退職すると昼飯を食べたあと本当に眠い(笑)
──定年を迎えるなどライフスタイルにも変化があって、意識せずともそれが作品に滲み出ちゃうんでしょうかね。
それはあるかもしれないね。例えば4曲目の「昼寝のラプソディ」とか。こんな曲を書くとは自分でも思わなかったですから。今一番痛感しているけど、退職すると昼飯を食べたあと本当に眠いんです(笑)。今までは仕事中に寝ないように、かなり我慢してたんだね。そのタガが外れて、最近じゃ昼飯を食べるとソファーでウトウトしちゃう。これはよくないなと思いつつも知らず知らずのうちに寝てしまって。歌詞にも書いてるけど、夢の中で鳩が鳴く(笑)。この昼下がりの感じね。しかも土曜日が多いんだな。
──そうした話を伺うと、1曲目のアップテンポな「打ち上げで待ってるぜ」も印象がちょっと変わりますね。ぱっと聴くと、打ち上げの飲み会で、皆さん年齢のわりに揚げ物とかやんちゃなツマミをたくさん頼んでるように思えるんですが……。
そうじゃない。こちらが頼んでいるわけじゃなくて、安い居酒屋のセットメニューだから勝手に出てきちゃうんです(笑)。レコーディングのあとにスタジオの近くの飲み屋で一番安いところを探したんだけど、日曜日だからあまり空いてなくて。それでいざ見つけたら、「ビールはありません」っていうわけよ(笑)。ハイボールしかない、安さを売りにしてる店でね。ツマミが鶏のから揚げとかポテトフライとか、そんなのしかない。俺たち大学生じゃないんだから。だけど安く飲むには、こちらにツマミの選択権はないわけ。そういう状況を歌にしました(笑)。
──この数年で急激に変わった生活様式に感じるモヤモヤとか、時代の変化に対応しきれないジレンマみたいなものをすくい上げるのも吾妻さんの歌に感じる大きな魅力だと思うんです。その真骨頂と言えるのが、11曲目の「誰もいないのか」。ファミレスでは店員の代わりに配膳ロボットが動き回ってたり、居酒屋の注文もモバイルオーダーで、店の人との会話もほとんどなくなったり。この曲はライブで先に聴いたんですが、「吾妻さん、ここに目をつけたか!」と衝撃を受けました。
でも、みんなが思ってることでしょ?
──そうなんですが、それをブルースに昇華させてしまう着眼点と描写力が、やっぱりさすがだなと唸りました。
これは実話をもとにした歌詞なんですよ。さっきも話に出た、中野のブライトブラウンというライブバーに友達と2人で出たとき、本番前に近くで一杯やろうと思ったら、スマホでしか注文できないタイプの店だったんです。それで、店の端末でメニューを見ようと思って声をかけたら「うち、そういうのないんです」って、店員に素っ気なく言われて。「この店は、人の機材(スマホ)で商売しようっていうのか!」って頭に来て出てきちゃった(笑)。
──しかも、そういうシステムのくせにWi-Fi設置してない店もあったりしますしね。
それで次の店に入ったら、ロボットがビールを運んできた。ロボットが配膳するのはいいんだけど、故障か何かでウィンウィン言い始めて、俺たちの席から全然離れないわけですよ(笑)。
──歌詞そのまんまの状況じゃないですか!
