吾妻光良 & The Swinging Boppers新作発売記念企画「教えて!吾妻さん」|5人のアーティストが質問&相談

吾妻光良 & The Swinging Boppersが11月20日に通算9枚目のアルバム「Sustainable Banquet」をリリースした。

吾妻光良 & The Swinging Boppersは総勢12名からなるジャンプブルースバンド。今年で結成45周年を迎え、メンバーの平均年齢は67.2歳となった。ブルースやR&B、ジャイブといった黒人音楽をベースにした軽妙洒脱なサウンドは、ジャンルを超えて多くのアーティストから支持を集めている。そんなバッパーズのバンマスを務めるのが日本のブルース界を代表するボーカル&ギタリスト・吾妻光良だ。

味わい深い歌声と卓越したギタープレイのみならず、ユーモアかつウィットに富んだMCでも数多くのファンを持つ吾妻。今回の特集では「教えて!吾妻さん」と題して、中納良恵(EGO-WRAPPIN')、浜野謙太(在日ファンク)、久住昌之(「孤独のグルメ」原作者)、辻皓平(ニッポンの社長)、岸本ゆめの(ex.つばきファクトリー)という5人のアーティストに、新作の感想とともに、吾妻への質問・相談を寄せてもらった。後半には吾妻のアルバムインタビューを掲載する。

取材・文 / 宮内健撮影 / 沼田学

教えて!吾妻さん

──今回の特集記事は、2部構成で進行していきたいと思います。まず前半は、さまざまなジャンルの方々から吾妻さんへの質問&相談をいただいたので、そちらに回答いただきたいと思います。

はいはい、よろしくお願いします。

──それではさっそく1人目の質問から。ニューアルバムにも参加しているEGO-WRAPPIN'の中納良恵さんより、こんな感想コメントと質問が届いています。

中納良恵(EGO-WRAPPIN')

中納良恵(EGO-WRAPPIN')

バッパーズ新作の感想

やったー!!
バッパーズのニューアルバムが出た!!
視界がパッと開け、世界がはっと驚くほどの素晴らしい音源がこうして無事世に放たれること、神さまに感謝です。いや、バッパーズに感謝です。
今回も吾妻さん節、バッパーズ節が炸裂していて、さっくりと瞬時にオアシスへ連れさらってくれる至極のミュージック満載です。バッパーズの音楽は、格式の何たるも、貧富も、聖も俗も老若男女、すべての境界線を溶かす、音楽の気高い役割を担って見えます。高い音楽性と言葉のセンスと技術とユーモア。奥深い知性と感性と霊性。
からの底抜けの明るさと、キャラクターと、人間臭さ。人生は素晴らしい、生きていてよかった、といつも思わせてもらってます。
そして、なんと今回もお誘いいただき、EGO-WRAPPIN'として、1曲参加させていただきました。うれしすぎて、遠吠え。いつもながら、バンドも歌も、ソロも、せーの!一発録りの、ムード重視。1日に、何曲も録音をされるので、体力もメンタルも集中力も必要で、立ち止まってはいられないと真剣な赴き。加えて、長年連れそうバディの絆、あうんの呼吸でバンドの空気感、グルーブも奇跡的で、私と森くんも有無を言わさず、その世界観に呑まれて行きました。すごい吸引力。アナログでいてフィジカル。カッコイイです先輩。
録音後の、打ち上げも、たのしかったなあ~。お酒、美味しかったなあ~。
吾妻さん、バッパーズのみなさま、また、ライブで一緒にJumpinする日を楽しみにしています!
アルバム発売おめでとうございます!

吾妻さんへの質問・相談

歌を表現するのに何を一番大切にしてますか?


天才的なシンガーであるよっちゃんに、俺なんかが歌についてあーだこーだ語るなんて、おこがましいにもほどがある! しかも、その質問に対して、すごく幼稚な答えになっちゃうんだけど……ボーカルのレコーディングをするとき、自分が何をもってよしと判断するかというと、「ワイノニー・ハリスに似ているかどうか」なんですよ(笑)。

──まさかの基準!(笑) ワイノニー・ハリスというと、1940年代後半から50年代前半にかけて活躍したジャンプブルースのシンガーですね。豪快なシャウト唱法で人気を博した人で、吾妻さん自身も多大な影響を受けたミュージシャンだと思いますが。

そうなんです。我ながらこんな単純でいいのか?と思うけど、「よし、ワイノニーに似てるからOK!」って、ホントそれだけなの(笑)。

吾妻光良

──あははは。吾妻さんはワイノニー・ハリスの歌声のどういうところに魅力を感じるんですか?

