ぐわっと心をつかまれる
雨宮 「センチメートル」は北澤さんの歌い方も、ちゃんとメロディに乗せつつ、ちょっとしゃべっているように歌われているようなところもあったりして。そこがまたグッとくるポイントで。
北澤 ありがとうございます。
雨宮 単純に聴いていて楽しいし、歌声の印象からかわいらしい方なのかと思っていたんですけど、実際にお会いしてみると意外とサバサバしている方なんだなって。
北澤 それはけっこう言われます。「思ってた感じと違う」と。それが「いい」っていうパターンもあるし、「残念でした」っていうパターンもある(笑)。
雨宮 あはは(笑)。「センチメートル」の歌声からはかわいい印象を私は受けて、それも含めて「かのかり」感にばっちりハマっていると思いました。でも話し声はハスキーでカッコいい感じですよね。
北澤 そうかも。しゃべり声はそんなに高くないのに、歌うと高くなるみたいで。その自覚はあんまりなかったというか、何回レコーディングしても、録ったのを聴いたときに毎回「え? 声高っ!」ってびっくりする。歌っているときは気付かないんですけど。
雨宮 そうなんですね。
北澤 「センチメートル」も「今回は今までとはちょっと違う、けっこう低いレンジで歌えたぞ」ってずっと思ってたんですよ。でも、いざできあがった音源を帰り道で聴いたら、頭サビの「運命なんて」が聞こえた瞬間に「高っ!」って思いました(笑)。
雨宮 でも、そのかわいらしさのある歌声で、しかもサビ始まりというところでぐわっと心をつかまれるなって。オープニングの映像にしても、「センチメートル」という曲だからああいう感じになったと思うんですよ。歌詞の中で和也の心情を丁寧に描いてくださったから、オープニングの和也も千鶴のことをずっと追いかけていたりして。曲調がすごくポップだからこそ、女の子のキャラクターが1人ずつ踊っているシーンも映えるし。
北澤 ね。あれかわいいですよね。
雨宮 私はあのオープニングが大好きなんですけど、「センチメートル」が監督さんたちに与えたインスピレーションって、すごく大きいと思うんですよね。
北澤 うれしい。私はオープニングテーマとエンディングテーマで曲の作り方を変えていて。オープニングはやっぱり作品が始まったときの高揚感をより助長させたいというか、放送を1週間待ったみんなの「今週もこの時間がやってきました!」みたいなワクワクが爆発するような音の質感にすることを大事にしているんです。さっき、スタジオにいらしていた古賀(一臣)監督から聞いたんですけど、ネットに上がっている「かのかり」のリアクション動画とかで「センチメートル」が流れた瞬間にブチ上がってくれる人もいるらしくて、それもうれしかったです。
雨宮 めっちゃわかります。アバンの終わりに桜吹雪が舞って「運命なんて」って歌が始まると「来たー!」みたいな(笑)。飛ばしたくないオープニングだし、何回聴いてもいい曲だし、「かのかり」だなって思うし。えらそうなことを言ってあれなんですけど、びっくりするぐらいすべてに合致している曲ですよね。
最終的に「みんなかわいいよね」
北澤 「かのかり」は、設定とかキャラクターそれぞれの性格にはけっこう非現実的なところもあったりして。それはフィクションだから全然いいんですけど、あんまりそこにとらわれずに、根底にある人間ドラマをしっかり見つめたいなって原作を読んでいるときに思ったんですよ。
雨宮 うんうん。
北澤 それこそ“レンタル彼女”とか(更科)瑠夏の“ドキドキできない”という設定とか、そういう皮を剥いでいった先にあるものが、恋愛するうえでの緊張だったり自信喪失だったり、私たちも共感できるような感情の波だなって。だからあんまり考えすぎずに、片思いというものをよりピュアに表現できたらいいなと思いながら書きました。
雨宮 そうなんですよ。「かのかり」にはキャラの濃い人もいっぱい出てくるし、(七海)麻美なんかは一見するとちょっと怖いというか、宮島先生ご自身もサスペンス要素があるとおっしゃっていたんですけど、最終的に「みんなかわいいよね」と思わせてくれるようなさわやかさがあるんです。
