音楽ナタリー Power Push - the pillows 山中さわお×上田健司 対談
バンドの歴史が交差する20thアルバムとそのドラマ
思いっきりUKギターロック
──上田さんは山中さんからオファーがあったとき、どういう気持ちでした?
上田 もちろんうれしかったよ。去年は自分のイベントに出てもらったから、何かお返ししたいなって思ってたんだけど、時計を贈ったりするのも違うでしょ?(笑) やっぱりそこは音楽で返さないとなって。
山中 去年、上田さんのイベントに出たときに、マネージメント同士でギャラの交渉があって。こちらから「お誕生日のライブなのでギャラはいいですよ」と伝えたら、「じゃあ体で返します」って返事があって、それがちょっと面白かったんだよね(笑)。そういう軽い冗談みたいな感じでスッとやれたのもよかったと思う。
──上田さんは「I RIOT」と「エリオットの悲劇」の2曲でベースを弾いていますが、アルバム全体で誰にどの曲を弾いてもらうかはどのように決めたんですか?
山中 まったく迷ったりしないで、全部1秒くらいで決めたんじゃないかな。参加してくれたのはオールマイティで一流の人ばかりだし、「これは上田さん」「この曲は鹿島さん」ってスッと決まっていって。「エリオットの悲劇」は第1期を意識した曲と歌詞だったので「上田さんとやったらノスタルジーが味わえるかな」と直感で思ったのかな。
上田 「エリオットの悲劇」は曲を聴いたときにすぐ意図が伝わってきたんだよね。「ああ、あの感じか」って。
──ちょっと1980年代のUKギターロックの雰囲気が感じられる曲ですよね。
山中 ちょっとと言うか……思いっきりだね(笑)。The Smiths。the pillowsがスタートしたときは、そのあたりの影響が色濃かったから。
上田 あとはStone RosesやRide、Pale Saintsとか。だから「エリオットの悲劇」のベースラインもすぐに浮かんできて。
──ベースラインは上田さんにすべて任せていたんですか?
山中 もちろん。そうしないと意味がないから。
上田 アレンジャーとして参加するときは自分で全部ベースラインを考えるけど、俺はほかの人がアレンジした曲をプレイヤーとして弾く仕事もあって。そのときは「どういうふうに弾いてほしいのかな?」って考えるんだけど、今回はその中間くらいの感じだったね。山中の意見を聞いてから考えようと思ってたんだけど「自由にやってください」って言われて。
山中 ちょっと変な感じでしたよね。「山中はどうしてほしいの?」「上田さんの好きなように弾いてもらいたいです」「いや、まずはどうしたいか聞きたい」「いや、上田さんが……」って、イチャイチャしてるみたいになって(笑)。
上田 ははは(笑)。それで何パターンか弾いて「どれがいい?」って話をして。「I RIOT」はロックンロールだったから、最近のthe pillowsにしては珍しい曲なのかなって思った。最初はスカッと抜けた8ビートのベースがいいかなと思ったけど、結局はちょっと斜めの方向からアプローチするようなベースラインになって。音の重なり方も面白かったし、新発見だったね。山中と一緒にバンドをやってたときは「自分の個性はこれだ!」みたいな感じでやってたけど、今回一緒にやってみて「人間ってずいぶん変わるんだな」って思ったよ(笑)。それがいいことか悪いことかはわからないけど、今回は結果的に面白いものになったんじゃないかな。
山中 上田さんに「昔と全然違いますね」って言ったら「そりゃそうだよ。24年経ってるんだから」って(笑)。
2人の共通点
──第1期の頃はもっと主張がぶつかり合っていた?
