「すべてがそこにありますように。」の世界から「約束の場所」へ
──「約束の場所」は「すべてがそこにありますように。」ができてから作り始めたんでしょうか。
中野 並行して作ったんだったかな。「すべてがそこにありますように。」を仕上げつつ、シングルリリース時に必要なもう1曲は対になるよう考えました。
──この「約束の場所」は「すべてがそこにありますように。」と同じ世界観のもとにある曲だと感じました。これはどういうイメージから作っていったんでしょうか?
中野 「約束の場所」は短い時間の中でアニメに寄り添う、瞬発力があるタイプの音楽ではなくて。1分半では表現し切れない音楽体系ですけど、「すべてがそこにありますように。」に引き込まれた人たちに、その先の景色を見せてあげることができる曲になったと思います。作っているとき、実は「この2曲で1つの世界観を表現するんだ」という明確なミッションはなかったんですけど、楽曲同士が導かれていったところがあって。「約束の場所」ができあがったとき、2曲が1つのストーリーを描いていることに気付きました。
小林 結果的にではあるんですけれど、「『すべてがそこにありますように。』のその後のことを描いたらどうだろう」というシンプルなアイデアから動き始めたことになりますね。1曲をただただ大事に作っていたんですけど、完成してから、不思議と「ゴールデンカムイ」の世界観と結びつきがあることに気付いて。「すべてがそこにありますように。」の主人公は、扉を開けて次の世界へ行くわけなんですけど、そこから「約束の場所」で描かれている世界に行ったら、どんな結末が待っているのか。すごく立体的な楽しみ方ができる曲になりました。
──12月にはワンマンが決まっていますが、THE SPELLBOUNDのこの先については、どんなことを考えていますか?
中野 ライブ活動も作品制作もまだまだ手探りですけど、来年には新しいアルバムを出したいです。そのアルバムがどのような作品になるかは、僕の人生においても小林くんの人生においても、ものすごく重要な課題になると思います。今はアルバム制作に向けて、とにかく前進したいですね。
小林 1stアルバムは「この曲でこんなライブをしよう」とはイメージせず、とにかく純粋な気持ちで曲を作ったんです。でも、今はツアーやフェスへの出演を経たからこそ「こんなところでこんな音楽を鳴らしてみたい」「こんなことを起こしてみたい」ということも考えながら、アイデアを出したり言葉を選んでいますね。そういった意味でも、THE SPELLBOUNDとして新しい場所へと踏み出せる予感がある。それをすごく楽しみにしています。
BOOM BOOM SATELLITESのこれまで、THE NOVEMBERSのこれから
──BOOM BOOM SATELLITESについてのお話も聞かせてください。バンドのデビュー25周年と川島さんの七回忌を受けて、アニバーサリーブック「BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary BOOK『ブンブンサテライツ』」も発売されました。これはどういう発案で制作されたものなんでしょうか。
中野 きっかけは川島くんのご家族の提案です。基本的に命は1つで、なくなるものであり、時間が経てば風化していく。どんな偉大な人でもそうだと思うんですけど、ご家族の「なるべく長く川島の思いを感じ取ってほしい。理解を深めてほしい」という強い願いがあって。もちろん僕もそういう気持ちはあったんですけど、川島くんの奥さん(須藤理彩)に言われてハッと気付かされたというか。そこで七回忌という節目で、川島道行がどういう人間だったのか、彼の人生を通じてどんなドラマがあったのかを、さまざまな人の証言で浮き彫りにしてみよう……という企画に落とし込んでいきました。
──実際に制作をしていく過程で、中野さんご自身も改めてこれまでを振り返ったり、いろんな人からの話を聞く機会も経て、どういう感触がありましたか。
中野 僕はバンドの当事者なので、いまだに自分が何をしてきたのか、他者にとってどういう存在だったのかを客観的に見ることはできていないんです。でも、さまざまな人が協力してくれたことで、僕の知らなかった川島道行像が見えてきて、驚きと発見がたくさんありました。変な話ですけど、後悔も生まれたり、「このとき自分は何してたっけな」と思い返したり、そういう振り返りの作業でもありました。それを1冊の本にまとめたわけですけど、実はどう読んでほしいとか、どう感じてほしいっていうのはあんまりなくて。何を感じるか、どんな感想を持つかは皆さんにお任せします、っていう感じですね。人生を客観的に振り返るのは難しいんだと実感しています。
──本が完成して、どんなことを思いましたか?