いつまでも俺たちの席から帰らなくて困り果てていたら、店のスタッフがやってきて、ロボットのボタンをカチッと押してリセットされて。「こいつの人生、今終わったな」って、その姿を見たらかわいそうになっちゃった(笑)。
──切ない光景ですね。
その体験があまりにも強烈でね。そのほかにも、頭に来てることが2つぐらいあったから、歌詞にして供養しなきゃと思って。
なんだかんだ言ってバンド活動は楽しい
──そして最高なのが「俺の薬はデカい」。歳を取ると飲んでる薬の量を自慢しあうというのは昔からあると思うんですけど、薬のデカさ自慢にはたまげました(笑)。
なんの薬か忘れたけど、メンバーと話してたら「お前、薬デカいな!」って話になった(笑)。それからずっと曲にしたいなと思っていたんだけど、なかなか形にならなくて。ある日、マディ・ウォーターズの「Got My Mojo Working」じゃないけど、薬をおまじないみたいなものに例えちゃえばいいかなと思いついて。「俺の薬はお前にだけは効かない」みたいなね。
──「お前は俺の変異株 まだまだ続くぜ / 先が見えないぜ」というフレーズが素晴らしいですね。思えば、前作はコロナが流行する以前に制作されたものだったわけで。前半に話した「Old Fashioned Love」をはじめ、コロナ禍の影響はアルバムの随所にうかがえますね。
ライブが思うようにできない時期も長かったですからね。コロナ前後でバンドとしての変化はないけれども、最初の手探り状態の頃はライブをやるべきかやらないべきか、けっこう迷った時期があって。制限付きでライブをやれるようになってからも、クアトロのフロアに四角いマスを書いて、マスの中に1人ずつ入って観てもらうという日もありましたね。あのとき、150人だけお客さんを入れたんだったなあ。最近、取材で「今、こうやってライブができるようになってよかったですよね」って言ったら、インタビュアーの方から「また、いつできなくなるかわかりませんからね」って返されて、ガーンとなりました。確かにそうなんだけど、それを今言われてもね(笑)。
──しかし、コロナ禍を経ても皆さん健康で、こうして新作を発表することもできて。
本当にね。それこそ、普通にライブができること自体がありがたいことで。
──以前、別の機会に吾妻さんに話を伺ったとき、「バンドが長く続く秘訣は?」と聞いたら、「そりゃもう、楽しいからだよ」って即答されたのが、強く印象に残ってるんです。
そうそう。楽しいのもそうだし、集まる機会が限られてるっていうのも大事だね。普段みんな仕事してて、あまり会わなかったから(笑)。
──そういう意味では、仕事をリタイアしたメンバーもちらほら出てきて、以前に比べて会う機会は増えたんじゃないですか?
確かに増えたけど、まだ仲が悪くなるところまではいってないね。今のライブの本数がギリギリかもしれない(笑)。舌打ちが聞こえ始めたらマズい。でも、なんだかんだ言ってバンド活動は楽しいですよ。ほかに楽しいこと……何かあるかな。散歩もよくしてるけど、「散歩、楽しい! 最高だぜ!」って感じにはならないじゃない。やっぱりバンドでライブやって、たまに地方まで行って演奏させてもらって。打ち上げでメンバーと飲んで、くだらない話で腹がよじれるぐらいに笑ってね。45年前にバンドを組んだときから、今も同じような感覚でずっと続いてるっていうのは、幸せなことなのかもしれないですね。
公演情報
吾妻光良 & The Swinging Boppers「Sustainable Banquet」リリース記念ライブ
- 2025年1月11日(土)東京都 Billboard Live TOKYO
[1st]OPEN 14:00 / START 15:00
[2nd]OPEN 17:00 / START 18:00 - 2025年2月1日(土)大阪府 Billboard Live OSAKA
[1st]OPEN 15:30 / START 16:30
[2nd]OPEN 18:30 / START 19:30 - 2025年4月5日(土)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
[1st]OPEN 14:00 / START 15:00
[2nd]OPEN 17:00 / START 18:00
Gate's7 18th anniversary
吾妻光良 & The Swinging Boppers Live!
2025年3月1日(土)福岡県 Gate's7
OPEN 17:30 / START 18:30
プロフィール
吾妻光良 & The Swinging Boppers(アヅマミツヨシアンドスウィンギンバッパーズ)
1979年秋、早稲田大学理工学部の音楽サークル「ロッククライミング」に所属していた吾妻光良(Vo, G)が中心となって結成されたジャンプブルースバンド。メンバーは吾妻、牧裕(B)、岡地曙裕(Dr)、早崎詩生(Piano)、冨田芳正(Tp)、近尚也(Trumpet)、名取茂夫(Tp)、西島泰介(Tb)、山口三平(B.Sax)、小田島亨(A.Sax)、渡辺康蔵(A.Sax, Vo)、西川文二(T.Sax)の12名。1983年に1stアルバム「Swing Back with the Swinging Boppers」を発表、以降マイペースながらも8枚のアルバムを発表している。2024年11月にニューアルバム「Sustainable Banquet」をリリースした。
吾妻光良 & The Swinging Boppers 9th New Album 2024.11.20. Release!!!!