the engyはオリジナリティを追求する|平日がテーマのメジャー1stアルバムで描いた“休日以上のドラマ”

the engyがメジャー1stフルアルバム「On weekdays」をリリースした。

the engyは山路洸至(Vo, G, Prog)、濱田周作(B)、境井祐人(Dr)、藤田恭輔(G, Cho, Key)からなる京都発の4人組ロックバンド。2014年の結成以来、ソウルやヒップホップなどあらゆるジャンルを取り込んだサウンドと、山路のスモーキーかつブルージーな歌声を武器に、着実に活動の規模を広げてきた。「On weekdays」は、慌ただしい平日の24時間を描いたコンセプトアルバム。2020年放送のテレビドラマ「LINEの答えあわせ~男と女の勘違い~」の主題歌「Driver」を含む全15トラックが収録されている。

音楽ナタリーでは4人にインタビューを行い、コンセプトに“平日”を選んだ経緯や、制作の裏側、収録曲の魅力について話を聞いた。

取材・文 / 渡辺裕也 撮影 / 草野庸子

テーマは「1日の時間の流れ」

──初のフルアルバムですが、とても濃厚な作品ですね。コンセプトアルバムというのも含めて新人離れした1枚だなと。

山路洸至(Vo, G, Prog) コンセプトアルバムが作りたかったというより、曲作りを進めていった結果としてこういう作品になったんです。というのも、僕は何かしらのテーマに基づいた楽曲を1つ作ったら、その前後にほかの曲が収まる理由とかも考えちゃうタイプなので、アルバムのテーマを決めてしまったほうが楽なんですよね。なので、今作では「1日の時間の流れ」というテーマを設けて、そのテーマを追うようにして曲作りを進めていきました。

──なぜ「1日の時間の流れ」をテーマにしようと思ったんですか?

山路 2019年に出したミニアルバム「Talking about a Talk」に「Sick enough to dance」という曲が入っているんですけど、それが今回のテーマを思いついたきっかけの1つかもしれません。「Sick enough to dance」は「もう疲れすぎて踊らないとやってられない」みたいな曲なんですけど、人にはそうやって一晩中踊ったりしながら翌日に向けて気持ちを整えていくことってあると思うんです。例えば朝方にいきなりエモい気持ちになることってあるじゃないですか。今回のアルバムでは、そうやって時間に流されていく人間の気持ちを追いかけてみたら面白いんじゃないかなって。

the engy

──そうした作品のテーマをメンバー間で共有しながら制作を進めていったと。

濱田周作(B) そうですね。僕らの音楽は英語詞がメインなんですけど、メンバー全員が英語を理解しているわけではないので、まず彼(山路)が考えたアルバムのストーリーをLINEで共有してもらってから作っていきました。今回は男女のカップルが出てくるストーリーなんですけど。

山路 いや、男女とは言ってないよ。

濱田 ああ、そうだったね。

──今のツッコミはけっこう重要なことなのでは?

山路 そうですね。今作のストーリーに出てくる2人が男女かどうかは自分の中で想定してないし、むしろどんな2人にも当てはまるような作品になればいいなと思っていて。それこそ昔で言うところの“男性的 / 女性的”みたいな考え方ってありますけど、今それを定義する必要はないと思うし、むしろそういう垣根をなくして自由に表現したかったんです。

the engyが思うカッコいいバンド像

──アルバムの1曲目「Love is Gravity」は、さわやかなアコギの爪弾きが確かに1日の始まりを感じさせます。この曲はどのようにして生まれたのでしょうか?

山路 僕は妻子がいるんですけど、「Love is Gravity」は出産のために入院した妻に「何かできることある?」と聞いたら「曲でも作っといてよ」と言われて、それがきっかけで書いた曲なんです。つまり、とても個人的な曲を今回こうしてバンドのアルバムに使ってしまった(笑)。このアルバムでは「朝」をポジティブなものとして捉えているので、何か素敵な1日になりそうな予感を歌った曲で始められたらなと思ったんです。

──このアコースティックな立ち上がりからシンセファンク的な展開を見せていくバンドアレンジは、どのような発想から?

山路 この曲に関しては、僕の家にみんなで集まって「せーの」で音を鳴らしながら作りました。基本的には僕が用意したデモを元に仕上げていくことが多いんですけど、この4人には各々の思うカッコいいバンド像みたいなものがあるので、僕がデモである程度のフレーズを指定しても、各々のやりたいことがおのずと演奏に出てくるんです。で、それがこのバンドのグルーヴになってるのかなと。

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──では、この4人が理想とするバンド像をそれぞれ教えてもらえませんか?

藤田恭輔(G, Cho, Key) 僕はやっぱりRadioheadかな。バンドとしての形態を保ちながらも、いろんなジャンルとクロスオーバーしてバンドを次の段階に進めていく彼らのやり方には個人的にすごく影響を受けてます。ただ、自分のバンドとしてはRadioheadみたいにクールな感じではなく、もっと熱いものを目指していきたいとも思っていて。

濱田 そこは僕も同じで、ライブでの熱量はメンバー全員が大事にしているところですね。で、僕自身が受けたのは、プレイ的な面でいうとやっぱりRed Hot Chili Peppersかな。僕はもともとこのバンドに入るまで邦ロックしか聴いてなかったんですけど、山路が作ってきたデモを聴く中で「これはレッチリみたいな感じやな」と思うことがけっこうあって、そのたびにフリーがベースを弾いてる動画を観たり(笑)。曲ごとにいろんなリファレンスはあるんですけど、一番自分の身に付いてるのはそこかもしれません。

山路 そもそも僕自身がベーシストをあまり知らないのもあって、「ここはフリーみたいな感じで」みたいに言っちゃうことが多くて(笑)。逆に「ここは自由に弾いてみて」とお願いすると、彼の弾くベースはけっこうメロディアスになるんですよ。そこは邦ロックを通ってきた人の感覚やなと思うし、楽曲のいい味付けになってくれてますね。

濱田 デモの段階でフレーズを指定されることがわりと多いんですけど、そこに対して自分のエゴを出そうとは全然思ってなくて。ベーシストとしては何よりも楽曲の世界観を大事しようと心がけてますね。

境井祐人(Dr) 僕も楽曲に最適なフレーズを常に選びたいなと思っています。その点でいくと、僕にとっての究極形はColdplayですね。彼らの曲ってドラマー目線で言うと決して難しいことはやっていないんですけど、曲全体を通して聴くと、どのフレーズもこれ以外ありえないと思えるくらいにマッチしてる。それに「こんなにシンプルでいいんや」と気付かせてくれるんですよ。