ナタリー PowerPush - The Mirraz

勝負曲「この惑星のすべて」完成までの葛藤

頭が変になりそう

──今はライブハウスに怖いイメージを持っている人は昔ほどいないですよね。

うん。もっと楽しい場所になってるから。それはそれでいいと思うんだけど、そういうお客さんが多いことを踏まえて「じゃあThe Mirrazに求められてることってなんだろう」って考えたときに、いくらわかりやすい曲を作ってもThe Mirrazらしさがなくなったらお客さんも面白くないだろうなって。

畠山承平(Vo, G)

──緊張感とかね。

そういう点でも「この惑星のすべて」という曲はうまくいったなって思ってるんですよ。

──「この惑星のすべて」も「らぶりー」も何かを守りたいという意識が強く働いてる歌詞だと思うんですけど、どうですか?

「らぶりー」はもっと嫌な話かな(笑)。この曲では自分がやりたい音楽のことを歌っていて……まあ精神面の話ですね。こういう活動をしてると気が狂いそうになる瞬間があるんですよ。正解がないのに間違いがあるし。

──ああ(笑)。売れたらなんでも正解になるしね。

だから意味がわからなくなる。結果が出たら正解だけど、それ以外は全部間違いだから。自分が信じてたものに対して「結果が出てないんで間違いです」って言われてると頭が変になりそうで(笑)。でも自分は間違ってない、それを守りたいっていうそういう気持ちが「らぶりー」には込められていますね。「この惑星のすべて」は、興味があることを全部体験したいなとは思うけど、それを実現するための心の余裕が足りてないなと思ったところから生まれた歌詞です。

──それをマクロな視点とミクロな視点を照らし合わせるラブソングに昇華したっていう。

そうそう。歌詞の面でも「この惑星のすべて」と「らぶりー」の並びはすげえいいなって自分でも思ってます。

木乃伊くんがいることで楽になる

──今日はちょっとアートワークについても聞きたいんですけど。畠山氏はジャケットのアートディレクションのみならず、ビデオクリップのディレクションもやるじゃないですか。

はい、そうっすね。

──今回の3曲目の「ステーキを食べに行こう」のPVもそうだし。このPVはバンドのメインキャラクターである“木乃伊くん”が大活躍していて。木乃伊くんのイラストも畠山氏によるデザインですよね。

うん。アートワークに関しても楽曲と一緒で、海外っぽいものを日本のシーンにどう落とし込むかという意識がありますね。ただ木乃伊くんに関しては別次元。あれはあれの住む世界が別にあるというか。

──今ではそれくらい1人歩きしたキャラクターということ?

自分の中ではそうです、狙って作ったキャラクターではないので。でも、それはそれでいいかなって。木乃伊くんがいることで楽になることってけっこうあるんですよ。「ステーキを食べに行こう」のPVでも、メンバーの代わりにいろいろやってくれているし。「ステーキを食べに行こう」のPVは楽曲的にはThe Mirrazっぽいんだけど、そもそもは木乃伊くんのアニメを作りたいというアイデアのほうが先にあった曲だったんです。

──「メンバーの代わりに」って言ったけど、確かに生身で体現すると滑稽だったりすることでも、キャラクターだとかわいく思えたりね。

そうそう。それはキャラクターがいる強み。あと俺、「スヌーピー」が大好きなんですけど、原作を読むとすげえ哲学的で。さらに日本語訳は谷川俊太郎さんだから、すごく詩的なんですよね。木乃伊くんはそういうところに影響されて生まれたのかもしれない。俺、小さい頃なぜか父親に「お前は画家になれ」って言われてたんですよ。絵は全然うまくないんだけど(笑)。でも木乃伊くんのイラストもうまくないからいい味が出てるんだと思う。あと小学生のときとかRPGをノートで作るみたいな遊びを友達としていて。自作のストーリーと絵を描いて、ノート上でゲームを展開させていくっていう。そういうのが今に生きているのかもしれない。

──すげえクリエイティブな遊び(笑)。あと、ジャケットのアートワークまでを自分で担うことで、バンドのイメージコントロールをしやすいのかなって。

そうっすね。ジャケットって、「ジャケ買い」という言葉があるくらいバンドのイメージを作るために必要なものなので。自分ができるからやってるだけで、できなかったら誰かにお願いしてるとは思うんだけど。できるからコントロールしたいっていう。

1つハードルを越えることができた

──これからのバンドの展開をどう見据えてますか?