山中 2人とも我が強いタイプだから、ぶつかり合うこともあったと思うけどね。ただ「ベースをこうしてほしい」みたいなことはなかったはずだけど。
上田 そうだね。あと、シンちゃんがドラムのフレーズを自分で考えてたことにビックリした。自分でスネアを2発入れてきたときは感動したよ。
山中 ハハハハハ!(笑)
上田 いままでのthe pillowsのアルバムを聴いていても「ドラムは全部山中が考えていて、シンちゃんはその通りに叩いてるんだろうな」って思ってたから。
山中 違う違う。そんなわけないでしょ(笑)。
上田 でも、シンちゃんは本当にロックンロールのドラムだから、やりやすいんだよね。ピーちゃん(真鍋)は相変わらず独特の解釈とフレーズだったし。山中の歌がよくなってたこともビックリした。レコーディングで聴いたのはひさしぶりだったけど、すごく上手くなってるし、とにかくカッコよくなっていて。年を取ってカッコ悪くなる人もいるじゃない? the pillowsはそうじゃない人の集まりなんだなって思ったかな。しかも、曲を書くペースも落ちてないからね、高校時代も毎日1曲くらいのペースで書いてたよね。
山中 数が多ければ偉いって思ってたから(笑)。
上田 でも、多作であることは重要だよ。バンドをプロデュースするときも、アルバム用に20曲くらい持ってきてくれたら「この人、やる気あるな」というのが伝わるから。だんだん書けなくなっていく人もいっぱい見てるけどね。
山中 書けなくなってる人は、後輩の音楽を聴いてないんだと思う。新しい音楽のファンになってないっていうのかな。青春時代に聴いていた音楽だけだと難しくなると思うけど、俺は洋邦問わず、いろんな音楽を好きになって影響を受けてるから。
上田 俺と山中の共通点はそこかな。ずっと新しいものを聴き続けて、好きになるっていう。アマチュアの発掘的なこともやっているから、デモテープがたくさん送られてくるんだけど、それもちゃんと聴いてるし。完成されていない中にもすごく光る部分があったりするんだよね。山中もそうだったけどね。
山中 それこそ上田さんの発掘第1号だったんじゃないですか、俺は。上田さんはその後いろんな人をプロデュースしてるけど、一番出世したのが俺かな(笑)。
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- the pillows ニューアルバム「STROLL AND ROLL」 / 2016年4月6日発売 / DELICIOUS LABEL
- ニューアルバム「STROLL AND ROLL」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / QECD-90001(BUMP-052)
- 通常盤 [CD] 3240円 / QECD-10001(BUMP-053)
CD収録曲
- デブリ
- カッコーの巣の下で
- I RIOT
- ロックンロールと太陽
- Subtropical Fantasy
- エリオットの悲劇
- ブラゴダルノスト
- レディオテレグラフィー
- Stroll and roll
- Locomotion, more! more!
初回限定盤DVD
MUSIC VIDEO
- カッコーの巣の下で
- デブリ
- Locomotion, more! more!
the pillows(ピロウズ)
山中さわお(Vo, G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)の3人からなるロックバンド。1989年に結成され、当初は上田健司(B)を含む4人編成で活動していた。1991年にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビュー。結成20周年を迎えた2009年9月には初の東京・日本武道館公演を行い、大成功に収めた。2012年にはバンドを一時休止し、山中と真鍋はそれぞれソロアルバムを発表。2013年の再始動後は再び精力的な活動を展開し、2014年2月には結成25周年を記念したトリビュートアルバム「ROCK AND SYMPATHY -tribute to the pillows-」、同年10月にはオリジナルアルバム「ムーンダスト」が発売された。2016年4月には、オリジナルメンバーの上田をはじめ、JIRO(GLAY)、宮川トモユキ(髭)、鹿島達也、有江嘉典(VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)という5人のベーシストをゲストプレイヤーに迎えた通算20枚目のオリジナルアルバム「STROLL AND ROLL」をリリース。5月からは全国26会場を回るライブツアー「STROLL AND ROLL TOUR」を行う。
上田健司(ウエダケンジ)
1965年8月30日生まれ、北海道札幌市出身の音楽プロデューサー。1987年にKENZI & THE TRIPSのベーシストとしてシングル「DIANA」およびアルバム「FROM RABBIT HOUSE」でメジャーデビューを果たす。1989年にバンドが解散すると、同郷の札幌で活動していた山中さわお(Vo)、真鍋吉明(G)、KENZI & THE TRIPSでともに活動していた佐藤シンイチロウ(Dr)とともにthe pillowsを結成。1991年5月にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビューした。この頃からプロデュース活動も並行して行い、1993年にthe pillowsを脱退したあとはサポートベーシストとして活動しながら、加藤いづみ、カーネーション、GOING UNDER GROUND、堂本剛(KinKi Kids)、長渕剛、PUFFY、渡瀬マキ(LINDBERG)、小泉今日子、Drop's、爆弾ジョニーほかさまざまなアーティストの編曲やプロデュースを手がける。2008年には故郷札幌にスタジオ「john st!」(現Musik Studio)を開設。2010年にはアーティストマネジメントや新人発掘、音楽出版、コンサート企画制作などを広く行う株式会社カムイレコードを設立した。