吾妻光良 & The Swinging Boppers|愛され続けて40年!ハナレグミ、浜野謙太らも敬愛するバッパーズの魅力に迫る

通勤電車で楽曲制作

──5月22日には、5年8カ月ぶりの新作「Scheduled by the Budget」がリリースされました。制作にはどのような心境で臨まれたのでしょう?

吾妻 ありがたい機会なんで一生懸命やろう、ぐらいの気持ちで。

渡辺 しばらくアルバムを出してなかったから、曲が増えてたというのはありますね。

 でも何曲やれるかなあって、曲数を数えた。

吾妻 新曲は7曲だからね。

──1曲目「ご機嫌目盛」から、バッパーズらしい陽気でノリのいい演奏に、つい引き込まれます。

吾妻光良

吾妻 「ご機嫌目盛」は、去年できた曲です。アルフレッド・ベスターという作家の短編のタイトル(「ごきげん目盛り」<原題:Fonoly Fahrenheit>)なんですけどね、いい言葉だなあと思ってて。歩いてるときとか電車に乗ってるときに、「♪ごっきげんメーモーリー」って浮かんできて、これいいなあって。通勤電車で行ったり来たりしている間に譜面が埋まっていくんです。

──その時点で譜面にするんですか。ボイスメモとかじゃなくて?

吾妻 そう、書いておかないと忘れちゃうから。電車の中でボイスメモを吹き込んでたら、変わった人に思われちゃうから(笑)。

──そんなふうに歌詞やメロディは生まれるんですね。皆さんお酒がお好きなようですが、「大人はワイン2本まで」は自戒の歌でしょうか?

吾妻 いや、あれは友達の年賀状に書いてあったんですよ。年末に無茶苦茶酔っ払ってそいつがいるバーに行ったら、「吾妻さん、大人はワイン2本まで」って年賀状に(笑)。うまいこと言うなあって。「Photo爺ィ」は、同窓会でいつまで経っても写真撮ってる奴の話だし、「やっぱ見た目だろ」は数年前にニュースで話題になった人のこと。

入念に結婚させたのに……

──時事ネタお好きですよね。それに「でっすよねー」みたいにサラリーマン川柳のようなユーモアもあって、お仕事の合間のバンド活動のリアリティかと。

吾妻 まあ、そんなもんだなあ。でも時事ネタは流れが変わると歌えなくなって淘汰されていくんですよ。あと自分たちのことも、昔は「俺の家は会社」とか歌ってたけど今はそんなこと歌えない。ほぼ全員定年になっちゃったから(笑)。

渡辺 「焼肉 アンダー・ザ・ムーンライト」は、30年ぐらい前に初めて北海道にツアーに行ったときのことがネタになってるんですよ。

吾妻 生まれて初めてツアーに行けるっていうんで、これは休むしかないと思って、「親戚の結婚式です」って会社に嘘ついて行ったんですよ。野外でのライブだったんですけど、俺たちが演奏するステージの横で、会社の仲間がロケしてて(当時の吾妻は某テレビ局勤務)、ビビりましたねー。入念に結婚させたのに(笑)。

渡辺康蔵

渡辺 その打ち上げで焼肉をやって、「焼肉 アンダー・ザ・ムーンライト」のイントロ4小節ぐらいができた。

吾妻 8小節ぐらいだよ、「♪焼肉 アンダー・ザ・ムーンライト、帯広の寒い夜」まではあった。

 1988年7月。夏だけど寒かったんだよね。

──それで歌詞では「夏だけど寒い夜」で「むかしのことさ」と。

渡辺 だから毎年、夏になるたびに「この曲、完成させようよ」と言ってて、去年やっとできた。

吾妻 平成が終わると聞いて、じゃあできるかもしれない、と(笑)。

──本編最後の「正しいけどつまらない」は?

渡辺 これは今回のレコーディング中にできた曲。

吾妻 タワーレコードさんがキャンペーン用のインタビューで、「最近どうですか?」って聞くから、今も昔もひどいんじゃないですかって。そういう意味で言えば、今の時代のひどいところを揶揄してる感じですかね。

悲しいことを歌ってどうするんだ

──今回はゲストボーカルに中納良恵さん(EGO-WRAPPIN')と人見元基さん(ex. VOW WOW)が参加されています。どちらもスタンダードナンバーのカバーで、ほかの曲とはムードが違いますね。

渡辺 ゲストの人たちとのレコーディングは、最初からうまくいったね。気合いと集中力が違うんだよ。

吾妻 最初からね。「いいか、始まったら心の耳で聴くんだ!」ってワケのわからない根性論で(笑)。

──この2人に参加をお願いしたのは?

吾妻 よっちゃん(中納良恵)は、以前、我々のライブにゲストで出てもらったことがあって。今回誰がいいかなと思いを巡らせたときに、「よっちゃん面白かったなあ。で、よっちゃんに対抗できる男っていうと、人見元基ぐらいしかいないなあ」と。

──人見さんと吾妻さんは大学時代からの友人と聞きました。

吾妻 そう、早稲田ロッククライミングのね。人見は外大(東京外国語大学)だけどロッククライミングに入ってた。で、まあ、あいつはよく飲むんですよ。今回のレコーディングでも、スタジオで待ってる間とか、ひたすら人見といろんな話をしながら飲み上げて。楽しかったなあ。「なんでプロのミュージシャン辞めたの?」って聞いたら、「あのままやってたら飲み過ぎで死んじゃうと思って」って(笑)。これ、書いていいのかなあ。

──人見さんはVOW WOW時代のヘヴィメタルシンガーとしてのイメージが強いので、オーティス・レディングの「Try a Little Tenderness」を歌われていて驚きました。

吾妻 あいつがやりたいって言ったんですよ。人見と飲むたびに、「お前うちのバンドで何かやれよ」「じゃフランク・シナトラでも」って話で盛り上がって、あれになった。

渡辺 あの歌はいいよねえ。

吾妻 人の伴奏をするとビッグバンドとしてきちんとしようっていう、何か気持ちが引き締まる感じがしますね。

──こういう演奏にバッパーズ本来の姿勢を感じます。

牧裕

 昔から嫌だったのは、コミックバンドみたいに言われることで。

吾妻 そうだね、ブルースバンドとして見てほしい。

 それも嫌だなあ(笑)。

──でも楽しいのは基本ですよね。バッパーズ流のユーモアは、やはりベースになっている音楽の影響でしょうか。

吾妻 それはありますね。ルイ・ジョーダンが言ってます。「私の音楽を聴く人には、不祝儀な気持ちにはなってほしくないんだ。悲しいことを歌ってどうするんだ。週末お金を払って私の音楽を聴きに来る人には笑って帰ってほしい」と。素晴らしいね。