ナタリー PowerPush - the HIATUS

よりストイックに、より男らしく

前作アルバム「A World Of Pandemonium」の発売から1年8カ月。長期にわたるアルバム制作を行っているthe HIATUSが、その現場からの最新レポートといえそうな新作CD「Horse Riding EP」をリリースした。ボーカルやメロディ、歌詞、アレンジやアンサンブルなどにおいて劇的な進化を見せる本作を前に、細美武士(Vo, G)が語る思いとは果たして。

取材・文 / 小野田雄

the HIATUSにおける鍵盤の役割が変わった

──前作アルバム「A World Of Pandemonium」から1年がかりのプロジェクトを「The Afterglow Tour 2012」で締めくくったのが昨年の12月。現在the HIATUSは次のアルバムを制作しているとのことですが、この制作のスタートはいつだったんですか?

「Horse Riding EP」は、アルバムを作り始めてから「完成までどうせ1年くらいかかるし、レコーディングで根詰めすぎるのもキツいから、その途中に夏フェスを入れて、そのときのライブで新曲やりたいからEPを出そう」って話になってできた作品なんですけど、アルバムの制作自体は1月にスタートさせました。最初は構想もなく、ただ楽器を持って、柏倉隆史(Dr)とスタジオに入ったんです。「どうしようね?」というところから「今自分はどういうことを面白がってるんだろう?」っていうのを探る作業をしながらいっぱい曲を作って。それでできた曲を家に持ち帰って次にスタジオに入るときにさらに発展させて形にしていきました。できあがった曲には、前作の制作が終わってから新たに作品を作り始めるまでの変化とか、成長も自然と反映されましたね。

──そして今回は、the HIATUSから堀江(博久)くんが抜けて、伊澤一葉(Key)さんが加わってから初めてのまとまったレコーディングですよね。

一葉が入って音は変わったと思います。キーボーディストだけど、あいつは基本的にはシンセを弾かないから。だから楽曲の中で生ピアノの比重が増えていると思います。堀江さんが空いてるところに音を置いていくようなプレイヤーだったのに対して一葉はグイグイ入ってくるタイプなので、the HIATUSにおける鍵盤の役割も変わったんじゃないかな。

──今回の作品は、全体的にバンドアレンジも無駄な音を徹底的に省いたような印象でした。必要なところに必要な音を入れる意識がより徹底されている……というか、抑揚がよりダイナミックになっていますよね。

以前はメンバーそれぞれが思い思いにプレイしていたから、ごった煮的なサウンドになっていたところがあったと思う。でもバンドで一緒にいる時間が長くなったこともあり、メンバー間で気を遣わずに「この音は要らなくない?」とか「え、このテイクいいじゃん」って話せるようになった。それが大きい要因かもしれないですね。

「Horse Riding」の歌メロは新しい引き出しを開けた感じ

──そもそも、アルバム用に作っていた数々の楽曲の中から、この3曲を選んだ理由は?

「EPを作ろう」って話が出た時点で2曲目の「Don't Follow The Crowd」は完成してました。この曲みたいな、ポリリズムを飛び越えたようなフレーズパターンは自分では絶対に思いつかないし、それに対してひたすらリフレインする4行だけの歌詞だったり、3声のコーラスだったりっていう要素が自分たちにとっては新しくてカッコいいものだったんです。さらに構成も聴いてて気持ちいいものができたので、「この曲を軸にしたら、EPできるな」って思って。自分たちの中では相当画期的でした。3曲目の「Waiting For The Sun」はだいぶ前に俺が作った曲で、もともと4つ打ちだったんですけど。以前「こういう曲を作ったんだよ」って、みんなに聴かせたのを隆史が覚えてくれてて、今回「あの曲やろうよ」って言ってくれたんです。だから、ほかの2曲とは曲の成り立ちが違いますね。

──では、タイトルナンバーの「Horse Riding」は最後に完成した曲だったんですね。

そう。the HIATUSとしてものすごいトガったことをやろうと思って作ってたのに、すごい耳触りのいい歌モノができてしまった(笑)。「どうしよう」とも思ったんですけど、聴けば聴くほどいい曲だなって。だから1曲目に持ってきた感じです。俺はメロディメーカーだと思って10年間音楽を作ってきたんですけど、この「Horse Riding」の歌メロは自分にとって新しい引き出しを開けた感じがあったというか……そう感じた曲はこの10年で初めてでした。だからこの曲は絶対形にしておきたいと思ったし、この「Horse Riding」で得られた新しい引き出しの中からどんどんメロディを作っているうちに、次のアルバムができちゃうんじゃないかと思ってるところです。

──では「Horse Riding」のメロディはどのように生まれたんですか?

自分の音楽の考え方として、和声は楽曲の色を決めるもので、メロディはその和声の間をエモーショナルに縫って進んでいくようなものなんですよね。でも「Horse Riding」に関しては、バンドアンサンブルを無視して、楽器とは関係ないところでメロディだけを紡いで曲にハメて作ったんです……いつもとは逆というか。楽器がなくてもメロディを作れることが自分にとっては新しい発見でした。あと、この曲では歌い方もかなり新しいです。実際、俺がthe HIATUSで一番責任があるのは、いい歌を録音することなんです。そのために今回大事だなと思ったのは、当たり前だけど、前日に休む時間をちゃんと取ることだったり、煙草の煙がモクモクの中、ジャンクフードばっかり食べながらレコーディングするんじゃなくて、ちゃんとジムに行って身体を作ることができたこと。それがすごく大きかったと思います。

──聞いた話だと、食事も鶏のササミを食べているんですよね? アスリートばりにそれだけシビアに身体をコントロールしているボーカリストって、なかなかいないですよ。

ははは(笑)。どうなんですかね? でも20代はあまり関係ないかもしれないけど、30代半ばを過ぎてくると、自分の身体にどれだけ柔軟性や筋力があるか、そして肺活量や体力がどれだけあるかっていうのが、普段何を食ってるかでけっこう変わるし、それがかなり歌に影響しますから。

the HIATUS(はいえいたす)

現在活動休止中のELLEGARDENのフロントマン・細美武士を中心に結成され、ウエノコウジ(B)、柏倉隆史(Dr)、masasucks(G)、伊澤一葉(Key)らが参加するバンド。2009年4月にパンクロックフェス「PUNKSPRING 09」で初ライブを披露し、同年5月に1stアルバム「Trash We'd Love」をリリースした。その後もオルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつジャンル不問の新しい音楽を追究。2011年11月に3rdアルバム「A World Of Pandemonium」が発売される。そして2012年9月にレーベルをNAYUTAWAVE RECORDSへ移籍し、「A World Of Pandemonium」にストリングスとホーンアレンジを加えたスタジオセッションドキュメンタリーDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」を発表し話題を集めた。同年11月からは、総勢17人編成で全国を回る初のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を開催。この東京公演の映像を収めたライブDVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」と、ライブ音源を収めた同名のライブアルバムを5月に同時発売した。7月には約1年8カ月ぶりの新作CD「Horse Riding EP」をリリース。