ナタリー PowerPush - the HIATUS

よりストイックに、より男らしく

“自分の中にあるメッセージ”を前に出したがっている

──そういった日々の鍛錬が今回の歌に結実していると。ちなみに、以前細美さんは歌詞について「メロディから引き出される」と語っていたと思うんですけど、新しいアプローチでメロディが生み出された「Horse Riding」の歌詞はどう作っていったんですか?

以前はアレンジにメロディを寄り添わせていたので、曲のアレンジによっては歌詞の流れが分断されたりもしていたんです。でも今回は楽曲のアレンジそっちのけで一続きのメロディを作ったので、歌詞も一続きの世界が描けていると思います。あと一時期レトリックにハマって、古い詩人の作品を読みまくっていたことがあったんですけど、今ではそれも落ち着いて、“自分の中にあるメッセージ”みたいなものを前に出したがっているのも間違いないですね。

──それはなぜですか?

多くのアーティストがそうであるように、俺たちの音楽活動って現実の世界とまったく関係がないわけじゃなくて。例えば震災後の自分自身の生活やボランティア活動を通じていろんな人と出会った中で、声を上げないとって思うようになっていったんです。「自分が言った言葉が当たっていようが間違っていようが、敵を生もうが、やっぱり声を上げなきゃな」っていう心境になって、それが新曲を書くときに、自然と出てきたんだと思います。

──そんな思いが、革命の渦中にいる主人公が登場する「Horse Riding」の歌詞に昇華されたと。では、その主人公が思いを馳せる「馬」が象徴するものとは?

その人が最も信頼できる、信念のよりどころになるもの。そういうものは誰にでもあるものだと思う。例えば10代の俺にとってはバイクがそうだった。「馬」にした理由は特にないんですけど、音がそっちを呼んでいたので。

──2曲目の「Don't Follow The Crowd」のメッセージは、もっと直接的ですよね。

「Horse Riding」とは対照的に、この曲の歌詞はリフレインで作りたかったんです。全体が短くなったぶんメッセージはより前に出ていくので、結果的にメッセージが強い印象になってるんだと思います。

──では、タイトルにもある「群れを追いかけるな」というメッセージにはどういう思いが込められているんでしょう?

自分に向けたものとはいえ、結果としてこれが誰かの心に響くならとてもいいなとは思います。……でも、なかなかわかってもらえないんだけど、歌詞は手紙でもエッセイでも演説でもなくて、作品だから、必ずしもメッセージを届けるために書いてるわけじゃないんです。だから声を上げなきゃな、って思ってることと、作詞を一緒に考えられちゃうとちょっと困る。声を上げるっていうのはもっと、音楽活動全体を通してやっていきたいことで、もしメッセージを直接届けることを作品よりも優先したいなら、ソングライターとかじゃなくて政治家になったほうがいいと思いますね。

──3曲目の「Waiting For The Sun」は、主人公がたった1人で夜明けを待つ世界が美しく描かれています。

この曲の歌入れのときは、文字だけ見てたら「寂しいし、切なげな歌詞だな」って思ってどういう気持ちで歌えばいいのかなかなかわからなかったんです。この歌詞は1人でエジプトへ行ったときのことを書いてるんですけど、その夜は周りに友達もいない中、サハラ砂漠でぼけっとしながら、自分のこれまでの人生を振り返ったりしてました。そういう孤独な瞬間みたいなものは一般的にネガティブにとられることもあるけど、俺はそういう孤独な瞬間って実は大好きなんですよね。で、そのことを思い出したらなんだ、これめっちゃ楽しい歌詞じゃんって思って、書かれてる言葉と歌うときの感情が同じになりました。

──この曲で孤独は悪いものとして書かれていないですもんね。

うん。むしろ俺は、みんな仲良く、判で押したような笑顔で……というような状況がすごい苦手だし、例えばロックフェスも大好きではあるんだけど、連帯感がことさらに強調されると気持ちわりいなあとも思っちゃうんですよね。群れることへ対するアンチテーゼっていうよりは、あくまで“自分は自分”っていう感じ。俺はそのギャップを埋めたいとは思わないし、「まあこういう歌詞を書く人がいてもいいんじゃない?」って感じなんですけどね。

