THE ORAL CIGARETTESが新作EP「MARBLES」を3月13日にリリースした。
EPには2021年にリリースした「Red Criminal」「MACHINEGUN」、そして新曲「隣花」「IZAYOI」「聖夜」の全5曲が収録されている。そのすべてが、コロナ禍の混沌とした時期に作られた楽曲だ。EPタイトルには「Lose my marbles」(気がおかしくなる)という意味が込められており、さまざまな色が閉じ込められた“MARBLES=ビー玉”をコロナ禍の状況にも重ね合わせている。
山中拓也(Vo, G)はEPリリースにあたって、「あなたが隣で咲き続ける花でありますように。あなたが進むのを躊躇っても、その先に光を灯せますように。そして、大切なモノを失った悲しみがいつかあなたの力になりますように。そんな気持ちを込めて、このEPをみんなに送ります」とコメントしている。音楽ナタリーでは本作が発表されるに至った経緯について、インタビューを通して深く掘り下げていく。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 伊藤元気
自分たちの身近なところから幸せを作りたい
──2023年のTHE ORAL CIGARETTESは、ホールやアリーナでの公演やワンマンライブを行わず、対バンツアーなどで「ライブハウスで仲間と遊ぶ」ということに重きをおいて活動している印象がありました。
山中拓也(Vo, G) 今、回っているツアーも1日目はFC会員限定、2日目はツーマンなので、「ワンマンライブはいつやるんですか?」という声を多くいただいてますね。そういう声があるとわかりつつも、対バンとかライブハウスで遊ぶことにこだわって活動を続けているのは、俺らが今「自分たちの身近なところからしっかり幸せを作っていきましょう」というモードなのと、「ライブハウスシーンを復興、活性化させたい」という思いがあるからです。
──そういう活動を続けてみて、どんなことを感じましたか?
あきらかにあきら(B, Cho) 現場で生まれるものの儚さや尊さはすごく感じました。来てくれた人の生の声とか、実際にその場で起きた奇跡とか、そういうものはSNSでは感じ取れませんからね。今までは呼ばれたライブがたまたま小箱やったとか、まだ大きい会場は埋められないから小箱でやってた時期はありましたけど、バンドとしていろいろできるようになった中で改めて小さいところに戻ろうと決断したのは案外初めてだったんですよ。その決断をしたおかげで得られた感動や経験があるので、このタイミングでそういう選択をしておいてよかったです。
山中 昔は「ショーを見せる」という感覚でライブをやってたんですけど、今はどんなライブでも「お客さんと一緒に遊びに来た」というテンションでステージに上がれてるんですよ。そしたらフロアとの結び付きもより強くなったし、対バン相手から「お前ら、めっちゃ楽しそうにライブするようになったな」と言われることが増えた。「楽しそうな今のオーラル、すごく強いと思う」とも言われたので、「やっぱり俺らはこのやり方で合ってたんや」と思いましたね。
鈴木重伸(G) あと、「MORAL PANIC」(オーラルが昨年2月から3月にかけて行った対バンツアー)のときに、先輩のバンドマンとの会話の内容が深いものに変わってきたように感じたんですよ。今までは後輩感が抜け切っていない自分がいたんですけど、もっと責任感を持たなきゃいけない年齢に差しかかりつつあるのかなと実感しました。
──昨年新たに立ち上げたライブシリーズ「WANDER ABOUT 放浪 TOUR」では若手バンドとともにツアーを回っていましたけど、そういうふうに、下の世代のバンドと関わる機会も増えてきているでしょうしね。
鈴木 そうですね。年下の子と絡むときって、思ったことをどこまで伝えていいのか、どういうふうに言ったらいいんだろうかと悩んでしまったりもするんです。でもどのバンドもめっちゃカッコよくて、勉強熱心で、インディーズの頃の自分らを見ているみたいでした。
山中 SATOHとか特にそうでしたね。曲がめっちゃよくて華もあるんですけど、初日のときは「先輩のツアーやし緊張する」「お客さんにどう対応していいかわからへん」「だけど、しっかり演奏しなきゃ」という感じでいっぱいいっぱいになってて、暴れてるように見えちゃったんですよ。だけど俺らのライブから「もっと楽しく音楽やれば?」という空気を汲み取ったみたいで。最終日には初日と全然違うライブをしてました。
──「ライブハウスシーンの復興、活性化」という観点ではどのようなことを感じましたか?
