The Street Sliders 40周年記念盤特集|なぜスライダーズは別格なのか?考察コラム&トリビュート全曲解説で唯一無二の魅力に迫る

The Street Slidersのデビュー40周年を記念した2枚組アルバム「On The Street Again -Tribute & Origin-」が3月22日にリリースされた。本作は豪華アーティストによるトリビュート盤と、The Street Slidersのリマスタリング音源をコンパイルしたオリジン盤の2枚組。トリビュート盤にはThe Birthday、ザ・クロマニヨンズ、ALI、YONCE(Suchmos)、GEZAN、仲井戸麗市、中島美嘉、渡辺美里、斉藤和義、T字路s、SUPER BEAVER、エレファントカシマシといった12組のアーティストが参加し、個性豊かなサウンドアプローチで新たな息吹を注ぎ込んでいる。本作の完成を記念して、音楽ナタリーではThe Street Slidersの特集を展開。スライダーズが持つ唯一無二の魅力を掘り下げた考察コラムと、トリビュート盤に収録された全12曲のレビューからなる2本立て企画を掲載する。

文 / 大谷隆之

なぜスライダーズは別格なのか?

福生の“リトル・ストーンズ”から唯一無二のロックバンドへ

1983年にデビューし、2000年に解散するまで唯一無二のロックンロールを鳴らし続けたThe Street Sliders。長く日本語ロックを聴き続けた人にとって、その名前は今も別格の響きを持っている。メンバーはボーカル&ギターの村越“HARRY”弘明(1959年生まれ)、ギターの土屋“蘭丸”公平(1960年生まれ)、ベースの市川“JAMES”洋二(1959年生まれ)、ドラムスの鈴木“ZUZU”将雄(1960年生まれ)という不動の4人。村越と市川は高校時代、土屋と鈴木は中学時代からの友人で、それぞれ別のバンドを組んでいた2組が出会い、1980年に東京で結成された。

アマチュア時代は米軍基地のある東京・福生を中心に、数多くのライブハウスに出演。当時、外国人の客からは世界最強のロックバンドに倣って“リトル・ストーンズ”と呼ばれていたという。この手の伝説にはとかく尾ひれが付きがちだが、残っている音源を聴く限り、彼らの演奏がごく初期の段階から群を抜いていたのは間違いない。1983年3月、1stシングル「Blow The Night!」と1stアルバム「SLIDER JOINT」をEPIC/SONYからリリース。以降、17年間にわたる活動で23枚のシングルと10枚のオリジナルアルバムを残した。ライブバンドとしても圧倒的な実績と評価を誇り、2000年10月29日の東京・日本武道館公演「LAST LIVE」まで、こなしたステージの数は実に689回。スライダーズのキャリアをごく簡単にまとめると、こんな感じになるだろう。

The Street Sliders

The Street Sliders

ストーンズの魔力的なグルーヴを完全に血肉化したサウンド

では、なぜThe Street Slidersは別格なのか。デビュー前の彼らが“リトル・ストーンズ”の異名を取っていた話はすでに書いた。とはいえThe Rolling Stonesの魅力(呪縛)に囚われ、そのスタイルを模倣しようとしたバンドは世界中に星の数ほど存在する。だが、ストーンズの魔力的なグルーヴを本当の意味で咀嚼し、完全に血肉化したうえでオリジナル曲に昇華できたバンドは、世界的に見ても本当に少ない。そんな数少ない例外の中でも、スライダーズの放った輝きは圧倒的だ。

ストーンズの音楽的、精神的支柱とも言うべきギタリスト、キース・リチャーズの有名な言葉に、「ロックはあるけど、ロールはどうした?」というものがある。理性を吹き飛ばし、腰のクネリが止まらなくなる麻薬的ビートを、ギター、ベース、ドラムスというシンプルな編成でいかに叩き出すか。ロックというスタイルを真似るのは簡単だが、身体の芯を揺り動かす“ロール”がそこに宿っていなければ、真のロックンロールとは言えない──。ざっくり、そういった意味合いだと思う。そして日本語ロックの歴史において、キースのこの思想を最も体現し、極上の“ロール”を手に入れたバンドが、ほかならぬThe Street Slidersだった。

寡黙さで知られるHARRYだが、インタビューではたびたびキースへのリスペクトを語っている。前面に立って弾きまくるのではなく、サイドで全体を見ながら、カッティングのリズムや微妙なタメで大きなうねりを作り出す存在。HARRY本人の演奏スタイルが、まさにこの通りだと言っていい。HARRYをキースとするならば、挑発的なフレーズを次々と繰り出してリズムギターに絡みつき、グルーヴを増幅させる蘭丸はさしずめミック・テイラー(1969~74年在籍)だろうか。

聴く者の快楽中枢に訴えかける不可抗力の中毒性

ただし、2人のギタリストの役割は決して固定的なものではない。1曲の中でも変幻自在に立ち位置を入れ替え、混じり合いながら複雑で蠱惑的な色合いを織り上げていく。JAMESのベースとZUZUのドラムがこのやりとりを支え、4人の音が大きな波になって、聴く者の快楽中枢に訴えかける。その不可抗力の中毒性は今回のリマスター音源で存分に味わえるはずだ。さらに興味が湧いた方は、ぜひ彼らのライブ映像も当たっていただきたい。とりわけメンバーが若くギラついていた80年代中盤、例えば代表曲「So Heavy」「SLIDER」などの強烈なグルーヴは、ほとんど神がかりという言葉を使いたくなるほどカッコいい。

左より、土屋“蘭丸”公平(G)と村越“HARRY”弘明(Vo, G)。

左より、土屋“蘭丸”公平(G)と村越“HARRY”弘明(Vo, G)。

伝えたい魅力はまだまだある。邦楽史上でも強靭な喉を持つ、HARRYのボーカル。ひたすら快楽原則に則った初期から、次第に詩情を深めていった楽曲群。レゲエやダンスミュージックへの接近など、実は幅広い音楽性。だが、それらを1つひとつ深掘りするのは本稿の役割ではないだろう。デビュー40周年を記念する今回の2枚組アルバム「On The Street Again -Tribute & Origin-」でスライダーズに出会った若いリスナーが、そのディスコグラフィをさかのぼって聴いてくれたらとてもうれしい。2023年5月3日には日本武道館で23年ぶりの再結成ライブが行われる。どんなステージを見せてくれるか心待ちにしながら、今はトリビュート盤とオリジン盤にしっかり耳を傾けたい。

2023年3月27日更新