中野 BOOM BOOM SATELLITES、あるいは川島道行と中野雅之が本という商品を出すわけですけど、そこにどんな価値があるのかは、いつまで経っても興味深いです。川島くんとの出会いは「好きな音楽を一緒に作る」という純粋なところから始まって、それにいつの間にかプライスタグが付いて、自分たちの生活の糧として人生が進んでいって。でも川島くんは、一般的な人より早く人生を終えた。それを僕が看取る形で総括したわけですけれど、いまだに謎なことが多い。バンド活動が一種の芸術活動だとしたら、みんながどんなところに価値を感じて、お金を払ってくれたのか。僕たちアーティストは何に生かされて、どんな社会貢献をしているのか……そういう大きいテーマみたいなものも感じました。でも、結局そこには結論はなくて。みんながこの本を読んで、どう感じるか知りたいです。
──小林さんは以前からBOOM BOOM SATELLITESのファンだったということですが、THE SPELLBOUNDで中野さんとともに音楽を作っている今の小林さんから見て、改めてBOOM BOOM SATELLITESをどういう存在として捉えていますか?
小林 僕にとってBOOM BOOM SATELLITESはすごく輝かしい存在なんです。カッコいいまま、美しい姿のまま、たくさんの人に支持されて輝いているのが、いちファンとして神秘的に映っていたんですね。そこから中野さんと一緒にTHE SPELLBOUNDの活動を始めたことによって、畏敬の念も持つようになりました。ただカッコいいだけじゃ済まない。いろんな工夫や努力があったし、それこそ命を燃やして活動してきた。だからこそ僕たちは、フロアであんなにもすごい景色を見ることができたし、すごく豊かな体験をさせてもらいました。自分が観てきたBOOM BOOM SATELLITESのライブは、一度として「このぐらいか」と感じることはなかったし、観るたびに「今回が最高だな」と思っていた。こんなにも熱くエネルギーを燃やして、ずっと美しいままでいたバンドは本当に唯一無二だし、日に日に畏敬の念が強くなっています。
──11月10日にはTHE NOVEMBERSのデビュー15周年の幕開けを飾るワンマンライブ「Beyond The Novembers - 20221110 -」も開催されます。小林さんは、THE NOVEMBERSのこの先についてはどんなことを考えていますか?
小林 やっぱりTHE NOVEMBERSの4人が出会った甲斐のあるもの、この4人が集まったからこそ生まれたものを、改めて見つめ直したいと思っているんです。というのも、これまでTHE NOVEMBERSは僕自身がリードして、メンバーがそれをサポートしてくれる、というバランスで楽曲を作ってきたんですけど、THE SPELLBOUNDはまったくそうではなくて。中野さんと出会ってからはその都度いろんなことを一緒に選んで、「何かを起こそう」「何かを生み出そう」という情熱を持って生きてきて、その姿勢があるからこそTHE SPELLBOUNDというバンドが成り立っている。それを体験したから、THE NOVEMBERSでも同じぐらいの情熱、熱量、好奇心を持って活動に臨まないと、どうしてもやりがいが見劣りするんです。もし自分がTHE SPELLBOUNDを始める前の状態のままだったら、THE NOVEMBERSでの活動を続けられなかったと思うのは、まさにそこで。いろんなことがなんとなく進んでいるのではないか……みたいな恐れがあった。その不安を排除して、より一生懸命活動できるよう、まずは初心に帰ってやり直したいです。メンバーとは「新しく生まれ変わるような気持ちで、11月のワンマンを迎えたいな」と話していますね。
ライブ情報
THE SPELLBOUND「すべてがそこにありますように。」Release Party
- 2022年12月15日(木)東京都 Spotify O-EAST
プロフィール
THE SPELLBOUND(スペルバウンド)
BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とTHE NOVEMBERSの小林祐介によって結成されたロックバンド。2019年に行われた中野のボーカリスト募集オーディションを経て、2021年1月に活動をスタートさせた。同月から5カ月連続で新曲を発表し、7月には東京・LIQUIDROOMでバンド初のライブとなるワンマン「THE SECOND CHAPTER」、12月には東京・USEN STUDIO COASTにて2度目のワンマン「A DEDICATED CHAPTER TO STUDIO COAST AND YOU」を開催。2022年2月に1stフルアルバム「THE SPELLBOUND」、11月にはテレビアニメ「『ゴールデンカムイ』第四期」のエンディングテーマを収録したシングル「すべてがそこにありますように。」をリリースした。
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