ナタリー PowerPush - The Mirraz
勝負曲「この惑星のすべて」完成までの葛藤
The Mirrazがニューシングル「この惑星のすべて」をリリースした。昨年10月に新ドラマーの新谷元輝が正式加入し、新体制での初音源となる本作。表題曲はバンドの新たな挑戦と趣意が形象化された1曲だ。今回ナタリーでは、畠山承平(Vo, G)にインタビューを実施。楽曲に関することのみならず、The Mirrazのアートワークについても聞いた。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) インタビュー撮影 / 佐藤類
ずっとこの4人でやれたら
──昨年10月に新ドラマーの新谷元輝さんが加入しましたけど、新体制はどうですか?
すごくいい感じというか、調子いいっすよ。もちろん元輝がいいドラマーというのもあるけど、バンドとしてすごくフレッシュな気持ちでやれていて。
──The Mirrazはこれまでも何度かメンバーチェンジがありましたけど。
そうですね。正直昔はメンバーが変わってもバンドが続けば別にいいやって感じでだったんです。でも今はお客さんも増えたし、「メジャーでしっかりやっていこう」ってところでのメンバーチェンジだったので、そういう意味ではすごくプレッシャーを感じていたんですよね。ライブの内容がダメになったらファンに対しても悪いし。個人的に元輝に関しては、あいつが前のバンドにいたときからすごくいいドラマーだと思っていて。いつか違うバンドでもいいから一緒にやりたいと思ってたくらいだったんですよ。
──そんなに惹かれていたんだ。
そうそう。技術的にもとにかくうまいんでスキルの面では不安はなかったんだけど、とはいえファンには感情の部分でも理解してもらわなきゃいけないと思いました。その点でプレッシャーはありましたね。でも、実際にライブがすごくよくなった。今この4人になって思うのは、個人的に(中島)ケイゾー(B)も(佐藤)真彦(G)も元輝もすごく好きなミュージシャンだということ。同じバンドにいてもすげえカッコいいなって思えるんです。だからこれからずっとこの4人でやれたらいいなと思ってます。
「らぶりー」じゃ勝負できねえな
──The Mirrazが音源をリリースするのは昨年6月の「夏を好きになるための6の法則」以来なんですけど。あの作品は夏をテーマにしつつも、The Mirrazが鳴らしたい音や畠山氏が言いたいことの核心が浮き彫りになっていて。
ああ、そうっすね。
──「夏を好きになるための6の法則」以降、「この惑星のすべて」を完成させるまではどんなモードだったんですか? 新体制で初のレコーディングという部分は大きかったと思うんだけど。
まず「夏を好きになるための6の法則」をリリースしたあとにメンバーチェンジがあって。で、その前に去年の秋にシングルをリリースするってプランがあったんですよ。でもメンバーチェンジをしたばかりだし、ライブをしっかり成功させたいという思いが強くて、まずはライブに集中しようということでリリースのプランは白紙に戻して。その後新体制で1発目のライブになったのが、7月のフジテレビ系「FACTORY」の収録でした。その頃元輝は正式に加入していたわけではなかったですけど。テレビってこともあって、失敗できないなと思ったのを覚えてますね。
──そうだったんですね。
あと自分のモードっていうところで話すと、いろんなバンドのライブを観たりとか洋楽の新譜を聴いたりしていく中で、時代がすごく変わってきてるなって感じて。
──そこ、詳しく聞きたいです。
本当は今回のシングルって、2曲目の「らぶりー」がリード曲候補だったんですけ。でも今の時代、音楽的に難しい曲だと思われちゃうんじゃないかなと思って。
──「らぶりー」、すごくカッコいいけどね。踊れるし、メロウで洗練されたグルーヴが際立っていて。
うん。俺もすごくカッコいいと思ってるんだけど……。順番に話すと、まずThe Mirrazって、ずっと洋楽のエッセンスをうまくJ-POP化するってことを意識的にやってきたバンドで。
──はい。
個人的にはそういう部分がThe Mirrazならではだと思っていたし、それが武器でもあるんだけど、でも今の時代、そういう曲って取っつきにくいのかなと思ったんですよね。作るものがいわゆる“音楽的”であればあるほど、勝負するのが難しい時代だなって感じちゃって。もっと言うと、エンタテインメントにおける音楽のあり方とか、“いい楽曲”の基準とかがどんどんあいまいになってると思う。楽曲よりもライブのパフォーマンスのほうが重視されたりね。
──ロックバンドにしろアイドルにしろ、ライブ至上主義になってるのは間違いないですよね。
そうですね。今は楽曲の外側の部分で話題性を作って、そこで人を引き寄せてからやっと「いい曲だよね」って言われるみたいな感じ。そうなると、ストイックに楽曲について考えていても息苦しくなっちゃうなって。俺は1990年代の音楽で育ってきたから、すげえ名曲が1曲あって、それをきっかけにバンドが売れていくみたいな過程に憧れてたけど、今の時代はもうそういうことじゃないんですよね。自分の考え方と時代にそういうズレがあるってことを最近すごく感じた。それで何をすべきかいまいちよくわらなくなっちゃって、まあ「らぶりー」じゃ勝負できねえなと思った。
「もっとわかりやすいことをしないと」
──それから改めて勝負できる曲を作ろうと。