北澤 そう、みんなかわいい。
雨宮 だからすごくバランスがいいですよね。仮に人間ドラマのほうに寄せすぎていたら、もしかするとちょっと重たくなっちゃうかもしれないけど、それをギャグシーンや彼女たちのかわいい表情で中和しているところもあると思うし。そこにオープニングの「センチメートル」も相まったことですごく入りやすくなったというか、いろんな人が、それこそ女の子も「このアニメ、観てみようかな」という気持ちになったんじゃないかなって。
北澤 実際に私のファンの女の子とかも「the peggies目当てで観始めたけど、面白くてハマりました」と言ってくれて。そういう反応もすごくうれしいなって思います。
雨宮 それ、うれしいですよね。あと「センチメートル」の歌詞は、「(会えない時間+君が笑った瞬間)÷2」とか「不器用な僕×強がりな君」という数式を使っているのもすごく面白くて。
北澤 ありがとうございます。なんとなく歌っていたらそういう歌詞が出てきたから、私も「これ面白いわ」と思って絶対に使おうと決めてたんですけど、けっこう皆さんからの評判もよくて。あそこのパートはバンドのサウンドも面白くて、いろんな音をいっぱい入れているので、何回聴いても新しい音が聞こえてくるんじゃないかなって思います。
雨宮 うんうん。私も最初はボーカルに耳が行っていたんですけど、おっしゃる通り聴けば聴くほど発見があるというか。「こんなにギターが細かい演奏してたんだ!」と思ったらピアノがドーンって鳴っていたり、アレンジも素敵ですよね。
「運命の人」は言ったもん勝ち
──「センチメートル」は頭サビの「運命なんて言えない」というフレーズから非常にキャッチーですが、北澤さんは恋愛における「運命の人」という概念をどう捉えていますか?
北澤 私は「運命の人」って、言ったもん勝ちだと思っているんですよ。運命というものに導かれて恋愛するんじゃなくて、好きになった人の情報をあれこれ収集した結果「これは運命なんだ」と言い張っているだけというか、それでいい。例えば趣味が合うとか地元が一緒だとか、そういう共通点を積み重ねて運命につなげていくこともできるし、逆に趣味も性格もまったく違うのに一緒にいて心地いいなら、それもまた「運命の人」と思うには十分ですよね。
雨宮 なるほど。
北澤 だから、もし恋愛していて「この人とは合わないかもしれない」とか「結ばれるべき人じゃないのかもしれない」と悩んでる人がいるんだったら、「いや、ハンドルの切り方次第でいくらでも運命にはたどり着けるからがんばって」と私は言ってあげたい。
雨宮 自分たちで運命に寄せていけるというか。
北澤 そうそうそう。
雨宮 私も北澤さんの考え方にすごく納得できます。あらかじめ決められているというよりは、自分で進む道を切り開いていって、最終的にそれになんて名前を付けるかみたいな。
北澤 うんうんうん。つまりそういうこと。たぶん、私も雨宮さんも運転席タイプなんだと思います。だから助手席タイプの人はあんまりピンとこないかもしれない。
雨宮 言われてみれば、完全に運転席タイプですね(笑)。
──運転席タイプという共通点は面白いですね。というのも、the peggiesには「センチメートル」のような恋愛をモチーフにしたポップな曲が多いですが、雨宮さんにはそういう曲はほぼなくて。
雨宮 あっはっは!(笑)
北澤 そうですよね(笑)。
雨宮 私はだいたい戦ってるんで。
──だからアーティストとして表現しているものはまったく違うのに、意外な共通点があったんだなと。
雨宮 そうですね。
北澤 私も雨宮さんのアルバムを聴かせてもらいまして、サウンドもすごくシリアスでカッコいい曲ばっかりだなと。あと曲によって本当に声の使い方やアプローチの仕方が全然違っていて、びっくりしました。やっぱり私も一応「この曲はこういうアプローチで」とか考えて「よし、今回は歌い分けられたぞ」とか今まで思ってたけど、足元にも及ばないみたいな(笑)。
