音楽ナタリー Power Push - the pillows 山中さわお×上田健司 対談
バンドの歴史が交差する20thアルバムとそのドラマ
the pillowsではオルタナを封印した
──アルバム「STROLL AND ROLL」は、the pillows流のロックンロールが楽しめる作品だと思います。こういうアルバムに至った経緯を教えてもらえますか?
まず「カッコーの巣の下で」が一番先にできたんだよね。ソングライターとして達成感のあるいい曲ができたことで「これがあればアルバムはなんとかなるだろうな」と。そこからは気楽に、何も考えることなく曲を作っていって、たぶん4、5曲目くらいに「STROLL AND ROLL」ができたのかな。
──アルバムの軸になる曲、タイトルチューンになる曲が制作の前半でできたと。
うん。ちょっとややこしいんだけど、「STROLL AND ROLL」は「ムーンダスト」(2013年)の頃すでに曲だけはあったんだよね。そのときは歌詞が乗らなかったんだけど、絶対にいい曲になると思ったから、歌詞が自然にスッと出てくるまで取っておくことにして。結局歌詞はそのあとのツアー中にサッと書けたんだけど、今の自分たちをわかりやすく表している歌詞と曲調だと思ったし、アルバムのタイトルもこれだなと思った。そのあとは「ムーンダスト」よりもアルバム全体をさらにロックンロールに寄せることを意識して。ライブで楽しくやれることを想定したというか。例えば上田さんにベースを弾いてもらった「I RIOT」はハンドマイクで歌うことを前提にしてたから、真鍋くんのギター1本で成り立つアレンジにして、俺はギターを弾いてないんだよね。
──「Locomotion, more! more!」などもそうですが、ライブで楽しく盛り上がれそうな曲が多いですよね。
これもちょっとややこしいんだけどさ、先にライブ会場限定でシングルをリリースすることになって、その中に軽快なスカの曲が入ってるんだよ。もともとはその曲もアルバムに入れるつもりだったんだけど、もしその曲が入ってたら、アルバムはもっと能天気な印象になっただろうね。「エリオットの悲劇」だけはマイナー調だけど、あとはみんな楽しい感じになっているし、気分としてはわかりやすく楽しさを求めていたんだと思う。
──以前はオルタナティブロックの要素が色濃い時期もありましたが、そこはもう抜けて……。
活動休止以降はオルタナを封印したからね。そういう音楽は別のところでやることにして、the pillowsではロックンロールかUKっぽいもの……要するに初期の感じでやるほうが、真鍋くん、シンイチロウくんも楽しくやれるのかなって。the pillowsではオルタナをやらないことにしようというのは、自分の中でなかなか決心がつかなかったんだけど、活動休止中(2012年6月~2013年6月)にいろいろ考えて、そうしようと決めた。でも、the pillowsをやることが俺の人生なので、それを前提に考えるならば、俺自身もメンバーも楽しくやれるに越したことはないからね。幸いにも俺はものすごく幅広い音楽ジャンルが好きだから、その中のどこを切り取るか、ということなんだよね。ロックンロールはずっとやってきたし、今回もそれをやろうと思って……まあ、こうやってインタビューで紐解かれない限り、そんなことすら考えてないけどね。自分の中の葛藤にはとっくに答えを出しているし、常に真鍋くん、シンイチロウくんのことを考えて曲を書いているわけではないので。
──やりたいことを自然にやっている?
そうだね。とにかく無作為にたくさん曲を作って、オルタナっぽいアイデアが浮かんだときは「これはthe pillowsではやらないでおこう」というくらいで。それ以外はすべてthe pillowsでやっていいと思ってるから。
ベースも主役のW主演
──レコーディングに5人のベーシストを迎えるアイデアについて、メンバーのお2人に話したときの反応はどうでした?
シンイチロウくんは「めんどくせえな」みたいな感じで、真鍋くんは「いいね」っていう感じだったかな。それは話の内容ではなくて、人間の性質の問題なんだよ。シンイチロウくんはアメリカツアーでもなんでも、新しいことは全部やりたがらない。真鍋くんはたいていのことに「やりたい」って言うので。まあ、俺はそもそもシンイチロウくんの意見を聞く気はないから(笑)、提案というよりも報告かな。そこはエチケットとして言っとかないと、ある日突然、スタジオに上田さんが来たらビックリするでしょ?