順序立てて話すと、今回のジャケットに使った夜景の写真は、去年の秋にArctic Monkeysのライブを観にロサンゼルスに行ったときに自分で撮ったんです。で、ロスに行く前に「Grand Theft Auto V」というゲームの海外版をやっていて。そのゲームってロスが舞台で、サントラがめちゃくちゃよかったんです。そしてArctic Monkeysのライブもめちゃくちゃ刺激的で……。そういうことをしているうちに、自分の中で“ロス”がいろいろつながっていって。Arctic Monkeysもロス在住だし。

──ちなみにそのサントラの内容ってどんな感じなんですか?

90BPMくらいの四つ打ちとかが入っています。こういう感じをバンドでやったらすごくカッコいいだろうなと思った。激しい曲よりも、生活にBGM的に密着していて、かつ新しいもの。それをイメージして曲を作っていたんですけど……でも途中で、これじゃ日本ではウケないだろうなって。

──聴きたいけどな。で、さっきの話に戻るんだ(笑)。

そう。テンポが遅い、遅いって(笑)。

──国内バンドシーンの潮流の半分のテンポじゃん、みたいな。

そうそう。で、そこからまた曲を作り直して。結局最初にイメージしたものとは違うものになったけど、「この惑星のすべて」ができて1つハードルを越えることができた。だから次のアルバムは「この惑星のすべて」級にいい曲を10曲集めて、全曲シングル曲みたいな作品になってもいいかなって思っています。で、それは洋楽的な要素と邦楽的な要素のバランスをうまくとりながら、日本人がパッと聴いてもいいと思える音楽で。

──いや、本当に期待してます。

うん。やっぱりね、The Mirrazにしかできないエンタテインメント性のある音楽を作りたいんですよね。もともとマニアック志向ではないから、エンタテインメントとしてものすごくキャッチーな音楽をやりたいなって。今はすごくそう思ってます。

The Mirraz - この惑星のすべて
ニューシングル「この惑星のすべて」/ 2014年5月21日発売 / Virgin Records
初回限定盤 [CD+DVD] 1728円 / TYCT-39024
初回限定盤 [CD+DVD] 1728円 / TYCT-39024
通常盤 [CD] 1080円 / TYCT-30026
CD収録曲
  1. この惑星のすべて
  2. らぶりー
  3. ステーキを食べに行こう
初回限定盤DVD 収録内容
  • Vo.畠山の~一人でお手製アニメ~動く絵本シリーズ No.1~「ステーキを食べに行こう」MUSIC VIDEO
  • ドキュメンタリー「この録音(レコーディング)のすべて」
ライブ情報
The Mirraz「~運が悪いってかなり不利だよねこの惑星じゃ ミニライブツアー2014ss~」
  • 2014年6月2日(月)愛知県 APOLLO BASE
  • 2014年6月3日(火)大阪府 難波ROCKETS
  • 2014年6月5日(木)東京都 原宿アストロホール

※CD購入者先着ライブ

The Mirraz(ミイラズ)

2006年9月に畠山承平(Vo, G)を中心に結成された4人組結成ロックバンド。2008年12月に1stアルバム「OUI! OUI! OUI!」、2009年10月に2ndアルバム「NECESSARYEVIL」とリリースを重ね、UKロックの影響を感じさせるサウンドや攻撃的なパフォーマンスで注目を集める。2011年、自主レーベル「KINOI RECORDS」の立ち上げと同時に、佐藤真彦(G)と中島ケイゾー(B)が正式加入。2012年7月にEMI Music Japan(現Virgin Music)への移籍を発表し、10月にメジャー第1弾シングル「僕らは / 気持ち悪りぃ」をリリースした。2013年2月にメジャー1stアルバム「選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ」を、同年6月にはミニアルバム「夏を好きになるための6の法則」を立て続けに発表。同年10月に新ドラマー新谷元輝の正式加入をアナウンスし、2014年5月に新谷加入後初音源となるシングル「この惑星のすべて」を発売した。