雨宮 いやいやいや! でもすっごくうれしいです。私もそこを目標にしているんですけど、なかなか自分で自分の歌を評価できなくて。声優と歌手の方ではそもそもアプローチの仕方も違うと思うし、私も北澤さんの歌を聴いて「はああ、こういう歌い方もあるのか」みたいな刺激をもらって、勉強にもなりました。
北澤 私も雨宮さんの歌を聴いてすごく新鮮な気持ちになりました。特に「PARADOX」が好きです。サビの「PARADOX」のところ、一緒に歌いたくなる。
雨宮 わー! 顔が熱くなってきた(笑)。すごい恥ずかしいけどありがとうございます。
“人間・千鶴”の魅力があふれる最終話
──この対談が公開されるのは「かのかり」最終話の週なので、最後に「かのかり」を振り返って特に印象に残ったシーン、あるいは最終話の見どころなどを聞かせていただけますか?(※取材時点では第9話まで放送済み)
雨宮 私は圧倒的に、最終回を含む終盤の展開が好きなんですよね。
北澤 おお。私はアニメが原作のどのへんで終わるのか知らないので、ワクワクです。
雨宮 完全に演じる側からの視点になっちゃうんですけど、やっぱり一番熱が入ったシーンが終盤に集中していたかなって。千鶴は自分の意思がはっきりしているし、「理想の彼女」とよく言われるように本当に素敵な女性だから、アニメの中盤ぐらいまでは千鶴をいかにかわいく、あるいはカッコよく演じるかいろいろ考えていたんです。でも、終盤はもうかわいさもカッコよさもかなぐり捨ててというか、“人間・千鶴”というのがすごく出ているシーンがたくさんあって、特に最終話は熱いと思います。
北澤 楽しみ。
雨宮 私もめちゃくちゃ緊張しつつも、周りが何も見えなくなるぐらい千鶴に入り込めたのが最終話だったので。
北澤 今雨宮さんが言ったみたいに、千鶴のことを表す言葉として「理想の彼女」とか「S級美女」というのがありますけど、なんで私はこの作品を「いいな」と思ったのか考えたら、その「理想の彼女」というのがただ男の人にとって都合のいい女性ではなくて、ちゃんと人間として自立していて、自分の意思を持っているからなんですよね。千鶴は和也とも対等に接するし、だから和也自身も“レンタル彼女”である千鶴のことを1人の人間として見て、思いを寄せたり悩んだりしているわけで。そこが千鶴というキャラクターの人間としての魅力というか、私がこの作品を好きになった理由の1つかなって、聞いてて思いました。
雨宮 そうなんですよね。千鶴は人の気持ちを1つひとつちゃんと受け止める子なんです。受け流したり見下したりせずに。その千鶴の魅力に気付き始めたからか、和也にもいい意味での人間らしさが最終話のほうでどんどん出てくるし、千鶴自身の人間的な魅力があふれるのも最終話なので、ぜひお楽しみに。
北澤 その千鶴の魅力が最初にわかったのが、1話の水族館のシーン。
雨宮 はいはいはい。
北澤 「どうせ1日だけの付き合いなんだから、いくら相手のことを思ったって無駄じゃん」って言う和也を引っ張り出して「あなたね、どういうつもり!?」って。
雨宮 本性が出る(笑)。
北澤 そうそうそう。あそこは「よく言った!」と思いながら観てました。
雨宮 あそこで好きになりますよね、千鶴のことが。私も「この人、いいな」って思いました。ただ、やっぱり視聴者の方は男性が多いだろうから、あそこであんまり和也を強く叱りすぎると視聴者の方もへこんじゃうんじゃないかと思って、最初は気持ち抑えめに演技したんです。でも、古賀監督から「もっとやっちゃっていいよ」とのお許しが出たので、ガチ怒りして(笑)。
北澤 最高。
雨宮 結果的にそれが千鶴の魅力につながっていると思うし、あのとき監督からそういうディレクションをしていただけてよかったなって。だから「かのかり」は視聴者に媚びないというか、やっぱり物語のキャラクターたちの人間ドラマが核になっている作品で、そのおかげで私も「好きだな」という思いを持ち続けたまま最終話まで臨めましたね。