中西雅哉(Dr) 何かがなくなるときは一瞬やけど、元に戻すのにはめっちゃ時間がかかるんやなと思いました。2020年にライブハウスではクラスターが発生するみたいな感じで、一度悪い印象が付いちゃったじゃないですか。そのあと、ライブハウスはいろいろな感染症対策をしてきたし、1つずつ積み重ねてきて今の状況がありますけど、あの頃に付いた「やっぱり怖い場所なんだ」という印象がまだひとり歩きしちゃってる気がしていて。「いや、そうじゃないんです」ということを広く伝えるのは大変やなと。今、みんなの生活とか仕事はコロナ禍以前のように戻ってきていると思うけど、ライブハウスはそうとは言い切れないし、戻るまでになかなか時間がかかりそうやなと率直に思いました。だけどライブハウスは音楽が好きな人が集う素敵な場所だって僕たちは知ってるので、今後もしっかり発信していきたいです。
寄り添うための方法
──ここからはEP「MARBLES」について聞かせてください。コロナ禍中に制作した楽曲を収録したコンセプトEPですが、収録曲のうち「Red Criminal」「MACHINEGUN」は2021年に配信シングルとしてリリースされた楽曲です。この2曲は「また前みたいにライブできるようになったら、この曲で一緒に遊ぼう」というテンションで作ったと当時のインタビューでおっしゃっていましたね。2022年も3月に「ENEMY feat. Kamui」、8月に「BUG」と、のちのライブチューンとなる楽曲の配信リリースが続きました。
山中 はい。ただ、今挙げてもらった4曲って“今は叶わないもの”に対するアプローチだったから、そういうアウトプットだけじゃ続けていくうえで精神的にきつかったんですよ。「フロアでどうなるかはまったく意識せず、コロナ禍で感じたことをタイムリーに楽曲に落とし込んでいく作業をしよう」というふうに生まれたのが、今作に収録されている「隣花」「IZAYOI」「聖夜」でした。
──その3曲を今リリースしようと思ったのは?
山中 日常生活が戻ってきて、ライブも戻ってきて、「よっしゃ全員で行くぞ!」みたいな楽曲を連発して、初めは充実感も幸福感もありました。だけど、徐々に世間の淀んだ空気みたいなものを感じるようになって。フェス会場でお客さん同士の揉め事があったり、世間的にもSNS上での言い合いが目立つようになったり、それによって誰かが自殺したり……。そのときに「俺らずっと前向いて進んできたから気付かへんかったけど、まだコロナ禍を抜け切れてない人も多いんかな」と思って。
──コロナ禍で人と人とのつながりの大切さを噛み締めたはずなのに、また大切にできなくなってしまったというか。
山中 そう。「普通の生活が戻ってきたのはよかったけど、想像してた世界となんか違うな」と思いました。コロナ禍では怒りとかいろいろな感情をコロナというものにぶつけることができたけど、今は当たれるものがないじゃないですか。どこに吐き出したらいいかわからなくなってる人がたぶんたくさんいて、それが人と人との争いや、自分自身を傷付けてしまう行為につながってるんじゃないかと思ったんです。俺らは「みんなで一緒にがんばるぞ」みたいに進んでいくことってあんまりできないんですよ。俺ら自身、がんばれない時期もあるから。だけど寄り添うことはできる。そのための方法ってなんやろう?と考えたときに、「今がコロナ禍で書いた曲をリリースするタイミングなんじゃないか」という話になったんです。
──なるほど。
山中 「『MARBLES』はこういうコンセプトのEPです」ってわざわざ大々的に言わなくてもそういうことを感じ取ってくれる人もいるかもしれないけど、「現状ってこんな感じだよね、しんどいよね」ということをしっかり言葉にして共有してもいいんじゃないかということでリリースすることにしました。あと、次のアルバムのビジョンがもう見えてるんですけど、そこにはコロナ禍の空気を持ち込みたくなかったので、ここで一旦区切りを付けたかったというのもありますね。
感情をぶつける場所を与えてもらえた
──感情のはけ口がないと、人は他人や自分を傷付けてしまうという話がありましたけど、2020年頃の皆さんにとっては音楽が感情のはけ口になっていたんでしょうか?
