音楽ナタリー Power Push - The Skateboard Kids×美濃隆章(toe)

“名古屋のオルタナがつなぐ架け橋

ゲームするような感覚でチョチョイと曲を作ってた

──20代前半のバンドにしては渋い音楽性だなとも感じたのですが、地元の愛知には近しい音楽シーンがあるんですか?

日置 まったくないです(笑)。

花井淳巨(G, Cho)

花井 名古屋のバンドに友達がいなくて(笑)。地元でやっててもなかなか「おっ」と思うバンドには出会えないですね。

──結成間もないタイミングで音源を制作してますよね。このバンドではレコーディングを積極的にやっていきたいという意思があったんですか?

日置 いえ、学校が終わった頃にみんなで適当に集まって、ゲームするような感覚でチョチョイと曲を作ってたんです。そのときにたまたま、音響系の専門学校に通っている僕の友達が「卒業制作をするから4曲ぐらい録らせて」って言われて。ちょうど4曲ぐらいはできていたので、じゃあ録ってみようかと。

──作詞は日置さん、作曲はバンド名義になっていますが、作曲は基本セッションで?

日置 なんにも考えずにスタジオに入って、適当にゼロから始める感じですね。

──そこからジワジワと作り上げていく?

 いや、速いときはすぐに。

日置 できるときは本当に、5分の曲なら5分でできるんです。でもダメなときは1時間やっても全然形にならないですね。今回の作品に入っているのは、どれも10分ぐらいでできた曲ばかりで。僕らもよくわかんないんですけど、田保くんのドラムに合わせて適当に弾いてるうちに曲になっていくんですよ。それぞれでデモを作ったりは全然しない。

──それはちょっと意外ですね。プログレや音響系のバンドならそういう曲の積み上げ方もあるかなと思うんですけど、The Skateboard Kidsは歌メロがしっかりとしたポップスとしても十分成立している音楽だし、歌詞も雰囲気だけではない、世界観が作り込まれた日本語詞なので。

田保 テーマだけは先に決めたりしますね。

The Skateboard Kids

日置 今回のアルバムだと、例えば「1994」なら「今日のテーマは“人間が生まれる瞬間”だ」って言って、そのあと5分ぐらいでできちゃった(笑)。

──4人それぞれが思う“人間が生まれる瞬間”を5分間鳴らしたらこうなった?

日置 はい(笑)。始めはふざけて言ってたんですよ。「子宮を通る感覚を音にしよう」とか言ってたらなんとなくできて「これよくね?」って。

──歌詞の内容から言って、日置さんはもっと……眉間にシワを寄せた気難しいタイプの人を想像していたので、今日お話を聞いていて、そのちょっと軽めのテンションがまず意外ですね(笑)。4人共普通に今どきの若者っぽいのに、この音なんだっていう。

日置 あははは(笑)。いや、わりとこんな感じです。

音が鳴ってない瞬間もきれいに聞こえる

──メジャーデビュー作「NEWTOPIA」について詳しく聞いていきたいのですが、ここからは美濃さんにも参加していただきましょう。美濃さんはThe Skateboard Kidsに対して、初めにどういう印象を持ちましたか?

美濃隆章

美濃隆章 最初の打ち合わせで「こういうバンドなんですけど」って過去の音源を聴かせてもらって。正直、僕がいつも依頼を受けるタイプのバンドとは違う印象だったんですよ。一聴して歌がストンと入ってきて、とにかくメロディが立っていた。でも、完全に歌モノという感じではなくて、不思議なコード進行だったりとか……それはさっき、プログレを聴いていたというルーツを初めて聞いて「なるほどな」と思いましたけど(笑)。それでいてちゃんとポップスとしても成立している、不思議なバランス感覚で。そこに興味が湧いたんですよね。

日置 僕らがtoeのファンだったので、デビューアルバムを作るにあたって、できたら美濃さんにお願いしたいとリクエストしたんです。

──レコーディングはどういうプロセスで?

日置 今回録った曲は基本的に4人が鳴らした音だけで、ほとんど重ねてないんですよ。重ねる必要があるときはそうしたいけど、今回は特になかったから。

美濃 全曲、4人でのライブで再現可能だよね。

──The Skateboard Kidsで表現したいサウンドは、4人の音だけで事足りている?

日置 そうですね。隙間があったほうがきれいに聞こえるし、音が鳴ってない瞬間もきれいに聞こえるのは大事かなと思うんです。

──美濃さんはどういう役回りでレコーディングに関与したんですか?