──確かに(笑)。今回参加したベーシストの方々は、山中さんと交流のある方ばかりですね。
もちろん。例えば髭の宮川なんかはすごく仲がいいし、キャラクター的にも俺たちにイジられやすくて、酒を飲んでるときはシンイチロウくんに「お前バカだなあ」なんて言われてるんだよね。ただ、スタジオに入ってるときもそういう扱いかと言えば、それはもちろん違う。プロのベーシストとして来てもらってるわけだから、変に先輩風を吹かすこともないし、緊張感とエチケットを持ってレコーディングをやる。それは俺の望んでいたことでもあったかな。
──ゲストベーシストが参加することで、バンドの中にも緊張感が生まれると。
特に真鍋くんとシンイチロウくんはそうじゃないかな。俺は(演奏などの)技術で売っているわけではないというか、作詞作曲で自分の役目は終わってると思っていて。演奏に関してはとにかく邪魔しないギターを弾くだけで、「あとはゲストのベーシストとシンイチロウくん、真鍋くんでサウンドを構築してね」っていう。その間、俺はソファで寝転がってマンガ読んだりしてたけど(笑)、あの2人は後輩にナメられたくないという気持ちもあっただろうし、いいプレイをしようという緊張感を持ってレコーディングしたんじゃないかな。ほら、26年もバンドをやってると、緊張感を保つのが難しくなってくるからさ。
──タイプの違うベーシストとサウンドを構築することで、新しい化学反応も生まれているように感じます。予想してないようなベースラインもあったんじゃないですか?
めちゃくちゃあったよ。それを一番感じたのは「カッコーの巣の下で」のJIROくんのベースラインかな。弾いた瞬間「えっ?」と思ったし、「こういう解釈もあるんだ?」という驚きもあって。まったく俺の発想にないものだったから、これがサポートミュージシャンだったら即座に止めて「いや、そうじゃないから」って却下してたと思うけど、今回はそこを楽しむつもりでやってたからね。で、そのテイクを持って帰って何度も聴いているうちに「すごく計算され尽くしたベースラインなんだな」ということがわかって。the pillowsのサウンドメイクの主役はギターなんだけど、それを邪魔せず、ベースも主役になっているというか。ダブル主演みたいな形であの曲が完成したのは、今回のだいご味の1つだったかな。ただ、JIROくんは普通に曲を解釈して弾いただけなんだよね。JIROくんには「STROLL AND ROLL」のベースも弾いてもらったんだけど、そっちはスタンダードなベースラインだったし。
──奇をてらっていたわけではなく、楽曲にふさわしいベースラインを選んだというか。
そうだね。今回参加してくれたベーシストはみんなナチュラルな人ばかりだし、「カマしてやろう」ということではなくて、ちゃんと曲を解釈したうえでベースラインを考えてくれて。上田さんと鹿島さん以外はみんな後輩だけど、全員20年選手だからね。
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- the pillows ニューアルバム「STROLL AND ROLL」 / 2016年4月6日発売 / DELICIOUS LABEL
- ニューアルバム「STROLL AND ROLL」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / QECD-90001(BUMP-052)
- 通常盤 [CD] 3240円 / QECD-10001(BUMP-053)
CD収録曲
- デブリ
- カッコーの巣の下で
- I RIOT
- ロックンロールと太陽
- Subtropical Fantasy
- エリオットの悲劇
- ブラゴダルノスト
- レディオテレグラフィー
- Stroll and roll
- Locomotion, more! more!
初回限定盤DVD
MUSIC VIDEO
- カッコーの巣の下で
- デブリ
- Locomotion, more! more!
the pillows(ピロウズ)
山中さわお(Vo, G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)の3人からなるロックバンド。1989年に結成され、当初は上田健司(B)を含む4人編成で活動していた。1991年にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビュー。結成20周年を迎えた2009年9月には初の東京・日本武道館公演を行い、大成功に収めた。2012年にはバンドを一時休止し、山中と真鍋はそれぞれソロアルバムを発表。2013年の再始動後は再び精力的な活動を展開し、2014年2月には結成25周年を記念したトリビュートアルバム「ROCK AND SYMPATHY -tribute to the pillows-」、同年10月にはオリジナルアルバム「ムーンダスト」が発売された。2016年4月には、オリジナルメンバーの上田をはじめ、JIRO(GLAY)、宮川トモユキ(髭)、鹿島達也、有江嘉典(VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)という5人のベーシストをゲストプレイヤーに迎えた通算20枚目のオリジナルアルバム「STROLL AND ROLL」をリリース。5月からは全国26会場を回るライブツアー「STROLL AND ROLL TOUR」を行う。