ライブで実際に出せない音はあまり音源に入れたくない

──ちなみに「Waiting For The Sun」では、細美さんは“親指ピアノ”という名前でも知られるアフリカの民族楽器、カリンバを弾いてますよね。

(橋本)塁のライブイベント「SOUND SHOOTER」にソロで出演したとき、この曲を生演奏して、曲の後半に自分のDJプレイを重ねるっていうことをやったんですけど、そのとき演奏中の間を持たせるためにカリンバの音色で打ち込んだ音素材を使ったんですね。そのカリンバのサウンドがかなり気に入っていたんですけど、the HIATUSではライブ中にあまりシーケンスを走らせるようなことはしたくないっていうか……MPCとかは一葉が楽器的に使ったりすることもあるんだけど、この曲でいうカリンバのような重要なフレーズをコンピュータで流すってことにグッとこなくなっちゃってて。最近の俺は自分がライブで実際に出せない音をあんまり音源に入れたくないんですよ。だからCDではシーケンスフレーズを練習して、実際にカリンバを弾きました。

──でも、買ってすぐにこのフレーズは弾けないですよね?(笑)

もちろん練習しましたよ。俺、練習好きなんで(笑)。というかほかに特技もないし、楽器ができるようになったり、歌が歌えるようになったりするのがうれしいんですよね。ガキの頃って、みんな「何か1つでもいいからほかの誰にも負けないものが欲しい」って思ってたと思うんですけど、そういう感覚が今もあるんです。だから練習ってそれほど苦にならないんですよね。

──それはギターもしかり?

ギターは中学生の頃からだから、わりかし長いこと弾いてるんですけどね(笑)。でも、やっぱり人には得手不得手があるんだな……(笑)。あんまうまくなんないですね。そこはまあ、人それぞれ能力が割り振られてるっていうか。

──つまり細美さんは、ギターよりも歌のほうが素質があると。

まあ、ギターもがんばってはいるんですけどね。もっとがんばれるとも思うんですけど、ギターだけひたすら練習するには時間が足りないんですよね。

──前作「A World Of Pandemonium」以降、アコースティックギターを自然と手に取ることが多くなったと語っていましたけど、それは今も変わらず?

っていうか、俺はエレキよりアコギのほうが向いてるんだなって最近ようやくわかってきた(笑)。もともとリードギター弾けないし、masa(masasucks)もリードギタリストっていうタイプじゃない。だけど同じバンドでバッキングが2本あってもしょうがないし……。まあアコギを弾くようになってから、指弾きの方が得意ってことに今さら気付きました。

──エレキギターの爆音が恋しくなったりしません?

MOGWAIみたいな? いいと思いますよ。そういうのもやりたいなとは思いますけど、隆史のドラムがつまらなくなったりするのは嫌だな。やっぱり、この5人の組み合わせでウワーッと演奏するってことを優先的に考えると、自ずと今の形になると思う。「こういう曲を歌いたい」っていう俺の気持ちだけで方向を変えるのは、バンドじゃないなって思うんですよね。

the HIATUS(はいえいたす)

現在活動休止中のELLEGARDENのフロントマン・細美武士を中心に結成され、ウエノコウジ(B)、柏倉隆史(Dr)、masasucks(G)、伊澤一葉(Key)らが参加するバンド。2009年4月にパンクロックフェス「PUNKSPRING 09」で初ライブを披露し、同年5月に1stアルバム「Trash We'd Love」をリリースした。その後もオルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつジャンル不問の新しい音楽を追究。2011年11月に3rdアルバム「A World Of Pandemonium」が発売される。そして2012年9月にレーベルをNAYUTAWAVE RECORDSへ移籍し、「A World Of Pandemonium」にストリングスとホーンアレンジを加えたスタジオセッションドキュメンタリーDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」を発表し話題を集めた。同年11月からは、総勢17人編成で全国を回る初のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を開催。この東京公演の映像を収めたライブDVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」と、ライブ音源を収めた同名のライブアルバムを5月に同時発売した。7月には約1年8カ月ぶりの新作CD「Horse Riding EP」をリリース。