ナタリー PowerPush - the HIATUS

細美武士が語るバンドの現在位置

the HIATUSがポストロックに傾倒した理由

──さらにあの作品には、2008年にグラミー賞を受賞したチャド・ブレイク、そしてポストロックの代表的なバンドであるTORTOISEのジョン・マッケンタイアとSIGUR ROSを手がけるビルギル・ヨン・ビルギソン、FUGAZIと並ぶDCハードコアの雄、元JAWBOXのジェイ・ロビンズという4人の個性的なエンジニアがミックスで参加しています。

インタビュー写真

ミックスエンジニアに関しては、とりあえずめちゃくちゃ豪華ですよね(笑)。我ながら、ありえないことになったなと思うし、それをやらせてくれたレコード会社にも感謝しています。実現可能かどうかわからない中、お願いしたいエンジニアをリストアップしてオファーしてみたら、結構みんな引き受けてくれたっていう。でも、オファーの段階でよく言われたのは、「曲を聴いてからじゃないとやるやらないを決められないので、先に曲を聴かせてくれ」と。曲を聴いてもらった上で断られたらちょっと凹みそうですけど、今回はそういうことはなかったです。

──ミックスが最終的な楽曲のアレンジを大きく作用するという意味で4人のミックスエンジニアが担った役割は非常に重要なものだと思うんですが。

作業としては、レコーディングエンジニアの宮崎(洋一)さんのミックスの段階で作品は完成していても、そこでさらにミックスエンジニアの視点が加わることで、曲がどうなるのかっていうことにもすごく興味がありました。初めてチャド・ブレイクのミックスを聴いたときは、曲に魔法をかけてくれたって思いました。そういう変化が楽しかったですね。ただ、仕上がってきた曲を聴いて、「コミュニケーション不足だったな」と感じた部分に関しては、自分で直接メールを打って、「これもすごく好きなんですけど、歌詞で描きたかった場面はこういうものなので、このパートはもうちょっと変えてもらえますか?」なんて伝えて何度か修正してもらった曲もあります。スタッフに「そんなこと伝えられないですよ!」って言われたりしながらも(笑)、そこはこだわってましたね。

──そうしたプログレッシブなthe HIATUSの変化は、パンク、ハードコアをルーツに持つバンドが、その後ジャズやエレクトロニックミュージックといったさまざまな音楽に触発されながらポストロックへと進化していった海外の流れともシンクロしているように感じられました。

珍しくそういう質問をしてもらえたので言ってみるんですが、パンク、ハードコアをやってきた連中がポストロックやマスロックに向かっていく流れは、リスナーとしてではなく、ミュージシャンとして、やりたくなる感じはよくわかるし、自分もそうだったんじゃないかな。the HIATUSの進化としても。スケボーとかだったら、練習してるうちに、他の人がやってないトリックにチャレンジしたくなるのは自然なことだと思いますしね。

──しかしバンドが大きな変化を遂げたあのアルバムをライブで完全に再現することは不可能ですよね。

メンバーが5人いても再現するには人手が足りないですからね。ただ、ライブで作品を忠実に再現することにそれほど意味を感じていないっていうか、アルバムはレコーディングしているときにやりたかったことが形になっているものであって、ライブではその曲をそのときやりたいように演奏してる。それにthe HIATUSのライブはインプロビゼーションの余地が結構あるので、3rdアルバムに限らず、作品とライブで曲が変化、成長していって当然だと思ってます。だから、メロディやアレンジも日によって変わっていくし、実際、テンポやキーすら変わってしまった曲もあったりします。

タンパク質でできた楽器をいかにうまく演奏するか

──そして、アルバム発売日翌日の2011年11月24日から2012年4月8日の沖縄公演までアルバムツアーは続いていったわけですが、その過程でアルバムの曲はどのように変化していきましたか?

アルバムの曲がどう変化したのかということについては客観性が必要だし、自分たちのライブはその場で観ることができないので、わからないといえばわからないんですけど、俺個人でいえば、むしろ自分がその曲たちによって引っ張り上げられた感覚はあって、ボーカリストとしてはこのアルバムのおかげでなかなか破れなかった壁が1枚破れたように思いますね。

──その壁というのは?

練習のときや家でぽろぽろギターを弾きながらぼそぼそ歌っているときとかに、自分への問いとして、「音楽ってなんのためにやってるんだろう?」とか「歌ってなんなんだろう?」「いい歌っていうのはどういう歌のことをいうんだろう?」っていう命題が日々突きつけられるじゃないですか。そうした問いに対する自分なりの答えがしばらく頭打ちになっていた時期があって。でもツアーでライブを重ねていく中で、詞の世界に入り込むとかいうことでもなく、自分自身がタンパク質でできた楽器となって、それをいかにうまく演奏するかっていう視点は、今回のツアーで新たに手に入りました。なんかそういう、道が開けていく瞬間があったんです。

──自分自身がタンパク質でできた楽器になるというのは、つまり、楽器として声を捉え、極めていく道を見出したということですか?

もしかするとアスリート的な発想なのかもしれないんですけど、どこかしらの筋肉に力が入った状態で歌うと奇麗な音がでないので、そういう意味で以前はずっと、極力弛緩した状態で歌えばいいのかなって思ってたんです。けど、そうじゃなく、緊張と弛緩のバランスから生まれる音もあるんだなってことには最近気づきました。上あごの内側だけ力を入れてみると「あ、こういう音が出るのか」とか、そういう体の緊張と弛緩の組み合わせを探って、1個ずつ拾っていくようになりました。

DVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」2012年9月12日発売 / NAYUTAWAVE RECORDS

収録曲
  1. Deerhounds
  2. Superblock
  3. The Tower and The Snake
  4. Souls
  5. Bittersweet / Hatching Mayflies
  6. Broccoli
  7. Flyleaf
  8. Shimmer
  9. Snowflakes
  10. On Your Way Home
  11. The Flare
the HIATUS(ざ はいえいたす)

現在活動休止中のELLEGARDENのフロントマン・細美武士を中心に結成され、ウエノコウジ(B)、堀江博久(Key)、柏倉隆史(Dr)、masasucks(G)、一瀬正和(Dr)、伊澤一葉(Key)が参加するバンド。2009年4月にパンクロックフェス「PUNKSPRING 09」で初ライブを披露し、同年5月に1stアルバム「Trash We'd Love」をリリースした。その後もオルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつジャンル不問の新しい音楽を追究。2011年11月に3rdアルバム「A World Of Pandemonium」が発売される。(9月12日より同アルバムのiTunes配信がスタート) そして2012年9月にレーベルをNAYUTAWAVE RECORDSへ移籍し、「A World Of Pandemonium」にストリングスとホーンアレンジを加えたスタジオセッションドキュメンタリーDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」を発表。11月からは初のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を開催する。