたい国はありますか?
奥田 やれるところがあればどこでもやりたいですけど……。The Verbsの場合はアメリカでやるほうが簡単だろうなと思いますね、メンバーもそろいやすいし。あと海外でライブをする場合は、ソロよりバンドでやるほうが楽しいと思う。
──弾き語りなどのほうが気軽にできるイメージがありますが……。
奥田 あんまり1人で海外まで来てライブをすることに興味がないんですよ(笑)。
──なるほど。ちなみにThe Verbsとしてのツアーは今後予定されているんでしょうか?
スティーヴ ヨーロッパ、アメリカ、日本でのツアーは考えているよ。とりあえず人気者の民生がユニコーンの仕事を一区切りさせたらという感じかな(笑)。そんなわけでいつできるかは民生にかかっているよ!
奥田 いやいや、いつでもどうぞ!
──3度目の日本ツアーをやるとしたらどこでライブをしたいですか?
ミーガン 私は民生の地元の広島かしら。前回のツアーで広島のライブがとても印象的だったの。もちろん東京も大好きだし……もう日本のすべてが好きよ。
ウィリー 僕も日本が大好きだから、ぜひ日本ツアーをやってみたいね。僕の親類も日本に住んでいるし、日本に行くなら妻を日本に連れていってあげなくっちゃ。
スティーヴ そうだね。僕が特に好きな街は京都かな。前回のツアーでライブをしたのは磔磔だっけ? 東京の大きな会場で演奏することも楽しいけど、磔磔は魔法がかかっているというか。会場全体にすごいエネルギーを感じるし、オーディエンスと近い距離で演奏できるし。とにかく素晴らしいんだ。
奥田 ぜひ日本でお待ちしてます(笑)。
収録曲(カッコ内はオリジナルアーティスト)
- Till The End Of The Day(The Kinks)
- Baby Blue(Badfinger)
- Black Is Black(Los Bravos)
- Easy Now(エリック・クラプトン)
- United We Stand(Brotherhood of Man)
- Glad All Over(The Dave Clark Five)
- I Saw The Light(トッド・ラングレン)
- You Showed Met(The Byrds / The Turtles)
- Have You Ever Seen the Rain(Creedence Clearwater Revival)
- I’m Not Lisa(ジェシー・コルター)
The Verbs(ヴァーブス)
エリック・クラプトン、ボブ・ディラン、B.B.キングといったアーティストのレコーディングやライブに参加するドラマーのスティーヴ・ジョーダン(Dr)と、その妻であるミーガン・ヴォス(Vo, G)が2006年に結成。2010年に奥田民生が正式メンバーとして加入した。現在はエリック・クラプトンをはじめ、矢沢永吉、チャカ・カーンらとの共演経験を持つウィリー・ウィークス(B)を含む4人編成。2015年3月に1960~70年代の名曲をカバーした3rdアルバム「Cover Story」を発表した。