彼は“鋼鉄の喉を持った男”と称されるぐらいに豪快で陽気な歌いっぷりが持ち味なんだけど、その猛烈なエネルギーで突き進んでいくようなところが好きです。あとは、たまにちょっと見せる内省的なところも。全部好きですね。

──バッパーズを結成した当初から、ワイノニーの歌声を意識して歌っていたんですか?

最初の頃はルイ・ジョーダンの歌い方を真似してたんだけど、あまりうまくいかなくて。たぶん「ワイノニーを聴きながら」(2002年発表のアルバム「Squeezin' & Blowin'」収録)という曲を書いたあたりから具体的に意識するようになったのかな? 私は今68歳ですけど、こうして歳を重ねると、バンドを始めたばかりの若い頃のように、好きな曲をうまくコピーできたことが楽しいと思えてくるものなんですよ。「ワイノニーに似てるからOK!」というのは、その感覚に近いかもしれないですね。似てるとうれしいんです。「中坊か!」って思うけど(笑)。それにしても「好きな人のマネをしたい!」って、すごい答えだな。よっちゃんには悪いけど、超幼稚な答えになってしまいました(笑)。

──いえいえ。キャリアと年齢を重ねた末にたどり着いた1つの境地とも言えましょう。さて2人目は、在日ファンクの浜野謙太さんからの相談です。

浜野謙太(在日ファンク)

浜野謙太(在日ファンク)

バッパーズ新作の感想

僕は最近40代を突き進んでおり、年々、歳とりたくないー!思いが強くなってきていたんですが、久しぶりに新しいバッパーズを摂取したら熟すことが怖くなくなりました。むしろ熟したい。彼らが熟したとこには泣きがあり、熟し方に笑いがあり、熟した愛は丸見えで素敵。
熟せば熟すほど伝え方があることを教えてくれるバッパーズは人生のお供です。
歳とって必需品になる「薬」のイカつさを愛や安心感に重ねるなんて面白すぎるし、でも人生をかけた表現だよなーと妙にグッときたのでした。

吾妻さんへの質問・相談

めっちゃくちゃ楽しい時、もしくは幸せな時ってどんな時ですか? 吾妻さんの歌詞にときどき出てくる、奥様なのか彼女なのかパートナーと愛のあるひとときでしょうか。僕はずっと恋をしていたいのですが、それで吾妻さんのような愛と笑いとスウィンギンな世界には辿り着けるでしょうか?


いやあ。歌詞に出てくる女性に関しては、Webの記事で公に言えることはないね(笑)。

──それはそうでしょうけど(笑)。今回のアルバムにも「Old Fashioned Love」というラブソングが収録されていますよね。

あれはね、コロナの歌なんですよ。恋愛の歌という形をとってるけど、「LINEやZoomじゃなくて、直に会いたいな」というのが、みんなの願いだったでしょ。それを恋愛に引っかけて曲にしたんです。

吾妻光良

──浜野さんは、吾妻さんが書くラブソングの歌詞の世界に憧れがあるのかなと思うんです。ロマンチックなんだけど、どこかユーモラスな感じもあって。

俺、そんなに恋愛をテーマにした歌詞書いてるかな?

──例えば、野宮真貴さんがクレイジーケンバンドの横山剣さんとのデュエットでカバーした「おもて寒いよね(Baby, It's Cold Outside)」とか。

ああ。でも「おもて寒いよね」は外国曲の訳詞ですから。

──訳詞とはいえ吾妻さんが紡ぐ詞には、翻案の妙みたいなものを感じます。欧米のラブソングにある直截的な愛情表現も、日本人ならではの奥ゆかしさや、ある種の照れから生まれるユーモアに包むことで、決して直訳にはならない独特の味わいが醸成されると言いますか。

まあ、俺みたいな男がいい歳こいて、うっとりするような恋の歌を書いてたら変態ですよ(笑)。そこはある意味、歳恰好を意識して書いてる部分はあるのかもね。歌詞を書くときに、自分のルックスが頭に浮かんで自動安全装置が働くわけです。

──吹きこぼれセンサーが作動する(笑)。

そうそう。センサーの範囲内で書いてます(笑)。

──ちなみに吾妻さん独特のユーモア感覚は、どのようにして育まれたんでしょう? 本をたくさん読まれていたとか?

最近は読まなくなっちゃったけど、一時期はSFマニアでしたね。でもSFが好きなのは、ユーモア感覚とは関係ない気もするしな……。あ、落語は昔から好きですね。兄貴が持ってた分厚い落語の本を小学生のとき熱心に読んでました。今思えば、シニカルな小噺が好きだった気がしますね。「おい、死んだら木の棺か石の棺どっちがいい?」「うーん、通気性でいえば木だけど、涼しさでいえば石かな?」みたいな(笑)。そういう感覚は子供の頃から変わってないのかも。浜野さん、恋愛について話が全然転がらなくてごめんなさいね(笑)。