今のありったけをぶつけないと、エネルギーのバトンは宿らないぞ
──ニューアルバム「The Novembers」は発売決定時に公開された「今の僕たちが凝縮されたロックアルバム」「やっぱりロックバンドってかっこいい。そんなアルバムです」というコメントの通り、The Novembersがこれまで追求してきたロックの魅力を凝縮するような作品でした。1曲目「BOY」から「どうか邪魔しないで 全部こわしてしまえば」「僕ら 生まれ変わる アクセル踏み切って」という歌詞で突き進んでいく意思を示しつつ、前半パートは小林さんとケンゴさんによるギターサウンド、6曲目「GAME」からの後半パートは高松さんと吉木さんによるリズムの要素を強調した楽曲を振り分けるような内容になっています。全体の構成やコンセプトはどのように決まったのでしょうか?
今回は全曲ほぼ同時に作っていき、その中で一連のストーリーが見えてきました。そこから最終的に“ロックアルバム”というテーマを打ち出した、という流れですね。
──前半部はまず「BOY」で「The Novembersはこんなバンド」というサウンドを端的に表し、その後の「Seaside」はニューウェイヴ、「誰も知らない」はハードなオルタナと、The Novembersがモチーフにしてきた各ジャンルに振り切った楽曲が続きます。
実は音楽的なテイストやジャンル的な発想はあまり意識していなくて。「BOY」が1曲目に来たのも、特別話し合ったりしたわけじゃないんです。打算や計画性より、言葉では表現できないムードやバンドの雰囲気が、曲作りと曲順の基準になりました。とにかく「今のありったけをぶつけよう」「リスナーに受け取ってもらうエネルギーのバトンは、僕らががんばらないと宿らないぞ」という、ある意味スポ根みたいなフィーリングです。
──フィーリングありきで、ここまで曲ごとの個性が際立った。
あとはメンバーそれぞれの「こうなりたい」「こういうふうに伸びていきたい」という考えが各楽曲に宿っていると思いますね。花に水をあげるように曲が育っていく、自然で健全な作り方になりました。
──中盤のバラード「かたちあるもの、ぼくらをたばねて」は「最近あなたの暮らしはどう」「今日も生きたね」に近いムードを盛り込みつつ、サックスの音を取り入れた挑戦的な楽曲です。
この曲は新代田FEVERで行われた、デビュー15周年を記念した展覧会(「かたちあるもの、ぼくらを束ねて -The Novembers 15th Anniversary Exhibition-」)がきっかけで完成しました。展覧会だけでなく、長年僕らの作品のアートワークを手がけてくれたtobirdと一緒にトークイベントもやったんですけど、これまでの活動を振り返っていくうち、宝物のような出来事がいっぱいあることに気付いて。その思い出を曲にしたかったんです。
──このトークイベントは最初期から現在までの活動をまるごと振り返るような内容で、貴重な話題も多かったです。
過去の出来事を振り返ると反省する部分もありますが、今になってようやく気付けたこと、今大事にしていることもわかりますね。僕はよく、過去の自分が今の自分を見たときに輝いて見えるか、インスピレーションを与えられる存在になっているか想像するんです。一方で「あの頃はよかったな」と思った瞬間、大切な何かが失われてしまう気もしていて。過去の積み重ねを経て、今がベストであり続けたいです。
理想に近付けるのではなく、感じるままに手を動かし続ける
──中盤のもう1曲「November」はバンド名を想起させるだけあり、過去の曲の要素を引用したり、再解釈したりしたのでしょうか?
「November」は2010年くらいに作ったフレーズを発展させた曲なので、既発曲のモチーフを集めて再解釈したわけではないんです。僕の場合1つの曲で何を表現するか、具体的であればあるほど瞬発力が鈍るんですよ。青写真を描いて、その理想に近付けて作り上げる、という方法があまり得意じゃない。ひたすら感じるままにずっと手を動かして、曲に触れ続けていくうちに完成することがほとんどです。
──ちなみに「November」というタイトルを付けた理由は?
