成田大致(THE 夏の魔物) × 渡辺淳之介(WACK)|トリックスターはもう卒業 2人が見つけた新たなやり方

トリックスターは時代に合わない

渡辺 あの、これ超適当なアドバイスだけどさ。

成田 はい。

渡辺 言い続けたら、大丈夫だよ。

成田 ホントですか(笑)。

渡辺 俺もずっとそうしてるもん。自分がやってるグループ全部「曲だけはいいんです」って言い続けてる。そしたらみんなも「曲はいいよね」って言ってくれるようになって。

成田大致

成田 確かに言い続けることって大事ですよね。

渡辺 あとは“松隈ケンタ”っていうブランドも作りたくて、それこそナタリーとかにプレスリリース送るときも、俺「松隈ケンタプロデュース!」って必ず書いてて。そしたらみんなだんだん意識するようになってきた。もちろん松隈さんの実力あってこそなんだけど、言い続けるのはやっぱ大事なんだよね。だから成田くんも「真面目に音楽やってるんです」って言い続けたほうがいいよ。実際曲もいいし、歌詞も引っかかる感じだし、絶対いけると思うんだけどな。自信持って「曲いいです」って言い続けることがめっちゃ重要な気がする。

成田 やっぱアピールしていかなきゃダメなんですね。「曲はいいです。本気でやってます。音楽がやりたいんです」って。

渡辺 たぶん最初の頃に茶化しすぎちゃったんじゃない? 「夏の魔物」もすごいイベントなのに、業界の人たちもみんな金持ちがやってる道楽みたいに思ってたじゃん。「親の山を売った金でやってる」みたいな噂を立てられて。

成田 そうですね。そういうの特に否定もしなかったんで。

渡辺 それがずっと尾を引いてるんだよ。俺もBiSの全裸MVがずっと尾を引いてるもん。

成田 ははは(笑)。

渡辺 昔は飄々とやってる感じに見せたいって気持ちもあったけど、今の時代、俺はもう悟った。やっぱ愚直なほうがウケるんだよね。みんな感動したいし涙したいんですよ。だからBiSとかも、もちろん変なことはやりたいけど、それも愚直に真面目に変なことをやるっていう方向にシフトしてて。前はひたすら茶化してたけど、そういうトリックスターみたいなスタンスは今の時代に合わない(笑)。

成田 俺も2年くらい前にテレビに出たら、また親のネタとかこすられて。

渡辺 あれは失敗だったよね。「アウト×デラックス」出たのは。

成田 でも当時は本当に何も考えてなかったというか、「こういう部分を面白おかしく話すと話題になるんじゃない?」「じゃあやってもいいかな」くらいの軽い気持ちでしか考えてなかった。結果、誰もいい思いをしなかったんですよね。自分の身も、メンバーの身も自分にしか守れないんだなって強く思いました。

渡辺淳之介

渡辺 そのあたりスタッフの理解も必要だし、難しいよね。でも俺も以前はイッちゃってる人みたいなイメージだったけど、愚直にやるようにしたらいろんなことがやりやすくなった。3年前にBiSが解散したとき、悪ふざけの内輪ノリじゃ横浜アリーナを埋められないんだってことに気付いたの。それでBiSHを始めたら意外とウケちゃって、無理やりキテレツなことしなくても、いいものを作ればみんな受け入れてくれるんだなっていうのがわかってきた。あとSex Pistolsみたいなバンドだけじゃなく、俺eastern youthとかも大好きだから「まっすぐにやりゃいいじゃん」っていう気持ちもあって。

成田 俺も昔やってたことが「わかりづらかったよな」って反省があります。それこそBiSやでんぱ組.inc、ももクロとかを見て「これバンドよりすげえな」って感じて、その衝撃を自分で表現するためのやり方をずっと模索してたんですけど、完成形がわからないままとりあえず思いついたことをやっていったら、誰も意味わかんないものになってたっていう(笑)。なんて言うか、言葉にできない高揚感を探してたんですけどね。

割れてもいいからデカい音出せ

渡辺 今の高揚感の話で思い出したけど、俺BiSのライブのときの音量のことで毎回PAとケンカしてたな。PAに「割れてもいいからデカい音出せ!」っていつも言ってて。「関係ねえんだ! 割れていいんだ! 聴いてねえ誰も!」って。

成田 確かにこの前BiSと対バンしたときも音デカかったです。

渡辺 うん、とにかく出す!

左から成田大致、渡辺淳之介。

成田 あの対バンは完敗だったなって思ってて。自分の中でトラウマ的な感じになってます。

渡辺 いやいや、そんなことないでしょ(笑)。なんで負けたと思うの?