山中 そうですね。俺個人で言うと、オーラルの曲があって、「ボイステラス6」(THE ORAL CIGARETTESの山中と、同姓同名のゲームクリエイターおよび脚本家・山中拓也を中心に2020年に立ち上げられた、“二次元と三次元を行き来する”プロジェクト)でほかの人に提供する曲があって……というふうにいろいろな方向性のアウトプットがあったんですけど、それがなかったら自分の中に悪いものがどんどん溜まっちゃって、前に進めへんかったかもしれへん。あと、ライブがなくなって4人でいる時間が減ってたので、作業場に集まって楽曲のアレンジについてあーだこーだ言い合ったりする時間もすごく救いになってました。
中西 上京したての頃に4人で一緒に住んでたんですけど、4人で集まるとあの頃の雰囲気に戻るんですよ。ガチガチにストイックにやるんじゃなくて、拓也が持ってきたデモに対して「ちょっとこんなことしてみよっか」ってゆるくやりとりするようなホーム感のある雰囲気も、自分たちにとっては救いになってたのかなと思います。
鈴木 制作があってホンマに助かりました。この4人の中で前を向くスピードが特に早かったのが拓也だったんですよ。拓也からの「新曲できたよ。これ作っていこう」という声がけがあったおかげで、僕も感情をぶつける場所を与えてもらえたというか。作業場でずーっと何かしらやってたんですけど、今まではライブがあるのが当たり前みたいな生活やったから、「自分って音楽をやってるとこんなに精神が安定するんだ」とそのとき初めて気付きました。パソコン上での作業にまだ慣れてない時期でしたけど、そこで手に入れたスキルもありましたね。
山中 シゲ(鈴木)がDTM覚えてくれたのと雅哉が動画編集めっちゃうまくなったのは、コロナ禍での大きな収穫やった。あきらはまた別のベクトルで、現場の動きがなんもできへん時期が長かった分、今溜まっていたものを発散するように個人でどんどん動いてるし、ベースのスキルもすごく上がってるし。
中西 あきらは特に現場で生きてる人間なので、ライブができない、スタジオでも音を合わせられないっていう状況になったときに、たぶん一番食らってたと思うんですけど。
あきら まあ、けっこう落ちてましたね。2020年はアリーナツアーもなくなっちゃったし、あの時期はずっと不安でした。物心ついてからそれまでずっと「今日誰ともしゃべらんかったわ」という日が1日もなかったんですよ。学生時代の受験期は、同じ塾に通っていた拓也との何気ないコミュニケーションに救われてたし。上京したときも4人で住んでたから。自分1人の瞬間がない人生だったので、2020年春とかはその反動でめっちゃ食らいました。そういう意味では苦手なことが起こりまくりな日々やったんですけど、だからこそ作業場でマスクしながらも4人で集まる時間にすごく助けられたりして。自分の好きなこと、苦手なことをようやく理解することができたという意味では、あの時期も自分にとってはいい経験だったのかも。
──「隣花」と「聖夜」では、喪失感を歌っていますね。
山中 仲のいい友達をコロナ禍に失ってしまう経験があったんです。遺された友達同士でしゃべるタイミングがあったんですけど、各々の内側でうごめく複雑な思いを聞いたりしてる中で、悲しみじゃなくて怒りが湧いてきて。「自分のことをこれだけ思ってくれる人がいるのに、どうしていなくなったんだ」って。その感覚が俺にとっては新鮮やったんですよね。「隣花」はその日の帰り道に制作部屋に寄って、そのままアウトプットした曲です。
あきら めっちゃ生々しいデモやった記憶があります。
山中 うん。本当に吐き出すような感じで作っていったので、今までだったら「理論的にはこっちにいったほうがいいよな」と考えそうなところでも、あんまり考えずに。ただメロディに乗せて歌ってるみたいな状態でした。
中西 この曲はギターを鳴らしながら歌って作ったんだろうなとすぐにわかりました。拓也にいろいろあった時期も作業場とかで一緒に制作してたので、つらそうにしているところをそばで見てたんですよ。そういう経験もちゃんと糧にして作品にするという、拓也の作曲家としての力を感じる楽曲ですね。
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すべてを自分の糧にして前に進んでいくしかない