作曲のラフスケッチの段階で、Aメロ、Bメロ、サビといった曲構成がはっきり決まっておらず、そのまま流れっぱなしという成り立ちがロードムービーみたいでよかったんです。あとになって、それがバンドや人生そのものを象徴しているように聴こえて。
──後半部は吉木さんの力強いドラミングが発揮された「GAME」、エスニックな曲調に高松さんの複雑なベースフレーズが絡み合う「Cashmere」、1980年代のシンセポップを彷彿とさせる打ち込みをふんだんに用いた「Morning Sun」と、リズムの使い方が特徴的な曲が続きます。近年The Novembersが挑戦してきた、新たなサウンドのアイデアを発展させたパートでもあります。
「GAME」は1種類のリフだけを用いてどんな曲ができるか、リハーサルスタジオでセッションしてできあがりました。普段はエフェクターボードで緻密に音を作っているんですが、あえてリハスタにあるアンプとギターだけで演奏してみたり。メンバーと一緒に曲が作れない期間が長かった分、4人が集まって演奏できる喜びを純粋に楽しんでいた気がします。「Morning Sun」は「November」と同じく、昔からあったアイデアをもとにして完成させました。
──「November」や「Morning Sun」のように、数年前から考案していたアイデアを発展させたパターンもあるんですね。
でも引っ張り出してきたというよりは、ふと「あの曲をもう一度やってみよう」と思いついた感じで。実は今年、音源データを保管していたハードディスクがトラブルに遭って、コロナ禍で作り貯めた曲も全部なくなってしまって。
──トークイベントでもお話していましたね。同席していた吉木さんも「相当落ち込んでた」と振り返っていて……。
それこそ曲数で数えたら、アルバムが3枚作れそうなぐらいストックがあったんですけど、全部消えてしまったんです。だけど吹っ切れて、頭の中に残っていた案を生かしつつ、メンバーそれぞれのアイデアも反映することで、結果的に新鮮な曲を作るきっかけにつながりました。
「抱き合うように」がもたらした言葉の力
──そしてラストナンバー「抱き合うように」はアルバムだけでなく、The Novembersのこれからを象徴するような1曲です。THE SPELLBOUNDのインタビューで小林さんは歌詞について「文字に起こしたときのフォルム、文章で表現されている世界観にこだわるタイプ」と語っていましたが、そのお話を聞いて、The Novembersの歌詞はある程度長い文章で表現することが多かったと気付いたんです。
なるほど。
──それに対して「抱き合うように」は「楽しかったこと思い出せなくなっても 少しだけ歩こう」「嬉しかったこと思い出せなくなっても 僕らは歩こう」と短く優しいワードを積み重ねることで、楽曲全体で言葉の力を高めているように感じました。
これもTHE SPELLBOUNDでの活動の影響が大きいですね。何かを伝えることを真剣に考え、どこまで突き詰められるかを知り、もっとよくなる基準が高められた結果が結実したのかもしれない。
──この詞の特徴は配信シングル「かなしみがかわいたら」から見られ、「抱き合うように」で確立されたように見受けられました。ほかにも「だんだんほどけて こわれて 何もわからなくなったら 僕を確かめて」ではThe Novembersがもたらす影響、「だんだんほどけて こわれても 君が僕のかたちを思い出させてくれるから」ではバンドを追い続けるファンへの信頼を感じさせてくれる。どの言葉も真摯だからこそ、説得力が生まれているようで。
うれしいです。どんな言葉を使うべきか、大事にした甲斐があります。
──その一方、例えば誰かを励ます歌があったとして、使われている言葉があまりに漠然だと説得力がなくなってしまうし、口調が強すぎると押し付けられているような違和感が生じてしまう。このバランスはとても難しいですが、小林さんはどのように注意しながら歌詞を考えているのでしょうか?