美濃 まずデモが上がっているものを全部いただきまして、レコーディングスタジオで「じゃあどの曲から録っていこうか」と話して、曲が決まったらとりあえずデモを聴き返す。そのときに「この曲ならドラムの音はこう録ったほうがいいんじゃないかな」とこちらが感じたイメージを伝えながら、「それだとチューニングはこんな感じだから、ちょっと聴いてもらっていい?」と具体的なアイデアを出していく感じですね。音数が少なくても成立してたし、せっかくいいスタジオだったので、せーので録っちゃったほうがグルーヴも気持ちいいものになるんじゃないかと。

──一発録りに合ったセッティングを。

美濃 はい。それで演奏してもらって、気になったところは「僕はこういうのがカッコいいと思うんだけど、どうかな?」と確認してもらって。

──エンジニアとしてだけではなく、サウンドプロデュース的な側面も請け負っていたんでしょうか。

美濃 僕が勝手にそうさせてもらったところもあるんですけど(笑)。

美濃隆章とのレコーディング体験

──美濃さんとのレコーディング作業はいかがでしたか?

 めっちゃ緊張はしましたね、やっぱり。リスナーとしてtoeへの憧れがあったので、「うわあ、マジだ」と(笑)。でも、すごく気さくな方だったんですよ。

日置 気さくって(笑)。

 なんだろう、すごく親しみやすい方だったので、だんだんと仲を深めていける……語弊があるな(笑)。

左から美濃隆章、花井淳巨(G, Cho)、岡大樹(B)。

美濃 いやいや(笑)。やっぱりレコーディングは楽しくやらないと、いいものはできないですよ。ときに引き締めるところは必要ですけど、作品を作るためにはリラックスして、持っているものを全部出してもらわないと。それにはスタジオの環境も大事だと僕は思っていて。自然に楽しくやれるのが一番ですね。

──メンバーの皆さんは、美濃さんの技法やアドバイスで何か新鮮な気付き、発見はありましたか?

花井 レコーディングではアンプとか機材も美濃さんの私物を貸してもらったんですけど、一緒にエフェクターをいじったり……。

日置 ファンとしての思い出話?(笑)

花井 それがうれしくて(笑)。とにかく楽しかったです。

田保 僕はドラムテックで大知里(荘介)さんにお世話になったんですけど、音の出し方とか基礎的なことからいろいろ聞けたりして、すごく勉強になりました。例えばバスドラの鳴らし方とか。ドラムを始めたばかりの頃、少しドラム教室に通って基礎的なことは教わってたんですけど、レコーディングでの音の出し方まではさすがに教わらなかったので。

日置 シンセの音はざっくりと決めていったんですけど、録りながら美濃さんが「ここはトレブルを上げたい」とか「もうちょっとフィルターが欲しい」と細かい調整を入れてくれたんです。ヘッドフォンで聴いてると正直違いがわからなかったんですけど、ブースに戻って聴いてみたら、奇跡が起こっていて。アコギで同じ演奏を2本重ねるようなこともやったことがなかったので、いろいろと発見がありました。

──そのあたりは、美濃さんが4人の演奏を聴きながら、持っているノウハウを当てはめていくような感じだったんでしょうか。

美濃 まあ、そうですね。このギターなら2本重ねたほうがいいかな、とか。自分では決めないんですよ。現場で聴きながら、僕にできることを提案しているだけで、そこから先はメンバーが判断してくれればいいから。

ワンマンライブ情報
NEWTOPIA Release ONE MAN LIVE
  • 2017年1月9日(月・祝)愛知県 K.D ハポン
The Skateboard Kids(スケートボードキッズ)
The Skateboard Kids

愛知県在住の日置逸人(Vo, G, Syn)、花井淳巨(G, Cho)、岡大樹(B)、田保友規(Dr)からなるロックバンド。2015年2月にデモ音源集「Chanpaul」を発表し、活動をスタートさせる。Bandcampを通じて配信リリースされた同年8月発表のデモ音源集「Spiritus」はアメリカのラジオ局でオンエアされるなど海外でも反響を集める。2016年11月にはテイチクエンタテインメント内の新レーベル・I BLUEよりメジャーデビュー作となるミニアルバム「NEWTOPIA」をリリース。2017年1月には愛知・K.D ハポンにてワンマンライブを行う。

美濃隆章(ミノタカアキ)

1974年生まれ、神奈川県出身のアーティスト。popcatcher、REACHを経て、toeのギタリストとして活動中。またエンジニアとして、toeのほかクラムボン、mouse on the keys、dry river string、Spangle call Lilli line、ゲスの極み乙女。、Charaなどのレコーディング、ミックス、マスタリングでその手腕を発揮している。さらに音楽レーベルMachupicchu INDUSTRIASを主宰し、toeやmouse on the keysの音源をリリースしている。