成田 この前はまず音のデカさで負けました。自分たちは生バンドだったから、当然すごい音が出せるって思ってたんだけど、やってみたらBiSのほうがデカくて。あの日の反省会はすごかったですね。そこから今の形を築き上げたと言うか、PAさんも含めて「こういうサウンドを作っていこう」っていうのを改めてみんなで考え直した。

渡辺 今ほとんどのアイドルはオケの音をCDで出してると思うんだけど、BiSはPCから出してるからね。CDだと44.1kHzで16bitだけど、うちはハイレゾだからデカいスピーカーを使えば伝えたい音がちゃんと表現できてるっていうのはあると思う。

成田 今回出すミニアルバムはあのときのBiSとの対バンの失敗がなかったらできてなかった。あのライブのおかげでバンドが1つになったんです。

愚直にやっていくしかない

渡辺 こうやって話してても思うけど、俺らはやっぱりロックスターにはなれないんだよね。天性のロックスターには勝てない。でもフェイクにはフェイクなりの戦い方があると思ってて。

成田大致

成田 俺も本物のロックスターに会う機会が多いから、そういう人を見てるとやっぱ尋常じゃないっていうか、同じやり方だと太刀打ちできないなと思います。

渡辺 俺も高校生のときからバンドをやってたけど、やっぱ自分は悲しいぐらい偽物だなと思ってて、それで裏方を選んだっていうのはある。当初の目的は俺が本物のロックスターを発掘して忌野清志郎をもう1回作るって思ってたはずなんだけど、音楽業界入って全体を見渡したときに、バンドよりアイドルの現場のほうが全然オシャレになってた。

成田 THE 夏の魔物も今はロック的な匂いを意識しながら、普通のバンドでもないアイドルでもないっていう俺たちにしかできない唯一無二を目指してやってるんですよね。難しいけどいろいろトライしていて、やっといいメンバーとも出会えたし、ライブも定期的にできて、なんとか第一歩を踏み出せたかなって思ってます。

渡辺 続けるのはやっぱり大事だよね。けっこうみんなすぐ辞めちゃうけど、俺らはあきらめ悪いから。

成田 だからこれを続けていけるようにがんばりたいんですよね。今のライブを観てほしいし、それが伝わるように愚直にやっていくしかないと思う。ちゃんと積み上げていく作業って今までしたことないんで。

渡辺 常にデストロイの精神でやってきたもんね。

成田 パンクが好きだし、それでいいと思ってたけど、今のメンバーとライブをやってるとこれを続けていきたいってすごく思うんですよ。あとライブにちゃんとお客さんがいるっていうことが人生の初めての出来事だからそれもすごいなって思うし。

渡辺淳之介

渡辺 昔はホントに客いなかったもんね(笑)。

成田 今度、7月12日にWWWでワンマンライブやるんですけど、今の自分たちには大きすぎるんじゃないかっていう恐怖が今すごくて。

渡辺 でもチケットは売れてきてるんでしょ?

成田 はい、昔よりは(笑)。でも毎回前売りがあんまり動かないんですよね。だから当日まで安心はできない。

渡辺 大丈夫だよ。たぶんステージに立った瞬間に「WWWってこんな狭かったっけな」って感じるよ。みんなそうやって成長していくんだから。

成田 そうですね。ホントにいろんなことを経験して、今の自分になってると思うんで。

渡辺 うん、反省生かしてがんばっていこう(笑)。

左から成田大致、渡辺淳之介。
THE 夏の魔物「シン・マモノボンバイエ EP」
2017年7月12日発売 / VAP
THE 夏の魔物「シン・マモノボンバイエ EP」通常盤

通常盤 [CD]
1944円 / VPCC-82342

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THE 夏の魔物「シン・マモノボンバイエ EP」魔物ガールズ盤

魔物ガールズ盤 [CD]
1944円 / VPCC-82343

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収録曲
  1. シン・魔物BOM-BA-YE ~魂ノ共鳴編~
  2. RNRッッッ!!!
  3. マモノ・アラウンド・ザ・ワールド
  4. ハジメまして
  5. 恋しちゃいなびびっど(※ボーナストラック)
THE 夏の魔物「シン・マモノボンバイエ TOUR」(終了分は割愛)

2017年7月12日(水)東京都 WWW
※バンド編成でのワンマンライブ。
越川和磨(G) / えらめぐみ(B) / 中畑大樹(Dr)/ ハジメタル(Key)

THE 夏の魔物(ザナツノマモノ)
THE 夏の魔物
2006年に始まったロックフェス「夏の魔物」の主催者である成田大致を中心に結成。現在のメンバーは成田大致、泉茉里、麻宮みずほ、大内雷電、鏡るびい、アントーニオ本多の6名。前身グループ「夏の魔物」で2015年8月にポニーキャニオンよりメジャーデビューを果たし、2017年1月からは“ペンライトを振れるロックンロールバンド”というコンセプトのもと「THE 夏の魔物」としての活動をスタートさせた。同年3月には浅野尚志が作曲、只野菜摘が作詞を担当した1stシングル「僕と君のロックンロール」を発表。同年7月には前山田健一作曲による「シン・魔物BOM-BA-YE ~魂ノ共鳴編~」を含むミニアルバム「シン・マモノボンバイエEP」をVAPよりメジャーリリースする。
渡辺淳之介(ワタナベジュンノスケ)
BiS、BiSH、GANG PARADEらが所属する事務所・WACKの代表取締役として各グループのプロデュースを担当。前例のないプロモーション施策を次々と実施し、2014年にはBiSの神奈川・横浜アリーナ公演を成功させる。現在はWACK所属アーティストのほかに、NIGOとともにBILLIE IDLEのプロデュースも手がけている。2017年7月22日には千葉・幕張メッセイベントホールにてBiSHの単独公演を開催。