そうっすね。去年の秋のリリースプランを白紙に戻したのはそういう理由もあってのことでした。まずは新体制でライブを成功させつつ、ちゃんと勝負できる曲を用意したかった。曲のストックもいっぱいあったんだけど、それらも使わずに新しく勝負曲を作ろうと。
──メジャーでリリースプランを白紙にするのってかなり精神的にキツいことだと思うんですけど。スタッフをしっかり説得しなきゃいけなかっただろうし。
はい。だから「もっとわかりやすい曲を作らないと結果が付いてこないんじゃないですか?」ってレーベルサイドに言ったんですよ。
──その会話の構図、普通は逆だよね(笑)。
確かに(笑)。「今やろうとしてることは音楽的すぎて、広く伝わらないという不安を感じてる」ってスタッフに言って。レーベルサイドからは契約するときからThe Mirrazには「CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい」とか「僕はスーパーマン」みたいな曲をどんどん作ってほしいって言われていたんですけど。
──それはメジャーデビュータイミングのときにナタリーでやったインタビューでも言ってた。
うん。「夏を好きになるための6の法則」を出すくらいまでは俺もある程度はそれでいいと思ってたんですよね。でも最近は、そうも言っていられない時代だなって。
──同時代の洋楽のテイストや方法論を昇華してJ-POPでも通用する曲を作るというのは畠山氏がThe Mirrazを動かすうえでの一貫した指針であり、それで100万枚セールスを目指すと言ってた時期もあったじゃないですか。それを崩すのって相当キツかったんじゃないですか?
まあ、全部を崩すわけじゃないから。あと、例えばThe Mirrazと同時期に出てきたバンドとして、the telephonesやTHE BAWDIES、andymoriとかがいますけど、彼らとみんなでシーンを作っていくとか、そういうことをしなければならなかったなって。今ってそれぞれのバンドは個々に機能してるけど、「洋楽に影響を受けてます」って感じのバンドがムーブメントを起こすなら、みんなでドン!とやらないとダメだったんですよね。個人的に今の「日本のバンドは日本のバンドで海外とはリンクせずに独自の音楽性でやってます」みたいな空気があんまり好きじゃないし。
──横のつながりは感じるけどね。でも、当事者としては、そういったバンドたちで足並みをそろえたかったけどできなかったという感じなんですか?
そうですね。自分が想像していた感じにはならなかった。タイミングが合わなかったのもあると思うし、時代はすぐに過ぎていくわけで。で、今は日本だけで完結するようなバンドの音楽が流行ってきた。そんな中で、今まで通りやっていたら成功は見えてこないなと思ったんですよね。まだメジャー2年目だから、なんとも言えない部分もあるけど、正直ここまで手応えはあまり感じてなくて。それからバランスを考えようと思ったんです。今までが「洋楽50、J-POP50で合わせて100でやってたところを、洋楽30、J-POP70にしよう」とかね。
- ニューシングル「この惑星のすべて」/ 2014年5月21日発売 / Virgin Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1728円 / TYCT-39024
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1728円 / TYCT-39024
- 通常盤 [CD] 1080円 / TYCT-30026
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CD収録曲
- この惑星のすべて
- らぶりー
- ステーキを食べに行こう
初回限定盤DVD 収録内容
- Vo.畠山の~一人でお手製アニメ~動く絵本シリーズ No.1~「ステーキを食べに行こう」MUSIC VIDEO
- ドキュメンタリー「この録音(レコーディング)のすべて」
- ライブ情報
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The Mirraz「~運が悪いってかなり不利だよねこの惑星じゃ ミニライブツアー2014ss~」
- 2014年6月2日(月)愛知県 APOLLO BASE
- 2014年6月3日(火)大阪府 難波ROCKETS
- 2014年6月5日(木)東京都 原宿アストロホール
※CD購入者先着ライブ
The Mirraz(ミイラズ)
2006年9月に畠山承平(Vo, G)を中心に結成された4人組結成ロックバンド。2008年12月に1stアルバム「OUI! OUI! OUI!」、2009年10月に2ndアルバム「NECESSARYEVIL」とリリースを重ね、UKロックの影響を感じさせるサウンドや攻撃的なパフォーマンスで注目を集める。2011年、自主レーベル「KINOI RECORDS」の立ち上げと同時に、佐藤真彦(G)と中島ケイゾー(B)が正式加入。2012年7月にEMI Music Japan(現Virgin Music)への移籍を発表し、10月にメジャー第1弾シングル「僕らは / 気持ち悪りぃ」をリリースした。2013年2月にメジャー1stアルバム「選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ」を、同年6月にはミニアルバム「夏を好きになるための6の法則」を立て続けに発表。同年10月に新ドラマー新谷元輝の正式加入をアナウンスし、2014年5月に新谷加入後初音源となるシングル「この惑星のすべて」を発売した。