音楽ナタリー PowerPush - The Verbs
レジェンドたちが奏でるこだわりの「Cover Story」
4年半かけて作り上げた「Cover Story」
──前作「Trip」から4年半という時間が空いた理由はなぜですか?
スティーヴ 実は「Cover Story」のためのレコーディングは、前ベーシストのピノがいた時代からやっていたんだ。最初のレコーディングセッションはニューヨークのAvatar Studiosで1日で14曲くらい録って。結局全部使わなかったけど。ただそのレコーディングで、自分たちがやりたいこと、やりたくないことを明確にすることができたんだよね。とにかく納得がいくまでやりたかったんだ。普通であればオッケーを出すようなクオリティでも、自分たちが求める音ではないときは録り直したりして。キーも、テンポも、グルーヴも、すべて自分たちがしっくりくるまで何度もレコーディングし直したんだよ。The Beatlesのアウトテイクを聴くたびにいつも感じるんだけど、周りからしたらものすごい完成度の音でも、彼らは妥協せずに追求してるんだよね。そうやって試行錯誤をしていくと素晴らしい音ができあがるんだ。このアルバムについても妥協せずにやっていたら、時間が経っていたという感じさ。
奥田 最初からアレンジし直した曲もあるしね。レコーディングのためにまとまった時間が取れない分、少しずつ作業していって。気付いたら4年半経ってた感じですね。
──今回カバーアルバムという形を選んだ理由は?
ミーガン・ヴォス(Vo, G) 私が昔ガールズバンドに所属していた頃、契約したいと言ってきたレコード会社の部長に「君たちのやっている音楽は素晴らしいけど、カバーソングをやったほうがブレイクしやすい」って言われたことがあるの。ブレイクしたいかどうかは別にして、その言葉がずっと心に残っててね。2ndアルバムの「Trip」ではニール・ヤングの「Only Love Can Break Your Heart」をカバーしたんだけど、あのカバーがハワード・スターンの番組でオンエアされてヒットしたの。それでオリジナルアルバムを作るのもいいけど、カバーをやってみるのも面白いと思ったわけ。
──カバーする曲を1960年代から70年代までの楽曲にフォーカスした理由はありますか?
ミーガン 結果的にそうなっただけで、意図したわけではないの。ただ私たちが大好きな曲だけを選んだらこういうラインナップになったのよ。自分が歌いやすいとかそういうことはまったく考えず選んだわ。あとは自分たちにとってカバーをする理由があったから、カバーしたという感じね。
スティーヴ カバー曲をやるには何かしらの理由があるはずなんだよ。ただ演奏するだけというのは意味がなくて、その曲に“何か”をもたらすべきなんだ。例えば少しずつメロディを変えてパーソナリティを加えていくことで、その曲をよりユニークなものにしていくんだ。そうすることによって “僕たちのサウンド”になるからね。レコーディングで何曲もカバーしたけど、アルバムではその中から“僕たちのサウンド”になっているものを選んだ感じだね。
──収録されているのは世界中で愛されている名曲ばかりです。日本ではトッド・ラングレンの「I Saw The Light」やCCRの「Have You Ever Seen the Rain?」が特に有名で、いろんなアーティストがカバーしています。ただ名曲だからこそカバーする際に気を遣うところもあったと思うのですが。
ミーガン 確かにそうね。「Baby Blue」なんかがいい例だけれど、オリジナルが素晴らしいと、忠実に演奏するバンドが多いわよね。でも私たちはあえてガレージっぽい雰囲気で演奏してみたの。それがとても楽しかったのよ。原曲は大切にするけど、どの曲でも違う手法を意識するようにしたわ。
スティーヴ そういえば僕、トッドが出演するミュージカルのディレクターを務めたことがあって、本人に「I Saw The Light」をレコーディングしてることを伝えたんだよね。彼は「ワオ、それはすごいね」って喜んでくれて。あと「Cover Story」についてのインタビューを受けたんだけど、その収録をUtopiaっていうスタジオでやって。そのスタジオでトッドが「I Saw The Light」のレコーディングをしたらしいんだ。不思議な縁を感じたね。
ワイルドで素晴らしい民生のギター
──「Cover Story」のレコーディングは、4人全員がそろってスタジオに入って行ったわけではないそうですね。どうやって制作を進めたんですか?
スティーヴ レコーディングはミーガンとウィリーと僕で演奏したり、民生にアメリカに来てもらってミーガンと僕と3人で演奏したり。ピノと民生とミーガンと僕が一緒に何曲か演奏したり、という感じだったね。あとは民生にギターの音を日本から送ってもらって合体させたり。
ミーガン 民生は本当にワイルドで素晴らしいギタリストなのよ。こっちがこうしてほしいって思っている通りに弾いてくれるの。本当にぴったりなプレイなのよ。例えば「I Saw The Light」のときもそうなんだけれど、私はスティーヴに「民生にジョージ・ハリスンみたいなリードギターを弾いてもらいたいわ」って言ったのよ。曲を聴けばわかるけれど、本当に曲にぴったりなリードギターなの。トッド・ラングレンの曲だけど、私たちのカバーでは民生のおかげでジョージ・ハリスンっぽい音になったの。ウィリーもスティーヴの意図を理解して、とても美しいベースを弾いてくれたわ。
奥田 セッションのときは現場の雰囲気でアレンジを作っていきましたけど、データのやり取りで作るときは、スティーヴから送られてくる音源がざっくりしてるんで、実はよくわからない状態でギターをレコーディングしてたんです(笑)。何パターンか提出して、スティーヴたちのほうで使うパターンを決めてもらってという形で制作しましたね。
スティーヴ 今回のアルバムはいろんな場所でレコーディングしたんだけど、特に印象的だったのはAbbey Road Studiosで録った「You Showed Me」だね。残念ながら民生はスタジオに来られなくて、ミーガン、ウィリーと僕の3人でレコーディングしたんだけど、僕の人生の中でもっとも素晴らしい経験の1つになったよ。The Beatlesが初めてレコーディングしたスタジオで、演奏するのは僕たちの夢だったからね。僕はリンゴ・スターがドラムをセットした場所で叩いたんだけれど、あんなにシンプルで素晴らしい音は今までの人生で一度も聴いたことがなかった。
ミーガン そのトラックが劇場のような場所で録音したような、広い空間が感じられるサウンドで。Abbey Road Studiosで録音すると、なんとなく夢心地な音になるのよ。
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収録曲(カッコ内はオリジナルアーティスト)
- Till The End Of The Day(The Kinks)
- Baby Blue(Badfinger)
- Black Is Black(Los Bravos)
- Easy Now(エリック・クラプトン)
- United We Stand(Brotherhood of Man)
- Glad All Over(The Dave Clark Five)
- I Saw The Light(トッド・ラングレン)
- You Showed Met(The Byrds / The Turtles)
- Have You Ever Seen the Rain(Creedence Clearwater Revival)
- I’m Not Lisa(ジェシー・コルター)
The Verbs(ヴァーブス)
エリック・クラプトン、ボブ・ディラン、B.B.キングといったアーティストのレコーディングやライブに参加するドラマーのスティーヴ・ジョーダン(Dr)と、その妻であるミーガン・ヴォス(Vo, G)が2006年に結成。2010年に奥田民生が正式メンバーとして加入した。現在はエリック・クラプトンをはじめ、矢沢永吉、チャカ・カーンらとの共演経験を持つウィリー・ウィークス(B)を含む4人編成。2015年3月に1960~70年代の名曲をカバーした3rdアルバム「Cover Story」を発表した。