誤解を恐れずに言うと全部“途中”なんだよ

──現在、the pillowsのサポートベーシストを務めている有江さんはどうでした？

まだ正体がわからないかな。有江くんはサポートミュージシャンとして、過去のthe pillowsの曲を膨大にコピーして、その通りにやるっていうことを続けていて。そのままレコーディングに入ってるから、ほかのベーシストを迎え入れるのと同じような心境にはなれないところがあるんだよね。彼はもともと宮川から「クセの強いベースも弾ける人ですよ」と紹介されたんだけど、今はまだ我を抑えてるんじゃないかなって想像してる。今回のレコーディングでも「後半、もっと暴れてみて」ってこちらから言ったこともあったんだよ。まあ、ツアーを回っていくうちにゆっくり変わってくるんじゃないかな。

──いろいろな発見もあるし、すごく意義のある試みですよね。今回のような新しいトライができるのも、現在のthe pillowsの風通しのよさの表れだと思います。

もう26年目だから、何でもアリだよね。すごく楽しかったし、大事な1枚になったけど、誤解を恐れずに言うと全部“途中”なんだよ。明日死ぬわけでもないし、解散する予定もないので、アルバムを作るのに一大決心は要らないというか。対談のときの「人より必死でやったという証が1つでもないとダメ」という上田さんの言葉には、楽しさを超えてでも、アーティストとして途轍もないものを作りたいという思いを感じたけど、俺たちは不真面目なタイプだから、楽しさを超えるようなことはこの先もやらないんじゃないかな。「トライアル」（2012年発売のオリジナルアルバム）のときは楽しさを超えてでもいいものを作ろうとしたけど、あの雰囲気のレコーディングはもうやりたくないから。

同じ料理を出し続けている

──ゲストベーシストを呼ぶという今回のやり方は、バンドにとってすごくいいカンフル剤になったのではないでしょうか。

そうだね。ただ俺たちとしては「そういうことはリスナーに伝わらなくてもいい」と思っていて。こういう企画をやると、みんなブラインドで誰がベースを弾いているのか当てたがるけど、そんなの当たらないでしょ？（笑） 同じスタジオ、同じエンジニアで録っているわけだし、違和感なく、普通にロックバンドのアルバムとして成り立ってるから。俺たちはその日のスタジオを楽しく過ごしたいだけというか……俺は「そのときの感情が音楽に宿る」みたいなスピリチュアルなことは基本的に嫌いなんだけど、「そういうことはあるんだな」と認めざるを得ない。それはこのアルバムにも宿ってると思うし、リスナーに何かが伝わることもあるんじゃないかな。

──いい雰囲気でレコーディングを行うためのアイデアは、ほかにもあるんですか？

それは全然ないね。なんと言うか……違う料理を作ろうと思ってるわけではないんだよ。俺たちはずっと同じ料理を作っていて、そこに何かスパイスを足すかどうかっていうことなので。ロックバンドがキャリアを重ねて、それまでやってきたことに飽きて何か違うことをやろうとすることがあるけど、リスナーとしての俺はそれを好きになったことがないのね。

──例えばRadioheadとか？

そうそう。俺たちはそうじゃなくて、同じ料理を出し続けているわけだから。俺たちにとってのスパイスは、例えば「普段とは違うスタジオ、違うエンジニアで録ってみる」みたいな地味なことでいいんだよ。今回はたまたま派手なことがあったからみんなそこに注目するけど、別に気付かれなくてもいい。程よいハードルを設定して、程よいテンションで超えられたらそれでいいんだよね。