ナタリー PowerPush - The Flickers

バンドの情熱とれたてパック「Fl!ck EP」舞台裏を解説

より深くバンドに踏み込んでいけた

──曲を書きながら原風景を思い起こしたりしましたか?

安島 そうですね。僕は幼少期にヨーロッパに住んでいたんですけど……。

──ベルギーですよね。

安島 そう。結構田舎のほうに住んでいて。近くには畑があって、見渡す限り地平線が見えるんですね。畑に風が吹くと波が起きるんですけど、それが海の波のように見えるんです。この曲を書いてるときに母さんや兄弟とそこを歩いた記憶や幸福感がよみがえったりしました。「永遠」では生きている中で、その瞬間にしか見られない美しい景色、恋人や友人とつながる中で感じる幸福感を表現したかったんです。「永遠」をはじめ今作は産みの苦しみを味わいましたけど、3人でより深くバンドに踏み込んでいけた作品だと思いますし、僕も曲を書く過程で僕自身とより深く向き合えたと思ってます。

堀内祥太郎(B, Cho)

──安島さんから「永遠」を渡されたときに堀内さんと本吉さんはどんなことを感じましたか?

堀内 素直な曲だなと思いましたね。あと、ちょっとうれしかったりもしました。

──どういう部分で?

堀内 付き合いが長いからいろいろ感じることがあって。

安島 ひねくれ者だったからね(笑)。

堀内 そうだね(笑)。

──こういう曲を書くようになったんだという感慨というか。

堀内 そういう感じですね。だからすごく素直に受け止められました。

本吉 「永遠」はThe Flickers史上最もBPMが遅い曲なんですよね。安島が最初にこの曲を持ってきて音を合わせたときにすごくワクワクしたんです。その気持ちを保ったまま、楽しみながら作れました。歌もいいし、演奏もいいし、3人のバランスも誰が前に出ているとかではなく、みんなが出てるって思える。

堀内 僕はプレイ的には常に変わったことをしたいと思っているんですけど(笑)、この曲は自然と曲の流れを重視することができたんです。流れを重視しながら、自分の存在感も出すことができたというか。

本吉 俺はやっぱり2人をサポートする感じで。堀内がソロを弾くところもあるんですけど、そこも堀内を支える感覚でドラムを叩きましたね。

大きい振り幅を表現していきたい

──この作品の醍醐味は、美しいポップソングとして結実した「永遠」とダークサイドに振り切れた4曲目「go go monster」の振り幅にあると思うんです。このコントラストこそが、破壊と創造を繰り返すThe Flickersの核心でもあると思う。

安島 そうですね。「go go monster」はまさにダークサイドに振り切れた曲で。僕がしっかり提示したいのは、「永遠」という曲を作る人が「go go monster」のような曲も作るんだということ。今回やっとその振り幅を見せることができたなって思います。僕は器用なタイプではないし、できた人間でもない。さっき自己否定の連続って言いましたけど、僕はいつだって「永遠」と「go go monster」みたいな振り幅の間で生きている。それを音楽で表現したいと思ってるし、そこに僕やこのバンドの挑戦があると思っています。強い人間ではないからこそ、挑戦する姿勢をしっかり見せたいんです。それが誰かの勇気や力になればいいなって。

──「go go monster」はディープでスリリングなサウンドが構築されていますけど、どんな思いで音のイメージを創造しましたか?

本吉“Nico”弘樹 (Dr, Cho)

安島 この4曲の中では後半に作ったんですけど、レコーディングでは燃えていましたね。これまでうまく表現できなかった部分を絶対に形にしてやるんだ、ぶっ壊してやるんだ!みたいな感じで。リスナーに拒絶されてもいいから、自分のダークサイドをしっかり曲に落とし込みたいと思いました。でもこの曲のアレンジ作業は僕の家に集まって、3人でリラックスしたムードでやれたんです。

堀内 楽しかった。積み上げたトランプを崩すみたいな感覚でアレンジしていきましたね。

本吉 構成もみんなで話し合って決めて。どこでサウンドを爆発させるのかとか、細かく話して。ドラム的にはこの曲はリズムがかなり複雑で。シーケンスのビートと僕のドラムが合わさったときの爆発力を意識しました。パッと聴いただけではどんなリズムなのか把握できないんだけど、めちゃくちゃノれるし、カッコいいものにしたかった。

自分たちをどんどん更新する

──「go go monster」しかり、ミニマルなトラックの3曲目「in your bedroom」もそうですけど、安島さんの歌詞は眠りの中で覚醒しているようなイメージを想起させる筆致が多いですよね。

安島 そうですね。僕らの曲を深く聴いてくれている方は薄々感じていると思うんですけど、僕はつくづく「夢」という言葉が好きみたいで。僕はあんまり上手に眠れないんです。ちょっと話は逸れるんですけど、澁澤龍彦さんという作家が好きで。本屋で立ち読みをしていたら、澁澤さんの本に「夜は夢を見る」と書いてあって。その一行を読んだだけで、その本を買おうと思ったくらい夢に対して興味を持っているんです。それは将来の夢という意味においてもそうですし、自分で自分をコントロールできないときに責任転嫁じゃないですけど、自分が夢の中にいるような感覚を覚えることがよくあって。眠れない日が続くと、起きていてもいつまでもボーッとしちゃうから、夢と現実の境目がなくなってしまうこともあるし。ちなみに「in your bedroom」はある秘密があって。その秘密を曲の中に忍ばせているんですね。それはこれからの活動の中で明らかになっていくと思います。

──最後にバンドの今後のビジョンを訊かせてください。

安島 新しい曲を既に作り始めているんですけど、今のスタンスはノーコンセプトというか。考えないでやりたいことをやりまくって、その結果どういう曲が集まるのか知りたいんです。そのうえで衝動や知性や情熱、これまでのキーワードが全て混在しているような作品を作れたらいいなと思います。

本吉 これまでリリースした2枚のミニアルバムも今回の「Fl!ck EP」も僕らの最先端を表現できたので、止まらずにどんどん更新していきたいですね。

安島 うん。これまでの自分たちや何かの規制を超えて、常に新しい一歩を踏み出していく。破壊と創造を繰り返していきたいです。

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The Flickers(ざふりっかーず)

安島裕輔(Vo, G, Syn)、堀内祥太郎(B, Cho)、本吉“Nico”弘樹(Dr, Cho)の3人からなるスリーピースロックバンド。ガレージロック、ニューウェイブ、エレクトロなどの要素を盛り込んだダンサブルなサウンドと、エモーショナルなパフォーマンスでライブハウスシーンを中心に注目を集める。2011年11月にタワーレコード限定で 1stミニアルバム「WONDERGROUND」を、2012年5月に初の全国流通盤となる2ndミニアルバム「WAVEMENT」を発表。2012年12月19日に初の日本語タイトルの「永遠」を含む4曲入りCD「Fl!ck EP」をリリースした。