歌詞はすごく不思議で、文字で眺めたとき、朗読したとき、会話しているとき、メロディに乗せて歌ったとき、それぞれで伝わり方が変わるんですよね。「大丈夫」というひと言でも、特定の誰かを示すのか、あえて示さないのかでまったく印象が違う。歌手のエネルギーがその言葉の説得力を生むこともあるし、その逆もある。数値化したり説明したりするのは難しいけど、音楽の感動は分析しようのないバイブスやフィーリングから生まれるもので。それを大切にすると僕自身も喜びが引き起こされるし、そこで初めて感情をリスナーにシェアできるんです。共鳴するというか。
──加えてケースバイケースではありますが、アーティスト本人の意図とリスナーの解釈に齟齬が生じるケースもあったり。
それは避けられないですよね。一生懸命な姿を見て感動する人もいれば、拒否反応を起こしてしまう人もいますし。でも「何かを作ることで何かをよくしていきたい」という気持ちが本気なら、作品から伝わってくるものも変わるはずで。かつての僕は「こんな音楽が好き」「こんな美しいものが好き」というふうに、自分の部屋でそれを眺めているだけで幸せ……という感覚で音楽を作っていたんです。そういった自己完結の範囲から飛び出して「自分自身も含めた誰かに向けて作ろう」と考えるようになり、そしてそれが実際に届いたかもしれないと感じられた瞬間、「よかった」と思えるようになった。
ロックは今いるここを“どこか”に変える
──ミュージシャンの中には長年活動を続けたり、リスナーの数が多くなったりすることで、だんだん誰に向けて曲を作っているのかわからなくなり、歌詞が書けなくなってしまう、という方もいます。小林さんはしかるべき相手に歌を届けていく、その意識はどのように見つけているのでしょうか?
僕も作詞は毎回悩むタイプではあります。でも、それが普通なのかもしれないし、思いついた言葉やメロディを、僕自身もリスナーも「いい」と思えること自体奇跡で。「苦悩してでも何か分かち合いたい」という思いが勝つかどうか、ということかもしれないですね。それから身近な人と世界、どちらに対しても「幸せでいてほしい」と願うことは両立できると考えていて。自分自身がこの世の中に存在する意味を、手紙につづるように作詞をすることが大事で、そんな歌がずっと聴き継がれていくんだと思います。
──もう1つ、今回のアルバムは改めてロックとは何かを追求した作品になりましたが、ロックは激しさや美しさ、禍々しさなど、さまざまなイメージが表現できます。小林さんにとって、ロックはどんなものでありたいですか?
そうですね……ロックは今いるここを“どこか”に変えると信じていて。僕の人生を変えてくれたロックバンドもみんなそうで、今自分がいる場所がまったく別の世界になったような感覚にしてくれました。別の言い方をすれば、世界の見え方が変わってしまうくらい人の何かを変えてしまうんです。彼らが僕の日常や人生を突き動かしてくれて、そのエネルギーが僕の中に残り続けている。だから僕もやる。僕にとって、そういうものがロックだと思うんです。
──まさに今回のアルバムは「歩き出す」「飛ぶ」など、さまざまな言葉でどこか違う世界へと向かう様子が描かれていました。さらに言えば「抱き合うように」の「あざやかに飛んだ 虹の向こう」という歌詞には、前作のラストナンバーとなるはずだった「Rainbow」のその先を描きたい、という願いが込められているようでしたし、近年のアルバム「ANGELS」「At The Beginning」とは異なり、作品全体が明るい雰囲気に包まれていることは、小林さんが長年ライブのMCで語りかけてきた「いい未来で会いましょう」という言葉を、改めてThe Novembers流に示しているようでした。
いい作品を作れた実感はあります。でも、「もっといいものが作れる」という気持ちもあるんですよね。
──次のビジョンが見えていることも大切ですよね。
ええ。ビジョンというよりは予感や希望ですよね。むしろそれがないとキツいです(笑)。これからも「もっといいものを作ろう」という気持ちを持ち続けたいです。そして生涯最後の作品で「やりきったぞ!」という気持ちになれたら、一番カッコいいですね。
プロフィール
The Novembers(ノーベンバーズ)
小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2005年に活動を開始し、2007年11月にミニアルバム「THE NOVEMBERS」でデビュー。2013年10月には自主レーベル「MERZ」を設立した。結成11周年を迎えた2016年の11月11日に東京・新木場STUDIO COASTでワンマンライブ「Hallelujah」を開催し、翌2017年9月には初のベストアルバム「Before Today」を発表。2023年12月には9枚目のフルアルバム「The Novembers」をリリースした。
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